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アネモネの献身 32

その探偵、恋は専門外につき
-アネモネの献身-
32 (最終話)



ユノに返事をする。すなわちそれは、僕も告白すると言うことだ。

「ど、どうしよう。」

今更緊張で震える。

「チャンミン。素直に気持ちを伝えればいいのよ。ユノくんも好きって言ってくれたんだから、チャンミンも勇気出して。」

「な、何着て行けばいい?」

「もう、バカね。あったかい格好していけばいいだけよ。」

お母さん……。
僕は自信がないんです。
20年も言えなかった気持ちを、どう言葉にしたって表現できる自信がない。

言葉では足りない。
この想いには歴史がありすぎる。
全て伝えようと思ったら、20年はかかる。

僕は心を落ち着かせるため、ひたすら家を掃除して過ごした。でも、どんなに家が綺麗に整頓されても、僕の想いを整理することなんてできなかった。


12月31日。
僕を迎えに来たユノは、プレゼントしたレザージャケットを着ていた。

僕はその日、お揃いのジャケットじゃなく、グレーのコートを着た。ユノが昔プレゼントしてくれた、真っ白なマフラーに合わせて服を選んだ。

ユノは僕のマフラーを見て、にっこり笑った。

昔は30分歩いて出掛けた遊園地。
今は車で5分。
もう僕らは大人なんだ。

ユノは遊園地で僕を観覧車に乗せ、ディアス湖の向こう岸を指差した。

「クリスマスローズの自生地は、チャンミンが思っていたより左にあるんだ。」

ユノは広げた地図を、観覧車から鳥瞰する景色と照らし合わせる。

「ほら。入る道が最初から違ったんだよ。」

「ユノ。連れてってくれるって、クリスマスローズを見に?」

「そ。いつか見に行こうって、約束しただろ。」

ユノは僕の手を引いて、湖から少し南に逸れた遊歩道を歩いた。

ユノはあの時のデートをやり直してくれている。

あの時は道に迷って、たどり着けなかった。
今日までずっと、たどり着けないままだった。

ユノはほとんど喋らなかった。
それが僕には心地よかった。
ユノとの思い出を頭の中で反芻できた。

40分ほど歩くと、森が開けた場所に出た。
奥の斜面に、こんもりと丸く白い塊が見える。

「あ、あれ!」

駆け出した僕は、白い花を咲かせるクリスマスローズの株を前にしゃがんだ。

「やっと見れた……。」

「綺麗だな。」

緑がかった白い花は、黄色い中心を恥ずかしそうに俯かせている。

ユノは大きく息を吸って、僅かに震える声で言った。

「チャンミン。もう1度、言わせて……。」

地面にしゃがんでいる僕の頬に、ユノは腰を屈めて手を添えた。

「好きなんだ。これからも、ずっと俺のそばにいて欲しい。」

いるよ。
ずっと隣にいる。

だって、僕の方がもうずっとずっと、ユノを好きなんだ。

僕は地面にへたりこんでユノを見上げ、言葉を紡ごうとした。でも出てくるのは、涙ばっかり。

ユノは肩にかけたバッグから、小さな箱を取り出した。箱を手にしたユノは、お辞儀したクリスマスローズの花と同じ姿勢をしていた。

「これ、身につけてくれないか。自動巻きの時計。身につけている限り、時を刻み続ける。」

箱を開けた僕は、美しいシルバーの時計を手にとった。

「……すごく高かったでしょ……。」

「一生ものだから。」

「ユノ。つけて。」

ユノは一瞬びくっとして、それから目に涙をいっぱい溜め、僕に未来を巻き付けた。

手首に巻かれた金属の冷たさと同じくらい冷えたユノの指の感触が気持ち良かった。

立ち上がることができなくて、僕はユノの手を引っ張った。

地面に膝をついたユノが、時計をした僕の手を握り返す。

「ユノ。うまく言えそうにない。だって僕は、生まれた時から、ユノをずっと好きだったから。」

ユノは溢れんばかりに目を見開いた。
震える指で、僕の指を痛いくらい握り締めた。

「とても伝えられないよ。僕の人生に、ユノが居ない日はないから。初恋はユノ。初めての失恋はユノ。また好きになるのもユノ。」

ユノは驚いたみたいだ。
何度か瞬きした。

「ほんとに?チャンミンは俺のこと……。」

僕はユノの言葉が終わらないうちに答えた。

「ずっと好きだった!」

後は、もう、言葉が溢れた。

「ときめきも、ドキドキも、憧れも、悔しさも、じれったさも、嫉妬も、全部!僕の感情は、全部ユノに貰ったんだよ!」

「チャンミン!」

ユノは僕を抱きしめて頬ずりした。

「まただよ。」

僕はユノの顔を正面から見つめた。

「今のこの気持ち。なんて言うの?幸せなのに、心臓が潰れそう。痛くて、泣けちゃう。」

「それはきっと、愛しさ、だろ。」

「じゃあ、僕はユノが……愛しい。」

僕はユノにキスした。
ユノは僕のキスを受け止めて、目を閉じた。

長い長いキスになった。
ユノの下唇が僕の上唇を掬い上げると、身体の芯が熱くなった。

「おかしくなりそう。」

「なっちゃえよ。」

「ん……」

唇が離れそうになるとお互いに吸い寄せられて、息が苦しくなったら呼吸して、でもまたすぐ重ねた。
たまにユノが僕をかき抱いて揺すり、見つめ合って、またキスした。

クリスマスローズは恥ずかしがって、ずっと俯いていてくれた。

寒さは感じなかった。
ユノの胸も腕も唇もあたたかくて、とろけそうだった。

あまりに長くキスし続けた後、目があった僕らは、泣き笑い合った。

「今、何時?」

僕の時計を覗いたユノは、僕を抱き起こした。

「また道に迷うといけないから、暗くなる前に戻ろうか。」

「うん。」

僕らは手を繋いで遊園地に戻った。
途中、何度もキスして遊園地にはなかなか辿り着かなかった。

「チャンミン。クリスマスローズって毒があるって知ってる?」

「知ってるよ。人が死ぬくらい毒性がある。」

「俺にとってのチャンミンだな。」

「なにそれ。」

「チャンミンが居ないと生きていけないから。離れるなよ。もう中毒なんだ。家出は禁止。」

「ふふ。ユノが怒らせなければね。」

「それが分からないから怖いんだよなぁ……。俺チャンミンのこととなると鈍感だから。」

「確かに。スニのこと気づいてくれなかった時は相当凹んだ。」

ユノは急ににやにやし出した。

「最後のデートの夜さ、チャンミン俺に酔ったふりしてキスした?」

「なっ!」

「我慢できなくなっちゃって?」

「そそそ、そういうとこですよ!人を怒らせるデリカシーのない発言!!!」

ぷりぷり歩く僕をユノが追いかけて捕まえる。

「ごめんって!嬉しいな~。早く家に帰りたくなってきた。ベッドでキスしたいな。」

「は!!?そんな破廉恥な!」

「なんだよ。いいだろ。恋人なんだし。」

「こっ、恋人!」

「そうだよ。」

「恋人……。」

「一生、そばに居て。」

僕はまた泣き出してしまった。
ユノはそんな僕を優しく包んでくれる。


もう暗くなった遊園地で苺サンドクッキーを食べて、夜中まで一緒に居た。
キラキラ輝く観覧車やメリーゴーラウンドが、おとぎ話の世界を作り出していた。

遊園地を埋める人達の顔はみんな幸せそうで、新しい年の幕開けにワクワクしている。

「もうすぐ新年の花火が上がるな。」

「ユノは彼女とばっかり行ってたよね。」

「俺だって昔からチャンミンが好きだったんだ。でも、男を好きになるなんて常識になくて……。あれだな。親父の教育が悪かった。男らしくってうるさかったからさ。」

「お父さんのせいにするなんて……。」

「気づくのが遅くなってごめん。もっと早く気づいたら、制服のチャンミンといっぱいイチャイチャしたのになぁ。」

「……破廉恥……。」

満面の笑顔を僕に向けるユノの頬を、まばゆい光が照らした。

「チャンミン……ずっと好きだよ。」

ユノは花火に目もくれずに僕を見る。
色とりどりの光と轟音と歓声の中、僕らはキスした。

世界に2人きりになったみたいに、僕にはユノしか見えなかった。



「逮捕する。」

2人の世界に突然入ってきた声に、ユノが振り返った。

ユノの背後に立つ、がたいのいい男性。

「お、親父!!」

「公衆の面前で同性との破廉恥行為。お前をこんな男に育てた覚えはない!」

ユノのお父さんは、手錠を握りしめてワナワナ震えていた。

「しかもシム家の大切な長男をたぶらかすとは!!ご両親に顔向けできん!」

「ち、違いますお父さん!僕の方が!」

「たっ、逮捕監禁するー!!!」

ユノは僕の手を握った。
そして、猛烈な勢いで走り出した。

探偵は逃げ足が早い。

「帰ろうチャンミン!!」

ユノは大笑いしながら僕を車に乗せ、取るものも取りあえずセレナシティに向かった。

「あははー!あの親父の顔。やばかったな。ほらな!俺がチャンミンへの想いに気づくのが遅れたのはやっぱり親父のせいだ。」

「お父さん放置して大丈夫なの!?」

「気にするな。俺は何があったってチャンミンを離さない。」

「もう……。」

ユノの横顔はすごく楽しそう。
僕も楽しくなって笑った。

この後僕らは、食らいついたら離さないブルドッグとして全国に名を馳せる、熱血堅物刑事の執拗な追及を受けることになるが、それはまた別の話。


「チャンミン。その時計、毎日つけてくれる?」

「うん。」

「じゃ、俺もこのジャケットを探偵の制服にする。ホームズの帽子みたいな。」

「ユノ探偵のトレードマークだね。」

「チャンミンは俺のワトソンだな。」

「ふふ。」

「これからもよろしく、ワトソン。」

「こちらこそ。よろしく、ホームズ。」


僕とユノの探偵物語は、まだ始まったばかり。
きっとたくさんのドタバタが待っている。

でもこれだけは変わらないよ。

僕は、ユノのパートナー。
生まれた時から、相棒。

そして、一生の恋人。

ぐふっ……。







その探偵、恋は専門外につき
-アネモネの献身-
(完)


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アネモネの献身 31

その探偵、恋は専門外につき
-アネモネの献身-
31



息ができなかった。

ユノの言葉を理解することに集中して、呼吸を忘れた。

「いや、タイプとかそういうことじゃないな。」

ユノは僕に視線を向けたまま、椅子から立ち上がった。

僕の血液は全部顔に集まってしまったんじゃないかと思う。シウォンさんが持ってきたバラより、今、僕の顔は真っ赤だ。

肺も心臓も酸素が枯渇した状態で、僕は目だけでユノの姿を追った。

テーブルをぐるりと回って僕の真横に立ったユノは、おもむろにひざまずいて僕の手をとった。
指を撫でて、ゆるく包む。

それから僕を見上げ、王子様みたいに高貴に微笑んだ。

「俺は、チャンミンが好きです。」

「う………」

何が起きたか分からなかった。

ユノの理想のタイプを詰問していたはずだったのに、ユノは僕に、好きだと言う。

展開についていけない。
僕の返事はとても間抜けだった。

「あ……」

「ずっと前から。」

「へ……」

「俺はチャンミンがずっと大好きだった。」

「はぅっ……」

「チャンミン。驚かせてごめん。でももう、兄のふりなんてできない。」

天使が頭上で笑いながらくるくる踊っている。
ユノの背中に白い羽が生えて、ふぁさっと広がった。舞い散る羽と共に天使の笑い声が聞こえた。

「天国……。」

「え?」

視界が真っ白になって、僕の魂は天に召された。

身体の上下が分からなくなり、後方に仰け反ったまま、僕は椅子ごとぶっ倒れてしまった。

「わーーー!!!チャンミンしっかりしろ!!!」

何か聞いたことある台詞だな。

頭が痛い。
鼻血も出そう。
でも……なんて幸せ……。

あれ、床に雲が広がってる。
ユノの背中の羽が僕を包み込んでくれる。

「天使様……。」




チャンミンがおかしくなってしまった。
頭の打ち所が悪かったのだろうか。

「あはー」とか「うはー」とか言ってふらついている。

「明日、帰るの無理かな。日程ずらそうか。」

「大丈夫だよん。」

なんてことだ。
天下のフロリアン大学に通う聡明なチャンミンが、完全にアホの子みたいじゃないか。

おでこは大して熱くないが、頬は真っ赤だし、瞳も潤んでいる。

「頭痛い?熱は?」

「ぜーんぜん。」

「いやでも、ふらふらしてるし、横になった方がいい。」

「雲がふわふわでうまく歩けないだけ。」

「…………。」

ベッドに寝かせて俺が離れようとすると、チャンミンは腕を掴んだ。

「ん?」

「天使の羽を枕にしてみたい♪添い寝して。」

「っ!なに!?」

告った男に添い寝しろだと!?
襲うぞ!!

いや。落ち着けユノ。
自分でも予測していなかった急な告白だ。
チャンミンには衝撃が大き過ぎたのだろう。

天使の羽?
天使のはねと言えば……ランドセル?
はっ。
小学生時代に戻ってしまったのか!

この甘え方は、幼少期のチャンミンそのもの。
ショックで昔に逃避してしまったのかもしれない。

20年も家族同然だった男に告白されたんだ。彼にも時間を与えないと。

「シャワー浴びてくるから、待ってて。」

「はーい。」

これは……幼児返りってやつか。

小学生を襲うわけにいかないので、きついシャワーで身体を打って平常心を保つ。

「ランドセル背負ってる頃のチャンミンだと思え……ユノ……。」

俺がシャワーから出ると、チャンミンもシャワーを浴びると言う。

「おい、ほんとに大丈夫か?」

「大丈夫、大丈夫!」

心配でシャワールームのガラス越しにシルエットを確認したが、チャンミンは意外にも普通にシャワーを浴びている。鼻唄など歌って上機嫌。

息子がシルエットに興奮しだしたので、俺は悶々とベッドで待った。

シャワー上がりのチャンミンは天使のようにあどけなく、俺の腕に甘えすり寄った。

チャンミンは眠るまでずっとご機嫌で「ふわふわする」なんて喜んでいた。

拷問の一夜だった。

キスしたい衝動をぐっと抑え込んでチャンミンの寝顔を見つめ、生まれた日から今日までを走馬灯の如く振り返った。

一睡もできなかった。


困ったことに、朝になってもチャンミンのふわふわ感は抜けなかった。

「チャンミン、ほんとに頭は痛くないんだな?」

「うん!ユノは心配し過ぎだよ。あは。」

「昨日のことは……」

「あ、折角の晩ご飯食べ損ねちゃったね。タッパーに詰めて持って帰ろ!」

告白の返事は貰えそうにない。

こんな状態のチャンミンを駅まで歩かせたら、風船みたいにどこか飛んでいってしまいそうだ。急遽ディアスシティへの移動手段を車に変更した。

「ユノ、昨日のチキンとサラダをサンドウィッチにしたから食べる?」

しっかりしてるのか、おかしいのか判然としないチャンミン。

「コーヒーも入れて来たよ!」

「あ、ありがと。」

2時間走って、休憩に立ち寄った山脈沿いのパーキングで、後部座席からコートを引っ張り出す俺を見たチャンミンは、バックドアを開けて大きな紙袋を取り出した。

「これ、着て欲しいな。遅くなっちゃったけど、クリスマスプレゼントだよ。」

紙袋の中には、前にチャンミンが俺に似合うと言った黒いレザーのライダースジャケットが入っていた。

「高かったのに……。」

「えへへ。だって似合ってたから。」

俺が袖を通すと、満面の笑顔。

チャンミンはもう1つの紙袋から、俺のジャケットと同じ素材の、少し細身なジャケットを取り出して当然のように羽織った。
カーウィンドウに映る俺の横で、満足げに頷いている。

これは……。
ペアルックじゃないか!

チャンミンがこれを買ったのは、俺が告白する前だ。昨夜帰って来た時に持っていた紙袋。

幼児返りする前に、お揃いのジャケットを買っていたのか!?

萌える!
萌え滾る!!

新品のジャケットは硬くて運転しずらかったが、脱ぐのが嫌でそのまま運転した。

ずっとにこにこしていたチャンミンは、ディアスシティが近づくと口を尖らせ出した。

「実家に帰ったら離れ離れだね。」

俺と離れたくないと?
大いなる勘違いをしそうだ。

でも駄目だぞユノ。
チャンミンは今、混乱しているんだ。
家族のもとに返して落ち着かせた方がいい。

「久しぶりだし親孝行しないと。」

「うーん。」

「31日は遊園地に行きたいんだけど、付き合ってくれる?」

「あ、小さい頃行ったよね。僕、熱出しちゃって……。」

「覚えてた?」

「忘れるわけないよ。」

「お昼に迎えに来るよ。」

俺はチャンミンが返事をくれるまで、大人らしく待つことにした。



ユノは僕を家に送り届けると、家族への挨拶もそこそこに行ってしまった。

寂しい。
ずっと一緒に居たいのに。

でも年末のデートの約束もしたし、ちょっと離れるくらい我慢しないとね。

ぐふ。
デートの日は懐かしい苺サンドクッキー作って行こうかな。

「お兄ちゃん、久しぶりに見たわ。そのにやにや顔。」

「妹よ、もうお兄ちゃんは以前までの兄ではない。」

「は?」

ユノに告白された話の一部始終を自慢した僕に、妹は顔面を強ばらせた。

「お母さん!大変よ!!お兄ちゃんがアホになった!!!」

キッチンに走った妹が母さんに捲し立てている。

「チャンミン!お赤飯炊かなきゃ!」

「お赤飯?何それ。」

「日本って国でおめでたい時に食べるものよ!」

「お母さん最近日本のアイドルにはまってるの……って!違う!違う!!!」

妹は母さんの肩を揺すぶった。

「お兄ちゃんたら、ユノに返事しないまま帰って来ちゃったのよ!!!」

「まあ……どうして……我が子ながら、なんてお間抜けさん……。」

「へ……。」

「今頃ユノくん悩んでるわね。可哀想に。」

そう。
僕はおたんこなす。
浮かれの余り、自分の気持ちを伝えていなかった。





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次回、case3最終回です。

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アネモネの献身 30

その探偵、恋は専門外につき
-アネモネの献身-
30



次の日、僕はバイト先のカフェに謝罪に行った。ユノは朝から用事があると留守にしていた。

カフェでは何故かカイとテミンがエプロンを身につけて働いていた。

「何故2人が!?」

「臨時バイトとして手伝ってくれたんだ。助かったよ。おかげでクリスマスを乗り切れた。」

店長がにこにこ顔で出てきた。

「店長、ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした。」

「いやいや。災難だったね。犯罪グループの検挙に役立ったんだって?鼻が高いよ。」

テミンはエプロンの紐を握りしめ、俯きがちに僕に近づいた。

「チャンミン。スニのこと、ごめんね。」

はっ。
そう言えば、スニのことをまだユノに謝ってない。今夜こそ謝らなければ!

「テミンさん、チャンミンのために何かしたいって、バイト手伝ってくれたんだよ。」

「テミンさん……カイも……ありがとう。」

嬉しくて涙ぐんだ僕に、テミンが抱きついた。
カイが羨ましそうにしている。

「てて、テミンさん!僕はもう大丈夫ですから。気にしないで。」

「じゃあ、ユノさんとラブラブに?」

「それが残念ながら……。」

「はあ!?スニちゃんにあんなにアプローチしてたくせに、ユノさんてチャンミンには弱腰過ぎる!チャンミンのことあんなに好」

「わー!!!!!」

カイがテミンの口を塞いだ。

「何すんの!」

「あい……アイスコーヒー運んで?」

「は?カイくんが運んで。」

「あ、はい。」

何だかこの2人、上下関係が……。

「もうさ、チャンミンが押し倒しちゃえば!?」

テミンの鼻息が荒い。モモちゃんとシンドンさんみたいな人がここにも居た。

「押し倒してやっちゃえばこっちのもんだって!」

「ひぃっ!テミンさん破廉恥な!」

オスの顔で笑ったテミンは、席を立ったお客様の会計に向かった。

「カイ、テミンさんと付き合ってるの?」

「いや、まだ猛烈アプローチ中。でも、時間の問題だな。今度デートしてくれることになった。」

羨ましい。
何故に僕とユノは勇み足なのか。
もう、ほんとに押し倒しちゃおうかな。

待てよ。やっぱり僕のこと弟にしか見えないのかも。mychangminて、弟にも言い得る。キスも昔からしてたわけだし。単なる親愛の証なのか。

頭がぐるぐるし始めた僕の肩をテミンがぽんと叩いた。

「冬休みはどうするの?」

「実家に帰ります。でも今日はこれからユノにクリスマスプレゼント買いに。遅くなっちゃったけど。」

「じゃあ渡すとき告白したら?」

「告白!」

「いいじゃない。ユノさんとチャンミンが幸せになってくれたら僕も嬉しい。」

テミン、いやテミンさんは、天使みたいに笑った。その笑顔を見つめるカイは幸せそう。

テミンさんとまた仲良くなれて嬉しかった。

僕は弾む心で足取り軽く買い物に出掛け、ユノへのプレゼントを携えて帰った。



シウォンから現金をせしめ、チャンミンへのプレゼントを買って俺は家に戻った。

『カフェに挨拶に行ってきます。』

テーブルの上に置き手紙。

俺が心配しないように、行き先を伝えてくれるのが嬉しい。

プレゼントはディアスシティで告白する時に渡そうと決めていた。それまでバレないようにとスーツケースの奥に潜ませていると、チャンミンが帰って来た。

「ただいま。」

「お、お帰り。」

玄関に立ったチャンミンは探るような目で俺を見た。

「ただいまのチューはいたしますか?」

な、何故に謙譲語。
後ずさりしかけたが、俺は男の中の男ユノ。
ここで怯むわけにはいかない。

「いたして欲しい。チューではなくキスの方で。」

「……で、では。」

チャンミンは俺の唇にチュッとキスした。

「ほえー。」

しまった。
変な声が出てしまった。

顔を真っ赤にしたチャンミンは、大量の買い物袋を掴み、ドカドカと部屋に入っていった。

俺が正気に戻ってリビングに行くと、エプロンをしたチャンミンがせっせと料理に励んでいた。

実にいい眺めだ。
次々と並べられる料理。

「なんか豪華だね。」

「今日はお詫びのため、ご馳走にしました。」

「お詫び?」

「あの……嘘ついてたから。」

「あぁ、ロジェさんのことならもう……。」

「そそ、そじゃなくて……スニの……。」

「す……に……」

俺は焦った。
告白を前にスニちゃんの話をされるのは非常にまずい。

アプローチしたのも、デートしたのも、キスをしたのも、チャンミンに似てたからなんてまだ言えない。俺のプランが狂ってしまう。

「チャンミン!スニちゃんのことは忘れよう!」

「へ?」

「夢だったんだよ、夢!」

チャンミンは眉をぐいっと上げて訝しむ。

「そうはいきません。ユノを騙して恋心を弄んだことを謝罪させてください。ごめんなさい!!」

「いや、俺も気づかないなんてどうかしてたんだ。もういいだろ。ご飯美味しそうだな!食べよう!」

食事を始めた俺を、フォークを縦に持ったままチャンミンがじっと見つめる。
食べにくくて仕方ない。隙を見せたらぶっ刺されそうだ。

「あ~美味しいなぁ。チャンミン……食べないの?」

「ユノの女性のタイプはあんな感じなのですか?」

チャンミンは謝罪なんて言ったくせに追求を始めた。

「そういうことでは……。」

「前から聞いてみたかったのですが、ユノの好みのタイプってどんな?」

「えーと……。頭が良くて、綺麗だけど可愛くて、仕事に理解があって、背が高くて、目はくりくりしてて、掃除ができて、料理がうまくて、あと、ちょっとかっこいい人。」

「ふむ。残念ですね。そんな人いません。」

ここに居ます!
目の前に!

「しかし、スニのどこが良かったのですか?全部当てはまるわけではないじゃないですか。」

チャンミンの追求の手は緩まない。
俺の頭はきりきり舞いして目が回ってきた。

「初めての気持ちとか恋とかなんとか言ってましたけど、一目惚れじゃタイプかどうかなんて分からないでしょう。結局、見た目?」

「見た目……は、タイプだった。」

「なるほど。鼻が高くて二重瞼。髪型は?」

「ショートでも、ロングでも、好きな人なら別に。」

「ストレート?パーマ?」

「いや、どちらでも可愛いんじゃないか?」

「なるほど。年齢は?年下?年上?」

「考えたことないよ!あんまり離れてると話が合わないかもしれない。」

「なるほど、なるほど。では服装は?」

この追求の終わりが見えない。
チャンミンは何を導き出そうとしているんだ。

俺の脳はほとんど機能を停止し、ただ唇が回答する。

「服装は何でもいい。ジーンズとTシャツで十分だろ!」

「そんな色気のない。ま、スカートかパンツかにはこだわらない、と。」

「ジーンズは好きだ。膝小僧がちらっと見えてるのは可愛い。」

俺の口が勝手に喋りだした。

チャンミンは自分のダメージ加工されたジーンズから覗く膝に目をやった。

「髪型は気にしないけど、襟足がくるんと丸くなってるのは堪らない。」

俺の口はもう止まりそうにない。

チャンミンが右手を自分の襟足にやった。

「耳は大きくて、小動物みたいに飛び出してるのがいい。すぐ赤くなったら最高だ。」

チャンミンの耳が赤くなった。

「口は大きくて、恥ずかしがるとすぐ内側に入れてムニムニ動かすからドキドキする。」

チャンミンは唇を噛んだ。

「でも見た目よりも、内面が大切だ。いつも心配して、仕事を手伝おうとしてくれる。健康を気遣った料理を作ってくれる。忙しい時はお弁当を持たせてくれる。」

俺は温め続けたプランを放棄した。
もう戻れない。

「深夜まで起きて待っていてくれることもある。よく拗ねるけど、たまに凄く可愛い行ってきますのチューをしてくれる。」

テーブルに置かれたチャンミンの指が震えた。

「唇にただいまのキスをしてくれたら、天に昇る気持ちになる。」

唇も震えた。

「生まれてからずっと、俺のそばにいてくれる。」

チャンミンは俺を見た。
俺は視線を合わせて、深呼吸した。

「そんなチャンミンが、俺の理想のタイプだよ。」

チャンミンの大きな瞳は涙で滲んで、更に大きく見えた。





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アネモネの献身 29

その探偵、恋は専門外につき
-アネモネの献身-
29



疲れがどっと出て、クリスマスは恋し懐かしい我が家のベッドで眠り明かした。
安心できる場所でゴロゴロする幸せを噛み締めた。

クリスマスらしいことなんて、何もなかった。
さすがにケーキを作る元気もなく、ユノが買って来てくれたショートケーキを食べただけ。

でも、この上なく幸せだった。

「チャンミンごめん。プレゼント買う時間なくて。」

「あ、そんなの気にしないでよ。僕もだから……ごめん。」

「チャンミンが帰って来てくれただけで十分プレゼントだよ。」

ユノはやたらと甘い雰囲気を出してくる。
僕はむず痒くて身悶えした。

「ろ、ロジェさんは僕のこと、警察に伝えてくれたんだね。」

「ああ。勇気がいっただろうな。直接親父さんのところに話しに来たんだって。」

「ロジェさんは、捕まっちゃうのかな。」

「罪は罪だからな……。」

ユノは瞼をぎゅっと閉じて、視線を下げた。

「チャンミンを助けるために警察に行ってくれたんだ。騙されて加担しただけだし、大した罪にはならないと思う。」

ユノは、僕が不在の間に調査したことを全て話してくれた。
お祖母さんと仲睦まじい様子を聞いて、ロジェさんが全てを告白してくれたことが、どんなに辛い決断だったか分かり、悲しかった。

「ロジェさんとお祖母さんが、また幸せな時間を過ごせるといいね……。」

「自分で招いたことだから、責任は取らないとな。どんな理由があっても、犯罪に加担したことには変わらない。ルールを守らなかった彼にも、落ち度はある。」

「でも、大切な人に何かあったら、僕もルールなんて破ると思う。その気持ちは分かるな。」

「チャンミンの大切な人って……。」

『ピンポーン』

ユノが顔を赤くしたところでチャイムが鳴った。

慌てて玄関に出たユノは、仏頂面で戻ってきた。

「シウォンが来た。」

「チャンミナ!ユノにぶたれた顔は腫れてないか?君の王子が見舞いに来たよ。」

さすがにもう諦めたかと思ったのに、やはりシウォンさんは強靭な精神の持ち主だった。

シウォンさんが持ってきた真っ赤なバラの花束を、家中の花瓶やらコップやらに無理やり活けながら、僕はソファで微妙な距離を保つユノとシウォンさんをちらちら盗み見た。

「ユノ。俺はお前みたいな貧乏人には負けない。」

「あ?チャンミンはお前にも、誰にも渡さん。」

ななな、なんたる会話。
小声で話したって僕の聴覚は人並み外れてるんだぞ。全部丸聞こえだ。

シウォンさんはどうかしてるけど、ユノもユノだ。僕への気持ちなんて何も話してくれてない。

mychangminなんてパスワードにしてたくせに!
俺のチャンミンって、どういう気持ちで手紙書いたわけ!?
昨日のキスは単なるお帰りの挨拶ってわけじゃないよね!!?

「何の話してるの!?」

僕がテーブルにつくと、シウォンさんとユノは押し黙り、暫く睨み合っていた。

「で、今日は何の用だよシウォン。」

「あ、そうだった。チャンミナの美しさを前にして俗世のことを忘れかけていた。」

相変わらずの歯が浮く発言に、コーヒーを溢しそうになった僕を見つめ、シウォンさんは微笑みかける。

「チャンミナとロジェさんの証言から、スペインからの貨物船に乗船している奴がグループに乾燥大麻を届けていたことが分かったよ。」

「あのクーラーボックス……。」

「そうだ。今押収して調べてるが、ドローンの海上版とでも言うか、操縦されて桟橋に届けられる仕組みだったみたいだな。」

「入港して検査が入る前に、海に放り投げていたってことですね。」

「ああ。チャンミナを拉致した男、グループのリーダーが捕まったおかげで、セレナシティの販売グループだけじゃなく、貨物船の仲間も含めて一網打尽にできそうだ。」

「証拠はあるんですか?」

「ロジェさんは、少し前から不審に思い出していた。クーラーボックスに入っていた手紙を、コピーしていたんだ。」

「手紙って、リーダーと貨物船スタッフとのやり取り?」

僕は合点がいった。
ユノも僕に頷いた。

「そのやり取りはスペイン語だったってことか。だからリン先生にスペイン語を習ってたのか。」

「ロジェさんは、自分で調べても意味が分からない文章を、スペイン語の先生に訳して貰っていた。それが例のリン教授の奥方だな。」

「リン先生は知ってたのか?ロジェさんのやってること。」

ユノの問いにシウォンさんは首を振った。

「それはないだろう。ロジェさんは誰にも話してなかったし、断片的な文章だけでは手紙の全容までは分からない。」

「うん。リン先生は関係ないよ。旦那さんの選挙に向けて、大麻のことを聞いていただけ。」

ユノは僕を見てふっと笑った。

「チャンミンは優秀な探偵になれるね。」

探偵になって、ユノと一緒に仕事できたらどんなに楽しいだろう。

24時間ずっと一緒。
ぐふっ……。

しまった。鼻の下が伸びてしまった。

「警察の方が向いてるだろ。俺のパートナーになって貰いたいね。」

「ああ!?ふざけるな!チャンミンは俺の……お、俺のっ……!」

ユノは顔を真っ赤にして鼻息を荒くした。

「とにかく!警察はダメだ。今回だってお前の依頼のせいでチャンミンを危険な目に遇わせたんだからな!」

「まあそこは謝る。申し訳ないついでに、警察のことで、2人にお願いがあって今日は来たんだ。」

シウォンさんの話は意外なものだった。

「冷徹無比なロジェ副署長が、ロジェさん、つまり息子のアランさんを助けたいと懇願してきた。あれでも人の親なんだな。」

「ロジェさんのお父さんが……。」

「それは無理があるだろ。手伝ってたのは事実なんだから。」

「それでだ、中身を知らなかったってことにしたい。」

僕はぽかんとし、ユノは眉を寄せた。

「真実をねじ曲げるのか?」

「アランさんはクーラーボックスの中身を知らなかった。最近になって知って調べてただけ。それで良くないか?どっちにしたって、彼は情状酌量で大した罪にならない。」

シウォンさんは何だか楽しそうに、僕の出したコーヒーの香りを吸い込んだ。

「警察でも、まだ一部の人間しかアランさんの話は知らない。警察以外で知ってるのは、ユノとチャンミナだけ。」

シウォンさんがコーヒーをごくりと飲み込んだ喉の動きを、ユノはじっとりと見つめていた。
それから自分もコーヒーを手にし、一気に飲み干した。

「警察の捜査のことは俺達には関係ない。勝手にしろ。でも、ロジェさんがそれを良しとするかは知らないけどな。」

「ふふ。助かるよ。」

「ふん。チャンミンが無事だったから許すだけだ。チャンミンはそれでいい?」

「僕も、もちろんいいよ。ロジェさんは僕を助けようとしてくれたんだから。その代わり、副署長にはロジェさんやお祖母さんと過ごす時間をちゃんと取って欲しい。」

「チャンミナ……やっぱり女神だ。心も美しい……。」

ユノは僕の手を握ったシウォンさんの腕を手刀で叩き落とした。

「用はそれだけか?終わったなら帰れ!」

「よし。後は署内の調整だな。腕がなる。」

シウォンさんはユノに叩かれた腕をさすりながら、満面の笑みで帰って行った。



「ちっ。結局シウォンが1番得したな。」

ユノは苦々しい顔だ。

「目の上のたんこぶだったロジェ副署長に恩を売って、向かうところ敵なしだよあいつ。ボーナス弾んで貰おう。」

「ふふ。ユノだって嬉しかったくせに。お祖母さんのこと心配だったんでしょ。」

「ああ、幸せな家庭になれるといいな……。」

見つめ合った僕らに微妙な空気が流れる。

ユノは「トイレ行ってくる!」と逃げ去った。

なんだこりゃ。
これじゃ前と変わらないじゃないか。

僕の気持ちに気づいてないのか?
そんなまさか。
パスワード解いたのに?

僕は安定の、ぐちゃぐちゃした気持ちを抱えたままだった。





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アネモネの献身 28

その探偵、恋は専門外につき
-アネモネの献身-
28



ガラスが散乱する音と、何かが床に叩きつけられた音。

そして、僕の大好きな人の声。

「チャンミン!!!」

ユノ。
ユノ。
ユノ!

名前を呼びたいのに、ユノの声を聞いた途端に涙が溢れて、僕は声が出なかった。

「チャンミン!どこだ!!!」

ユノはやっぱり僕のヒーローだった。
僕の窮地に駆けつけてくれる。

銀縁メガネに押し倒されたままなのに、僕はもう安心していた。
ユノがここに居る。
それだけで、もう大丈夫だと信じられた。

部屋に走り込んで来たユノは、押し倒されている僕を見て、鬼のような形相になった。

頬に一筋傷がある。
割れたガラスが当たったんだろう。

銀縁メガネはへらへら気色悪い笑みを浮かべてソファの裏から何か取り出して立ち上がった。

ユノが顎をひいて流れる血をくいっと親指の付け根で拭った瞬間、銀縁メガネが持っているものを構えた。

拳銃だった。
生まれて初めて本物を目にした。

ユノがいくら運動神経が良くたって、弾丸には勝てない。

安心して弛んでいた皮膚が、威嚇した猫みたいに総毛立つ。ありとあらゆる神経が僕の身体に動けと指令を伝える。

僕は床からバネのように跳ねた。
使ったことのない筋肉まで総動員した。

「ユノ逃げて!!!」

僕は銀縁メガネの手首に噛みついた。

「いってぇ!」

振り払われて身体を床に叩きつけられても、軋む身体を捩って銀縁メガネの脚に噛みつこうと僕が顔を上げた時、ユノの身体は宙を舞っていた。

「チャンミン!」

空気が鋭く切れる音がした。

蹴りあげた太ももからつま先までのしなやかな筋肉。ジャングルに生きる、鍛え上げたジャガーの後ろ脚みたい。

その脚の軌道が僕にはスローモーションに見えた。

銀縁メガネの顎にユノの上段回し蹴りがめり込み、鈍い音と共に歯が数本飛んでいく。

後方にぶっ飛んだ銀縁メガネは、後頭部を壁に打ち付けて伸びた。

床に落ちた拳銃を廊下まで滑らせ、ユノは僕に駆け寄った。

「チャンミン!!!」

僕を抱き起こしたユノの顔は、さっきの形相とは別人だった。
不安でいっぱいの目で僕の顔を両手で包んだ。

「無事か!?チャンミン!何か言って!」

僕は笑った。
ユノを安心させようと懸命に。

でも張りつめていた緊張の糸がぷつんと切れて、笑っているのに涙がぽろぽろ溢れてしまった。

ユノの眉はみるみる下がり、目に涙が溜まった。ユノは、僕を全身で抱き締めた。

「ひっ……ユノ……」

僕はユノの胸で泣いた。
あったかくて、柔らかい胸で、めいっぱい息を吸い込んで名前を呼んだ。

「ユノ…ユノ………」

僕の背中をさすり、ユノはポケットからナイフを取り出してロープを外した。

バタバタと足音と怒号がして、警察が何人も部屋に入ってきた。
でも、騒然とした部屋で、僕とユノだけは、隔離された空間の中に2人きりで居る気がした。

やっと自由になった腕で、僕はユノにしがみついた。

警察が銀縁メガネを部屋から連れ出して行く。


「ユノ!チャンミナ!大丈夫か!」

「遅くなってごめん!」

シウォンさんとロジェさんが部屋に入ってきた。

僕らを見て、シウォンさんはこの世の終わりみたいな顔をして立ち尽くした。

ユノはシウォンさんを意にも介さず、僕から視線を離さない。

「チャンミン。」

ユノは僕をじっと見つめたまま片手を上げ、苦しそうに顔を歪めると、僕の頬をパンとはたいた。

「わー!!!チャンミナの美顔になんてこと!」

シウォンさんが叫んだ。

叩かれた頬がじんじん熱を持つ。
その頬に手を添えて、ユノはおでこをこつんと合わせた。

「痛い……。」

「バカチャンミン……。」

ユノはふうっと息を吐いた。
安堵のため息だった。

「俺の忠告を無視して、みんなに心配かけて、反省しろ。」

「うん……。」

「それと……チャンミンに何かあったら……俺は……俺は、生きていけないんだからな!俺も苦しむんだからな!頼むから……無茶しないでくれ……。」

ユノは綺麗な顔をくしゃくしゃにしてボロボロ涙を落とし、しゃくり上げて泣いた。
ユノの思わぬ姿に動揺して、僕もボロボロに泣いた。

「心配かけて、ごめんなさいっ。」

「無事で、良かった……。」

ユノは眉間に皺を寄せてゆっくり顔を傾け、僕の唇に、キスした。
ユノの唇は、ちょっとカサついていた。

身体が痺れて、でも温かくて、僕はまた涙がボロボロ溢れた。

「おかえりチャンミン。」

僕はユノに抱きついた。
それから、ユノの唇にぶつかるみたいなキスをした。

「ただいま。」

シウォンさんが「ぐえっ」と変な声を出した。

ユノは僕をぎゅうぎゅう抱き締めた後、シウォンさんを見上げた。

「警察に行った方がいいよな。」

「あぁ~……ああぁ~……」

シウォンさんは薬でおかしくなった人みたいにふらついて頭を左右に振っていたが、扉の角に額をしこたまぶつけた後、キリリと眉を上げて警察官らしい顔に戻った。

「チャンミナの話が聞けるとありがたい。だが、ロジェさんから大体のことは聞いたから、明日でも構わない。」

「大丈夫です。話せます。」

顔をあげて答えた僕に、ユノは誇らしそうに目を細めた。

僕らはパトカーに乗って警察に行った。

警察署でシウォンさんが出してくれた大量のサンドウィッチを完食し、僕はかなり元気になった。

僕が見たこと、聞いたこと、僕のために通報してくれたのであろうロジェさんのこと、全て伝えた。
話し終わった頃には、日付が変わっていた。

ユノはずっと、部屋の外で僕を待っていてくれた。


ランニングウェアのままの僕に、ユノはマフラーをぐるぐる巻いて、車を取ってくるから待ってろと言ったけど、僕はもう片時もユノから離れたくなかった。

「一緒に行く。」

ユノのダウンジャケットの袖を離すまいと強く掴んだ僕を見て、ユノはにっこり笑い、手を繋いで歩き出した。

クリスマスにはおよそ不釣り合いな格好の僕の手を引いて歩くユノの半歩後ろ。
僕はずっとユノばかり見て歩いた。

アナの繁華街は、深夜にも関わらず人でごった返していた。
中心部の広場に、真っ白なライトで飾られたクリスマスツリーがあった。

「綺麗……。」

呟いた僕を振り返って微笑むと、ユノはツリーの下まで僕を引っ張って行き、向かい合って立った。

ツリーのライトでユノの瞳がキラキラ光っていて、僕は見とれた。

僕の両手を掴んだユノ。

「チャンミン……。」

「な……なに?」

僕の心臓は空高く飛んでいってしまいそうなくらい早鐘を打って、声が震える。

「チャンミン……俺……」

「わっ……」

酔っ払った若者が点火した花火が打ち上がった音にびくついて、僕は思わずユノにしがみついてしまった。

頭上で花火が開く。

「わぁ……」

空を見上げた僕にユノは困った顔をして、1度俯いて、にっこり笑った。

「メリークリスマス、チャンミン。」

ユノの笑顔はツリーより、花火より綺麗で、眩しかった。

「ユノ、助けてくれて、ありがとう。」

「今回みたいなのはもう勘弁してくれよ。心臓がもたない。」

「心配かけてごめんなさい。」

「でも、俺のために調査を手伝ってくれようとする気持ちは嬉しいし、チャンミンはやっぱり凄いよな。俺がボケッとしてる間に、ロジェさんの行動把握してたんだもんな。」

僕は今さら焦った。
ユノが僕のPCを開いたってことは、パスワードがバレたってことだ。

「あ、あああ、あの。たまたまだよ!」

「ふうん。たまたまねぇ……って、何が?パスワードのこと?ロジェさんのこと?」

ユノはにこにこして、僕の返事を待たずに手を引いて歩き出した。

「なあ、クリスマスにディアスシティに帰れなかったから、新年に帰らないか?」

僕は迷わず頷いた。

「うん。一緒に行くよ。」





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東方神起 ユノとチャンミンが大好き。
脳内妄想をこっそり綴っています。
ホミンのみ。

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