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正中に放て 弓道編 おわりに

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正中に放て
-弓道編-
おわりに


長い!
長過ぎる!!

当初の目論見より、倍以上の長さになった『正中に放て -弓道編-』。
お付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございます。

ずっと書きたいと思っていた弓道青春ストーリー。お楽しみいただけましたでしょうか……。

馴染みの薄い題材故、ハードルの高い物語でした。読者様にとっても、ですよね。

弓道解説に加えてホミンちゃん以外の登場人物が「僕も」「俺も」としゃしゃり出まして、気づけば117話。
大河&日下部コンビはじめ、サブキャラ達がやたらと濃かったせいで、予定になかったストーリーがどんどん湧き、最終話に漕ぎ着けるのにそれはもう難儀しました。

アメリカ留学はどうなったの?
お付き合いへの家族の同意は?
ユンホ君とチャンミンの夢はどうなるの?
大河の策略は?
キュー道探求の成果は?

と不完全燃焼な読者様もいらっしゃるかと思いますが、こちらのお話、やっと弓道編が終わっただけで、続編ございます。

ではここで遂に、待ちに待った(←待ってないわ)、続編のタイトルを大公開!!

こちらです。
どどーーん!


『正中に放て -赤道編-』


う……すみません。
はあ??という声があちらこちらから聞こえそうです。

赤道は、まさに地球の中心を走るあの赤道のことです。
弓道編は舞台が日本でしたが、続編はダイナミックに世界を股にかけます。

何しろこちらの登場人物達、超セレブの天才ばかりなので、舞台が広くないと収まらないのです。
ホミンちゃん達には、地球の正中にて愛を放って欲しいなぁと(笑

この赤道編で待ち受けるドタバタのために、登場人物が多くなりました。サブキャラ含めた少年達が大人になり、ちらほら活躍予定です。


皆様には大変申し訳ないお知らせですが、現状執筆時間がない日々ですので、続編開始がいつになるとは言えません。
心苦しい限りです。

気軽に読み返してくださいと言える長さではないので、再開の際には「あ、こんな登場人物居たかな……。居たような気がする……。」と遠い記憶を手繰ってもらえたら嬉しいです。


これをもちまして、しばしお目にかかることができなくなります。
世界のどこかでホミンちゃんに思いを馳せながら働いてます。

国内でもそうですが、移動中や旅先でふっとお話のシーンが浮かぶので、赤道編に活かせたらなと思っております。

本当なら韓国に飛んでいって、撮影中ぽつんと花火を見上げていた麗しのチャンミンに巨大ドローンか何かで接近して吊り上げ、捕獲成功かと思ったところでユノさんに叩き落とされたい。

↓これね
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もしくは急遽ホテルマンとしてインドネシアか台湾で働き、コンサートでぐったり疲れたチャンミンに冷えたビールなど運ぶとみせかけて、バルコニーからハングライダーで拐おうとするところ、ユノさんに叩き落とされたい。

あ……いけない。
妄想が漏れてしまいました。
チャミ崇拝ユノペン改め、今や単なる変態どMホミンペンです。

こんな妄想ばっかりしてるから、コブ作品にはシウォンさん必須。妄想夢を叶えるには、彼の存在は欠かせません。ありがたや。
SJのニューアルバム発売したら買うから、許して欲しい……。


さて、これ以上綴ると読者様に逃げられそうなので、この辺で。

また来月『メゾン・シム』の方でお会いしましょう♪

それまで皆様お元気でー!!




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ジャンル : 小説・文学

正中に放て 弓道編 最終話

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正中に放て
-弓道編-
117 (最終話)


インターハイが終わって東高に戻れば、また勉強に弓道にと忙しい毎日。

以前にも増してユンホとチャンミンは勉学に時間を費やした。アメリカの大学受験対策としてユンホの父が送ってくれた資料を参考に、成績アップを目指す。

「推薦状も重要なんだね。2通必要だから、学長と日下部先輩に書いて貰えたらいいなぁ。先輩顧問だし、凄い文章書きそうだし。」

「ふむ。そうですね。」

真面目モードのシム先生は黒縁だて眼鏡をくいっと上げてPCに向かい、受験までの目標を連ねたスケジュールを打ち込んでいる。

「エッセイの内容も今から考えておいた方がいいですね。今月書いて、受験サポートの先生にアドバイスもらいましょう。」

「あと、クラブ活動への取り組みや、リーダーシップかぁ。僕、ほんとに弓道部で良かったな。人種が違っても仲間になれることも、他文化に親しむことも、色々アピールになるもん。」

「クラブ活動の成績も良くないといけませんね。全国トップ、守り続けましょう!」

そう言うと、シム先生はおもむろに眼鏡を外してチャンミンに戻った。

『戻る瞬間に流し目しながら髪を耳にかける』はチャンミンのキュー道スコア8点の技だ。

「ハーバードは多様性を重視してるから、ユンホ君との愛の絆なんかもプラスにできたらいいな……。」

「あ、愛の絆!?」

「うふん。最近してないよね……。」

「だってチャンミンが勉強ばっかりさせるから!」

「それはユンホ君のためだもん。僕だって、絆深めたいにゃん。」

「赤ずきんにゃん!!」

早朝練習も欠かさず行っている2人には時間が足りない。煽りを食うのは当然にゃんにゃんの時間で、お互いに欲求不満を常時抱えていた。

「狼さん。今夜は食べて?」

「わっ、わおーーーん!!!」

ユンホ狼が赤ずきんチャンミンの首にガブリと噛みつこうとしたところで、ドアが勢い良く開いて虎之介が部屋に突入してきた。

「きゃーーーっ!!」

「とらちゃん!!ノックくらいしてよ!!」

「文句言うなら鍵かけろ!!俺はもう限界なんや!泊めてくれ!!」

インターハイ後、虎之介は頻繁に隣室から避難してくるようになった。目の下には深いクマが刻まれている。

「今夜も?九条とジェーぺって、そんなに……激しいの?」

「ちゃうねんチャンミン。あいつらプラトニックラブを貫いとる。せやけど、ジェーぺがキャッキャキャッキャはしゃいでうるさい。」

インターハイの後、九条は武道館の前でジェーぺに愛の告白をした。
緊張でブルブル震える九条に対し、ジェーぺは拍子抜けするほどあっさり「いいですよ」と答えたのだが、それには条件があった。

愛するパパが泣くといけないから、身体の関係はNGだと言うのだ。

「九条のやつ、毎晩遊んでやって、その後ジェーぺが寝るまで子守唄歌うんや。なんであんな音痴な子守唄で眠れるのか意味が分からんわ。地獄やで。」

きっとパパも音痴なんだろう。
大きなため息を吐いたチャンミンの横で、ユンホは首を傾げた。

「何して遊んでるの?」

「お馬さんごっこや。」

「お馬さん??」

「九条が馬になってヒヒーンとか言うてるわ。」

ジェーぺはフランスで乗馬をしていたらしく、日本に来てから出来なくなったことを嘆いていた。その悲しみを九条が身を呈して補っているのだ。

「パパの代わりだの馬の代わりだの、龍君て健気だなあ。」

「……馬ならシウォンの方が似合いそうなのに。」

「し、シウォン先輩が馬!?」

ユンホはシウォンが鼻息荒くチャンミンを背中に乗せてヒヒーンと嘶く図を思い浮かべ、頭をブンブン振った。

想像でも許せない。
チャンミンを乗せて喜ばせるのは僕だ!
下から突き上げて、鳴かせまくるんだ!

「とらちゃん。申し訳ないけど、また興奮してきた。今夜はやっぱりにゃんにゃんしたい!!」

「は!?ユンホ勘弁してや!俺はどないすんねん!」

「今日ばっかりはごめん……。久々なんだよ。とらちゃんジェーぺの部屋で寝てきたら?」

「………非情…。」

もちろん虎之介への恩を返すため、ユンホとチャンミンはできる限り寝室を貸すようにした。
だが、週に1度は我慢できなくなり、哀れな虎之介は卒業するまで放浪生活を続けるのだった。


秋が来て、文化祭が終わり、冬の全国選抜でも東高弓道部は優勝を掴んだ。

インターハイと全国選抜両方でNo.1になった東高の主将は憧れの的。ユンホには全国規模のファンクラブができ、毎日ファンレターが届く。

デスクに積まれた封筒をぴらぴら振ってチャンミンはぶすっとした。

「このご時世に郵送のファンレターって!」

「チャンミンだって貰ってるじゃない。」

「僕は手渡しのみを受け付けてるの!!送るコストも紙もエネルギーも無駄!」

「チャンミンが連絡先教えるのもSNSも禁止って言うから、これしかやり取りの手段が……。」

「やり取りぃ!?んなもんしなくて結構!しかも何これ。女子からばっかりじゃない!!」

「……チャンミンは男子からばっかりだね。」

「僕だってイケメンの部類なのに……釈然としない……。」

「可愛さが溢れ出てるからじゃない?追求してるんでしょ?」

「まぁね。最近はツンデレも追求してるけど。」

「僕にはデレだけでお願いします…。」

「ふんっ!知らない!!」

「チャンミーン!拗ねないでよぅ!」

「僕は勉強します!ユンホ君も返事書く暇あったら勉強なさい!!」

眼鏡を装着してシム先生に変身したチャンミンのスパルタ教育は夜更けまで続く。

ユンホの成績はぐんぐん上がり、2年生の終わりには、Aクラスでも上位に食い込むようになった。


そして3年の春。
日下部との別れがやってきた。
交換留学生として、大河と同じイーストドーンカレッジへの転入を決めたのだ。

「日下部先輩……。俺っ!俺!!寂しいです!!!」

最後の部活の日、慶太はボロ泣きだった。
ジェーぺは九条の袴を涙でぐちゃぐちゃにし、玉子石にいたっては、日下部に渡そうと取り寄せた1個1000円もする高級卵の茹で卵を3個連続で握り潰してしまった。

「あー、もー、みんなそんなに泣かないの。夏合宿ですぐ会えるから。」

「先輩は俺達の憧れなのに!!教えてもらえないなんてー!!」

「これからは範士の先生が来てくださるから。錬士の僕なんかより余程勉強になるよ。」

日下部は、錬士の審査に合格した。
大学生の、しかも2年になったばかりでの合格など前代未聞だったが、審査員の大半が日下部にメロメロになっていたので、多少の忖度はあったかもしれない。

そして、師範の最高位であり、審査員長を務めていた範士の先生が、日下部の頼みならばと、顧問に就任することになった。

「これからはイチャイチャは控えめにね。練習中にキスなんてしてたら、高齢な先生の心臓が止まっちゃうから。」

「う………何度か止めるかもしれません。」

頭をポリポリしたユンホにしたり顔で頷き、日下部は道場の入り口を指さす。

「そんなこともあろうかと、餞別にAED設置しといた。」

「さすがです……。」

「ユンホ、みんなに心肺蘇生の講習しといてね。」

「はい!人口呼吸の実演はチャンミンと僕でやります!!」

「だから……先生の心臓止まるって!それより、チャンミンはどこ?」

チャンミンは巻藁場で弓を引きながら、涙を堪えていた。唇をぎゅっと噛んでいないと大泣きしてしまいそうだった。
日下部の居ない弓道部を、想像するのが嫌だ。

ふらりと巻藁場に現れた日下部は、泣き出しそうなチャンミンの頭を背伸びして撫でた。

「チャンミンはどんどん大きくなるね。」

「……入部した時より10cm伸びました。」

「夏に会う時にはもっと伸びてるかな。」

「………日下部先輩より20cm以上大きくなっちゃうかも。」

「むかつく……。」

「先輩は小さいけど、弓を引いてる時は大きく見えます。」

日下部は微笑んで、1射チャンミンに引いて見せた。それを見つめるチャンミンの瞳から遂にポロポロ涙がこぼれる。

巻藁から矢を抜き取り、振り返った日下部も泣いていた。様子を見に来たユンホも泣き出し、3人で手を取り合って泣いた。

「チャンミンとユンホも早くボストンにおいで。大河と2人で…待ってるよ。」

「卒業したら、すぐ追いかけます!チャンミンと、2人で!」

声を張り上げたユンホの腕にしがみついて、チャンミンも叫んだ。

「僕……先輩とまた一緒に……弓が引きたい!!」

「うん。僕らの縁はさ、きっと一生ものだよ。先は長い。これからも、よろしくね。」

道場から、甲高い弦音が聞こえる。
裏山からウグイスの音がそれに答えた。

新たな門出を祝う音色は止まることなく、3人をうららかに包む。

「春だねぇ。」

「春……ですね……。」

裏山に顔を向けたチャンミンの前髪が春風に揺れ、ユンホは目を細めた。

風向は東。
太平洋を越えて、遥かアメリカの空気を運んでいるかのように鼻をくすぐる。

東高に足を踏み入れたあの日、初めて目にした弓道。
道場でひとり的に向かっていたチャンミンを美しいと思ったのか、弓そのものを美しいと思ったのか、定かじゃない。
きっと、両方だろう。

卒業まであと1年。
ここで過ごすかけがえのない日々を、楽しんで未来に進もう。

僕とチャンミンは、まだ長い人生の春粧の候。

炎暑の真昼も、長月の夜も、初霜の朝も、チャンミンと手を繋いでいれば、若葉揺らす風を感じることができる。

「いい春ですね……。」

微笑みながら呟いたユンホに答えるように、ウグイスが見事な鳴き声を響かせた。





正中に放て -弓道編- (完)

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正中に放て 弓道編 116

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正中に放て
-弓道編-
116


ユンホはつんのめってチャンミンを抱きしめ、九条を睨んだ。

「龍君ひどい!!」

「ユンホ君に何すんだよ!暴力九条!!」

抱き合ってギャーギャー文句を言う2人に舌打ちし、九条は男らしく仁王立ちした。

「決勝前にイチャイチャしてんじゃねえ!行くぞ!!」

こうして緊張する暇もないまま、一同は決勝の舞台に向かった。



客席から一部始終を眺め、大河は深いため息を吐いていた。

「あいつら……弓を引いてる時以外のおふざけが過ぎる……。俺の指導が悪かったんだろうか……。」

「ユンホさんは素晴らしい後輩じゃないですか。ああやってふざけてらっしゃるのも、みんなが緊張しないように、わざとだと思いますよ。」

ヨンスが声をかけた。

「ふふふ。シウォンの執事なのに、随分ユンホを買ってらっしゃるんですね。」

ユンホの祖父母に聞こえない様、耳元で囁いた大河に、この人も相当な人格者だろうと察知したヨンスは姿勢を正した。

「貴方は森崎ビルの息子さんですよね……。アメリカからわざわざユンホさんを助けにいらっしゃったくらいですから、私とシウォン坊っちゃんがしたことは、ご存知ですね?」

「全部聞いてます。」

「大変ご迷惑おかけしました。」

「いえ。私は恋人に会いたくて飛んで来ただけですから。でも、またシウォンが馬鹿なことを思いついても、貴方が止めてくださいよ。可愛い後輩が苦しむのは困るのでね。」

「もちろんです。ユンホさんは、チャンミンさんに別れを告げられてどんなにお辛かったか……。それなのに、私を責めず、慰めてくださったんです。私……彼と電話でお話した時、泣いてしまいました。」

「はは。ユンホらしいな。」

「真っ直ぐで、思いやりに溢れた方ですね。きっと今も本当は誰より緊張されてることでしょう。主将ですもの。」

「ま、心配はしてませんよ俺は。隣にチャンミンがいますから。」

「あのお2人の絆には驚かされます。」

「ええ。あいつらを見てると、俺も励まされます。」

「私もです……。」

大河は日下部を見つめて微笑んだ。
ユンホとチャンミンのおかげで、日下部と将来を夢見る今がある。

励まされるだけじゃない。
感謝しているから、2人の幸せのためなら何でもしたいと思う。

未来が楽しみだ。
早く卒業してアメリカに来い。
大きな夢を、一緒に作ろう。

大河が温め続けている策略は、10ヶ年計画。
まだ日下部にも話すことができる段階ではない。

「ヨンスさん。シウォンの実家は寄付に熱心だとか?」

「はい。旦那様は慈善事業に熱心に取り組んでらっしゃいます。韓国では大変尊敬されている方です。」

大河は名刺をヨンスに渡してにっこり笑った。

「長いお付き合いになりそうですね。」

「はい……?」

戸惑うヨンスに、大河は「試合が始まりますよ」と告げて前を向いた。

射場に入場したユンホとチャンミンは、先程までのデレた口角をきゅっと結び、凛と輝いた顔をしていた。

決勝戦ともなると、今までとは違う期待と興奮が館内に漂う。その期待通り、試合は、高校生とは思えない的中が続くハイレベルな展開となった。

1射目は両校が横皆中。
◯が並んだ表示板に観客のボルテージは上がり、みんな固唾を呑んで見守る。

2射目も相手は横皆中したのに対し、東高は慶太が外して1中遅れをとる形になった。

3射目は相手校の大前から中が連続で外し、慶太が外しただけの東高は1中リードする。

慶太は焦ったが、半矢で構わないと言ってくれたユンホの言葉を思い出し、まだ最後の1本があると気を取り直した。
次を的中させればいい。

4射目、大前の堺は柔らかい射で的中を得てリードを守る。
中前の九条も必死だった。今はジェーぺのことを考える余裕もなく、無心で弓を引いた。

矢が的を抜く音に続いてジェーぺが「やった!」と叫んで初めて、自分が皆中したことに気づくほど集中していた。

中の慶太は最後こそはと的中させ、続くチャンミンは『礼記射義』を心の中で呟きながら弓を起こした。

『内志正しく外体直くして、然る後に弓矢を持ること審固なり。弓矢を持ること審固にして、然る後に以って中るというべし。』

相手校も的中が続いている。
外すわけにはいかない。
チャンミンにできることは、心を正しく、自分を信じることのみ。

正射必中。

ユンホ君はいつも言ってくれる。
僕の射はお手本みたいに綺麗だって。
最初はそれが嫌だったけど、今は正しい射なのだと自信が持てる。

正しく美しくあれば、矢は必ず中るんだ。

シャフトがぴたりと頬にあたり、矢の方向に沿って身体を開いたチャンミンは、ユンホの熱い眼差しを、身体の正中に感じた。

背中でユンホを見つめ返すかの様に、チャンミンの会は長かった。

美しい弦音と共に矢が放たれた時、真っ直ぐ的に向かった矢は、3射目に放った矢の筈に突き刺さってビヨンと揺れた。
矢と矢が繋がって1本のとても長い矢のように見える。

「継ぎ矢だ……!」

「すごい!しかもまっすぐ直線に!」

会場はどよめき、その後皆中に対する拍手が沸き起こる。

「インターハイ決勝で継ぎ矢するとは……。チャンミン持ってるねぇ……。」

日下部は感嘆と呆れの混ざった笑いを漏らした。

「継ぎ矢ってそんなに凄いんですか?」

並んで控えていた玉子石が小声で尋ねる。

「珍しいからそのまま神棚に飾る人もいるくらいだよ。滅多に見られないから、今日はついてるね。」

「へぇ!」

継ぎ矢は先の射と寸分違わぬ射によって達成されるが、3射目と4射目では異なる矢を使うため、厳密に同じ行射であっても、全く同じ場所に的中させるのは至難の業。

弓道では甲矢(はや)と乙矢(おとや)と呼ばれる2種類の矢を1対として使用する。インターハイのように1人4射する場合、2対の甲矢と乙矢を順に射る。甲矢と乙矢では、羽根の形状が微妙に異なるため、矢の飛び方は同じにならない。

つまり、同じ射だからと言って、針の穴を通すように狙いが定まっていないとできることではないのだ。

「さすがチャンミン……。縁起がいいや。」

ユンホはチャンミンに続けとばかり、弓を構えた。

その時会場に拍手が起こった。
対戦相手が、横皆中で4射目を終えたのだ。
ユンホが外せば同中。
中れば優勝。

こんな場面でも、不思議と緊張はない。
チャンミンの継ぎ矢がユンホを祝っているように思え、嬉しかった。

たった数秒の会の間に、チャンミンが弓道を教えてくれる時のはにかんだ顔が走馬灯のように甦る。

去年は巻藁場から眺めるだけだった。
でも、一緒に『礼記射義』を唱えたね。

『射は仁の道なり。射は正しきを己に求む。
己正しくして而して後発す。発して中らざる時は、則ち己に勝つ者を怨みず。反ってこれを己に求むるのみ。』

全ては己の責任。
自分が歩いて来た道。

ユンホの心は静寂の中にあった。


「ケイン!」

甲高い弦音と共に放たれた矢は、迷いなく的を目指した。

「パン!」

的のど真ん中を射抜いた矢。

「よし!!!」

武道館に大河の声が響き、それに日下部が続いた。

両手を広げた残身の姿勢のまま、しばらくユンホは動けなかった。

「ユンホ君っ!やった!!」

チャンミンの涙声が聞こえて、ユンホはようやく弓を下ろし、的に一礼して振り返った。

みんな泣いていた。
堺と九条が抱き合い、慶太は膝を抱えて震え、チャンミンはユンホをじっと見つめて涙を落としていた。

「うぅっ……ユンホ……くんっ……僕達……てっぺん……取ったね!」

「……うん。チャンミン……。みんな……!やったね!!」

チャンミンを抱きしめたユンホにみんなが抱きついて、ぐちゃぐちゃになった。

その混乱に乗じてユンホはチャンミンにキスしたけれど、それに気づいたのはボーイズラブに目覚めて双眼鏡で観察していた一部の女子生徒だけだった。




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正中に放て 弓道編 115

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正中に放て
-弓道編-
115


ホテルのロビーで、チャンミンは小さくなって座っていた。

目覚めたらユンホがおらず、コインランドリーを覗いたがシーツは乾燥の途中。
お腹が減ってロビーまで降りてきたものの、買い物に行くならユンホと行きたいと思い直した。

「もう……どこ行っちゃったの……。」

チャンミンはロビーのガラスに映る光景を眺めた。

通話中で繋がらないスマホ画面をコツコツと叩き、静かなロビーにぽつんと座っている少年は自分。
大きなスーツケースを何個も携え、チェックインする家族はアメリカからの観光客だろう。通りすぎた時、ダラスフォートワース空港からのタグが付いていた。
上品な夫婦は食事帰り。エレベーターに直行する時にちらっと横目でチャンミンを見た。

僕、変に思われてるかも。
髪の毛ボサボサで来てしまった。ハーフパンツにサンダルの子供なんて、東京のホテルには場違いだ。

違う世界にぽんと放り出された錯覚が襲い、チャンミンは急に寂しくなった。
お腹が空いてひもじいし、ロビーの空調は寒すぎて膝下と肩が寒い。

「ユンホ君……。」

チャンミンが膝を抱えた時、会いたいと願った人がロビーに駆け込んで来た。

「あれー!!?チャンミン起きてたの?」

コンビニの袋を脇に抱え、ユンホは両手でチャンミンの手を握る。

温かい。
効きすぎたエアコンで冷えた身体が息を吹き返す。

「お腹空いた?」

「……うん。ぺこぺこ!」

「あはは。だと思った。部屋に帰ろ!あっ!シーツ乾燥機に入れたままだ!!」

「もう終わる頃だよ。洗ってくれてありがと。」

「うん。また弁償になったらチャンミン怒るでしょ。」

「うん怒る。」

「あはは。」

ユンホが居るだけで、元気になれる。
エレベーターに乗り、チャンミンはユンホの手を握った。

「あれ……寂しかった?」

「うん……。」

「もーっ!可愛いなあ!!」

ユンホは、チャンミンと手を繋ぐ奇跡を噛み締める。

大切な試合を前にしてコンビニ弁当なんてどうなんだと思っていたけれど、甘えん坊なチャンミンと交換しながら食べるお弁当は、どんな高級なコース料理より美味しい。

2人でもう1度お風呂に入って、散々キスしてから眠りについた。



最終決戦の朝、ロビーに集合した九条はあからさまにデレッとしていた。

「あれ。龍君。もしかして……フライング告白した?」

「ユンホ……俺はもうここで死んでもいい……。」

「え!駄目だよ試合後にして!」

ユンホの発言はまあまあ非情だったが、九条の耳には賛辞にしか聞こえなかった。

「まあそう言うなユンホ。天使から告白された男は簡単には死なない。」

「えっ!九条!ジェーぺとうまくいったの!?」

日下部がずいっと顔を出した。

「聞いてください先輩。なんとジェーぺが昨夜、これからも俺と寝たいと言ってくれたんです。」

「なんだ。告白じゃないのか。」

「いえ。俺はもう幸せの絶頂です。」

まさに他人事の顔で話を聞いていたチャンミンは、九条の道着袴をクンクンと匂った。

「チャンミン。猫みたいに匂い嗅ぐのやめろよ。もう少し友人の幸せを共有しろ。」

「イジメてたくせによく言うよ。しかし、渋い匂いだね。白檀なんて。」

「金狸様のお守りを身に付けてるからな。虎之介がインターハイ優勝祈願でくれたんだ。」

「ははーん。」

虎之介君の機転か。
お守りと言う名の匂い袋のおかげで、ジェーぺは九条と居ると安らぐんだろう。

「俺は天使に求められる男だ。エネルギーが溢れ過ぎて怖い!ちょっと走りたいから先に行くぞ!!」

九条はホテルから武道館に弾丸の如く走って行った。チャンミンは呆れながら、まだ眠そうな垂れ目でふわっと笑う。

「ふふ。なんかもう、楽しもうね。」

「……そうだね。」

ユンホとチャンミンは、祖父母と連れだってゆっくりと歩いた。
ツクツクボウシの鳴き声がする木々とお堀を過ぎ、すっかり見慣れた武道館に入る。

2人と別れて客席についた祖母は、ユンホと並んで巻藁練習するチャンミンの姿を眺めて目を細めた。

「チャンミン君はいつもユノと一緒に居るべ。」

祖父も感心して頷く。

「魂の友達みたいなもんだべかなぁ。」

「んだ。青春だなぁ。」

「大学も一緒にアメリカまで行くなんて言ってたべ。」

「んだ……。嫁みたいだ……。」

「んだ……。めんこい嫁……。」

思うところはあったが、祖父母はその会話を終わりにして、今は微笑ましく2人を眺めた。



最終日は準々決勝から。
朝9時からの試合で、慶太は気持ちが落ち着かなかった。玉子石の茹で卵一気食いを見せて貰ったが、その日に限って玉子石は喉を詰まらせた。それが悪い予感に思え、指先が震える。

堺も、最後のインターハイとあって表情はかたい。

辛くも勝ち進んだが、堺と慶太は2中だった。

堺は自分で立て直せるだろうが、慶太に緊張するなと言うのは無理な話だ。女子の準決勝と、5~8位決定戦が終わればすぐ準決勝が待っている。

ユンホは円陣を組み、全員に柔らかく微笑んで見せた。

「慶太。慶太はまだ1年生なんだ。チームのためとか、考えなくていい。半矢で上出来!」

日下部が頷いて慶太の頭をツンツンする。

「ユンホの言うとおりだよ。過去の戦績から考えると、次の鹿児島高校の的中は15中ってとこ。いつも通りでいい。」

「九条と堺先輩は3中はいけますよね!ユンホ君と僕が皆中したら、勝てます。」

襟を正したチャンミンの胸元にキスマークをめざとく発見し、日下部はにやけながら怒り顔を作った。

「チャンミンそんなこと言ってるけどさっき外したじゃない!もう目は覚めた?」

「はい。外した音で目が覚めました。」

「遅いよ!」

「すみません……昨夜ちょっと……。」

「寝不足?何時までしてたの!?」

「11時には寝ようとしたんですけど、ユンホ君がキスをやめてくれなくて……。」

「ユンホのせいか。」

罪を押し付けられたユンホは、反論もせずにチャンミンの肩をぐいっと抱き寄せた。

「仕方ないですよ。大好きなんだから。」

「もっ、もう!!」

頬を赤くしたチャンミンより、慶太の方が真っ赤になった。

熱い……。
アツアツ過ぎる。
見ているこちらが熱中症になりそうだ。

「堺先輩……もうまともなのは先輩だけですね……。」

「うん。この環境で緊張するのが馬鹿らしくなるよ。」

ユンホはにっと笑った。

「よし!今日もいつもの東高弓道部だね。」

微笑みながら、東高は準決勝に挑んだ。
日下部の読み通り、相手は15中。東高は18中の堂々の勝利だった。

決勝の相手は、冬の全国大会で負けた愛知の高校に決まった。

あの時は、チャンミンが怪我をしてて一緒に試合出られなかった。
血を流して作ってくれたギリ粉入れを手にすると、ユンホの全身の血管がドクンと脈打つ。

チャンミン……僕の大切な人。
一緒に試合に出られるだけで、こんなに幸せ。

ギリ粉の着いた弓懸けの親指をギュっと鳴らし、ユンホはハートマークを作った。

「ユンホ君。緊張してる?」

俯いているユンホに声をかけたチャンミンは、その手の形にはっとした。

まさか、こんな時にも僕への愛を確認してたの??
やだ、萌える。

顔を上げたユンホは満面の笑みだった。
未来のことなど誰にも分からないけれど、ユンホの真っ直ぐな愛の矢はチャンミンの心臓にどすんと刺さって、抜けそうにない。

「チャンミン。ずーっと、好きだよ。」

「きゃふ……。」

「優勝したら、キスしちゃうかも。」

「それはやめて……。」

「なんでー。いいじゃん。」

「よくない!」

「させてよぅ!」

「公衆の面前です!」

「大河先輩と日下部先輩だって人前でキスしてるじゃん!」

「ここは日本!」

ユンホとチャンミンのイチャイチャトークは終わる気配がなかったが、九条がユンホの背中に蹴りを入れたおかげで漸く収束した。





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正中に放て 弓道編 114

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コールドブリュー

Author:コールドブリュー
東方神起 ユノとチャンミンが大好き。
脳内妄想をこっそり綴っています。
ホミンのみ。

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