FC2ブログ

続・祓い屋リノベーション 30

この記事を閲覧するにはパスワードが必要です
パスワード入力
スポンサーサイト



続・祓い屋リノベーション 29

続・祓い屋リノベーション
29



廊下で項垂れていたキュヒョンははっと顔を上げた。

「嫌です!」

「いいから来いって。元国王の命令だ。」

「普段命令なんてしないのに……。あ~面倒なことになりそう。」

ブツブツ言いながら、キュヒョンは緊張の面持ちでリビングへと歩を進めた。

チャンミンは食事を並べる手を止めてキュヒョンを見つめた。

「君は……!」

ソファから立ち上がったシウォン。
俺は安堵した。
ちゃんと見えている。

「紹介します。命の恩人のキュヒョン。シウォンさんの、守護霊です。」

「俺の、守護霊?」

「たまたまクイーンホテルでシウォンさんが死にかけたのを救ってくれたのが彼でした。これからは、いつもシウォンさんのことを守ってくれます。」

キュヒョンはおずおずとシウォンに近づき、一礼した。

「シウォン様。宜しくお願いします。」

シウォンの整った顔が、一瞬でゆるっゆるに崩壊した。

「シウォン様って!かっ、かっ、かっ……可愛いすぎる!!!」

シウォンは興奮でわなわな震える腕をあげ、キュヒョンを引き寄せた。

ある意味すごい。
幽霊でも見境なしだ。

「ぎぇ~!!」

キュヒョンの叫びはシウォンの胸に受け止められた。
ぎゅうぎゅう抱き締められてキュヒョンはじたばたしていたが、暫くして諦めたようだ。

「こんな可愛い幽霊なら大歓迎。幻でなくて良かった。また会いたいと思っていたんた。ずっとそばに居てくれるのか?」

「それはちょっと……。」

「守護霊なんだろ!そばに居てくれ!」

目を爛々とさせて盛り上がるシウォンを、ドンヘは口をぽかんと開けて見上げている。

「何これ。何が起こってるんだよ。シウォンさん、狂った?」

「ドンヘには見えないけど、ここにもう1人居るんだよ。」

「幽霊が?」

「そ。」

「ふはは。」

ドンヘは笑い出した。

「全く!ユノが入社してから面白いことばっかりで飽きないよ!」

チャンミンは食事を並べ終え、みんなを見回した。

「さ。お祝いのディナーでも食べましょうか。」

「そうだな。お祝いだな。」

幸せな食卓だった。

膝に乗れとせがむシウォン。
それはサービス外だとそっぽを向くキュヒョン。
幽霊話に目を輝かせるドンヘ。
誇らしげに説明するチャンミン。

こんな幸せが2000年後に待っていたなんて、誰が想像できるだろう。



俺の幸せは、まだ終わらなかった。
幸せと言うべきか、珍事と言うべきか。

年明け早々に北海道へチャンミンを連れて帰省した俺は、まず空港で父の醜態を見た。

飛行機に乗ってからずっと緊張で口数の少なかったチャンミンは、俺が父さんの車を指差すと、小走りで駆け寄り、ぶつかるぐらいの至近距離で捲し立てた。

「あの!チャンミンです!ユノさんにはいつもお世話になっていて……。お父様にお会いできて嬉しいです。」

緊張と寒さで震えながらお辞儀したチャンミンに、父さんは「お父様……。」と繰り返しながらぽっと顔を赤らめた。

「ちゃちゃちゃ!チャンミンさん!めちゃくちゃ寒いでしょう!早く乗っちゃってください!」

やたらと「ちゃ」が多いな。

俺には目もくれずチャンミンのバッグを勢い良く掴んだ父さんは、チャンミンの指まで握ってしまい、「あぁ!」と叫んでバッグを放り投げた。

「あーあ。見ちゃいられない。」

心配してついてきたばあちゃんが後ろでため息をつき、俺も呆れた。

父さんは運転しながら後部座席のチャンミンをちらちら見てはにやけ、何度か信号無視しかけた。あまりに危険なので俺が運転を代わった。

家で料理を作って待っていた母さんの醜態はもっと酷かった。

玄関に出てきた時から手で奇声を抑えていた。

「は、はじめまして。チャンミンです。」

恥じらいながら挨拶したチャンミンは、返事をしない母さんに戸惑い、恥ずかしそうに髪に手をやって耳にかけながら俯いた。

「ああん!」

母さんは抑えきることができなかった奇声をあげてふらつき、床に崩れ落ちた。

「お母様!大丈夫ですか!?」

チャンミンに肩を抱かれた母さんは、「おかあ……さま……」と呟いて天に召された。

ここはマイケル・ジャクソンのライブ会場か?
観客が失神していくあれか?

呆然とする俺を他所に、チャンミンと父さんは卒倒した母さんをソファに運んだ。

慣れないお茶出しをする父さんは、手伝いを申し出たチャンミンと至近距離で目が合い、派手にお茶を溢す。

両親の乱れ具合に俺は呆然とするしかなかった。ばあちゃんも口をあんぐり開けていた。

「アホらしい。これが我が子とは信じたくないよ。」

「全く。緊張して損した。」

俺はばあちゃんと2人で、チャンミンが出してくれたお茶を啜った。

母さんは暫くして起き上がったが、乙女みたいな顔でチャンミンを眺めては「うふふ」とにやけていた。

「ちょっと母さん!しっかりしろよ!」

「無理よ!毎日写真を眺め続けていた憧れの人が目の前に居るのよ!溺れさせてちょうだい!」

「…………。」

我が母よ。
俺は恥ずかしい。

困り果てて眉を下げているせいで、チャンミンの可愛らしさはいつもより増している。

「素敵……。」
「可愛い……。」

母さんと父さんが同時に呟いた。

両親がまともじゃなかったことを、30歳を目前にして知るとは。

「ま、あんたがチャンミンに惚れた時も、似たような溺れ方だったよ。」

ばあちゃんが哀れみの眼差しを向け、俺の肩に手を置いた。

失礼な。
俺はもっと自制していたぞ。
いや……そうでもないか。

ソファでチャンミンに見惚れている両親の放心は治まる気配がなく、結局チャンミンと俺で料理を並べることになった。

居間からの4つ、ばあちゃんも入れると6つの視線が痛い。

「チャンミン……こんな両親でごめん……。」

「なんで!嬉しいよ!こんなに温かく迎えてくれるなんて、嘘みたい。」

涙ぐんだチャンミンを抱き締めたいところだったが、俺が手を伸ばした瞬間母さんが「きゃっ!」とピンクな声をあげたので、肩をさするだけにした。

その晩は実家に泊まり、次の日じいちゃんに挨拶に行った。

ちなみに実家での新年セックスは我慢した。
扉の向こうで、父さんと母さんが聞き耳をたてている気がして、とてもそんな雰囲気になれなかった。


ありがたいことに、じいちゃんはまともだった。

「よく来たね。いらっしゃい。」

柔和な微笑みで俺達を迎えてくれて、俺はやっとほっとした。

ばあちゃんの仏壇にお参りしたチャンミンは、雪が残る庭を眺めた。

「この景色を見て、ユノは大きくなったんだね。すごく綺麗……。」

「ばあちゃんも好きな庭だったんだ。」

「うちの庭にちょっと似てる。」

「そうだな。チャンミンの家に居ると、故郷に戻った気がする。」

じいちゃんが昆布茶を入れた。

「そこは寒いだろ。みんなでお茶にしよう。」

4つ並んだ茶碗。
ばあちゃんの分も東京土産のお菓子を出したチャンミンに、じいちゃんは満足げに頷いた。

「いい人に出会えて良かったな、ユノ。」

「ああ。最高だよ。」

ゆったりと温かい時間だった。
お茶を飲み終わる頃、じいちゃんが背筋を伸ばした。

「これで思い残すこともない。この家とはお別れして、同居でもするかな。」

「え!いいの?」

「ああ。わしも毎日料理するのは疲れた。ばあさんだって、この家に居るわけじゃないからな。きっと、ユノのそばに居る。お前とチャンミンさんがたまにばあさんを連れて帰って来てくれたらそれでいい。」

じいちゃんの晴れやかな顔に、迷いはなかった。

「うん。なるべく帰るよ。チャンミンと、ばあちゃんと一緒に。」

ばあちゃんが俺の頭をぐりぐり撫でて、俺はくすぐったいような、嬉しいような、恥ずかしいような、子供の頃の気持ちを思い出した。


同居の決意を知った母さんは泣いて喜んだ。
父さんは、じいちゃんの肩を抱いて何度も「ありがとう。」と言った。

2人とも、じいちゃんが心配でしょうがなかったんだな……。
それが痛いほど伝わって男泣きしそうな俺の腕に、チャンミンが抱きついて、にっこり笑った。

俺の幸福の巫女。

チャンミンが、俺の家族に幸せを運んでくれたんだ。




15374615500.jpeg


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

明日最終話です。
当の作者はその頃京セラドームでリアルに溺れていると思いますが、最後までどうぞ宜しくお願いいたします♪

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

続きを読む

テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

続・祓い屋リノベーション 28

続・祓い屋リノベーション
28



雪もすっかり溶けた次の日、俺は会社に出向いて報告書を書いていた。

最初は家の炬燵でPCを広げていたのだが、チャンミンが膝にすり寄ってにゃんこ攻撃を繰り出すため、遅々として進まず逃げ出した。

それに、たまに会社のみんなの顔が見たくなるのも本音。

ハナさんに頼まれ、会社のエントランスに飾ってあったクリスマスツリーの片付けを手伝っていると、ドンヘが徒歩で外から帰って来た。

「ユノー!お祝いしてくれ!」

「なんだよ、また契約成立?」

「白金台のマンション、売れ行き絶好調!」

「それって、美術館の公園横のマンション?」

「そうそう。突然販売にうちも一部関わることになってさ。社長がどんな手を使ったか知らないけど。」

俺達が穴に落ちたマンションの建設は順調に進んでいると聞いていたが、その販売を東方不動産が担っているとは。

トンバン国の王宮の上に建設されるマンションの販売を、ドンヘやシウォンがしているなんて面白い。笑えてきた。

「なに笑ってんだよ。今日はシムくんは?」

「家でにゃごにゃごしてる。」

「うわっ。にやけるなよ気持ち悪いな!」

呆れて顔を背けたドンヘが、道路を指差した。

「あれ?あそこ歩いてるのシム君じゃないの?にゃごにゃごしてないじゃないか!」

買い物袋を下げたチャンミンが、こちらに向かって歩いてきた。

「ユノ、今夜シウォンの家行ける?」

「あ、うん。」

「シウォンに差し入れしようと思って食材買ってきた。これから料理するね。」

ダッフルコートから覗く白い手袋でぎゅっと買い物袋を握り締め、寒さで頬を赤くして微笑むチャンミンに、俺はまたしてもにやけた。

チャンミンを見るだけでこれ。重症だ。

「おいっ。顔!」

ドンヘに肘で突かれて我に返った。
やっぱりドンヘが隣に居てくれると助かるな。トンバン国で長年俺の補佐をしてくれていただけある。

「なあ。ドンヘも行かないか?社長のお見舞い。」

「え?社長何かあったの?昨日今日と休みだけど。」

「あーっと。体調不良。」

ドンヘは興味津々の顔だ。

「俺も行く!行きたい!社長の家見てみたかったんだ!どうせ豪邸なんだろ!?」

仕事を急いで片付けると張り切ってエレベーターに向かったドンヘは、急停止して戻ってきた。

「おいユノ……社長の家に行く程の仲って、やっぱりシム君は社長の愛人……」

「違うわ!」

チャンミンがシウォンの弟であることは伝えてなかったな。
ドンヘに秘密にするのは嫌だが、家族が絡むことを俺から話すのは憚られる。

「可愛がられてるだけだ……。」

「それは、にゃんにゃんして可愛いがられてるんじゃ……。」

「違うって!もう、仕事早く片付けようぜ。チャンミン、後でな!」

ドンヘの肩を抱いてエレベーターに連行する俺を、チャンミンは笑顔で手を振って見送った。




「何故ユノとドンヘが居る。見舞いならチャンミンだけでいい。」

玄関扉を開けたシウォンは舌打ちした。

「社長が心配で来たんじゃないですか!お邪魔しまーす!」

許可も得ずズカズカと上がり込んだドンヘは、間接照明の薄暗い部屋の真ん中で「エロい」と呟いてシーリングライトをつけた。

煌々と照らされた部屋の家具や家電を眺め始めたドンヘを放置し、シウォンはキッチンのカウンターに腰かけた。

「シウォン、体調はもういいの?」

「チャンミンが来てくれたから大丈夫だよ。お兄ちゃんって呼んでくれたら、もっと良くなるんだがなぁ。」

食材を広げながら唇をむにむに動かすチャンミンに、鼻の下を伸ばしやがって。

見るに耐えない光景だ。

トイレを借りようと廊下に出ると、キュヒョンが捨て犬のような顔で項垂れていた。

「どうした!?」

「ずっと隠れてて疲れました……。」

「なんだよ。姿見せればいいじゃないか。」

「だって、見ず知らずの俺が守護霊だなんて、シウォン様には意味不明でしょうし。それに……。」

「それに?」

「ああ!いやだ!」

キュヒョンは頭をブンブン振って寝室に隠れてしまった。

「何だってんだ。」

リビングに戻ると、ドンヘにシウォンが最新家電の機能をレクチャーしていた。さすが東方不動産のトップセールス。ドンヘは人の懐に入るのが上手い。

「なぁチャンミン、ドンヘにチャンミンの家族の話していいかな?」

料理を盛り付ける手を止めて、チャンミンは小首を傾げた。

「ん?全然いいよ?内緒にしてたの?」

「シウォンは気にしてるみたいだから。」

「いいんじゃない。お父さんの立場を気にしてるんだろうけど、そもそもうちの会社ってフレンドリーじゃない。社長や会長に威厳は必要ないでしょ。」

「チャンミン……ありがと。」

カウンター越しにキスしようとしたら、ドンヘに首根っこを掴まれた。

「やめろってユノ!社長の顔見ろよ。幽霊みたいになってるぞ。あれ、絶対シム君のこと好きだって!」

「まあ、好きだろうね。弟だから。」

「へ?弟!?」

大声で叫んだドンヘのアホ面。
その背後に、また舌打ちしたシウォンの濃い顔。

俺は2人をソファに座らせた。

「シウォンさん、申し訳ありません。ドンヘは俺の親友なんです。隠し事はしたくなくて。」

心配したチャンミンは俺の後ろに立って肩に手を置いた。

「ドンヘさんには全部話していいよね?お兄ちゃん。」

恐ろしい。
ここで「お兄ちゃん」を使うとは。
チャンミンのあざとい技に俺はちょっと引いてしまったが、シウォンは見事に引っ掛かった。

「チャンミンがいいなら問題ないに決まってるだろ!お兄ちゃんはいつだってチャンミンのお願いは聞いて来ただろ!」

あーあ。
デレデレしやがって。

チャンミンの生い立ちと、これまでの仕事の話を聞いたドンヘは、さして驚かなかった。

ドンヘの寛容性に、こちらが毎度驚かされる。
「へぇー。」の一言で受け入れてくれた。

「やっと分かってきましたよ!リノベーション部の仕事って、東方不動産の事業拡大のきっかけになってるんですね。白金台のマンションは、お祓いのお礼でうちが参入することになったってことですよね?」

「お、ドンヘ。話が早いな。」

シウォンは片頬をあげてにやっと笑った。

「社長、ホテルレジデンスもやりたいって仰ってましたもんね。大手のホテルと強いパイプが欲しいって。クイーンホテルの支配人と仲良くなって、一気に現実味帯びますね。」

ドンヘは納得した様子で頷いている。

「だろ。海外ではホテルレジデンスは当たり前だからな。日本ではまだ少ないが、これから増えるだろう。実際、希望している海外の富裕層から問い合わせはあるんだ。クイーンホテルなら、国外からの信頼が既にある。支配人に、新しい事業として打診してみようと思っている。」

「さっすが社長!」

ドンヘのよいしょに気を良くしたシウォンは、ぶすっとする俺を見てにっこり微笑んだ。

「これからも俺の夢の実現のために頑張ってくれよ。ユノ。」

俺の給料が並より高いのはシウォンのチャンミンへの愛だと思っていたが、こんな理由があったとは。

さすがと言うか、やり手社長なだけある。
負けた気分だ。

俺は負けを挽回すべく、シウォンに微笑みかけた。

「ところでシウォンさん。最近は幽霊の気配はないですか?」

「ん?あれは俺の勘違いだろ?」

「いえ。私達の間違いでした。今も居ますね。」

シウォンは青ざめてキョロキョロ辺りを見回した。

「どこに!?」

俺は廊下のドアを開けた。

「キュヒョン!おいで!」




15374615500.jpeg

続きを読む

テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

続・祓い屋リノベーション 27

続・祓い屋リノベーション
27



「ユノ。昨日の蟹、美味しかった。」

「かにぃ?」

感傷に浸っていた俺は、突然の蟹の話題にすっとんきょうな声をあげてしまった。

ポロンと鍵盤を叩き感触を確認したチャンミンは、大きく息を吸い、両手を構えた。

「これ、僕からのお返し。クリスマスプレゼントに何か買おうと思ったんだけど、お金じゃないものを贈りたくて。」

鍵盤の上で細い指が踊る。
唇を尖らせて旋律を奏でるチャンミンを、俺は横に立って見つめた。

俺でも知っている曲だった。

「I'm dreaming of a white Christmas……」

チャンミンは歌い出した。
繊細で、雪のように儚く、揺らぐ声で。

ホワイトクリスマス。

歌声からタイトルが分かった。
東京を白く覆った雪は、今、チャンミンがこの曲を歌うために降ったんじゃないかと思えた。

チャンミンの横顔も、歌声も、天からの贈り物かのように神々しかった。

俺の天使が歌っている。
もっと好きになる。
際限なく魅せられる。

官能的な唇が発する滑らかな英語に、弾む指先が生み出すジャズを思わせるピアノに、心を震わせる繊細な歌声に、恋をするよ。

たった数分の夢の時間が終わり、鍵盤の上の指の動きは、余韻を残してゆっくりと静止した。

言葉を紡げず、ただじっと見つめる俺に、チャンミンは不安そうな顔をした。

「あの……いまいちだよね。ユノが居ない間にしか練習できなかったから……。」

自分がどんなに魅力的か、分かっていないところもいとおしい。

俺は、チャンミンに何度でも恋をする。

ピアノの前で小さくなるチャンミンを、後ろから抱き締めた。

「チャンミン……もう……勘弁してくれ。」

チャンミンはびくっと肩を上げた。

「やっぱり、そんなに駄目!?これじゃ近所迷惑だよね!電子ピアノは好きじゃなくて、あんまり練習できなかったんだ……。調査に行き詰まった時はホテルのバーでもピアノ借りて練習したんだけど、勘が戻らなくて。」

俺の知らない間に練習していたなんて、俺が居なかったのは風邪で休んだ日と、北海道に行っていた間だけじゃないか。

そんな限られた時間で練習したとは、とても思えない。

「歌も練習したの?」

「色々真似しようと思って聴き込んだけど……。」

チャンミンは首をかくんと真下に落としてしまった。

「ビン・クロスビーみたいに厚みのある声出ないし、フランク・シナトラみたいに甘く歌えないし、マイケル・ブーブレみたいに華やかな声も無理だし、か細い声でしか歌えなくて……。」

固有名詞はシナトラ以外さっぱりだが、チャンミンの声は誰とも比較できない。

北海道の風に舞う、粉雪みたいだった。

俺はチャンミンの見当違いな発言を唇で塞いだ。

「んんっ……!?」

目を見開いて俺のキスを受けたチャンミンは、唇を離しても落ち着きがない。

右手人差し指でポロンポロンと鍵盤を弾き、左手で前髪をくるくる回している。
視線は俺から逸らし、居間と廊下をキョロキョロとさ迷う。

「えーっと。あ、トヨさん居なくなっちゃったね。」

弾き語りをしたことが、恥ずかしくて仕方ないんだろう。

ほんと可愛いな。
最高だよ。

後ろから優しく抱き締めて、俺は耳たぶに唇を寄せた。

「もっと好きになっちゃったよ。歌もピアノも最高だった。」

チャンミンはブルっと震えた。

「こんなに感動するクリスマスプレゼント、初めてだ。」

「ユノ……。」

唇を食んで、鼻の下を伸ばしているチャンミンは、今すぐ襲いたくなる可愛さ。

「ピアノプレイっていいよなぁ。グランドピアノだったらピアノの上でしちゃうんだけど。あー、ホテルで試しとけば良かったなー。」

「ば、バカ!グランドピアノなんかあったら、部屋が半分ピアノになっちゃうでしょ!」

スペースの方に突っ込むとは。
ピアノプレイは承諾とみなすぞ。

興奮してきてしまった。
近日決行間違いなしだ。

巫女、にゃんこ、ピアノ。
新年の姫始めはどれからにすべきか。
待て待て。ノーマルも捨てがたい。
ああ!選べん!!

プレイスケジュールを真剣に考えていると、チャンミンはピアノを再開した。

今度はピアノだけで、ジャズアレンジのクリスマスソング。

「なんて曲?」

「そのまんま。The Christmas Song。」

チャンミンはピアノを弾きながら、俺を見上げて微笑んだ。

柔らかく落ち着く音色に包まれたこの家に、幸せがまた増えた。



夜ご飯を食べ終わった20時過ぎ、やっとキュヒョンがやって来た。

そろそろ寝たいと文句を言うばあちゃんを呼びつけ、4人で炬燵に入る。

「遅かったなキュヒョン。」

「シウォン様が1人で寂しそうにしていたので家を出られなくて……。」

そう言えば、シウォンは1泊入院していたんだった。

「お見舞いしてあげてくださいよ!病院から1人で帰る姿、見ちゃいられませんでしたよ!」

「あ、忘れてた……。」

本気で忘れていたらしいチャンミンに、ばあちゃんは吹き出した。

「ぷはは。キュヒョンが居れば心配ないよ。」

「ばあちゃん、キュヒョンはシウォンの守護霊になれたの?命救ったんだからなれるよな?」

ばあちゃんは誇らしげにキュヒョンを見つめた。

「キュヒョンは分かってるんじゃないかい?シウォンのこと、離れていても見えるだろ?」

キュヒョンは戸惑いがちに頷く。
チャンミンと俺は顔を見合わせた。

「今は友人と食事会に行ってます。男ばっかりですけど、楽しそうですよ。あ、ワイン飲んじゃってる。」

「昨日死にかけたところなのに、大丈夫なのか?」

俺の質問にばあちゃんが答えた。

「シウォンに何かあれば、キュヒョンは嫌でも彼の元に引き寄せられる。」

「電車移動しなくても?」

「守護する人のためなら、必要ないよ。危険が迫れば瞬間的に移動できる。」

「便利だな。」

チャンミンは目をくりくりさせて、長い息を吐いた。

「これで、キュヒョンはずっと僕達と居られるんだね。」

涙ぐむチャンミンを見て、キュヒョンも涙ぐんだ。

「チャンミン。俺ができることがあったら、何でも頼れよ。俺は、チャンミンのもう1人のお兄ちゃんみたいなもんだから。」

「うん。祓い屋の仕事、これからも手伝って!」

俺達には、力強い仲間ができた。



暖かいベッドに入ったチャンミンは、物思いに耽っていた。

「何考えてるの?」

「レイカさんのこと。」

チャンミンは俺の胸に頭を寄せた。

「レイカさんのしたことは許せないけど、おかげでキュヒョンは守護霊になれたんだよね。」

「ああ……。偶然だけどな。」

「でも、感謝はしなきゃいけないかなって思って。」

頭を撫でると、チャンミンは俺に抱きついた。

「自殺しちゃった人はさ、自分でも何がなんだか分からないうちに死んじゃって、きっと後悔して幽霊になる。」

「そういう人は少なくないだろうね。」

「もう1度、やり直すチャンスが欲しくて幽霊になった人の手助けができる仕事って、悪くないね。」

「凄い仕事だと思うよ。シウォンにも感謝しないとな。」

チャンミンはくすくす笑った。

「明日はシウォンのお見舞いに行こうね。」

「そうだな……。あ!報告書書かないと!」

「頑張って~。」

「チャンミンが書いてもいいんだぞ。」

「ユノに任せる。んー。眠い。」

寝たフリをしたチャンミンは、そのまま本当に眠ってしまった。

この仕事に誇りを持ち始めたチャンミン。
俺は、そんなチャンミンを誇りに思う。

俺達を取り巻く全てに感謝した。

幸せに満ちた聖夜だった。




15374615500.jpeg


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

皆様。いつも祓い屋の二人を可愛がっていただきありがとうございます。

続編も残り少なくなりました。
今週金曜、30話にて完結となります。

もう少しだけ、ラブラブの二人にお付き合いください♪

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

続きを読む

テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

続・祓い屋リノベーション 26

続・祓い屋リノベーション
26



チャンミンはくるりとこちらに顔を向けて俺の太ももを叩いた。

「早く帰らないと!この車、スタッドレスじゃないでしょ。」

「そうだね。急いで帰ろう。」

「お腹すいた……。」

「冷蔵庫で蟹が待ってるよ。」

「あっ!解凍しといてくれたの!?うふふ。タラバガニ……。」

キッチンで茹でたての蟹を前にしたチャンミンの喜んだ顔は、筆舌に尽くし難かった。
あんまり可愛いから全部チャンミンに食べさせたくなってしまう。

チャンミンの満面の笑顔が、俺には何よりのクリスマスプレゼントだった。


次の日の夕方にばあちゃんは帰って来た。

「はぁ……ぐったりだ。」

「雪大変だったみたいだね。」

「空港で足止めされて丸1日空港で過ごしたんだよ!今日も昼まで飛ばなくて散々だったんだから……。」

チャンミンが出した梅昆布茶の香りを吸い込み、元気を取り戻したばあちゃんは、にやにや笑い出した。

「どしたの?」

「いや、家でちょっと面白いことがあってね。」

笑いを噛み殺すばあちゃんを訝しんでいると、俺のスマホが炬燵の上で光り出した。

「わっ。父さんだ……。」

父さんが電話してくるなんて、何年ぶりだ?
チャンミンのことを説教されるのではと危惧しつつ、縁側に出て電話を取った。

「ユノ……元気か?」

「元気だよ。会ったばっかりだろ。」

「東京も雪が降ったそうだな。」

「ああ。こっちも凄かった。まだ雪が残ってるし、交通機関麻痺して大混乱。」

「東京は雪に弱いな。」

「北海道の人には理解できないよな。」

「ニュースで見たが、あんなもの雪が降ったうちに入らない。慣れないと大変だな。」

なんだこの会話。
本題に入るのを躊躇している雰囲気。

雪の話題を続けた後、父さんは咳払いした。

「ユノ……ちょっとお願いがあるんだが。」

「な、なに?」

「チャンミンさんの写真を送ってくれないか。」

は?何故?
俺はこの後の展開が読めずにごくりと唾を飲んだ。

「その……写真なんて、どうするんだよ。」

「いや、母さんがな……。」

「か、母さんがどうしたんだよ。」

本題は母さんなのか?

会話のキャッチボールには自信がある俺だが、このやり取りはまさに暗中模索。
頭の中はブリザードで一寸先も見えない。

父さんは鼻息でかき消されそうな小さな声で呟いた。

「母さんが、恋してしまった。」

「ん?なんて?」

「母さんが恋に落ちた!!!」

今度は耳が痛くなる大声。
俺はスマホを遠ざけた。

不倫か!?
熟年離婚の報告?
いや待て。
チャンミンの写真は何のために?

混乱してスマホを押しあて直した俺の耳に、父さんはため息を吹きかけた。

「お前が帰った日にニュースを見ていたらチャンミンさんが出て来て。」

「あ、インタビューの。」

「そうだ。」

「で?」

「母さんがやられてしまった。」

「やられた?何にだよ!」

俺は不安から、焦点を得ない会話に苛ついた。

「チャンミンさんの笑顔に母さんがおかしくなってしまった!!!」

「はぁー!?」

「あの夜から、胸がときめくとか、キュンキュンするとか言ってフラフラしている。心ここにあらずだ。」

ばあちゃんが縁側に出てきた。

「さすが親子だね。好みが似てる。」

俺は炬燵でふぅふぅしながらお茶を啜るチャンミンを振り返った。
きょとんとしてこちらを上目遣いで見上げ、小首を傾げて微笑む。

か、可愛い!
フラフラする!

「とにかくだ!チャンミンさんを見たくて胸が張り裂けるとか騒いでるから、取り急ぎ写真を送れ!」

「ぜ、善処します。」

なんて展開だ。
確かにインタビュー映像を見た時ファンの発生を危惧したが、俺の母親が張本人になるとは。

居間に戻った俺は、チャンミンの手を引いて雪景色の庭を背景に立たせた。

「なに?どうしたの?」

「ちょっと……手はこんな感じで立ってて。」

胸元でクロスさせた指。
白いざっくりしたニットが手の甲まで覆い、雪の女神か天使のように心がくすぐったい。

「うん……可愛い……。」

「な、なに!」

恥じらって頬を染めたところを連写した。

「ちょっとだけ庭に出て雪触って。」

「はあ?寒いんですけど!」

「一瞬でいいから。」

縁側のガラス戸を開け、口を尖らせて庭石の上の雪を丸めたところを連写。

萌える。
睫毛も髪もキラキラ輝いている。

「次、炬燵入ってみよう!」

「はあ!?」

「ほらほら。この蜜柑剥いて。」

疑問符だらけの顔で蜜柑を一房口に入れた上目遣いも連写。
鼻血ものだ。

「……可愛い!」

「何なのこれ!」

「いいからいいから。次、ちょっと男っぽいのください。」

コートを羽織らせ、振り返るチャンミンを連写。

「見返り美人だな。」

「いい加減にしてよ!」

チャンミンは怒り出した。
眉を寄せたキツい眼差しも連写。

「いい……。」

堪らなくなってキスをお見舞いし、瞳がとろけたところで一言。

「好きだよ。笑って。」

「もう……なんなの……。」

ふっと笑った顔も連写。

「チャンミン……年明けに俺の実家に挨拶に行こうか。」

「や、いきなりは無理だって!ご両親卒倒しちゃうでしょ!」

「母さんは卒倒するかもしれない。」

「駄目じゃん!」

目を白黒させてチャンミンは炬燵に隠れてしまった。

ばあちゃんは素知らぬ顔だ。
お茶を啜り、背中を丸めている。

ばあちゃんには、きっとこうなることが分かっていた。

「ばあちゃん……いつもありがとね。」

「ふふ。幸せそうで胸やけするよ。」


炬燵を囲んで静かな時間を過ごしていると、庭先から騒々しい人の声が聞こえてきた。

何事かと外に出た俺に、神社の横の階段の下でいかにも運搬業者の服装をした男性4人が言い合っている。

4人を収容できそうな巨大な木箱が小道を塞ぐように置かれている。

「どうかされました?」

声をかけると、配達員達は一斉に顔を上げた。

「シム・チャンミンさんですか?」

「あ?いえ。家に居ますから呼んで来ましょうか?」

「あー。ご在宅ならいいんです。シムさんの家、この上ですよねぇ?」

「ええ。」

4人は盛大なため息を吐いた。

「勘弁してくれよ、まじでこの階段あげるのか?」

「仕方ねぇだろ。」

神社の楠が揺れ、俺の頭に雪が舞い落ちた。

「あのー。この箱はなんですか?」

「シムさんに、シムさんからお届けものです。」

はあ?
黒ヤギさんから白ヤギさん的な?

遅れて出てきたチャンミンは、木箱を見てぽかんとした。

「今日配達するように言われてますので、とにかく階段あげます!」

配達員は宣言し、木箱を持ち上げた。
俺とチャンミンも手伝い、何とか玄関までたどり着くと、配達員は慣れた手つきで木箱を開梱した。

中から出てきたのは、美しく黒光りするピアノだった。

「どちらに搬入すればよろしいですか!?」

「え……じゃあ……居間に……。」

有無を言わさぬ配達員達の勢いに流され、電子ピアノの代わりに本格的な木製ピアノが鎮座した居間。

設置が終わると、配達員達はチャンミンにサインだけ貰ってドタバタと去っていった。

「チャンミン、これ買ったの?」

「違うよ!そんなお金ないし!」

蓋を開けたチャンミンは、鍵盤の上に置かれた白い封筒を手にした。

封筒から出てきたのは、太い墨で書かれたメッセージ。

『愛するチャンミンへ、メリークリスマス!』

まさかシウォンか?
キザなことしやがって。
蟹とピアノじゃ、勝負にならない。

俺の想像をチャンミンはすぐさま否定した。

「お父さん……。」

「え?会長?」

「うん。お父さんの字。」

封筒を丁寧にピアノの上に置いたチャンミンは、少し涙ぐんでいた。

俺は胸が締め付けられるほど感動した。

チャンミンは愛されてるんだ。
シウォンにも。お父さんにも。
シウォンのお母さんだってきっと、会長とシウォンの溺愛ぶりに嫉妬して、辛く当たってしまうだけ。

チャンミンは、誰からも愛される人なんだ。




15374615500.jpeg

続きを読む

テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

コールドブリュー

Author:コールドブリュー
東方神起 ユノとチャンミンが大好き。
脳内妄想をこっそり綴っています。
ホミンのみ。

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
フリーエリア
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR