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釉薬のさえずり 24

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釉薬のさえずり
~土と焔の森 番外編~
24 (最終話)



「そうです!チャンミンが描きました。」

のんびりコーヒーを啜るチャンミンの代わりに俺が答えた。

「見事じゃないか!!こんな才能があること、どうして言わないんだ!」

「才能って……。好きに描いてみただけですけど。」

チャンミンは他人事みたいにアーモンドパイに手を伸ばす。
俺は興奮して声が大きくなった。

「そうですよね!この鳥の尾の感じ。繊細で、優雅で、でもエキゾチックでしょう!?」

「全くだ!こんな新作が欲しいと思っていたんだ!」

「チャンミンなら、ヘキストの作風を守りながら、新しい風を入れることができます。デザインのセンスだってあるんです!」

「ああ。チャンミンがうちの伝統を壊さないことくらい、今までの仕事を見ていたら分かるよ。」

手を取り合う俺とシュミットさんに、チャンミンはようやく察しがついたらしい。
パイをそっと皿に置いた。

「チャンミン!絵付けの部署に入れ!」

カップに添えられたままの指先を微かに震わせ、チャンミンはシュミットさんと俺を見上げた。

「僕が……?」

「そうだよ!」

「いいんですか……。伝統あるヘキストの、1番重要な仕事なのに……。」

俺は、瞳を潤ませ、唇を震わせたチャンミンを椅子から起こして抱き締めた。

「いいに決まってるだろ。」

「ユノには聞いてない。」

「いや、俺には分かってた。もうずっと前から、チャンミンには出来るって。」

「ユノ……。」

俺にしがみついて泣き出したチャンミンを、暖かな秋の日差しと、シュミット夫妻の優しい眼差しが見守っている。

愛しい人が、世界で羽ばたくこと。

俺の夢が叶ったのは、プロポーズした日とよく似た、秋の昼下がりだった。



その晩、夜の読書タイムを迎えてソファで俺の胸にもたれたチャンミンは、栞が挟まれた読みかけの本を開くことなく、俺をじっと見つめた。

「ユノは、こうなるように計算して僕に窯を買ってくれたの?」

「まさか。ドイツに来るためにあの窯元を捨てたチャンミンに、もう一度作品を作って欲しかっただけ。」

「でも、ユノのお陰で僕の夢が叶った。」

「チャンミンの実力だろ。長年ヘキストに勤めた工場長が認めたんだ。シュミットさんの目にかなったのはチャンミン自身だよ。」

小さな息を吐いたチャンミンは、ふふっと笑った。

「僕はやっぱり、ユノには敵わない。」

チャンミンが本を床に置いて、俺の首に腕を回す。

「ユノと居るから、夢が叶う。」

「ちぐはぐなんかじゃないだろ?」

「うん。最高のパートナー。」

何より嬉しい言葉だった。

「まだだよ。俺には次の夢がある。」

「結婚すること?」

「それはもう目指してる夢。新しい夢は、チャンミンが絵付けした作品を日本に売ること。」

「それは……まだまだ先の見えない話だよ。部署に入れても、また見習いからだし。でも……。」

俺を見つめるチャンミンの瞳がキラキラ輝いて、孔雀の飾り羽が広がるのが見えた。

「でも、それが出来たら、仕事上でもパートナーだね……。」

「そうだよ。俺には見えるんだ。この夢は叶う。」

「またそんなこと。未来なんて誰にも分からないって。」

「チャンミン。未来を変えてきたのは、いつもチャンミンだっただろ。俺にキスしたのも、東京に来たのも、エレベーターで抱きついたのも。ドイツに来たのも。」

「それはユノに翻弄されて……。」

「だから俺達は、一緒に居る。俺とチャンミンで、未来を作って来たんだ。これからも、そうすればいい。」

微笑んだチャンミンは、俺にそっと口づけた。
俺はチャンミンの唇を追いかけて、口づけを返す。

繰り返す度に熱くなるキスは甘く情熱的で、明日は月曜日だけどもっと温度を上げたい。

「チャンミン。ベッド行こうか。」

「困るよ……。新しい部署で頑張らなきゃいけないのに。」

「悪いけど、今夜は何と言われてもする。」

「来週末まで待てないの?」

「待てないね。」

無理やり抱き上げてベッドルームに向かう俺の耳元で、チャンミンがふふっと笑った。

そう言えば、さっきキスを仕掛けてきたのはチャンミンだったな。

「誘ったな。」

「勘違いだよ。」

「いや、誘った。」

俺はやっぱりチャンミンの手の平で転がされている。

ベッドに仰向けになったチャンミンが、俺の下唇に指を添え、ついっと撫でた。

「起きられる程度でお願いします。」

「それはどうだか。」

「ユノ次第でしょ。」

「いや。チャンミン次第。」

チャンミンの誘惑は底無し沼だった。
もちろん、俺はそれに応えて底無しに愛した。



次の朝、自転車に乗れないと愚痴るチャンミンを工場まで車で送り、帰りも迎えを頼まれた運転手の俺。

にやけが止まらず、レオンさんに白い目を向けられた。

「やめてもらえませんか。そのデレデレした顔。何かいいことでも?」

「よく聞いてくれた。レオンさん、朗報だ。アッシーすれば平日でもイケるらしい。」

「聞いたのは間違いでした。まさか……夜のアレの話じゃないでしょうね。」

「おい。自分が倦怠期だからって嫉妬するな。」

「僕は彼女と倦怠期じゃないですよ!円熟期です!もう、呆れすぎて羨ましくもないです。」

「呆れてくれよ。とにかく、俺とチャンミンに倦怠期は当面来そうにない。」

「はあ……。良かったですね。」

「それでレオンさん。来週の出張なんだけど……。」

「イタリアへの?それが何ですか?」

「レオンさん代わってよ。」

「…………呆れ過ぎてノーコメント。」

「そんなこと言わずに!」

レオンさんは俺の肩に腕を回し、楽しそうに笑った。

「理由はどうあれ、仕事バカのユノさんがそんなこと言うなんて、変わるものですねぇ。」

「あはは。出張は仕方ないけど、今日はお迎えがあるから休み取って早めに帰る。あ、それとさ、今後は早朝出勤に変えていいかな。6時には帰るようにしたいんだ。」

「ユノさん……。」

「なんだ……?」

「夕方には家に帰りたいなんて、随分ドイツ人らしくなりましたね。」

「そうか?早朝の方が日本ともコンタクト取りやすいし……。」

「いやいや。今までは早朝に出社したって、遅くまで仕事したがったじゃないですか。」

「出張が多い分、こっちに居る時くらいはチャンミンとの時間を大切にしたいから。」

「チャンミン、チャンミンて……。はいはい……とんでもない人、捕まえましたね。」

いや。
捕まったのは俺だ。

デスクの脇に何個も置かれたフォトフレームに、いそいそと昨日庭で撮影したチャンミンのはにかみを追加する俺に、レオンさんが吹き出した。

「どうしてチャンミンさんばっかりなんですか!2人で撮影した写真は!?」

「いいんだよ。ここからファインダーを覗いてる気分になれるだろ。」

チャンミンが作ってくれた陶器のフォトフレームを両手に抱え、俺はレオンさんに下手なウィンクをした。

「結婚したら、記念撮影して2人の写真を飾るよ。」

レオンさんは、ちょっとだけ目を潤ませて唇を歪めた。

「素敵ですよ。早くドイツ人になってください。」

「そうだな。」

まだやらなければいけないことは沢山ある。
仕事も、ご両親の了解も、帰化申請も。
俺とチャンミンはまだ夢の途中。

夢への途中経過がこんなに楽しいなんて知らなかった。

ワクワクするよ。
チャンミンがくれるもの全てに。


今日は帰ったら靴下をちゃんと洗濯機に入れよう。

いや、でも、チャンミンがピーチクパーチクさえずるのが聴きたいな。

やっぱり今日も、裏返して玄関に放置してみるか。

どんな風にさえずるか、楽しみだ。






釉薬のさえずり
~土と焔の森 番外編~
(完)


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釉薬のさえずり 23

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釉薬のさえずり
~土と焔の森 番外編~
23



沖縄の旅行からの帰りも、羽田からフランクフルトまでの長距離フライトも、チャンミンは手を繋いだり、キスしたりと甘えてきて、俺は鼻の下が伸びっぱなしだった。

ただ、ドイツに戻った後、俺はこのサプライズを猛烈に後悔することになった。

休みの度にチャンミンがガレージの隅に作った特設工房に入り浸り、イチャイチャタイムが相当減ってしまうことになろうとは。

何故に俺が陶磁器に嫉妬しなければならないんだ。

昔付き合っていた彼女達に言われ続けた台詞が喉まで出かかる。

『俺と陶磁器、どっちが大切なんだ?』

天使ってのは、結構意地悪なものらしい。



7月の日曜日、俺はチャンミンが出演した番組を観賞しながら、沖縄で撮った写真をフォトフレームに収めて暖炉の上に飾る作業に勤しんでいた。
1人ぼっちで。

「おかしい。こんなはずじゃなかった。」

朝からガレージに籠っていたチャンミンが、頭に巻いたタオルを外しながら戻ってきた。

「ふー!今日は暑い!お昼は素麺でいい?」

「なんでもいい……。」

「わっ。ユノまたこれ観てるの?よく飽きないね。」

チャンミン観賞を飽きはしないが拗ねている。
クッションを抱き締めて口を尖らす俺を余所に、チャンミンは湯を沸かす。

ふんふん鼻唄を口ずさんで、大きな器を取り出した。

チャンミンがドイツの家で初めて作った陶器は、8寸はある深皿。

縁は沖縄のコバルトブルーの海の様に透明感があり、中心に行くにつれて深みのある紺碧に変化する。円錐の美しい窓枠から、海の底を覗いているような秀作だった。

俺はチャンミンの細い腰に巻かれたエプロンの紐をいじり、肩に顎を置いた。

「午後も作業するつもりか?」

「そうだな。午後は新しく作りたいスープ皿の土練りをしようと思ってたんだけど。」

チャンミンは言葉を切り、ちらっと俺の顔を窺った。

「でも、今日はもうやめにする。」

「ん?いいのか?」

「十分嫉妬させたからね。今度作るときは一緒にやろう。ユノの不器用な作業をまた見てみたくなった。」

おいおい……!
嫉妬させてたのか!

俺の恋人はとんだ悪魔だ。
この前まで自分を卑下しておいて、今は頭上から俺を眺めて鼻で笑う。

「あ、そうそう。これ。あげる。」

チャンミンはおもむろにエプロンの前ポケットからフォトフレームを取り出した。

「ユノ写真たくさん撮ってたから作ってみた。」

青い海をバックに大きな口を開けて笑うチャンミンの写真を、真っ白なフレームに入れたら最高にマッチする。

「チャンミン……いいよこれ。」

俺はチャンミンの思うがままに踊らされて、結局にやけてしまった。

「なぁ……午後はベッドで過ごそうか。」

「買い物は?」

「明日しておいて。」

「仕方ないなぁ。」

悪魔なだけじゃない。
俺の我が儘にも付き合ってくれる。
愛してやまない意地悪な天使。
それがチャンミン。



マイン川沿いの柳が黄色くなり、少しずつ葉を散らす季節がやってきた。
チャンミンにプロポーズしてから、もう幾度目かの秋。

我が家の食卓の食器は、チャンミンの作品で満たされていた。

この日、朝からチャンミンはせっせと日本食を作っていた。昨夜から仕込んだ焼き菓子をオーブンから出し、丸い大皿にセットする。

俺はこの皿が気に入っている。
真っ白な陶磁器の丸い背景に、青と黄色の小鳥が舞い飛ぶ絵。真ん中には薄いベージュの釉薬が盛り上がり、種類の違う菓子を置くと際立つ。

どこかヘキストに似ているけど、全体の雰囲気は東洋的で、可憐なだけじゃない艶がある。

普段は飾ってある孔雀のプレートも今日は登場した。

編集長が送ってくれた半透明の氷菓子を載せたプレートは、氷菓子を巻き込んで輝いている。

「シュミットさん夫婦はそろそろ?」

「後5分で。工場長は時間に正確。ユノ!ワインの準備お願い!」

工場長には何度か自宅にお呼ばれする付き合いになっていた。今日はお返しにと家に招き、日本食でおもてなしする。

工場長のシュミットさんが好きだと言うワインを用意していると、ベルが鳴った。

シュミットさん夫妻と、その息子夫婦に2人の孫も加わり、我が家は一気に騒々しくなった。

「素敵なお家ね!」

初老の奥さんは、内装をべた褒めする。

「ユノが出張の度にオブジェやら絵やら買ってくるから、もう置き場がなくて!」

「え。迷惑だった?」

「や、嬉しいけど……。統一感が……。」

俺は器を買うのはやめたが、チャンミンがインスピレーションを感じそうな芸術品を見つけるとつい購入してしまう癖がついた。

「多国籍でいいですよ。」

息子さん夫婦に褒められ、何故かチャンミンが赤くなった。

日本食は好評だった。
お世辞かもしれないが、チャンミンの料理の腕前を褒められて、今度は俺が赤くなる。

シュミットさんはチャンミンの作品に興味津々だ。
ドイツではあまり目にしない小皿の釉薬が気になり、ガレージに行ったきり、30分は帰って来なかった。

「ユノ。チャンミンはほんとに素敵な人よね。」

美しく並べられた料理を味わいながら、奥さんは目を細めた。

「ええ。早く本当のパートナーになりたいんですけどね。まあその前に、就労ビザの更新ができるかどうか……。俺が永住権を獲得するまで、ずっと一緒に居ることが今は俺達の目標です。」

「ビザのことなら、心配いらないわ。」

奥さんは年相応に皺の入った二重瞼でウィンクした。

「息子の友達がね、外人局に勤めてるの。最近出世して、偉くなったんですって。」

息子さんが胸を張った。

「コネは重要だからね。大学時代の悪友なんだ。うまくやってくれるよ。」

「そんなことまで助けてもらうなんて……。」

恐縮した俺に、息子さんは悪戯っぽく笑う。

「チャンミンがいつも親父に渡してくれるチョコレート、最高だよ。子供達の楽しみでさ。あのチョコをちらつかせれば、何でも言うこと聞くんだ。」

息子さんの奥さんも目配せして微笑んだ。

「そうよ。チャンミンが居ないと我が家に反乱が起こるわ。」

編集長が送ってくれる日本食の定期便。俺の大好きなチョコレートの減りが尋常でないと思っていたが、シュミットさん一家に消費されていたのか。

「今日は暖かいから、食後のお茶は庭でしましょうか。例のチョコレートもありますよ。」

子供達は早速チョコを握ってマイン川へと駆け出した。息子さん夫婦が急いで追いかける。

今年は異常気象で、秋になっても気温20度まで達する日もあるほど。

暖かな庭に、遠くから聞こえる子供達の笑い声と、柳を揺らすくすぐったい風が吹いていた。

ガレージから戻ったシュミットさんは、ヘキストのカップに入ったコーヒーを手に持ち、庭に植えられた植物を観察していたが、チャンミンが運んできた大皿を見て息を呑んだ。

「チャンミン……どうして言わなかった。」

「何をです?」

テーブルについたチャンミンは目をぱちくりさせている。

「これだよ。」

工場長が指差した皿を見て、チャンミンはあはっと笑う。

「ああ、アーモンドパイのこと?工場長の好物でしたね。今度会社にも持って行きますね。」

「違う!!この絵付け、チャンミンがしたんだろ?」

俺の心臓が早鐘を打った。








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いつも釉薬のさえずりの2人を応援していただいてありがとうございます。
いよいよ明日が最終回です。

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釉薬のさえずり 22

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釉薬のさえずり 21

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釉薬のさえずり 20

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釉薬のさえずり
~土と焔の森 番外編~
20



東京に戻ってから、俺達はすぐベッドに入った。

昨日からお互いに一睡もしていない。
チャンミンはすぐに眠りに落ちた。

もちろん抱きたい衝動はあった。
でも、神聖なまでに美しいチャンミンの横顔を前にして、俺は躊躇した。

どうもおかしい。
俺としたことが。

チャンミンに聖母か天使を重ねてしまい、汚してはいけない気がする。

明日は仙台の温泉旅行。

待ちに待った悲願の露天風呂セックスを赤裸々に妄想しながら目を閉じたが、途中で聖職者の格好をしたチャンミンに「悪い子ですね。」と窘められ赤面して目を開けた。

「なんだ今の。寝不足のせいか?寝よ……。」



朝起きても、チャンミンから相変わらず神々しさを感じる。触れようとすると緊張する。

仙台の温泉宿に到着し、早速温泉に入ったはいいが、チャンミンの裸体に心拍数は急上昇。

肩に湯をかけるチャンミンの鎖骨の動きが発する色香から目をそらし、一定の距離を保つ俺。

チャンミンは首を傾けて湯をかけた姿勢のまま、俺を怪訝な顔で見つめた。

「い、いい湯だよなぁ!」

丸い陶器の湯船の縁に肘をかけて庭を眺める俺の指を掴み、チャンミンは向かい側からくるりと脇に滑り込んできた。

湿った前髪を耳にかけ、上目遣いで迫る。

「ど、どうした?」

「どうしたも、こうしたも……。」

抱き締めもしない俺に、チャンミンは片眉を上げた。

「先に出る。」

「は、早いな。」

ざばっと湯から立ち上がったチャンミンの引き締まった臀部。

俺はごくりと唾を飲み込み、頭まで湯に沈んだ。

「ぷはっ!」

限界まで息を止めた後、吸い込んだ空気はしっとりと暖かい。

湯船の端から目から上だけ出し、部屋で動くチャンミンを覗き見。

なんかあれだ。
少年が綺麗なお姉さんを覗き見してるみたいだ。

浴衣姿で長い首を傾けて髪を拭きながら、チャンミンは部屋の電話を取った。
何か話した後、裸足でヒタヒタと歩いて戻ってきた。

「ユノもう出て。夕食の時間早くしてもらった。」

「え?もうお腹すいたの?」

ランチが遅めだったからまだお腹は減らないだろうと思ったのに。

「ほらほら。あと20分だからね。」

はだけた胸元を露にして腰をかがめ、チャンミンは俺の顔にぱしゃりと湯をかけた。

「わっ!」

「なんかユノ、昨日から子供みたいだね。どうしちゃったの?」

俺は、悪戯っぽく微笑んだ顔に心臓を射ぬかれた。

あれだ。
天使の矢が命中する感覚。

「は、早く!早く食べよう!!」

風呂から飛び出した俺に、チャンミンはふふんと笑った。

さすが。なんてできた恋人。
俺の様子がおかしいのを察して、可愛くアプローチしてくるとは。

「完敗だ。」

脱衣場で呟いた俺と鏡越しに目が合ったチャンミンは、両手でローションを頬に押し込みながら、にっこり笑った。


前菜を食べ終わった頃、刺身を持って女将が部屋を訪れた。

暁月焼の皿に盛られた刺身は、満開の桜を思わせる。

「梅雨時に、季節外れの桜なんていかがかと思って。」

チャンミンは皿をじっと見つめていた。

「ちょっとユノさん……。チャンミンさん、また一段と綺麗になられたんじゃない?」

「ですよね。出張中も気が気じゃなくて困ります。」

恥ずかしげもない回答に顔を上げ、チャンミンは俺を睨んだ。

「はいはい。御馳走様です。」

女将は俺とチャンミンを交互に見つめ、目を期待でキラキラさせた。

「で?ユノさん。少女漫画みたいな恋の話、聞かせてくださるんでしょ?」

「ええ。どこから話せばいいかな……。」

女将が「まー」とか「きゃあー」とか言って盛り上げてくれるせいで、俺は饒舌になった。

俺の脚色したストーリーに、チャンミンが頻繁に訂正を入れる。
楽しい会話は、デザートまで続いた。

デザートに使われた皿も、暁月焼だった。

「もう手に入らないから、特別なお客様にだけ使っているんです。」

女将がサーブした暁月焼を、チャンミンはいとおしそうに撫でた。

「いつかまた、チャンミンさんが作ったお皿で料理を考えてみたいわ。」

「……そんな日が来るといいですね。」

チャンミンは笑顔だったけれど、どこか寂しそうで、食事が終わるやいなや、俺は思い切り抱き締めた。

「ユノ?」

「チャンミン。俺のせいで我慢してない?」

「どうして?僕はユノのおかげで幸せだよ?」

「でも、チャンミンが作ってみたい陶器はないのか?あの頃みたいに。」

「設備がないじゃない。会社を個人目的で使うわけにもいかないし。」

「陶芸教室だったらあるんじゃないか?」

「いいよ。今はそれどころじゃない。早くユノに追い付きたい。」

「追い付く?」

ほろ酔いで桜色の頬をしたチャンミンは、俺の胸にぎゅっと抱きついた。

「僕は……ユノに。」

「なに?」

「おんぶに抱っこじゃ嫌だ。」

「そんな事ないだろ。家のことだって支えてくれてるじゃないか。」

チャンミンは大きく息を吐いて俺を見上げた。

「僕はユノに嫉妬してる。」

「俺?」

よく分からない。
皺が寄った俺の眉間に指先を置き、チャンミンはぐいっと伸ばした。

「そんな顔しないで。ユノはさ、凄いよ。すぐいろんな人と仲良くなって、交遊関係が広くて。仕事ができて、世界で求められて。」

「チャンミンだって職場で求められてるじゃないか!」

「僕はまだ新人なんだ。ユノみたいになりたくて必死なだけ。」

「俺みたいになる必要がどうしてあるんだよ……。」

「悔しいって思ってしまうから。」

「悔しい?」

「僕が連絡しなかったのは、ムカついてたから。最初は勘違いして悲しんでた。でも、ハヤシさんもユノの部屋に居たって知って、ムシャクシャした。」

「は?ハヤシさん?」

「僕の取材だったのに、ユノの方が仲良くなってて、なんだよって。僕だったら、部屋で飲むまで仲良くなれない。バカみたいでしょ。分かってる。でも、ユノとの差を見せつけられた気がした。」

「あれはたまたま……。」

「それだけじゃない。積み重ねなんだ。」

振り返ってみても、俺には思い当たる節がない。ただ、チャンミンに大人ぶってると言われたことと、ちぐはぐという言葉は脳裏に浮かんだ。

「俺って、チャンミンに偉そう?」

「そうじゃない。でも、いつも余裕があって楽しそうで羨ましい。」

「いつも余裕があるわけじゃないよ。家でまでしんどそうだったら、頑張ってるチャンミンに悪いと思って。」

「僕はウジウジしてる時がたくさんある。これから今の仕事で何を目指せばいいのか、ビザが取れなかったらどうしようとか、ドイツ語の勉強ももっとしなきゃいけないのに時間がないとか……。」

チャンミンは微笑んでいるのに、瞳からポロポロと涙を溢した。

「チャンミン……。それでチャンミンは、どうなりたいの?俺はどうしたらいい?まさか、日本に帰りたいとか言わないでくれよ?」

「はあ!?」

可愛く潤んでいたチャンミンの目がすわった。

「バカじゃないの!?そんなわけないだろ!」

「いや、だって……。」

「冷静になってよ!僕はドイツに居るために必死なんだから!」

「ん……そうだな。」

「自分でも変な感覚。僕はいつも揺らいでる。女の僕は、ユノにベタ惚れ。でも、男の僕が、嫉妬するんだ。」

もうずっと前。
女将が呟いた言葉を、俺は思い出した。


『綺麗で華奢だけど、オスなのよ。』






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コールドブリュー

Author:コールドブリュー
東方神起 ユノとチャンミンが大好き。
脳内妄想をこっそり綴っています。
ホミンのみ。

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