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その探偵、恋は専門外につき 43

その探偵、恋は専門外につき
-ミモザの音色-
43 (最終話)




カフェでモモちゃんにつかまって、遅くなってしまった。

「王子。ユノさんを落とす技を磨くのよ!ユノさんの理性を奪って、押し倒されちゃいなさい!」

と1人で張り切っていた。

モモちゃんのこの「押し倒されちゃえ作戦」が、後に僕に大惨事を招くこととなるが、それはまた別の話。



手の込んだ夕食を作る時間がない。
暑いし、素麺でも茹でよう。

商店街が閉まってしまう時間だったので、僕は大型スーパーに寄り道して、薬味にオクラと大葉を仕入れた。

帰り際、花屋さんの壁にミモザのドライフラワーが掛けてあるのが目に留まる。

「秘密の恋、か。」

僕はそれを買った。

ルイさん。僕にも秘密の恋があるよ。
いつか伝わるといいな。



リビングに入ると、ユノは腕組みしてダイニングテーブルに腰掛けていた。
僕をじろりと見る。

「ただいま……って、ちょっと。え?何?怒ってる?」

「チャンミン。俺はお前を送ってから4時間ほど冷静に考えてみたんだが、挨拶でほっぺにチューするというのは、どういうことだ?」

「は…?」

「俺はお前を、そんな欧米ナイズされた男に育てた覚えはない。」

兄貴気取りに飽き足らず、父親気取りか。
僕の心はまた沈んでしまう。

いや、むかつく。

小さい頃はいつもチューチュー言って迫ってきたくせに。どの口が言うか。



「挨拶でチューできるなら、俺にもしろよ。」

突然の発言に、僕はスーパーの袋をぽたりと落とした。

「ばっ、ばっかじゃないの!? 4時間も何考えてたんだよ!」

僕はユノの要求を無視し、慌ただしく袋を拾って素麺を茹でた。

ユノがずっと僕を見ている。
心臓がバクバクする。

顔が赤くなっていないだろうか。バレないように、沸騰するお湯の前でわざと熱気を浴びる。


僕がテーブルにつくと、ユノは立ち上がった。

「ユノ、食べないの?」

ユノは僕の隣に立つと、腰を屈めてぐっと顔を寄せた。

「なに!?」

「チューしろよ。」

椅子から転げ落ちそうになるのを、両手で支えて耐えた。

「だから!酔ってて覚えてないって言ってるだろ!麺が伸びるから早く食べろ!」


ユノはしゅんとして椅子に戻ると、僕を恨めしそうに睨みながら麺を啜った。



ベッドに入る前に、枕元から写真を取り出した。ユノが握って皺の入った写真。

僕は丁寧に皺を伸ばし、それを小さな額に入れて壁に掛けた。
横に、ミモザの花を添えて。

「バカユノ。ずっと守ってよ。約束だからね。」

僕は写真の中で微笑むユノに、そっと語りかけた。



いつかユノに言えたらいいな。

僕はユノが大好きですって。

世界で一人だけ。

大好きです。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


浮かれて家に戻ったが、よくよく考えてみると、心にもやがかかる。

シウォンには挨拶でチューできるのか。
俺にはしてくれないぞ?

小さい頃からチューは何度もしてきたが、全て俺からだ。
どうしたことか。
俺はシウォンに負けているじゃないか。

帰って来たチャンミンに迫ってみたが、キレられてしまった。


ベットに入っても、寝つけない。

チャンミンの部屋にそっと忍び込んだ。
口を少し開け、枕を抱き締めてすやすやと眠っている。

「チャンミン……」

頬に触れそうになって、起こしてはいけないと思い直す。



高校の入学式のチャンミンと俺の写真が、額に入れて飾られていた。

ミモザのドライフラワーが殺風景な部屋に彩りを加えている。

ルイさんのことを想っているんだろう。
優しいチャンミン。


あの日誓った言葉を、チャンミンは覚えていてくれた。
でも、もっと前から俺は誓ってるよ。

チャンミンの部屋にあったアルバムをベッドに持ち込み、チャンミンとの思い出にふける。
明け方になって、俺はやっと眠りについた。



チャンミンが、俺のところに来てくれた日の夢を見た。

お星様が願いを叶えてくれた日。
チャンミンの小さくてふわふわの手。
その手を握って、世界一かわいいと思ったあの日。

『僕がお兄ちゃんだよ。ずーっと守るからね!』

まだ目も開かないチャンミンに誓った言葉。

お前がこの世界に居てくれる限り、俺はずっと、お前を守るよ。

迷惑だなんて、言わないでくれよな。

せめて兄貴として、俺を愛してくれよ。




目玉焼きの香ばしい匂いで夢の世界から現実に呼び戻される。

寝不足で目が半分しか開かない。

「ユノの分、テーブルにあるから。」

「ん」

チャンミンはそそくさと大学に行く準備をしている。
俺はそれをぼーっと眺めた。

朦朧としたままチャンミンを見送る。


チャンミンは玄関の取っ手を握り、半回転させたところで動きを止めた。


ゆっくりと振り返る。

チャンミンの顔がスローモーションで近づく。

赤い唇が、俺の視界から隠れた。


『チュッ』




「いっ……行ってきます!」

肩からずり落ちたリュックを扉にしこたま打ち付け、よろめきながらチャンミンは出ていった。


灰色の脳が左頬に残る感触を理解するまで、俺は頬に手を当てたまま、しばらく突っ立っていた。


「チャ、チャンミン……」


ベランダに飛んでいくと、チャンミンが小走りで道を渡って行くのが見える。

俺は、散歩しているおじさんと犬が腰を抜かすくらい大声で叫んだ。


「チャンミン!!!愛してるぞ!!!」


チャンミンは手をバタバタさせて振り返り、世界一かわいい返事をしてくれた。


「バカユノ!!!!!」


犬が俺を威嚇して吠える。
おじさんは犬を引きずって、恥ずかしそうに去っていった。




チャンミン、俺はもっともっとお前を好きになっていくよ。

もう秘密にしておけないかもしれない。

だって世界一なんだ。

愛しさが溢れ出てしまうだろ。

なぁ、早くお帰りのチューがしたいよ。

ずっとそばに居ろよ。

俺のチャンミン。







その探偵、恋は専門外につき
case1 -ミモザの音色-

~完~


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その探偵、恋は専門外につき 42

その探偵、恋は専門外につき
-ミモザの音色-
42



次の日、俺はメイヤーさんを訪ねた。

家の中は少し荒れていた。

「調査で分かったことを、ご報告に来ました。」

「すまないね。仕事が忙しくて、なかなか掃除もできない。今日は久しぶりの休みで、やっと少し整理したところで。」

部屋のあちこちに、猫の置物や絵が飾られている。

俺は、ルイさんが抱えていた過去を、メイヤーさんに話した。

愛した人はいた。でも、浮気なんてしていなかった。

彼女がずっと愛していたのは、ケイ本人ではなく、彼のベースと、FUELの音楽だったのだろう。
俺にはそう思えた。


「私はルイの、何だったんでしょうね。」

「メイヤーさん、もしかしてルイさんに子猫扱いされてました?」

メイヤーさんは動揺を隠さず、噎せた。

「な、何故それを。よく子猫ちゃんと呼ばれてましたが……。」

「素敵な関係だったんですね。彼女はバーで、いつも最初にキティを飲んでいました。ルイさんにとっての1番は、キティ、あなただった。」

メイヤーさんは納得いかないような顔をしている。

「猫は死を察すると、どこかに隠れて、誰にも迷惑をかけずにひっそりと亡くなる。ルイさんにもそんな美学があったのかも知れません。」

ルイさんが、綺麗な髪をシャム猫のしっぽみたいに揺らして遠のいていく姿が見えた気がして、よく分からないことを言ってしまった。

「あ、なんか、申し訳ありません。猫と一緒にして。」

「いや、いいんですよ。私は頼りない子猫で、世話にはなれなかったのですかね。」


「メイヤーさん。これだけは確かです。あなたは、愛する人と音楽を捨て、悲しみに暮れていたルイさんを幸せにした。」



俺はルイさんのベースをメイヤーさんに渡した。

「ベースですか……私には音楽はさっぱり。」

ケースを開け、メイヤーさんはしばしベースに見とれた。

「ルイのように美しい楽器だな。」

ベースを膝に寝かせたまま、弦を弾く。

「美しいままで死にたい……か。」

ベースの弦を弾きながら、メイヤーさんは自分を納得させようとしているのか、何度も小さく頷いていた。


「彼女のわがままなら、私は許してあげることしかできませんね。それほど、愛していましたから。惚れた弱味です。」

メイヤーさんは泣いていないのに、俺の方が泣けてきた。




外に出ると、むせかえる熱波。
昼下がりの街を、じりじりと照らす太陽。

暑さで人の居ない住宅街に、俺だけが立っていた。誰もいなくなった世界に迷い込んだ錯覚。

急に、チャンミンが恋しくなった。

チャンミンは暑さに弱い。
大学からバイトに行くまでに、溶けて消えてしまわないだろうか。




大学の正門を出てきたチャンミンとカイくんに声をかけた。

「どうしたのユノ!?」

チャンミンが走ってくる。
良かった、消えてない。

「通りかかったから、バイト先まで送ってやるよ。」

「やった!暑いから10メートル歩くのも嫌だったんだ。」

知ってるよ。
お前のそういうとこなら、何でも分かるよ。

「カイくんもどうぞ。乗って。」

カイくんはニヤっと笑い、
「ご心配なく。俺はそんなに鈍感じゃないんで。」
と去っていった。

そこはかとなく恐ろしい奴だ。


冷房の効いた車に乗り込み、メイヤーさんに報告に行った話をした。

「メイヤーさんが、新しい幸せを見つけてくれるといいね。心穏やかに、ルイさんのことを思い出せる日が来るといいな……。」

「ああ。」

チャンミンは、悲しい気持ちを振り払って、話題を変えてくれた。

「今日の夕食は一緒に食べられる?何がいい?僕作るよ。」

「チャンミンの作るものなら何でもいいよ。」

「もー。そういう返答が1番困るんだよ!」

夫婦みたいな会話に胸が痛む。


ルイさんの調査が俺に残したのは、チャンミンへの恋。ずっと俺の中にあった想い。

気づいて良かったのか、悪かったのか。

でもこれが真実なのだから、甘んじて受け入れよう。

シウォンとのことも。許せないけど、許さないと。メイヤーさんの深い愛のように。



横を見ると、チャンミンがモジモジしている。

「どうした。トイレか?」

「なっ。違うよ!あのさ……あの、シウォンさんのことなんだけど。」

いきなりの本題に焦る。
俺の心の準備がまだできていない。

同棲するから家を出るとか?
結婚したいから親を説得して欲しいとか?

いや待て、それはさすがに駄目だ!
まだ若いんだから早まるなチャンミン!


「なんか、勘違いされたらやだから言っておくけど……」

「な、なんだ。」

「あの、ほっぺにチューしたのは、単なる挨拶だから。別に、何の意味もないから!酔ってて覚えてないし!食事に行ったのも、ユノのせいだからね!ユノを警察に迎えに行く時に、高級フレンチに釣られてつい食事に行くって約束しちゃって!この前会ったのだって…えっと、とにかく、全部、ユノのせいだからね!」


チャンミンは早口でまくし立て、車を降りるとカフェに走って行った。



車内まで届く蝉の大合唱が、俺を小バカにするようにうるさい。

勝手にバカにしてろ。

何しろ俺は今、最高に機嫌がいい。

俺は、セレナシティ中に届けとばかりに叫んだ。

「よっしゃーーーーー!シウォンざまあみろ!!!!!」




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次回でこちらのお話は一旦最終話となります。
本日20時更新です。

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その探偵、恋は専門外につき 41

その探偵、恋は専門外につき
-ミモザの音色-
41



メイヤーさんへの報告書はまとめたものの、どうしたものか悩んでいた。

深く傷ついているところに、奥さんの恋の話をされて更に深く抉るなんて、今はとてもできない。

ケイから連絡が入ったのは、そんな時だった。


指定されたのはドンへのバー。
チャンミンを連れて入ると、そこにはキルスがいた。

「突然ケイに呼び出されてね。」

「俺たちもです。」

ケイとの約束の時間にはまだ少しあった。

先にオーダーしようか躊躇していると、ドンヘがキティを運んできた。

「あの女性が、いつも最初に頼まれていたので。」

「キティか。ルイは猫が大好きだからな。」
キルスは笑った。

「あいつ、捨て猫がいると必ず拾ってきて、大学で引き取り手を探してた。」

「ユノもそんなことしてたね。」
チャンミンも笑う。

キティ。子猫ちゃん。

「あいつ言ってたよ。旦那さん、かわいいんだって。仕事をしている時はクールで笑顔も見せないのに、家では甘えん坊なんだとさ。」

まさか、あのメイヤーさんが?
想像がつかない。

「最初は自信満々にアプローチしてきてたのに、最後は捨て猫みたいな目で懇願されたんだって。結婚。その時飲んでたのがキティで、運命感じちゃって、子猫を引き取ることにしたって。」

メイヤーさん。あなたは愛されていたんだ。


「そんな幸せな結婚だったのに……なんで死んじゃったの?」
チャンミンは持ってきたベースに語りかけた。

「俺もずっと考えていたよ。でも分からない。」
キルスはキティをぐっと口に含んだ。



ケイは、静かにバーに入ってきた。

4人でテーブル席に座る。

ドンヘがベース用に椅子を持ってきてくれたが、チャンミンは自分が持っているから大丈夫だと拒んだ。

「突然呼び出してすまない……。探偵さんからルイのことを聞いてから、自分のことを振り返って……。決めたことがある。」

ぽつぽつと語るケイに、全員が集中する。



「俺は、FUELを抜けるよ。」

キルスが、吸っていた煙草を置いた。
全員、呼吸を忘れた。

ケイは強い口調で話す。

「最初から、FUELには俺は必要なかった。キルス、お前のギターに並べるようにと懸命にやってきたけど、お前はすごい。とても追い付けない。俺は、ルイみたいには弾けない。」

「ばかなことを……」

キルスは言葉を繋げずにいる。

チャンミンは目の前で起こっている、憧れの人達の見たくない姿にショックを受けたのだろう。
目を逸らして壁を見ている。


「ずっと辛かった。ルイとお前が俺には何も言ってくれなかったこと。今回も、結局俺は蚊帳の外だ。今まで俺の居場所を作っていてくれてたことには感謝してる。でももう、疲れたよ。」

「俺の音楽には、お前のベースが必要だ。お前のためじゃない!俺は自分のために今のFUELを守ってきた。お前のベースはルイとは違う!」

「俺より技術のあるベーシストはごまんといる。お前の音楽は大丈夫だ。」


ドンヘが氷を削る音だけがしていた。


何を言っても、もうケイは決めてる。
無駄じゃないのか。
昨日の今日で決断したことじゃない。
もっと、ずっと長い間、悩んだんだろうと思った。



「ルイさんが泣いてる。」

突然、チャンミンが呟いた。
ベースを見つめ、「ごめんね。」と語りかける。


そしてゆっくりと立ち上がり、俺たちを見下ろして言い放った。


「お2人は、アホですか?」


可愛い顔から飛び出した毒舌に、俺たちはポカンとした。

「キルス。

そんなにケイのベースが大切なら、何故もっと伝えてあげないんです。信頼しあえない仲間と、どうやっていい音楽を作るんです?

ルイさんのことだって、あなたがケイに伝えていたら、こんな結果にはなっていなかったかも。

口下手も大概にしてください。それでも大人ですか!?」


「ケイ。

ファンなら誰だって分かってます。あなたのベースがキルスのギターと曲にどれだけマッチしているか。FUELの音楽は、ジャジーで大人だからかっこいい。
それを支えているのはあなたのベースでしょう。

プロのくせに、そんなことも分からないんですか?情けない!」


無表情で言い放った後、俺と目が合うと、チャンミンの顔はみるみる赤くなった。

「あ、僕……あの。すみませんっ」

ストンと椅子に戻ったチャンミンは、両手で顔を覆って丸くなった。


「ふっ……ほんとにな……あはは」

「ふ…ふははは……」

キルスは笑った。
ケイもつられて笑い出す。
2人は、笑いながら泣いていた。

「ルイ……」

「ルイが戻ってきたかと思った。」


俺の横で小さくなるチャンミン。
可愛くて仕方なくて、俺はチャンミンの頭を撫でた。


店内に流れるジャズ。
「あ、Return to Paradise」
「ユノ、分かるの?」
「チャンミン、好きだろ?」


「ルイが好きだった曲だ。」

ケイは泣きながらグラスを空けた。

「ルイは幸せだったのかも。幸せの中で、Paradiceに行ってしまった。」

キルスは煙草の煙で、自分の涙を隠した。


「ありがとうな。ルイ。」

ケイはベースとチャンミンを交互に見つめて言った。




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その探偵、恋は専門外につき 40

その探偵、恋は専門外につき
-ミモザの音色-
40



全身びしょ濡れになったユノに呆れた。

僕が長年抱えていた疑問を、勇気を振り絞って尋ねたのに、ユノは答えてくれなかった。

海に大の字になって、ばか笑いしていた。


「これ着てください!」

上半身裸のままで運転すると言うユノに、コンビニでタンクトップを買って着させる。

悩殺兵器を晒して隣で運転されたら、僕の精神が破綻してしまう。

本当はこの筋肉に覆われた太く男らしい二の腕も隠しておきたいけど、Tシャツは売っていなかったので諦めた。

ジーンズまで脱ぎそうになるから、タオルを数枚座席に敷き、そのまま座れと指示。

「気持ち悪いからいいじゃん。パンツ1枚で。」

「変態の隣に乗るのは嫌です。そもそも、自分が悪いんでしょ!」

「はい……」


ユノは、とても楽しそうだった。
僕も久しぶりにいっぱい笑った。

こんな風に、ずっと一緒にいられたら。
死ぬまで、ずっと。



アパートに帰ってシャワーを浴びたユノは、メイヤーさんに報告するための資料を作ると言って事務所に籠った。

ユノを支えたい。
報告書を作るのなら、僕の方がPC作業に慣れてる。
今回の調査だけじゃなく、いつもパートナーでいたい。


僕にはこれと言って、なりたい職業がない。

大学選びの優先事項がユノのそばに居られるかどうかだったくらいだから、卒業後の進路など考えていなかった。

シウォンさんみたいに刑事になれば、捜査の知識で助けになれるだろうか。
でもそれだと、そばに居られる時間が減ってしまう。

シウォンさんに相談してみようかな。


明日からしばらく、大学もバイトも忙しくて時間がない。
ユノのそばに居るためとなると、僕は行動力が倍増する。

シウォンさんに電話すると、今日は暇だからと、すぐ迎えに来てくれることになった。


事務所に居るユノに声をかける。

「ユノ。ちょっとシウォンさんと出掛けてくる。」

ユノはめずらしく眼鏡をかけてPCに向かっていた。かっこいい。

「……分かった。」

仕事に集中しているのか、僕にちらとも視線を向けず、返事する。
なんだかくやしくて、会話を続ける。

「夕飯は外で食べるかも。」

僕を見るどころか、ユノは少し視線を下げた。

「……分かった。」

僕は意地になってきた。

「昨日の残りがあるから、食べちゃってね。あ、明日のトーストがもう無いかも。僕、帰りに買ってくるね。」

「……分かった。」

ユノがPCを叩く音。
僕、邪魔なのかな。


沈黙を破ったのはシウォンさんのばかデカイ声だった。

「チャンミナー!!!迎えに来たよー!」

ユノは顔をあげた。

いつもなら罵りあいが始まるところだが、2人は声もなく睨み合った。

それからユノはPCに視線を戻し、
「行ってらっしゃい。」
とだけ言った。


何なんだろ。
シウォンさんと喧嘩でもしたのかな。


ユノの様子が気になって離れがたい。
でもユノとのこれからのためだ。

シウォンさんが連れていってくれた高級ホテルのカフェで、刑事の仕事について根掘り葉掘り質問する。

「チャンミナ。話って、仕事のことが知りたかったの?」

「うん。ごめんなさい。わざわざ来て貰っちゃって。お願いした僕が行くべきですよね。」

「てっきり、今日はホテルに行けるのかと思ったけど。」

「ごふっ」

僕はアイスティーと一緒にシウォンさんが頼んでくれたサンドウィッチに大口で食らいついたところで、盛大にむせた。

「そんなに頬を赤らめてるから、期待しちゃうだろ。」

「あ、これは昼間にユノと海に行って、日焼けしちゃって。」

両手で頬を押さえる僕を見つめ、シウォンさんは深いため息をついた。

「あいつ、ほんとに手強いな……」


僕は、残りのサンドウィッチに手を伸ばして、ムシャムシャと咀嚼した。

「全く。チャンミナの豪快な食べっぷりと、酔った時の甘えた姿のギャップが堪らないね。俺は、チャンミナからの熱いチューが忘れられないよ。」

「はい?」

「ユノの前であんなに大胆になるなんて。あのまま拐ってしまえば良かったな。俺からのお返しのキスをまだしてなかったね。」

シウォンさんが椅子を倒さんばかりにして僕に身を寄せてくる。

「ちょっ。シウォンさん、さっきから何の話を……」

「俺からのお返しは、頬じゃなく唇に。」

近づいてくるシウォンさんの濃ゆい顔。

僕はサンドウィッチ片手に立ち上がった。

「きょ、今日はありがとうございました!で、ではでは!またいずれ!」

変な敬礼をした僕を、店員さんが笑っている。




僕は片手にサンドウィッチを持ったまま、カイの家に走った。

「カイ!大変だ!」

「なんだよ突然。」

「カイのせいだからな!カイが彼氏ができたフリしろとか言うから、変なことになっちゃったじゃないか!」

面白そうな空気を読み取ったのか、カイは僕を座らせ、キラキラの目で続きを待った。

「僕、ユノの目の前でシウォンさんにキスしたみたい。キスと言っても、ほっぺにだけど。」

「チャンミン!すごいじゃないか!期待以上の活躍だ!」

僕はカイをじっとりと見た。

「何か楽しそうだね。」

「馬鹿なこと言うな。親友の恋路のために俺の頭脳を使ってやってるんだ。で、ユノさんの反応は?」

ユノの反応?
今日は海で楽しそうにしていたけど。
その後はそっけなかった。

「さあ。よく分かんない。」

「お前なあ。ユノさんも相当な恋愛音痴だけど、お前も同類だ!ちゃんと観察してレポート10枚にまとめてこい!」


カイに散々怒られ、僕は食パンを買ってとぼとぼと家に帰った。




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その探偵、恋は専門外につき 39

その探偵、恋は専門外につき
-ミモザの音色-
39



「ルイさんの調査をしていて、気になっていることがあります。彼女はいつもバーで最後にミモザを頼んでいました。お2人の過去と何か関係が?」

「いつも、ですか?」

俺が頷くと、ケイは顔を歪めた。

「ルイは黄色い花が好きで。誕生日にミモザの花束を渡したことが。ドライフラワーにして、ずっと飾っていました。彼女が姿を消したとき、このベースと、ドライフラワーが無くなっていた。」


「ルイさんは、あなたをずっと愛していたんでしょうね……」


「だったら、会いに来てくれれば良かった。自殺するなんて。俺は、また取り残された。最後までルイのことが分からないままだ。」


愛していても、相手の気持ちなんて分からない。
俺の今を代弁するかのような言葉だった。


チャンミンはずっと黙っていた。
チャンミンが今何を考えているのか、俺には皆目見当がつかない。



そろそろ奥さんが戻る時間となり、ケイを自宅まで送った。

幸せな家庭に彼を帰す。

ルイさんもそんな気持ちだったんだろうか。


ケイにベースを託そうとしたが、彼は受け取らなかった。
結局、チャンミンが抱えたままのベース。

俯いているチャンミンを元気にさせてやりたい。チャンミンには笑顔でいて欲しい。


「チャンミン。警察署に送ろうか?シウォンのとこ。」


チャンミンは、俺の顔を見て、首をかしげた。

か、可愛い。


「は?なんで?」


短く吐き捨てられた。

か、可愛くない返事。

「あ、いや、別に。いいけど。」

チャンミンは怪訝な顔をしている。
俺にバレてはいけないと思っているんだろう。


2人の時間が持てるなら、今は満喫したい。

「少しドライブでもするか?このところ暗い気持ちになってばかりだし、海でも見て気晴らし。どう?」


チャンミンは抱えていたベースを後部座席に置いた。
そして、野の花が咲くように控えめにはにかんで、「うん!」と返事した。



シティから車で1時間。

白い砂丘が広がるビーチ。

波が荒いせいか、今日は人がまばらだ。

ビーチ沿いのコンビニでサンダルを買って、砂丘を歩く。

チャンミンは、早く海が見たいと駆け出した。

砂に足を取られて転びそうになるから、その手を掴む。
じゃれ合う恋人みたいに、2人で走った。


「ねえユノ、いつも夏休みは海水浴に行ったよね。ユノを砂に埋めて遊んでたら、凄い波が来てさ。」

「あれは焦った!」

「ユノの顔まで砂に埋まっちゃって。サンダルは流れて行っちゃうし!」

「チャンミンが泣きながら砂かき分けてくれたよな。」

「だって、ユノが死んじゃうと思って!」

「あれは覚えてるか?チャンミンが潮に流されて、戻れなくなった時。」

「あれね。どんなに泳いでもダメで。僕が必死なのに、お父さんもお母さんも笑顔で見てて。」

「助けに行っただろ。」

「ユノだけが気づいたんだよね。僕が必死だったの。」

「だって、泣きそうな顔してた。」

「ユノ、すごい勢いでクロールして来たもんね。」

「あはは。あの時も焦った。チャンミンにしがみつかれて、俺も泳げなくなって。」

「ふふ。ユノ、ヒーローみたいだった。」


波打ち際で足をパシャパシャさせるチャンミン。

俺も海に膝下まで浸ける。

冷たい海水が心地いい。



チャンミンは地平線のかなたを見ていた。

「ずっと守るって、約束したよね。」

「ん?」

「お母さんに言ったの。僕のこと、ずーっと守るって。」

「ああ……」

「なのに、なんで1人で行っちゃったの。探偵になるって飛び出してさ……」


あれは、何故だったか。

そう言えば、あの頃、チャンミンの家に入り浸って、シャーロック・ホームズを読み漁っていた。お陰で探偵に憧れるようになったんだけど。


あ……。
思い出した。
母の言葉がきっかけだった。

「ちょっとユノ!今日駅前でチャンミンくん見ちゃった!すっごい可愛い女の子と歩いてたの。あれ、絶体彼女よー。」

「彼女?そんな話聞いてないけど。」

「美男美女ってああいうことねー。もぅ、すっごくお似合いだったわよー。」


俺はそれを確かめにチャンミンの様子を探りに行ってたんだ。
シャーロック・ホームズにはまったフリをして。

俺の知らないところで彼女作ったのに腹をたてた。

結局、女の子は同じ美化委員の子で、先生に遅くまで掃除の手伝いさせられて一緒に帰っただけだったという、どうでもいい落ちだったから忘れていた。


何故俺は腹をたてる必要があったんだ?

弟に可愛い彼女ができたら喜べばいいものを。



俺は、あの頃チャンミンのこと……。

あの頃から、チャンミンのこと……。


「なんてこった。」


俺はとんでもない馬鹿だ!アホだ!間抜けだ!ぼんくら!うすらとんかち!


「ちょっ。何してんのユノ!」

派手な水音とともに、俺は海にダイブして寝転んだ。

波が全身を濡らす。

仰向けに見える空。

呆れ顔で覗きこむチャンミン。





ずっと好きだった。


誰にも渡したくないと思っていた。


それが恋だと気付けずに。


チャンミンが大人になっていくのが怖くて、離れたんだ。


昔から、俺はチャンミンが好きだった。




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プロフィール

コールドブリュー

Author:コールドブリュー
東方神起 ユノとチャンミンが大好き。
脳内妄想をこっそり綴っています。
ホミンのみ。

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