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SPY in the attic おわりに

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SPY in the attic おわりに



皆様おはようございます。

昨夜無事に最終回を迎えた屋根裏の2人。
お付き合いいただき、ありがとうございました。

ロンドンにも、イギリスの歴史にも詳しくなく、苦しみながらの執筆でしたが、憧れのスパイ設定というだけでテンション高めで書き続けることができました。

平成から令和へと移り変わるタイミングでしたので、陛下というワードを登場させたいと目論んだ結果、ボスを女王にしちゃう暴挙に出ました。失礼極まりない。

本当は元号が変わる頃に女王登場させたかったんですけど、間に合わず……。

謎だらけで、読むのも疲れる作品だったと思います。最後まで諦めずに読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。


トップのタイトル画像にバッキンガム宮殿を使うか、国会議事堂(ウェストミンスター宮殿)を使うか悩みましたが、バッキンガム宮殿を使うとネタバレしそうだったので、チャンミンがユノを庇った上で大仕事を果たす場所を選択しました。

丁度、この辺が舞台のイメージでした。

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本編では細かく語りませんでしたが、チャンミンの男娼館の場所は、私の大好きな映画パディントン(熊のやつ)で出てくるパディントン駅と、愛読書シャーロック・ホームズの舞台であるベイカー街の中間あたりに設定していました。

完全に趣味に走って、脳内でにやにやしていたことをここに白状します……。

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イギリスの歴史だけでなく、MI6やMI5の1950年代の所在地を調べたりとか、地下鉄の路線図とにらめっこしたりとか、冷戦の歴史なんかを夜な夜な読み耽ったりして、個人的にも勉強になった作品でした。

色々不十分ながらも、今は満足しております。


さて、世界観が違い過ぎて頭の切り替えがまだ出来ていませんが、青春真っ只中の高校生ホミンの続きにゆるりと取りかかっています。

原稿がもう少し貯金できたら再開しますね。
今週中には再開できるかなぁ……。

改めまして、『SPY in the attic』をご愛読いただき、心から感謝いたします。

では、また『正中に放て』でお目にかかります。

素敵な日曜をお過ごしください。



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テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

SPY in the attic 最終話

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SPY in the attic 36

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SPY in the attic 36



ユノは聞きたいことを全部後回しにした。

ホリーに、ロンドンで知り合った友達だとユノを紹介したチャンミンを気遣ってのことだ。
それに、天使が男と恋仲だなんて、ホリーがまた腰を抜かしてしまう。

チキンソテーの焦げを懸命に取って切り分けるチャンミンの尖った口が、アルバムで見た天使そのもので微笑ましい。

野菜スープの優しい味は身体に染みて、デザートはカスタードプリンときた。

「まだ練習中なんだ。ホリーに習ったばかりで。」

自信のなさそうな顔のチャンミンが、プリンを口にしたユノを凝視している。

「うん。ちょっと硬いけど、味は最高。俺が食べたかった味。」

「はぁ……良かった。」

天使の微笑みを浮かべるチャンミンを抱き締めそうになるのを、ユノは膝をつねって耐えた。


食事中、ホリーは数週間前に道端でチャンミンに再会してからのことを話し続けた。

暇を見つけては、チャンミンに料理を教えていると言う。

「また坊っちゃんと過ごせるなんて、人生捨てたもんじゃないわ。」

ホリーはノンストップで話すけれど、ユノは「うんうん」と相づちをうちながら食事するチャンミンの顔ばかり見ていた。

食事の片付けを終えると、ホリーは家まで送ると申し出たユノを丁寧に断って帰って行った。

「久しぶりなんでしょう?お2人でゆっくりしてね。」

「うん。ありがとうホリー。またね。」

扉が閉まるのを待ちきれず、ユノはチャンミンを抱き抱えてソファまで拉致した。

「チャンミン。ほんとにチャンミンだな。」

ぎゅうぎゅう抱き締めるユノの胸でチャンミンが涙ぐむ。

「ユノ。辛い思いさせてごめん。」

「辛いなんて言葉じゃ足りない!俺は……チャンミンを失って、生きている意味が分からなくなってた!ちゃんと聞かせてくれ。」

「うん。ユノがここへ来たってことは、陛下からお許しが出たってことだね。」

「ほんとにさ、チャンミンはどれだけ俺を驚かせたら気がすむんだよ。バッキンガム宮殿とか、女王陛下とか、心臓がいくつあっても足りない!」

「ごめん……。」

「チャンミンの過去の話、聞いたよ……。」

「陛下は生涯の忠誠を誓う、誰より大切な人。」

「あぁ。それはよく分かった。」

チャンミンはユノの頬に手を添え、こつんと額を合わせた。

「でも今は、違うよ。もっと大切な人ができた。」

そう言うとチャンミンはおもむろに立ち上がり、シャツのボタンを外して上半身裸になった。

その背中には、銃創と大きな切開の跡があった。

「俺を守って……こんな……。」

美しい背中を引き裂くように走る大きな傷痕。
涙ぐんで顔を覆ったユノの髪を撫でて、チャンミンは寄り添った。

「悲しまないでよ。僕にとってこの傷は誇り。」

「やめてくれよチャンミン!死んでたかもしれないんだぞ!」

「まぁ……大変な手術だったって。最近まで、ずっと入院してたんだ。陛下のおかげで助かった。」

「陛下はどうやって……。」

「あの時……大臣に拉致されてから、僕はずっと考えてた。これはきっと、陛下を裏切ってユノと居たいと願った罰だって……。」

チャンミンは、銃で脅されながらビッグベンを上り、屋根に出る時、道に少年と王室警護の警察が居ることに気づいた。

「長官の車を発見したのは彼ら。ユノ、気づいてたんだね。彼らが僕の護衛だって。」

「ああ……。」

「ふふ。さすが。屋根の先端まで来てテムズ川が見えた時、僕は合図したんだ。」

「合図?」

「うん。片手でできる手話みたいな。僕らの暗号なんだ。」

チャンミンが実演して見せるが、ユノにはさっぱり分からない。

「で、なんて合図なんだ?」

「大臣をテムズ川に落として殺すって。」

ユノは背筋が冷えた。

可愛い顔に騙されそうだが、チャンミンは陛下のためなら殺しも辞さないスパイ。KGBも顔負けだった。

「警察はすぐに陛下に連絡して動いた。橋脚に降りてスタンバイしてたし、万が一に備えて王室のドクターも飛んできた。陛下は心配性だからね。」

もう驚かないと思っていたが、ユノはまた驚かされた。
これは王室ぐるみの殺人だ。

「やっぱりボスは極悪人だな。」

「うふふ。そうだね。ユノの言った通り。でも、偉大な人。」

「……チャンミンも極悪人だ。」

「嫌いになる?」

「俺も同罪。大臣が生きてたら、俺が殺してた。チャンミンに触れていいのは、俺だけだろ。」

チャンミンは唇を噛んで、ユノに抱きついた。
キスをねだるチャンミンが可愛くて押し倒したいのは山々だが、ユノには疑問が残っている。

「遺書は?書かせたのか?」

「あぁ、あれは僕の書いた遺書。僕を殺すならせめて家族に手紙を書かせてって。大臣の筆跡を真似て。」

「そんなこともできるのか!」

「完璧じゃないけど、水で濡れたら分からない程度には。」

ユノはほとほと呆れた。
世界中の諜報機関が欲しがりそうな人材だ。

「僕は屋根の上で、どうやって大臣を落とそうか考えてた。相手は銃を持ってるし、失敗は許されない。取り敢えず抵抗して気絶したフリをして、チャンスを窺ってた。」

「そこに、俺が……。」

「そう。撃たれてちょっと予定が狂ったけど、それがチャンスにもなったよ。」

「何がチャンスだ!こんな傷……。」

ユノはチャンミンの背中に額を寄せて、我慢せず泣いた。不規則に上下する肩甲骨が、チャンミンも泣いていることを教えてくれる。

「あの時、一緒に……水底に沈みたいと思った。」

「ユノ……。僕だってほんとは……ユノとどこか逃げてしまいたかった……。」

「陛下のことなんて忘れて?」

「……でも!そんなことできない!!」

吐き出されたチャンミンの葛藤を、ユノはぎゅっと抱き締めて受け止めた。

ユノと溶けて1つになりたいと願ってくれたチャンミンの、いとおしい背中。

ユノは慎重に傷痕に舌を這わせ、痛そうな素振りがないことを確認して、優しく口づけた。

「……あ…ん……。」

「……そんな声出すなよ。まだ話の途中だ。」

「だって……。ずっと会いたかったし、ずっとユノに抱かれたかったんだもん。」

「あぁ!もう!!」

我慢できず、ユノはチャンミンの顔中にキスした。
キスを落とす度、チャンミンが生きていることを実感して涙が溢れた。

「無茶しないでくれよ……。」

「ごめんなさい……。でも、生きてやるって思ってたよ。ユノとの夢……絶対に叶えたかった。」

「あんな状況で?」

「陛下なら、僕のことは何とかしてくれるんじゃないかって……。」

チャンミンにとって、陛下は新しい命をくれた神様みたいなものなのだろう。
その絶対の信頼と忠誠を、ユノは恐ろしく感じた。

「テムズ川に落ちる前から、大臣の頸動脈を押さえて意識を失わせた。ポケットに遺書を捩じ込ませて、何とか橋脚の方向を目指して……それからは覚えてない。」

「どうかしてる……。」

「さすがに死ぬかと思った。医学の知識はあるから、出血を抑える努力はしたけど。銃で撃たれた場合、出血性のショック死が多いからね。」

あの状況で大臣を葬り、自分の命を守ることまで考えていたとは。

「もう俺……チャンミンが怖い。」

チャンミンは、泣きすぎて白兎みたいにピンク色になった目尻に涙の滴を残したまま、口を尖らせて拗ねた。

「陛下にもしこたま怒られた。奇跡的に内臓の損傷が少なかったから助かったんだって。」

「たまたま助かっただけじゃないか!」

「でもほら、結果生きてるし!」

これは先が思いやられる。
こんな無鉄砲なスパイと一緒に仕事をするのか。

「陛下ったらひどいんだよ。手術の後、ユノも入院したって聞いて、すぐにでも会いたかったのに、全然会わせてくれなくて。」

「はぁ……。」

ユノはチャンミンの胸に頭を落として呻いた。

「どしたの?」

「どうしたもこうしたもない。俺は選択を誤った。人生最大の過ちだ。」

途端にチャンミンが不安な顔になり、ユノの顔を起こした。

「え……。僕のこと?」

散々心配させられた腹いせだ。
少しいじめてやろうと、ユノも極悪人の気持ちになった。

ユノを見つめるチャンミンの瞳にじわりと涙が浮かぶ。

「チャンミンがこんな人だったなんてショックだ。俺は自分の命を粗末にする人は嫌いだ。」

「だから、ほんとにごめんなさい……。ユノ……許して!」

「許せないよ。」

「そんな……お願いだから……。」

「こんな恋人、手に負えない。」

「……やだっ。捨てないで!」

チャンミンはボロボロ涙を溢して泣き出してしまった。

「うぅ……ひっ……ぅ……。」

まずい。
やりすぎた。
ユノは大いに焦って、しゃくり上げているチャンミンの胸を引き寄せた。

「だからさ。俺はチャンミンの仲間になるよ。」

「うっ……ふぇ…?」

ユノの胸できょとんとしたチャンミンの可愛いこと。
小さい頃のチャンミンに出会えた気がした。




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SPY in the attic 35

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SPY in the attic 35



長官がユノの肩を掴んだ。

「ユノ。お前はできる以上のことをした。お前に愛されて、チャンミンはあんなに幸せそうだったじゃないか。」

「そうよ。もう、悔やんでも仕方のないこと。」

「仕方ない!?そんな言葉で片付けられません!私は……チャンミンなしではもう!!生きていることすら……。」

陛下は今日1番のため息を吐いた。

「はぁ……ほんとに仕方ない……。」

紅茶を一口飲む陛下。
それから、長官を見つめて背筋を伸ばした。

「長官、彼を合格とします。」

「……は?合格?」

ユノの泣きはらしたボロボロの顔に、陛下はくすりと笑った。

「今日あなたに来てもらったのは、仕事の依頼をしたくて。チャンミンを失って正直困っているの。色々と不便で。」

「……はい?」

「私のスパイになって、助けてくれないかしら。」

「は……。」

ユノは思った。
陛下は、チャンミンのボスは、やっぱり極悪人か?

血も涙もない。
大切なチャンミンを失ったのに、この飄々とした態度。
こうでなければ国の君主など務まらないと?

混乱するユノに長官が追い撃ちをかける。

「私は異論ありません。どうぞ使ってやってください。」

「長官!」

長官もにやにやしている。
長官まで極悪人に見えてきた。

「ユノ、陛下のご意向に逆らうなんてできないよな。」

「しかし長官!俺は今でもMI6の仕事には誇りを持って……。」

「やることは変わらない。国のためだ。」

「そう言われましても。」

「お前、得意だろ。1人でやれとは言わない。経験を生かして、MI6とも、MI5とも協力すればいい。」

「簡単に言わないでください!」

陛下はユノと長官の埒のあかないやり取りに「ふう」と鼻息を漏らして立ち上がり、ユノの前に立った。

「受けるの?受けないの?」

ユノは焦った。

ユノを見下ろす陛下の目が据わっている。
思えばさっきから、陛下の前で随分失礼なことを口走り続けている。

「私はチャンミンを救えませんでした。私では、力不足ではないでしょうか。」

「そうかしら。」

陛下はおもむろに手を差し伸べた。
どうすべきか分からず、その手を握ったユノに、陛下はにっこり微笑んだ。

「ではテストをしましょう。1つ、仕事の依頼をします。無事ミッションに成功したら、受けてもらえるかしら。」

「どのような仕事ですか?」

陛下はわざとらしく、眉を下げて困った顔をした。

「私の大切で可愛いスパイがね、私を裏切ってあなたに協力してしまったからと、田舎に引きこもってしまったの。もう私のそばに居る資格がないなんて言って。」

ユノの手は震えた。

「とても強情なスパイよ。彼を説得して連れ戻してきてちょうだい。それが、あなたの最初のミッション。」

震えるユノの手をぎゅっと握った陛下の眼差しは、極悪人などではない、慈悲深い優しさで溢れていた。

「チャンミンは……生きて……。」

「当たり前でしょう。この私が全力で守っているのよ。死なせるものですか。」

「でも……撃たれて川に……。」

「信じられないなら、ご自分で確かめたら?」

ユノは陛下の柔らかく小さな手をぐっと掴み、立ち上がった。


『天国で……待ってる。』

チャンミンが耳元で囁いている。



ユノは長官のポケットに強引に手を入れた。

「な!なんだ!!」

「……車の鍵を貸してください……。」

「なに?待て待て、俺はどうやって帰るんだ。」

「いいから貸してください!!」

陛下はくすくす笑っている。

「貸してあげてちょうだい。長官はこちらで送るわ。」

長官から鍵を奪い取り、ユノは走り出した。

「おいユノ!まだ場所を話して……。」

「場所は分かってます!!」

部屋を飛び出したユノは、急ブレーキをかけて振り返り、陛下に深々と一礼した。

「陛下!全身全霊でお仕えします!!」

「結構。さぁ、さっさと行きなさい。」


ユノが部屋を飛び出した後、陛下は「ふぅ」とため息を漏らして眉を寄せた。

「悔しいわ。あんなスパイに可愛いチャンミンを取られるなんて。」

「陛下……もう十分虐めたではありませんか。何ヵ月も会わせずに……。」

「虐め足りない!ジーンズの破れた、しかも男だなんて!私はイギリス国教会の首長でもあるんですよ!」

「でも、お許しになるんですね。」

「チャンミンのためです!ああ、腹立たしい。存分に使い倒してやるわ。」

「それでこそ我が君主。」

陛下と長官は、顔を見合わせて笑った。



どうやって宮殿を出て、運転したか、ユノは全く覚えていない。

ただ、チャンミンが「ユノ早く。」と道の先で呼んでいる姿を追って、アクセルを踏み続けた。

何度も通った道。
ロンドンを離れ、牧草地や林を抜け、いくつか町を通り過ぎ、コヴェントリー郊外の農村へ。

夕闇が包む懐かしい農家の一軒家の前に車を停め、ユノはオレンジの明かりが灯る窓ガラスを眺めた。
暖かな色が滲んで見える。
玄関へと続く小路の前で、足がすくんだ。

家の中から夕食の香りが漂い、人影がガラスを横切った。
ユノの気配に庭先でニワトリが騒ぎ出す。

「ニワトリ……飼ってるのか。」

キッシュを作ってくれると言っていたチャンミンの声が甦る。プリンも作ってくれたら最高だ。
ユノの目前に、叶うはずないと思った夢の世界がある。

意を決して扉に近づいた時、中から女性の話し声がした。

「あれ……?」

まずい。
てっきり天国ってのはここだと思っていたが。
間違えたか?
ちゃんと場所を聞くべきだった。

玄関の鍵がカチャカチャと開く音がして、咄嗟にスパイの癖が出たユノは物陰に身を潜めた。

「あら?誰も居ませんよ。」

顔を出した女性をユノは知っていた。
ホリーだ。

ユノは物陰から飛び出した。

「ひえーーーー!!!」

腰を抜かしたホリー。

「ホリーどうしたの!?」

奥から、愛しい声がした。

「坊っちゃん!不審者です!!あ……あら……?あなた確か……。」

床にうずくまるホリーに駆け寄ったチャンミンは、可愛い顔に似合わぬ大きな肉切り包丁を握り締めていた。

チャンミンはユノを見つめて息を呑み、包丁を持つ手を震わせて立ち尽くす。

「チャンミン。」

小さく名を呼んだユノとチャンミンを交互に見上げて「あら。お知り合いだったの?」とホリーが尋ねる。

大きな瞳を潤ませたチャンミンは、ホリーの質問に答えることなく、ユノ目掛けてジャンプした。

「うわーーー!!!!」

包丁が目前に迫り叫んだユノの胸に、チャンミンは両手を広げて顔面から飛び込んだ。

カシャンと包丁が地面に落ち、チャンミンがユノの背中に腕を回してしがみつく。

「ユノっ……ユノ……ユノ……!!!」

鼻をくすぐるチャンミンの栗色の髪。

「チャンミン……。」

ユノは無我夢中で抱き締め、少し痩せたチャンミンを五感の全てで確認した。

ふわりとカールした髪も、生え揃った睫毛も、しっとりと張りのある肌も、耳たぶの形も、首筋のほくろも、全部チャンミンだ。

「ユノ……。」

心地よい声も、潤った唇も。

唇の感触を確認しようと顔を寄せたタイミングで、ホリーが立ち上がって奇声を発した。

「きゃー!フライパン!焦げてます!!」

「あっ!」

キッチンへと走るホリーを振り返ったチャンミンの頬を両手で挟んで、ユノはぶつかるみたいにキスをした。

再会のキスは香ばしくて、ちょっと焦げ臭く、ありふれた日常の味がした。

キツい仕事の後、我が家のソファに身体を預けた時のように、心がほぐれていく。

「お帰り。」

ユノの言葉にチャンミンは唇をきゅっと結んではにかむ。

「逆だよ。」

「合ってるよ。お帰り。」

もう1度囁いたユノに、今度はチャンミンがぶつかるみたいなキスをした。

「ただいま。」

あるべき場所に、主が帰って来た。
ユノの腕の中に、チャンミンが帰って来た。






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SPY in the attic 34

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SPY in the attic 34



「チャンミンは……長官に会った時、初めてじゃない気がすると言っていました。」

長官を疑ったユノを、泡で遊びながら笑わせてくれたチャンミンの無邪気な笑顔が浮かぶ。
忘れてしまうことなんてできない、大切な人。

ユノは目の前にあるチャンミンの記憶に微笑み返した。

「俺、長官が2重スパイじゃないかと疑ったんです。でもチャンミンは違うと。きっと、助けられた微かな記憶があったんだと思います。」

「そうか。はは。」

長官も嬉しそうに笑った。

「さて、感傷に浸りたいところだけど、急ぎましょう。私の時間は限られているの。ユノが知りたいチャンミンの謎をお話するわ。」

身構えたユノに、陛下は淡々と語り始めた。


「イギリスに連れ戻したチャンミンを、私は侍従の1人としてそばに置きました。」

陛下は彼に最高の家庭教師をつけ、貴族のたしなみから乗馬やスポーツに至るまで、王室と同等の教育と待遇を与えた。

「チャンミンと父親を恨んでいるポート家に戻そうなんて思わなかった。あんな家で疎まれて育つより、エマのように強く、広い心を持った美しい人になって欲しかったから。」

「チャンミンが死んだことになったのは、陛下のご指示でしょうか?」

「チャンミンも了承してのことよ。後で何を言い出されても、ポート家に帰すつもりなど無かった。私にとって彼は、年の近い我が子も同然。でも、ポート家に戻していたら、あんなことには……。」

陛下は頭を何度か小さく振り、紅茶を口にしてから話を続けた。

チャンミンは両親の才能を受け継いで、頭脳明晰だった。王室の家庭教師にでもなってもらおう。陛下はそんな将来を描いていた。

「でもチャンミンは困ったことを言い出したの。」

「陛下のスパイになると?」

陛下はため息混じりに頷いた。

「最初は、スパイなんてものじゃなかったのよ。ただ、私のそばで仕事をしたい、恩を返したいと……。私が国王になるにあたり、困ったことがあるとサポートしてくれていたわ。」

王室のゴシップを狙う新聞記者を黙らせたり、面会する国賓の隠れた情報を調べて和やかなムードを生む話題を選んだり。

「影の報道官みたいなものね。」

チャンミンは優秀だった。
そして、陛下に尽くし続けた。

世界情勢にも、国政にも知識が豊富になっていったチャンミンを、陛下は重宝するようになった。

内務大臣の件は、陛下が首相の推薦なく、国王大権を用いて任命したことが始まりだった。

まだ若く人気のある人物を大臣に据えること。
それは、陛下の思いやり。

冷戦下の不安定な世界情勢と、イギリスの苦しい経済情勢に不安を抱える国民に、希望を与えようとしたのだ。

ところが、内務大臣と首相の仲は悪くなる一方で、内閣は不協和音を奏でた。

首相がMI5を使って大臣の身辺を調査し、更迭しようと画策していることを知ったチャンミンは、任命した陛下に迷惑をかけず、人気があるままに辞任してもらう道を探り始めた。

「チャンミンは、事前調査で大臣の性癖について知っていた。」

「え……。では陛下も最初からご存知だったんですか?」

「いいえ。チャンミンは私に報告しなかったの。知っていたら任命してなかったでしょうね。」

陛下は大きなため息を吐いた。

「チャンミンは自分のミスだとひどく悔やんだわ……。」

ユノは眉間に手を置いた。
全てを自分の責任として、チャンミンは大臣に近づいたんだ。

「とあるパーティーで大臣に接触した後、チャンミンはあんな仕事を始めると言い出したの。」

「男娼……。」

「そうよ。自分は大臣の好みだって。男娼だと偽ったら、すぐ靡いたと。それでチャンミンは、彼を落とし、辞任させようと計画を。」

ユノは呻いた。

「陛下は反対なさらなかったんですか!」

「もちろん反対したわ。でもチャンミンは、自分の身体のことなんて、何とも思ってなかったの……国民の私への信頼を揺るがせるくらいなら、男娼にだってなると……。」

自ら選んだ道だったなんて。
命を救われた女王陛下へのチャンミンの思いは、ユノの理解も想像も超えた。

チャンミンは、大臣が懇意にしていたセバスチャンに近づき、自分が男娼だと信じこませた。

他の男に抱かれることも、厭わなかった。

全ては、陛下のため。

「ユノ。私だってあなたと同じよ。もう心配で心配で、エマに顔向けできないと……。でも、手遅れだった。大臣は初めて会った時から、チャンミンに夢中だったの。」

赤子だった頃からチャンミンを知る女王にとって、どれだけそれが辛かったか、写真を撫でる指先の微かな震えが物語っている。

「私にできることは、客の身辺調査と、見張りをつけることくらい。」

「警察の見張りを……。」

「そうよ。王室警護の担当を、チャンミンからSOSがあったらすぐ駆けつけられるように配置させた。」

「家に出入りする人物も、チェックされていたんですね。」

「大臣を信じ込ませた後は他の客は全て切ったけれど、あの美貌ですもの。無理やり押し入る客がいたら困るでしょ。」

ユノは納得できなかった。

「落として、世間にバラすと脅すだけで良かったのでは!?どうして時間をかけたんです!」

「そうよね……私にも分からなかった。でも、これはあなたの存在を知ってから気づいたのだけど……チャンミンは大臣に同情していたんじゃないかしら。」

ユノははっとした。

チャンミンはユノを好きでいてくれた。出会う前から。それはつまり、チャンミンも大臣と同じだと言うこと。

最初に陛下に報告できなかったのも、きっと自分に大臣と同じ男性を愛する心があったから。

隣で長官が「なるほど。」と頷いた。

「大臣は悪人だったが、政治家として優秀だった。結婚もせず、あそこまで上り詰めるなんて容易なことじゃない。ある意味、尊敬に値する。」

「でも、あなたからの情報で、チャンミンは大臣に見切りをつけることができたのよ。」

今なら、チャンミンの痛みが分かる。
ユノの心は叫び声をあげた。

苦悶するユノを、陛下は慈悲深い目で見つめていた。

「あなたと出会ってからのことは、私よりあなたの方が知っているわね。」

「チャンミンは……ミッションに成功したんですね……。」

「ええ。」

長官が、心配そうにユノを見つめるのが悲しい。ユノは自分が情けなかった。

「ユノ……。彼は大臣を調査しているスパイのお前に出会って、驚いただろうな。お前を愛したことで、計画を変え、MI6と協力して大臣を追い詰めることにしたんだろ。」

でも、それでは大臣の罪が公になって、陛下に非難が及ぶかもしれない。

チャンミンは最後まで、女王を守る方法を探していた。
あの時、国会議事堂の屋上で、チャンミンはその道を見つけた。

大臣を捕まえさせず、辞任もさせず、死に追いやるという究極の道を。

ユノは頭を抱えて叫んだ。

「俺と出会わなければ、チャンミンがあんなことをする必要なんてなかったじゃないですか!ただ男娼として大臣を落として、辞任させれば良かった!」

「ユノ……それは違う。大臣はチャンミンが予想したより野心家だった。彼1人の手には負えなかったんだよ。」

「長官はいつから!いつから知っていたんですか!チャンミンをMI6に連れてきた時に!?」

「いや、あの時陛下の関与を疑いはしたが、全て知ったのは事件の後だ。」

陛下が口を挟んだ。

「内務大臣が亡くなってから、長官に話しました。それで、チャンミンの意思を汲んで、穏便に済ませることになったの。」

「そんな……もっと早く話してくれたら!チャンミンの望むように俺だって協力したのに!!」

ユノの胸は潰れそうだった。
でも、苦しいばかりで心臓は正常に動き続ける。

生き続けている無力感。
ただただ、チャンミンが恋しい。

嗚咽するユノを、陛下は探るような目で見ていた。



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コールドブリュー

Author:コールドブリュー
東方神起 ユノとチャンミンが大好き。
脳内妄想をこっそり綴っています。
ホミンのみ。

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