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アネモネの献身 30

その探偵、恋は専門外につき
-アネモネの献身-
30



次の日、僕はバイト先のカフェに謝罪に行った。ユノは朝から用事があると留守にしていた。

カフェでは何故かカイとテミンがエプロンを身につけて働いていた。

「何故2人が!?」

「臨時バイトとして手伝ってくれたんだ。助かったよ。おかげでクリスマスを乗り切れた。」

店長がにこにこ顔で出てきた。

「店長、ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした。」

「いやいや。災難だったね。犯罪グループの検挙に役立ったんだって?鼻が高いよ。」

テミンはエプロンの紐を握りしめ、俯きがちに僕に近づいた。

「チャンミン。スニのこと、ごめんね。」

はっ。
そう言えば、スニのことをまだユノに謝ってない。今夜こそ謝らなければ!

「テミンさん、チャンミンのために何かしたいって、バイト手伝ってくれたんだよ。」

「テミンさん……カイも……ありがとう。」

嬉しくて涙ぐんだ僕に、テミンが抱きついた。
カイが羨ましそうにしている。

「てて、テミンさん!僕はもう大丈夫ですから。気にしないで。」

「じゃあ、ユノさんとラブラブに?」

「それが残念ながら……。」

「はあ!?スニちゃんにあんなにアプローチしてたくせに、ユノさんてチャンミンには弱腰過ぎる!チャンミンのことあんなに好」

「わー!!!!!」

カイがテミンの口を塞いだ。

「何すんの!」

「あい……アイスコーヒー運んで?」

「は?カイくんが運んで。」

「あ、はい。」

何だかこの2人、上下関係が……。

「もうさ、チャンミンが押し倒しちゃえば!?」

テミンの鼻息が荒い。モモちゃんとシンドンさんみたいな人がここにも居た。

「押し倒してやっちゃえばこっちのもんだって!」

「ひぃっ!テミンさん破廉恥な!」

オスの顔で笑ったテミンは、席を立ったお客様の会計に向かった。

「カイ、テミンさんと付き合ってるの?」

「いや、まだ猛烈アプローチ中。でも、時間の問題だな。今度デートしてくれることになった。」

羨ましい。
何故に僕とユノは勇み足なのか。
もう、ほんとに押し倒しちゃおうかな。

待てよ。やっぱり僕のこと弟にしか見えないのかも。mychangminて、弟にも言い得る。キスも昔からしてたわけだし。単なる親愛の証なのか。

頭がぐるぐるし始めた僕の肩をテミンがぽんと叩いた。

「冬休みはどうするの?」

「実家に帰ります。でも今日はこれからユノにクリスマスプレゼント買いに。遅くなっちゃったけど。」

「じゃあ渡すとき告白したら?」

「告白!」

「いいじゃない。ユノさんとチャンミンが幸せになってくれたら僕も嬉しい。」

テミン、いやテミンさんは、天使みたいに笑った。その笑顔を見つめるカイは幸せそう。

テミンさんとまた仲良くなれて嬉しかった。

僕は弾む心で足取り軽く買い物に出掛け、ユノへのプレゼントを携えて帰った。



シウォンから現金をせしめ、チャンミンへのプレゼントを買って俺は家に戻った。

『カフェに挨拶に行ってきます。』

テーブルの上に置き手紙。

俺が心配しないように、行き先を伝えてくれるのが嬉しい。

プレゼントはディアスシティで告白する時に渡そうと決めていた。それまでバレないようにとスーツケースの奥に潜ませていると、チャンミンが帰って来た。

「ただいま。」

「お、お帰り。」

玄関に立ったチャンミンは探るような目で俺を見た。

「ただいまのチューはいたしますか?」

な、何故に謙譲語。
後ずさりしかけたが、俺は男の中の男ユノ。
ここで怯むわけにはいかない。

「いたして欲しい。チューではなくキスの方で。」

「……で、では。」

チャンミンは俺の唇にチュッとキスした。

「ほえー。」

しまった。
変な声が出てしまった。

顔を真っ赤にしたチャンミンは、大量の買い物袋を掴み、ドカドカと部屋に入っていった。

俺が正気に戻ってリビングに行くと、エプロンをしたチャンミンがせっせと料理に励んでいた。

実にいい眺めだ。
次々と並べられる料理。

「なんか豪華だね。」

「今日はお詫びのため、ご馳走にしました。」

「お詫び?」

「あの……嘘ついてたから。」

「あぁ、ロジェさんのことならもう……。」

「そそ、そじゃなくて……スニの……。」

「す……に……」

俺は焦った。
告白を前にスニちゃんの話をされるのは非常にまずい。

アプローチしたのも、デートしたのも、キスをしたのも、チャンミンに似てたからなんてまだ言えない。俺のプランが狂ってしまう。

「チャンミン!スニちゃんのことは忘れよう!」

「へ?」

「夢だったんだよ、夢!」

チャンミンは眉をぐいっと上げて訝しむ。

「そうはいきません。ユノを騙して恋心を弄んだことを謝罪させてください。ごめんなさい!!」

「いや、俺も気づかないなんてどうかしてたんだ。もういいだろ。ご飯美味しそうだな!食べよう!」

食事を始めた俺を、フォークを縦に持ったままチャンミンがじっと見つめる。
食べにくくて仕方ない。隙を見せたらぶっ刺されそうだ。

「あ~美味しいなぁ。チャンミン……食べないの?」

「ユノの女性のタイプはあんな感じなのですか?」

チャンミンは謝罪なんて言ったくせに追求を始めた。

「そういうことでは……。」

「前から聞いてみたかったのですが、ユノの好みのタイプってどんな?」

「えーと……。頭が良くて、綺麗だけど可愛くて、仕事に理解があって、背が高くて、目はくりくりしてて、掃除ができて、料理がうまくて、あと、ちょっとかっこいい人。」

「ふむ。残念ですね。そんな人いません。」

ここに居ます!
目の前に!

「しかし、スニのどこが良かったのですか?全部当てはまるわけではないじゃないですか。」

チャンミンの追求の手は緩まない。
俺の頭はきりきり舞いして目が回ってきた。

「初めての気持ちとか恋とかなんとか言ってましたけど、一目惚れじゃタイプかどうかなんて分からないでしょう。結局、見た目?」

「見た目……は、タイプだった。」

「なるほど。鼻が高くて二重瞼。髪型は?」

「ショートでも、ロングでも、好きな人なら別に。」

「ストレート?パーマ?」

「いや、どちらでも可愛いんじゃないか?」

「なるほど。年齢は?年下?年上?」

「考えたことないよ!あんまり離れてると話が合わないかもしれない。」

「なるほど、なるほど。では服装は?」

この追求の終わりが見えない。
チャンミンは何を導き出そうとしているんだ。

俺の脳はほとんど機能を停止し、ただ唇が回答する。

「服装は何でもいい。ジーンズとTシャツで十分だろ!」

「そんな色気のない。ま、スカートかパンツかにはこだわらない、と。」

「ジーンズは好きだ。膝小僧がちらっと見えてるのは可愛い。」

俺の口が勝手に喋りだした。

チャンミンは自分のダメージ加工されたジーンズから覗く膝に目をやった。

「髪型は気にしないけど、襟足がくるんと丸くなってるのは堪らない。」

俺の口はもう止まりそうにない。

チャンミンが右手を自分の襟足にやった。

「耳は大きくて、小動物みたいに飛び出してるのがいい。すぐ赤くなったら最高だ。」

チャンミンの耳が赤くなった。

「口は大きくて、恥ずかしがるとすぐ内側に入れてムニムニ動かすからドキドキする。」

チャンミンは唇を噛んだ。

「でも見た目よりも、内面が大切だ。いつも心配して、仕事を手伝おうとしてくれる。健康を気遣った料理を作ってくれる。忙しい時はお弁当を持たせてくれる。」

俺は温め続けたプランを放棄した。
もう戻れない。

「深夜まで起きて待っていてくれることもある。よく拗ねるけど、たまに凄く可愛い行ってきますのチューをしてくれる。」

テーブルに置かれたチャンミンの指が震えた。

「唇にただいまのキスをしてくれたら、天に昇る気持ちになる。」

唇も震えた。

「生まれてからずっと、俺のそばにいてくれる。」

チャンミンは俺を見た。
俺は視線を合わせて、深呼吸した。

「そんなチャンミンが、俺の理想のタイプだよ。」

チャンミンの大きな瞳は涙で滲んで、更に大きく見えた。





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土と焔の森 18

土と焔の森
18



「ユノさん、シムさんから荷物届いてますよ。」

「ん?あぁ、ありがと。」

1月も後半に入った月曜日、編集長から呼び出されて出社した俺のデスクに、シムさんの担当君が小さな段ボール箱を置いた。

包装を解く俺の背後から、担当君が興味津々で覗く。中には皿が複数枚丁寧に梱包されて入っていた。

「これ、いいな。」

歪な三角形をした器。墨色の背景に1本の木の枝を模したような朱色が入った皿に目が留まった。

脳内に夜の葉桜が浮かぶ。

白身の刺身は桜の花びら。
山葵はわずかに芽を出した若葉。

メニューはまだ届いてないが、春の旬を迎える魚は墨色に映える。女将は絶対気に入る。

早速仙台の宿にアポを入れた。
公私混同を編集長にバレないよう、新しい商品の打ち合わせを名目にした。

「ユノさんとシムさんて、仲良いんですよね。このお皿、プレゼントですか?どうして担当外れたんですか?」

純粋無垢な顔で後輩に聞かれ、俺は苦笑した。

「あー、うん。俺も忙しいし、これからはお前にもっと担当任せたいんだ。」

担当君は喜んだ。

「ユノさんの担当引き継げるなんて光栄です!毎回ヒットしますもんねぇ。俺もユノさんみたいになりたいんです。」

「こちらこそ光栄だよ。シムさんとも何とかうまくやってるみたいだし。期待してるよ。」

「色々アドバイスください!あ、シムさん来月誕生日らしいんで、テンション上がるお土産買って打ち合わせに行きたいんですけど、何がいいですかね。」

「ビールかワインでいいんじゃない?」

シムさんの誕生日が俺と同じ2月とは知らなかった。そんな話もまだしたことがないのに、溺れる自分はどうかしている。

皿のお礼に、久々にシムさんに電話した。
彼は2コールで出た。

「わー。スマホ泥だらけ。」

「焦って取らなくていいのに。」

「だって……。」

俺が連絡を入れなかったことを気にしていたのか。

「お皿ありがとう。すごくいい。早速来週見せに行ってくるよ。」

「女将が気に入ってくれるといいけど。」

「仕事は順調?新年から出張続きで、連絡しなくてごめん。」

「……お疲れ様。僕は変わりないよ。ねぇ。今度いつ会いに行っていい?」

スケジュールを確認しようとした俺に、編集長が打ち合わせルームから顔を出して声をかけた。

「ごめん!これからミーティングなんだ。また夜に連絡する。」



久しぶりにシムさんの甘えた声を聞いてにやけながら打ち合わせルームに入った俺は、編集長の話に表情を失った。

「ユノ。お前にドイツに行って欲しい。」

思ってもみない打診だった。

「それは、ドイツで働くということですか?」

「もちろんずっとじゃない。1年か、2年。」

シムさんの甘い声が遠退いていく。
テーブルの上に置いた手を握り締めた。

「この前紹介したレオンさんの会社に、東方見聞誌のヨーロッパ分室を置くことになった。レオンさんと協力して、日本との橋渡しになって欲しい。」

「俺、ドイツ語できませんよ?」

「英語が主だから問題ないし、今すぐの話じゃない。目標は半年後。ドイツ語の日常会話はそれまでに勉強できるだろ。会社で支援するから。」

悪い話じゃない。
大きな仕事だ。
今までの俺だったら、飛び付いたであろう内容だった。

「少し、考えさせてください。」

「もちろん。だが、来月には返事をくれ。ユノが駄目となると俺の構想が崩れる。」

俺に任せようとしてくれる編集長の期待は嬉しい。ただ、日本に残したくない人がいる。

「シムさんとはうまくいってるのか?」

「ええ……。まあ。たまにしか会えませんけど。」

「応援したいのに、こんな打診してすまない。でも、他に任せたいやつが思い付かなくてな……。」

「いえ、ありがとうございます。できるだけ早く返事します。」

家に帰ってから、フランクフルトのことを調べた。何度か行ったことはあっても、住むかもしれないなんて考えたことがなかった。

フランクフルトと日本のフライトは10時間以上。時差は8時間。

シムさんと離れ離れになることは、そんな数字より大きな隔たりとなって俺の心にのしかかった。

「シムさんに連絡しないと……。」

月末に会いたいと、メッセージだけ入れた。
電話で声を聞いたら、思ってもいないことまで口走りそうだった。

すぐ返事が来た。

『じゃあ金曜の夜に行く。僕も仕事で疲れてるから、今回は最終の新幹線にする。』

『新幹線代は俺が出す。東京駅で待ってる』

可愛いスタンプの返事が来た。
それが、無性に悲しく見えた。



仙台の宿に皿を持って訪れると、女将は感嘆のため息を漏らした。

「素敵だわ。ユノさんの仰る盛り付けで出したいです。鯛のお刺身をメインにするから、丁度桜の花びらになるわね。」

「良かったです。3月までにお届けできるよう製作して貰います。」

「シムさんにも宜しくお伝えください。」

「あ、はい……。」

女将はふと心配そうな顔になった。

「ユノさんお風邪?顔色良くないですよ。」

シムさんと会ったことのある女将に、俺は甘えたくなった。

「少し、悩みをお話していいですか?」

コーヒーを入れてくれた女将は、俺を庭園の見えるテーブルに案内した。

ドイツに行くかもしれないこと、今後の仕事への不安。何の関係もない俺の話を、女将は時折庭園に訪れる野鳥に目線をそらせながら、柔らかな表情で聞いていた。

「凄いじゃないですか。30歳で新しい挑戦。ユノさんなら、やり遂げられますよ。」

「光栄なことですよね。」

「でも、シムさんを残していくのが嫌だ。そんな顔ですね。」

「参ったな。バレました?」

「ふふふ。あんなにのろけた姿を見せられましたから。」

「連れ去りたい衝動にかられることがあって。どうかしてますよね。彼だって生活も仕事もあって、男同士で結婚できるわけでもないのに。独占したくなってしまうんです。」

女将は庭園の池に降り立ったオナガガモを見つめた。

「鳥って不思議よね。オスの方が美しい。」

「あ、あの白いラインが入った綺麗な方がオスですか。そう言われてみれば、そうですね。孔雀なんてあんなに派手ですし。」

「シムさんとお会いした時、孔雀みたいに綺麗な方だと思ったわ。」

孔雀か。
目鼻立ちのくっきりとした顔や、カールした髪、長く細い身体は、孔雀の絢爛な美しさに似ていると言えなくもない。

「綺麗で華奢だけど、オスなのよ。守って囲う必要なんてない。」

「オス……。」

「シムさんとユノさんが本当に愛し合ってらっしゃるなら、1度くらい離れたって構わないんじゃないですか?」

「俺の方が女々しいですかね。」

「そんなことないわ。離れたくないくらい好きなんて、ユノさんに思われたい人、たくさんいらっしゃるでしょう。」

「買い被りすぎですよ。シムさんだって、大して俺に惚れてるのかどうか。」

「まー。ユノさんて案外バカね。」

「へ……。」

「普通ね、部屋に女将がお邪魔したら、みんな私のこと見るんです。シムさんなんて、お皿とユノさんばっかり見てたんですよ。失礼しちゃうわ。」

女将は茶目っ気たっぷりの膨れっ面で俺を笑わせた。

「離れても冷めない愛なんて素敵だわ。少女漫画みたいで。」

「現実はそんな甘くは……。」

「だから夢見るんじゃないですか。ユノさんがドイツで頑張って、シムさんも日本で頑張って、それでも冷めないなら本物だし、冷めてしまうならご縁がなかっただけ。」

「それが嫌なんですけどね。」

「冷めないことを祈ってます。漫画みたいな恋の話、是非聞きたいから。」

話して良かった。
女将の可愛らしい笑顔に、俺の気持ちも綻んだ。


俺はシムさんが東京に来る日を待った。





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短編詐欺だった本作。
まだ終わらない。

探偵case3がラストを迎えているため、今週いっぱい土と焔の更新を休止いたします。

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アネモネの献身 29

その探偵、恋は専門外につき
-アネモネの献身-
29



疲れがどっと出て、クリスマスは恋し懐かしい我が家のベッドで眠り明かした。
安心できる場所でゴロゴロする幸せを噛み締めた。

クリスマスらしいことなんて、何もなかった。
さすがにケーキを作る元気もなく、ユノが買って来てくれたショートケーキを食べただけ。

でも、この上なく幸せだった。

「チャンミンごめん。プレゼント買う時間なくて。」

「あ、そんなの気にしないでよ。僕もだから……ごめん。」

「チャンミンが帰って来てくれただけで十分プレゼントだよ。」

ユノはやたらと甘い雰囲気を出してくる。
僕はむず痒くて身悶えした。

「ろ、ロジェさんは僕のこと、警察に伝えてくれたんだね。」

「ああ。勇気がいっただろうな。直接親父さんのところに話しに来たんだって。」

「ロジェさんは、捕まっちゃうのかな。」

「罪は罪だからな……。」

ユノは瞼をぎゅっと閉じて、視線を下げた。

「チャンミンを助けるために警察に行ってくれたんだ。騙されて加担しただけだし、大した罪にはならないと思う。」

ユノは、僕が不在の間に調査したことを全て話してくれた。
お祖母さんと仲睦まじい様子を聞いて、ロジェさんが全てを告白してくれたことが、どんなに辛い決断だったか分かり、悲しかった。

「ロジェさんとお祖母さんが、また幸せな時間を過ごせるといいね……。」

「自分で招いたことだから、責任は取らないとな。どんな理由があっても、犯罪に加担したことには変わらない。ルールを守らなかった彼にも、落ち度はある。」

「でも、大切な人に何かあったら、僕もルールなんて破ると思う。その気持ちは分かるな。」

「チャンミンの大切な人って……。」

『ピンポーン』

ユノが顔を赤くしたところでチャイムが鳴った。

慌てて玄関に出たユノは、仏頂面で戻ってきた。

「シウォンが来た。」

「チャンミナ!ユノにぶたれた顔は腫れてないか?君の王子が見舞いに来たよ。」

さすがにもう諦めたかと思ったのに、やはりシウォンさんは強靭な精神の持ち主だった。

シウォンさんが持ってきた真っ赤なバラの花束を、家中の花瓶やらコップやらに無理やり活けながら、僕はソファで微妙な距離を保つユノとシウォンさんをちらちら盗み見た。

「ユノ。俺はお前みたいな貧乏人には負けない。」

「あ?チャンミンはお前にも、誰にも渡さん。」

ななな、なんたる会話。
小声で話したって僕の聴覚は人並み外れてるんだぞ。全部丸聞こえだ。

シウォンさんはどうかしてるけど、ユノもユノだ。僕への気持ちなんて何も話してくれてない。

mychangminなんてパスワードにしてたくせに!
俺のチャンミンって、どういう気持ちで手紙書いたわけ!?
昨日のキスは単なるお帰りの挨拶ってわけじゃないよね!!?

「何の話してるの!?」

僕がテーブルにつくと、シウォンさんとユノは押し黙り、暫く睨み合っていた。

「で、今日は何の用だよシウォン。」

「あ、そうだった。チャンミナの美しさを前にして俗世のことを忘れかけていた。」

相変わらずの歯が浮く発言に、コーヒーを溢しそうになった僕を見つめ、シウォンさんは微笑みかける。

「チャンミナとロジェさんの証言から、スペインからの貨物船に乗船している奴がグループに乾燥大麻を届けていたことが分かったよ。」

「あのクーラーボックス……。」

「そうだ。今押収して調べてるが、ドローンの海上版とでも言うか、操縦されて桟橋に届けられる仕組みだったみたいだな。」

「入港して検査が入る前に、海に放り投げていたってことですね。」

「ああ。チャンミナを拉致した男、グループのリーダーが捕まったおかげで、セレナシティの販売グループだけじゃなく、貨物船の仲間も含めて一網打尽にできそうだ。」

「証拠はあるんですか?」

「ロジェさんは、少し前から不審に思い出していた。クーラーボックスに入っていた手紙を、コピーしていたんだ。」

「手紙って、リーダーと貨物船スタッフとのやり取り?」

僕は合点がいった。
ユノも僕に頷いた。

「そのやり取りはスペイン語だったってことか。だからリン先生にスペイン語を習ってたのか。」

「ロジェさんは、自分で調べても意味が分からない文章を、スペイン語の先生に訳して貰っていた。それが例のリン教授の奥方だな。」

「リン先生は知ってたのか?ロジェさんのやってること。」

ユノの問いにシウォンさんは首を振った。

「それはないだろう。ロジェさんは誰にも話してなかったし、断片的な文章だけでは手紙の全容までは分からない。」

「うん。リン先生は関係ないよ。旦那さんの選挙に向けて、大麻のことを聞いていただけ。」

ユノは僕を見てふっと笑った。

「チャンミンは優秀な探偵になれるね。」

探偵になって、ユノと一緒に仕事できたらどんなに楽しいだろう。

24時間ずっと一緒。
ぐふっ……。

しまった。鼻の下が伸びてしまった。

「警察の方が向いてるだろ。俺のパートナーになって貰いたいね。」

「ああ!?ふざけるな!チャンミンは俺の……お、俺のっ……!」

ユノは顔を真っ赤にして鼻息を荒くした。

「とにかく!警察はダメだ。今回だってお前の依頼のせいでチャンミンを危険な目に遇わせたんだからな!」

「まあそこは謝る。申し訳ないついでに、警察のことで、2人にお願いがあって今日は来たんだ。」

シウォンさんの話は意外なものだった。

「冷徹無比なロジェ副署長が、ロジェさん、つまり息子のアランさんを助けたいと懇願してきた。あれでも人の親なんだな。」

「ロジェさんのお父さんが……。」

「それは無理があるだろ。手伝ってたのは事実なんだから。」

「それでだ、中身を知らなかったってことにしたい。」

僕はぽかんとし、ユノは眉を寄せた。

「真実をねじ曲げるのか?」

「アランさんはクーラーボックスの中身を知らなかった。最近になって知って調べてただけ。それで良くないか?どっちにしたって、彼は情状酌量で大した罪にならない。」

シウォンさんは何だか楽しそうに、僕の出したコーヒーの香りを吸い込んだ。

「警察でも、まだ一部の人間しかアランさんの話は知らない。警察以外で知ってるのは、ユノとチャンミナだけ。」

シウォンさんがコーヒーをごくりと飲み込んだ喉の動きを、ユノはじっとりと見つめていた。
それから自分もコーヒーを手にし、一気に飲み干した。

「警察の捜査のことは俺達には関係ない。勝手にしろ。でも、ロジェさんがそれを良しとするかは知らないけどな。」

「ふふ。助かるよ。」

「ふん。チャンミンが無事だったから許すだけだ。チャンミンはそれでいい?」

「僕も、もちろんいいよ。ロジェさんは僕を助けようとしてくれたんだから。その代わり、副署長にはロジェさんやお祖母さんと過ごす時間をちゃんと取って欲しい。」

「チャンミナ……やっぱり女神だ。心も美しい……。」

ユノは僕の手を握ったシウォンさんの腕を手刀で叩き落とした。

「用はそれだけか?終わったなら帰れ!」

「よし。後は署内の調整だな。腕がなる。」

シウォンさんはユノに叩かれた腕をさすりながら、満面の笑みで帰って行った。



「ちっ。結局シウォンが1番得したな。」

ユノは苦々しい顔だ。

「目の上のたんこぶだったロジェ副署長に恩を売って、向かうところ敵なしだよあいつ。ボーナス弾んで貰おう。」

「ふふ。ユノだって嬉しかったくせに。お祖母さんのこと心配だったんでしょ。」

「ああ、幸せな家庭になれるといいな……。」

見つめ合った僕らに微妙な空気が流れる。

ユノは「トイレ行ってくる!」と逃げ去った。

なんだこりゃ。
これじゃ前と変わらないじゃないか。

僕の気持ちに気づいてないのか?
そんなまさか。
パスワード解いたのに?

僕は安定の、ぐちゃぐちゃした気持ちを抱えたままだった。





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土と焔の森 17

土と焔の森
17



温泉から戻った後、数日間シムさんは東京に残った。

近所の神社に初詣に行ったり、銀座の街をブラブラしたり、映画を見たり。
いつもより人の少ない東京の街を堪能した。

2人きりで過ごせば過ごすほど、俺はシムさんを手離したくなくなった。

大雪でも降って交通機関が麻痺すればいい。
シムさんの窯が雪に埋もれて帰れなくなればいい。

そんな小学生みたいな妄想までした。


「東京にはこんなに物が溢れてるのに、どうして通販が人気なんだろ。」

百貨店の食器売り場で洋食器を眺めながら、シムさんが呟く。

「あり過ぎるんじゃないか。とても選べない。それに、みんな忙しいから、誰かが代わりに厳選してくれたら助かるだろ。」

「ユンホさんは、今の仕事、楽しい?」

「そうだな。新しい出会いがたくさんあるのは楽しいかな。お陰でシムさんにも出会えたし。」

「毎日刺激があったら、色んなアイデアが生まれそう。」

シムさんは森に引き籠っている。彼の若い奔放な感性は、あの森に閉ざされてしまっているのではないか。

「作品のアイデアは、いつも1人で考えるの?」

「アイデアなんて……。僕は暁月焼の再現を目指して今までやってきたから、新しいものを生み出しているわけじゃない。ただの真似。」

シムさんは、和食器のエリアまで来ると、鮮やかな色彩で見事に紋様が染められた有田焼のぐい呑みを手に取った。

「ここに暁月焼が並んでも、霞んじゃうね。」

「そんなことない。俺は暁月焼の芸術性と実用性のバランスが好きだよ。食材に余白を与えてくれているから、盛り付けがイメージできる。」

「でも、僕がヘキストに憧れるみたいに、喉から手が出る程欲しいなんて思えないでしょ。今は、目新しいから売れるだけ。」

「俺は惚れたよ。喉から手が出るくらい欲しかった。」

シムさんはふふっと笑い、首を横に振った。

「ユンホさんは、僕込みで好きになったんじゃない?」

俺は息を呑んだ。
真理を言い当てられた。

俺は、彼の陶器を美しいと思った。
同時に、シムさんに惹かれていた。

シムさんの容姿なしには、あんなに心踊るほどときめいて、暁月焼を掲載しよう躍起になったりはしなかっただろう。

一時的にはウケる。
編集長だって、シムさんの容姿に食いついたんだ。

シムさんは、俺の深層心理に感付いていた。

「いつも思うんだ。何か足りないって。単なる陶器としてなら上等だと思う。でも、それ以上じゃない。」

「そんな風に思ってたから、売ることに前向きじゃなかったのか。」

「ユンホさんを好きになったりしなかったら、掲載を受けるなんて言わなかったよ。思わずキスして動揺して……。ユンホさんのせいだよ。」

口を尖らせて頬を膨らますシムさんは可愛い。

彼は、陶芸家として、暁月焼を完成させたその後に迷っている。

俺と一緒に新しい世界を見ないか?
俺の願いは、シムさんの迷いの答えになれないか?

独占欲とも捉えられかねない俺の決意を、シムさんにどう伝えたものかと思案した。

「僕は2度と会わないなんて言いながら、ユンホさんとの縁を失いたくなかったのかな……。」

シムさんのいとおしい呟きは、俺に火をつけた。

ドイツで抱いた目標は、願望になっていた。
もう止められない願望。
いや、欲望か。

俺はシムさんの身体だけじゃなく、心も、仕事も、手に入れたかった。

「温泉でした俺の話さ、続きがあるんだ。売るだけじゃなくて、一緒に何か作りたい。」

「え?ユンホさんが作るの?あんなに不器用なのに?」

「……失礼な。作るって、アイデアのこと。」

シムさんはきょとんとした。
手にしていた有田焼をそっと戻し、俺の方を向く。

「俺の為でもあるんだ。俺さ、逸品を探すだけの毎日より、一歩進んでみたい。」

「全然話が見えない。」

「俺は全国を飛び回ってるから色んな出会いがある。俺、シムさんのこととなるとアイデアが湧き出す気がするんだ。」

「ユンホさんが出したアイデアで、僕に作品を作って欲しいの?」

「ああ。まだ具体的に何かあるわけじゃないけど。」

「僕にはさっぱりイメージが湧かないな。」

それでいい。
シムさんが欲しくて暁月焼からもあの町からも奪いたい俺の欲望なんて、分からなくていい。

「シムさん、俺がお願いした抹茶茶碗のことだけど、暁月焼じゃなくて、今シムさんが作ってみたい作品にして。」

「え……それじゃ、いつ出来るか分からないよ。」

「いいんだ。シムさんが、暁月焼だけに捕らわれずに作った作品を見てみたい。興味あるもの、色々試してみてよ。」

「そんなの難題だなあ。」

「楽しみにしてる。」

シムさんは、参考にしたいからとフロアに居座って、瞳をくるくる動かしながら食器を眺め続けた。

陶器を手にするシムさんは絵になる。
俺は、楽しくて仕方ないといった表情で過ごす彼を見守った。

「こうやって色んなもの、見たらいいよ。」

「うん。勉強になる。学生の頃はよく旅行して色んな陶器を見て回ったけど、最近はずっと籠ってたから。」

「いつか、ヘキストの工場にも行こうか。」

シムさんは目を見開いて俺の腕を掴んだ。

「行きたい!」

そんな顔されたら、すぐにでも連れていきたくなる。

俺が大金持ちだったら、シムさんに何でもしてやるのに。

「でもお金貯めなきゃ。はぁ。やっぱり暁月焼たくさん売らないと駄目だね。頑張るよ……。」

「あの窯を維持するのは大変?あそこは借りてるの?」

シムさんの表情がにわかに変化した。
赤く染まっていた頬はこわばり、垂れ下がっていた眉がピンと存在を主張する。

「あそこは、ただで借りてる。」

無料で?

「あの森を管理してる不動産屋さんの厚意で……。」

シムさんは俺との距離を少し取った。

「お腹すいた。上の階で何か食べない?」

歩き出したシムさんの後ろ姿に、心の泥が沈殿する。

俺は、溺れている。
どろどろした泥に、どっぷり浸かった感情で彼を手に入れようとしている。

不動産屋。
亡くなった社長と、その未亡人。
俺に何を隠してる。

女とのあんなシーンを見せつけておいて、言い訳もしないシムさんに苛立った。

俺のものだと思わせながら、肝心なところをさらけ出さない彼への疑念を払拭できない。

「階段の方が近い。こっちから行こう。」

強引に手をひいた俺に、シムさんはよろめいて非難の視線を向けた。

「ちょっと、痛いよ。」

階段の踊り場まで引っ張って歩き、無理やり唇を合わせた。

「ユンホさんっ。どうした……ん……」

抗議の声は塞いだ。
食らいつくように口付け、こじ開けて舌を入れた。
戸惑いながらそれに応え、次第に甘くなるシムさんの吐息に安堵する。

やっと唇を離すと、シムさんは俺の目を窺い、俯いた。

「ごめん。急にしたくなった。」

「うん……。」

乱れた前髪に手を添えて撫でる。
シムさんは俯いたまま、「ごめん。」と呟いた。

階段を上る彼のなで肩は、いつも以上に狭く頼りなく見えた。

その謝罪は何に対して?
それを聞けたらどんなに楽か。

「参ったな……。」

溺れる自分が怖くなった。


シムさんが東京を離れてから1週間以上、俺は彼に連絡しなかった。

シムさんからも、連絡は無かった。






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アネモネの献身 28

その探偵、恋は専門外につき
-アネモネの献身-
28



ガラスが散乱する音と、何かが床に叩きつけられた音。

そして、僕の大好きな人の声。

「チャンミン!!!」

ユノ。
ユノ。
ユノ!

名前を呼びたいのに、ユノの声を聞いた途端に涙が溢れて、僕は声が出なかった。

「チャンミン!どこだ!!!」

ユノはやっぱり僕のヒーローだった。
僕の窮地に駆けつけてくれる。

銀縁メガネに押し倒されたままなのに、僕はもう安心していた。
ユノがここに居る。
それだけで、もう大丈夫だと信じられた。

部屋に走り込んで来たユノは、押し倒されている僕を見て、鬼のような形相になった。

頬に一筋傷がある。
割れたガラスが当たったんだろう。

銀縁メガネはへらへら気色悪い笑みを浮かべてソファの裏から何か取り出して立ち上がった。

ユノが顎をひいて流れる血をくいっと親指の付け根で拭った瞬間、銀縁メガネが持っているものを構えた。

拳銃だった。
生まれて初めて本物を目にした。

ユノがいくら運動神経が良くたって、弾丸には勝てない。

安心して弛んでいた皮膚が、威嚇した猫みたいに総毛立つ。ありとあらゆる神経が僕の身体に動けと指令を伝える。

僕は床からバネのように跳ねた。
使ったことのない筋肉まで総動員した。

「ユノ逃げて!!!」

僕は銀縁メガネの手首に噛みついた。

「いってぇ!」

振り払われて身体を床に叩きつけられても、軋む身体を捩って銀縁メガネの脚に噛みつこうと僕が顔を上げた時、ユノの身体は宙を舞っていた。

「チャンミン!」

空気が鋭く切れる音がした。

蹴りあげた太ももからつま先までのしなやかな筋肉。ジャングルに生きる、鍛え上げたジャガーの後ろ脚みたい。

その脚の軌道が僕にはスローモーションに見えた。

銀縁メガネの顎にユノの上段回し蹴りがめり込み、鈍い音と共に歯が数本飛んでいく。

後方にぶっ飛んだ銀縁メガネは、後頭部を壁に打ち付けて伸びた。

床に落ちた拳銃を廊下まで滑らせ、ユノは僕に駆け寄った。

「チャンミン!!!」

僕を抱き起こしたユノの顔は、さっきの形相とは別人だった。
不安でいっぱいの目で僕の顔を両手で包んだ。

「無事か!?チャンミン!何か言って!」

僕は笑った。
ユノを安心させようと懸命に。

でも張りつめていた緊張の糸がぷつんと切れて、笑っているのに涙がぽろぽろ溢れてしまった。

ユノの眉はみるみる下がり、目に涙が溜まった。ユノは、僕を全身で抱き締めた。

「ひっ……ユノ……」

僕はユノの胸で泣いた。
あったかくて、柔らかい胸で、めいっぱい息を吸い込んで名前を呼んだ。

「ユノ…ユノ………」

僕の背中をさすり、ユノはポケットからナイフを取り出してロープを外した。

バタバタと足音と怒号がして、警察が何人も部屋に入ってきた。
でも、騒然とした部屋で、僕とユノだけは、隔離された空間の中に2人きりで居る気がした。

やっと自由になった腕で、僕はユノにしがみついた。

警察が銀縁メガネを部屋から連れ出して行く。


「ユノ!チャンミナ!大丈夫か!」

「遅くなってごめん!」

シウォンさんとロジェさんが部屋に入ってきた。

僕らを見て、シウォンさんはこの世の終わりみたいな顔をして立ち尽くした。

ユノはシウォンさんを意にも介さず、僕から視線を離さない。

「チャンミン。」

ユノは僕をじっと見つめたまま片手を上げ、苦しそうに顔を歪めると、僕の頬をパンとはたいた。

「わー!!!チャンミナの美顔になんてこと!」

シウォンさんが叫んだ。

叩かれた頬がじんじん熱を持つ。
その頬に手を添えて、ユノはおでこをこつんと合わせた。

「痛い……。」

「バカチャンミン……。」

ユノはふうっと息を吐いた。
安堵のため息だった。

「俺の忠告を無視して、みんなに心配かけて、反省しろ。」

「うん……。」

「それと……チャンミンに何かあったら……俺は……俺は、生きていけないんだからな!俺も苦しむんだからな!頼むから……無茶しないでくれ……。」

ユノは綺麗な顔をくしゃくしゃにしてボロボロ涙を落とし、しゃくり上げて泣いた。
ユノの思わぬ姿に動揺して、僕もボロボロに泣いた。

「心配かけて、ごめんなさいっ。」

「無事で、良かった……。」

ユノは眉間に皺を寄せてゆっくり顔を傾け、僕の唇に、キスした。
ユノの唇は、ちょっとカサついていた。

身体が痺れて、でも温かくて、僕はまた涙がボロボロ溢れた。

「おかえりチャンミン。」

僕はユノに抱きついた。
それから、ユノの唇にぶつかるみたいなキスをした。

「ただいま。」

シウォンさんが「ぐえっ」と変な声を出した。

ユノは僕をぎゅうぎゅう抱き締めた後、シウォンさんを見上げた。

「警察に行った方がいいよな。」

「あぁ~……ああぁ~……」

シウォンさんは薬でおかしくなった人みたいにふらついて頭を左右に振っていたが、扉の角に額をしこたまぶつけた後、キリリと眉を上げて警察官らしい顔に戻った。

「チャンミナの話が聞けるとありがたい。だが、ロジェさんから大体のことは聞いたから、明日でも構わない。」

「大丈夫です。話せます。」

顔をあげて答えた僕に、ユノは誇らしそうに目を細めた。

僕らはパトカーに乗って警察に行った。

警察署でシウォンさんが出してくれた大量のサンドウィッチを完食し、僕はかなり元気になった。

僕が見たこと、聞いたこと、僕のために通報してくれたのであろうロジェさんのこと、全て伝えた。
話し終わった頃には、日付が変わっていた。

ユノはずっと、部屋の外で僕を待っていてくれた。


ランニングウェアのままの僕に、ユノはマフラーをぐるぐる巻いて、車を取ってくるから待ってろと言ったけど、僕はもう片時もユノから離れたくなかった。

「一緒に行く。」

ユノのダウンジャケットの袖を離すまいと強く掴んだ僕を見て、ユノはにっこり笑い、手を繋いで歩き出した。

クリスマスにはおよそ不釣り合いな格好の僕の手を引いて歩くユノの半歩後ろ。
僕はずっとユノばかり見て歩いた。

アナの繁華街は、深夜にも関わらず人でごった返していた。
中心部の広場に、真っ白なライトで飾られたクリスマスツリーがあった。

「綺麗……。」

呟いた僕を振り返って微笑むと、ユノはツリーの下まで僕を引っ張って行き、向かい合って立った。

ツリーのライトでユノの瞳がキラキラ光っていて、僕は見とれた。

僕の両手を掴んだユノ。

「チャンミン……。」

「な……なに?」

僕の心臓は空高く飛んでいってしまいそうなくらい早鐘を打って、声が震える。

「チャンミン……俺……」

「わっ……」

酔っ払った若者が点火した花火が打ち上がった音にびくついて、僕は思わずユノにしがみついてしまった。

頭上で花火が開く。

「わぁ……」

空を見上げた僕にユノは困った顔をして、1度俯いて、にっこり笑った。

「メリークリスマス、チャンミン。」

ユノの笑顔はツリーより、花火より綺麗で、眩しかった。

「ユノ、助けてくれて、ありがとう。」

「今回みたいなのはもう勘弁してくれよ。心臓がもたない。」

「心配かけてごめんなさい。」

「でも、俺のために調査を手伝ってくれようとする気持ちは嬉しいし、チャンミンはやっぱり凄いよな。俺がボケッとしてる間に、ロジェさんの行動把握してたんだもんな。」

僕は今さら焦った。
ユノが僕のPCを開いたってことは、パスワードがバレたってことだ。

「あ、あああ、あの。たまたまだよ!」

「ふうん。たまたまねぇ……って、何が?パスワードのこと?ロジェさんのこと?」

ユノはにこにこして、僕の返事を待たずに手を引いて歩き出した。

「なあ、クリスマスにディアスシティに帰れなかったから、新年に帰らないか?」

僕は迷わず頷いた。

「うん。一緒に行くよ。」





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アネモネの献身 27

その探偵、恋は専門外につき
-アネモネの献身-
27



部屋が暗くなって、もう夕方だと分かった。

お腹がすいた……。
こんな時でも僕のお腹は食べ物を求める。

明日はクリスマスイブだって言うのに、こんなところで捕まって、ユノに会えないまま。
ユノが僕をどこに連れて行ってくれようとしていたのか知りたい。

部屋の外では、銀縁メガネがひっきりなしに電話で話している声がする。

電話が切れたタイミングで、僕は壁ににじり寄って、身体を打ち付けた。

ドアがかちゃりと開いた。

「音を出すな!」

「うー。ううう!」

「あー、もう。大声出すなよ?」

乱暴にテープを剥がされ、口の回りがピリピリ傷む。

「トイレ行きたいです。」

銀縁メガネはため息をついて部屋を後にし、電気ショックの機械を手に戻ってきた。

「バカな真似しようとしたらこれで気絶させるからな。」

足のロープを外され、トイレに押し込まれた。

「手が使えないと……。せめて前で結んでください。」

「要求が多いやつだな。」

もじもじして涙目で見上げると、銀縁メガネはちっと舌打ちして、手のロープを解いた。

「早く済ませろ。ドアは開けっぱなしでしろ。」

期待してトイレに入ったけど、そこには窓はなく、外の様子を窺うことも、助けを求めることもできなかった。

トイレから戻る時に部屋をちらっと観察した。
テーブルの上に、小分けにされた乾燥大麻が並んでいた。

「あの。良かったらご飯作りましょうか。」

「は?!」

「僕、お腹空いちゃって。」

「ははっ。顔に似合わず大胆な奴だな。ロジェが戻るまで大人しく待ってろ!」

何でもいいから拘束を解くきっかけが欲しかったけれど、僕はまたロープで縛られ、口も塞がれ、小部屋に監禁されてしまった。


夜になると、人の出入りが激しくなった。
人が来ては帰るを繰り返す。
販売グループがここで大麻を受け取って、街に売り捌きに行くのだろう。

部屋がまた静かになった頃、ロジェさんが戻ってきた。

僕はふと、ユノが近くに居るかも知れないことに気づいた。ユノがロジェさんの尾行を続けていれば、きっとこの場所まで来る。

警察だって販売グループを調べてるんだ。
希望はある。

耐えろ。
耐えろチャンミン。
自分に言い聞かせた。

ロジェさんが部屋に来てくれたら脱出の方策がないか相談したかったが、銀縁メガネは僕をリビングに連れて行った。

テーブルの上の大麻の小袋は半分以上無くなっている。あんなにたくさん一日で売れるのかと、寒気を感じた。

「飯だ。声出すなよ?」

銀縁メガネはガムテープを今度はゆっくり剥がした。

ロジェさんが買ってきたコンビニ弁当を3人で食べる。異様な光景だった。

「俺はどうしたらいいんですか……。」

ロジェさんも戸惑っている。

「今は静かにいつも通りにしてろ。クリスマスパーティー気分のやつらに大麻を売り捌くのに忙しい。」

「俺を騙して、楽しいですか。」

「楽しいね。正義感ぶったお前が、やっかいな密輸の作業を手伝ってくれて助かったよ。日中はあまり出歩きたくないんでね。」

銀縁メガネはロジェさんを嘲笑した。

「お前の親父がアナ警察の副署長だって気づいた時はワクワクしたよ。いい鴨を見つけたってね。騙されるお前がバカなんだ。違法なのは分かってたんだから、お前だって同罪だからな。」

ロジェさんの手は震えていた。
怒りや、悲しみによる震えだと思う。

銀縁メガネは弁当の麻婆丼をかき込み、ロジェさんに片付けさせた。
人を顎で使い、にやにや笑っている。

狂ってる。
この男は、何も悪いなんて思ってない。
ロジェさんを巻き込んで、楽しんでいる。

うすら寒くなった。

ロジェさんとは、もう話すことはできなかった。食後、彼はアパートを追い出された。

僕は1人で小部屋に拘束され、そのまま一晩明かした。

次の日はクリスマスイヴだった。
街に幸せが溢れる日、僕は孤独だった。

ロジェさんは今日は来ていない。
ユノが近くに居ないと思うと、僕の気持ちは沈んでいく。

防音されているのか、外の音は殆ど聞こえなかった。

世界に1人ぼっちになった錯覚がした。




港から、俺はロジェさんが入って行ったアナ地区のアパートに車を走らせた。

「チャンミンが巻き込まれた。」

電話すると、珍しくシウォンは絶句した。

「販売グループに銀縁メガネの男が居ないか?そいつに連れ去られた可能性がある。」

「なんてことだ……。」

「昨日のアパートに住んでるのは、銀縁メガネの男か?言えよ!!!」

「……そうだ。あのアパートで、大麻が管理されている可能性が高い。」

「今、あいつはアパートに居るか?」

「ユノ、どうするつもりだ。」

「いいから答えろ!!!今日は突入の前日だ。張り込みくらいしてるだろ。銀縁メガネはアパートに居るか、居ないか、どっちなんだよ!!」

「調べるから待て。折り返す。」

チャンミンが車で連れ去られたのだとしたら、目の届くところに置くだろう。

命が無事なのか、今はそんなこと考えたくない。
あのアパートに無事で居てくれ。
それだけを願った。

手の震えは止まらなかった。
チャンミンに何かあったら俺のせいだ。俺が秘密にしたせいで、チャンミンは俺に黙って調査した。

全部話して、一緒に居たら、こんなことにならなかった。

昨日の朝、早く帰っていたら。
キルスのところに泊まるのを止めていたら。
PCをすぐに開けていたら。

今さら悔やんでもどうしようもないことが、俺を苦しめた。

古びたアパートは、人の出入りもなく、静かだった。

俺はアパートに入った。
昨日ロジェさんが入って行った最上階の角部屋は、廊下側に窓は無く、通気孔が塞がれていて中の音も臭いも分からない。

廊下の端の排水溝に、折れ曲がった栞が落ちていた。
踏まれてボロボロに汚れたそれをつまみ上げ、握りしめた。

間違いない。
チャンミンはここにいる。
俺のあげた栞を持ち歩いていてくれた。
僕はここだと、栞が訴えていた。

ポケットでスマホが震えた。
シウォンからだ。

「昨日の夜から張り込みしてる捜査員の話では、何度か出入りしているが、今は家に居る。」

「そうか。仕方ないな。」

「おい。待てよ!早まるなユノ!今こちらにも情報があって、突入を早めるから!」

俺は電話を切った。
もう1秒だって待てない。

ドアは固く閉ざされている。
俺がチャイムを押したところで、開けると思えない。

アパートの外壁を確認した。
足をかけられそうな場所はない。

残るは、屋上。
廊下の雨どいを伝って、屋上から飛び降りればベランダへ行けるかもしれない。

迷っている余裕はない。
俺の身体は、本能のままに動いた。




朝から誰も部屋に来ない。

お腹が空いた。
ユノと苺ケーキを食べたい。
苺を頬張るユノの笑顔を想像した。

夜になってようやく扉が開いて、銀縁メガネが部屋に入ってきた。

様子がおかしい。
にやにやと笑い、僕に近づくと、一気にガムテープを剥がした。

「うっ!」

ソファに押し倒された僕に、銀縁メガネの息がかかる。煙草と混ざって、独特の臭いがした。
こいつ、大麻を吸ってるのか。

顔を背けた僕を押さえつけ、銀縁メガネは唇をぺろぺろ舐めた。

「気持ちいいことしようぜ。」

「や、いやだ……!」

僕はもがき、ソファの滑りで床に落ちた。

手足を拘束された状態では、逃げようもなかった。呆気なくまた押さえ付けられ、男の薄っぺらい唇が迫る。

「やめろ!!!」

頭突きで抵抗しても、銀縁メガネは全く怯まない。

耐えられない。
こんなの嫌だ。

僕は、ずっと、ユノだけを好きなのに。
ユノだけに抱き締めて欲しいと、20年も願ってきたのに。

「ユノっ……ユノ!!!」

僕は無我夢中で叫んだ。
もう、叫ぶことしか出来ることがなかった。

「ユノ!!!」

リビングから、僕の叫びをかき消すほど派手に、ガラスが割れる音がした。





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土と焔の森 16

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アネモネの献身 26

その探偵、恋は専門外につき
-アネモネの献身-
26



僕はどうやら拉致されたらしい。

薄目を開けて周囲を確認する。
遮光カーテンが閉められた狭い部屋で、僕は手足の自由を奪われてソファに転がっていた。

まだ身体が痺れていて、動けない。首だけわずかに動かすと、足元で、ロジェさんが項垂れていた。

「ロジェさん……。」

勢い良く上げられたロジェさんの顔は、涙に濡れていた。

「気づいたんだね!大丈夫?」

小声で話す彼の様子から、この部屋の外に悪い奴が居ることを察した。

「君は、警察の人だったの?」

「いえ……探偵……見習いみたいなものです。ごめんなさい。あなたの行動が怪しいから調べて欲しいって依頼があって。」

「まさか、依頼者は親父?」

「いえ、違います。依頼者は明かせません。」

「だよな……。親父が俺の行動に興味あるわけない。」

ロジェさんは僕の身体を起こして、ブランケットで包んだ。

「こんなことになって、本当に申し訳ない。俺がバカだったんだ。あんな奴らに踊らされて、取り返しのつかないことを……。」

「大麻の仕入れを手伝っていたんですか?」

「病気で苦しんでいる人達に医療用大麻を届けるためだって、まんまと騙されて……。」

ロジェさんは、僕に水を飲ませてくれた。
それから、こんな事態を招いた経緯を説明し始めた。

ロジェさんはIT企業に勤める、至って普通の会社員だった。ただ、趣味でブログを開設し、自分が興味のあることを綴っていた。

「うちの親父はろくでもないやつでさ。家庭も顧みずに仕事ばっかり。亡くなった母さんが病気で入院してた時も、たまにしか見舞いに来なかった。」

「お父さん、警察の方なんですよね?」

「そう……。正義の味方ぶって、家族をないがしろにする親父なんて、父親じゃない。俺はじいちゃんとばあちゃんに育てて貰ったんだ。」

「それで、どうして大麻なんて……。」

「じいちゃんが、数年前アルツハイマー病になった。人が変わったように暴力的になることがあって……。悲しかったよ。でも、じいちゃん自身が誰より辛かったと思う。」

ロジェさんは頭を抱えて、少し泣いた。

「ずっとそばで介護していたばあちゃんも、同じくらい辛かったと思う。みるみる痩せて、可愛い笑顔も少なくなって、見ていられなかった。」

「大麻って、確かアルツハイマー病に効果があるって研究があるし、海外では実際に使われてますよね……。」

「色々調べたよ。何か俺にできることはないかって。調べるうちに、医療用大麻のことも知った。でも、セレナ国では違法だから、何もできなかった。」

ロジェさんが大麻に詳しいのはお祖父さんとお祖母さんのためだった。

僕は悲しくなった。
それがどうしてこんな犯罪に加担することになってしまうのか。

「春にじいちゃんが亡くなって、正直ほっとしたんだ。これでばあちゃんが楽になれるって。そんな風に思う自分に腹が立ったよ。大好きなじいちゃんだったのに!」

ロジェさんは、大麻に関する情報をまとめてブログに綴るようになった。

セレナ国では、医療用大麻の合法化が議論され始めていた。
医療用大麻の情報を発信することで、同じように苦しむ人達の参考になればと考えた。

どうやらそれが、犯罪グループの目にとまってしまった。

コメントを通じてやり取りしていた犯罪グループの一員と、医療用大麻の合法化について意気投合した。

「苦しんでいる人を助けるために、医療用大麻を仕入れる活動を手伝って欲しいと頼まれたんだ。」

「でも……違法なのに……。」

「人のためには、悪も善になる。正義は、人の幸せのためにあるって言われて……。俺はまんまと引っ掛かった。」

「お父さんのことが、影響を?」

「そうかもな。」

ロジェさんは深く息を吐いた。
空気だけじゃなく、溜め込んだ何かを吐き出したみたいだった。

「許せなかった。法を守る警察の親父は、家族が苦しんでいる時に、助けに来なかった。そんな正義、くそ食らえだと思ったんだ。俺は、親父とは違う。本当の正義を見せてやるって……。でもあいつらは本当は……。」

ロジェさんが犯罪グループについて話そうとした時、男が入ってきた。

「おいロジロジ先生よ。怪しまれるから会社行け。」

「こんな時に!?」

銀縁メガネの男と目が合った。

「兄ちゃん、起きたのか。」

僕の目の前にしゃがんだ銀縁メガネは、僕の頬を指の背でさわっと撫でた。

「ひっ。」

「綺麗な顔だな。高く売れそうだ。」

ええ!
僕どこかに売られちゃうのか!?
でも、ということは命の危険はひとまず無さそうだ。

「お前警察じゃないな。誰に頼まれてロジェを調べてる。探偵か何かか?」

「こっ恋人に……。ロジェさんの恋人から、最近様子がおかしくて会ってくれないって。浮気してるんじゃないかって調査依頼があったんです!」

咄嗟に嘘をついた。

「へぇ。お前恋人いたのか。」

「はい……。」

ロジェさんは僕の嘘に合わせた。

「おい、お前は会社行け。怪しまれるようなことせず、普段通りにしろ。帰りに食べ物買ってこい。いいか、誰かに話したら、お前の親父さんにもバレるぞ。親父さん警察の偉いさんだろ。バレたら破滅だからな。」

ロジェさんはふらふらと立ち上がり、部屋を後にした。

銀縁メガネは僕を見下ろして首を捻る。

「兄ちゃん、なんで探偵なんてやってる。モデルか俳優でも目指せただろ。売るのも勿体ない美人だな……。」

吐き気がする。
でも、僕の容姿がこの男の好みなのであれば、利用しない手はない。
僕は渾身の涙目で訴えた。

「何をされてるのか知りませんが、僕はロジェさんの浮気調査をしていただけです。無関係です。」

「お前、仲間は?」

「まだ探偵になったばかりで、1人で働いています。僕は誰にも話しませんから!」

「そうは言ってもここまで来て帰すわけにはいかないな。海外にでも売り飛ばすか……俺のオモチャにでもなって貰うか。」

無理!
ムリムリムリ!
僕はピュアを売りとするシム家の温室でぬくぬくと育った真性のチェリーなのに!
こんなところで貞操を失うわけにいかない!

「明日までは俺も仕事が忙しい。お前をどうするかはその後考える。それまではここで大人しくしてろ。」

銀縁メガネは僕の手足のロープを確認し、ガムテープで僕の口を塞いで部屋を出て行った。

参った。
声も手足の自由も奪われては、何もできない。
家出中の僕の不在を、ユノはいつ気づくだろう。

僕は部屋を見渡した。
ここがどこなのか全く分からない。

後ろ手に縛られていて、ポケットの中も探れないが、スマホは奪われてしまったようだ。

ユノの栞は……。

身体を揺すってみる。
ウィンドブレーカーのポケットはスカスカだった。
多分、どこかで落ちてしまったんだ。

ユノに貰った栞を無くしてしまった。

自分が置かれた状況が情けなかった。ユノの言いつけを守らずに、足を突っ込んだ結果がこれ。

ユノに会いたい。
涙が溢れた。

ユノはいつだって僕を助けてくれるヒーローだった。でも、自分でもどこに居るか分からない僕を、ユノが助けに来てくれるなんて楽観的展望は描けない。

自分で考えなきゃ。
ユノに思いを伝えないまま離れ離れになるなんてあり得ない。

僕はユノのところに帰る。
絶対に帰る。

そう思うことで、僕は自分を奮い立たせ、涙をこらえた。





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アネモネの献身 25

その探偵、恋は専門外につき
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25



次の日、リン先生から連絡が入った。

「次のレッスンの予定を変更させて欲しいんだけど、チャンミンくんの電話繋がらないし、メールの返信もないの。ユノさん、伝えて貰える?」

「繋がらない?」

「電源切れてるみたいなのよ。」

変だな。
チャンミンらしくない。

「連絡欲しいって伝えて貰えるかしら。」

「はい……。」

チャンミンに電話したが、確かに電源が切れていた。
今日は家に寄ってくれるか分からないが、キルスの家かカフェに行けば会えるだろうと思った。



「え?無断欠勤ですか?」

カフェを訪れると、店長が慌ただしくテーブルにコーヒーを運んでいた。
俺を見て、店長はチャンミンが来ないと嘆く。

「チャンミンくんは絶対連絡くれる子なのに、こんなこと初めてで心配してたんだよ。」

「昨日は来たんですよね?」

「昨日から連絡取れないんだ。もう大忙しで……。」

昨日から消えたチャンミン。
俺はカイくんに電話した。

「え?大学は今日から冬休みですよ?帰って来ないって、チャンミン家出中ですよね?昨日は確かに大学に来なかったけど、風邪かなと思って……。」

そうか。もうクリスマス休暇だった。
チャンミンへのプレゼントを買わず仕舞いだ。

「この前テミンさんの舞台のチケットのお礼に夕食奢らさせられたんですけど、ちょっと風邪気味って言ってたから。」

「あ……チケット……」

テミンの舞台のチケットのことを、俺は完全に忘れていた。
チャンミンは覚えていて、カイにあげたのか。

告白を断ってからテミンには会っていないし、俺なんかが観に行ってもテミンは嬉しくないだろう。

チャンミンは俺が告白されて断ったことを知っていて、そうしたんだな。つくづくしっかり者だ。

「ユノさん、俺も探しましょうか。」

「いや、多分キルスのところだろ。会いに行ってくるよ。」

「あー、そうですね。ユノさんが行ってくれたら喜ぶと思います!」

嬉しそうなカイくんの声に、少し元気が出た。

チャンミン……。
風邪ひいてたなら夕食なんて作りに来てくれなくて良かったのに。

心配だ。
キルスはまだ留守だろうか。
1人で辛くないだろうか。

チャンミンのことばかり考えながら、キルスのマンションに車を走らせた。
チャイムを押すと、反応があった。

「あれ?キルス?」

「ユノ、どうしたんだ?」

「帰ってきてたんですか?」

「昨日からね。」

「チャンミンは、大丈夫ですか?」

「は?昨日ユノのところに戻っただろ?」

「は?」

動揺した。
キルスのところに居ない?
チャンミンが消えてしまった。
どこにも居ない。

キルスの話では、昨日の朝には家に戻ると言っていたチャンミン。それが突然行方不明。

猛スピードで家に戻った俺は、チャンミンの部屋に飛び込んだ。
リュックも鞄もない。
家に帰る途中でどこかに消えた?

ダイニングもキッチンも変わらない。
トイレもお風呂も使った形跡なし。

シンドンさんのところか?
いや、それならカイくんの家に行くだろう。
携帯が通じないのが気になる。

俺の心に、嫌な想像ばかりが浮かぶ。

「どこかで倒れてるんじゃ……いや、あんなに可愛いんだ……拐われたんじゃ……海外に売られる……いや、売る前に悪いやつに襲われて……!!!」

警察犬にでもなって、チャンミンの匂いを追いたいと思った。

「ああ……チャンミン……どこ行ったんだよ。」

クローゼットを開いた俺の目に、大きな黒い鞄とチャンミンのリュックが飛び込んできた。

「帰って……きてた……。」

チャンミンは俺の元に帰ってきた。
片付けもせずに鞄を押し込んで、消えた。

「チャンミン……俺のチャンミン……。」

チャンミンが家出した日に置いていった手紙を撫でた。

『僕は、ずっとあなたの弟だから。』

弟と呼ばれると嫌そうな顔をしていたチャンミンがこんなことを書いたのは、『あなた』なんてよそよそしい表現を使ったのは、俺を牽制したのだと思っていた。

「弟なんかじゃない。お前は、俺のチャンミンだろ。」

リュックも持たずに行くところなんて想像がつかない。
やはり何か事件に巻き込まれたんじゃないか。

銀縁メガネのいやらしい顔を思い出す。
調査を手伝って、目をつけられたなんてことは?

いや、チャンミンが目をつけられるようなことなんてしていない。
でも……俺が目を付けられていたら?
チャンミンが隠れて何か調査していたら?

不安が押し寄せた。

俺はチャンミンのPCをもう一度開いた。
何でもいいから、ヒントが欲しい。

「あなたの、か。」

パスワードの予想なんてつかない。
闇雲に試すしかない。
自分のパスワードのmyをyourにした。

「yourchangmin0218」

打ち込んでエンターキーを押すと、画面が変わった。

「嘘だろ……。」

パスワードが解けた画面に、俺はしばらく呆然とした。

俺への返答のようなパスワードに、胸が締め付けられる。

そうだよ。
生まれた日から、チャンミンは俺の大切な人。
チャンミンは、俺のもんだ。

チャンミンも、それでいいんだな?
チャンミンがそう思ってくれているなら、俺はもう何もいらない。

ただ、チャンミンが居てくれたらそれでいい。
今すぐに、チャンミンを抱き締めたかった。

ホーム画面には、1つのフォルダが置かれていた。

『ユノへ』

フォルダを開いて、テキストを読んだ。
それは、俺が見失っていた間の、ロジェさんの行動報告だった。

俺のPCを盗み見たことへの謝罪、ランニングの行き先が港だったこと、ロジェさんに出会ったこと、駅で見た不審な行動。

震える指で、必死にカーソルを送り全て読んだ。

昨日帰ってきたチャンミンは、ランニングに行ったんじゃないか。
だからリュックも置いていった。

俺は玄関に走った。
チャンミンが家出してから、俺の靴は出しっぱなしで靴箱を開けてなかった。

綺麗に並んだチャンミンの靴の中に、ランニングシューズだけが無い。

嫌な予感ばかりする。

調査するなとあれほど言ったのに。
バカ。
バカチャンミン。

俺は港に向かった。
ハンドルを握る手が不安で震えて、何度も息を吹き掛けた。

馴染みの居酒屋の横に車を停め、桟橋や、周辺の小屋まで、くまなく見て回った。

ここで釣りをしていたロジェさんを観察していたチャンミンに、何かあったのではないかと、チャンミンの影を求めた。

だが、チャンミンの痕跡は見つからない。

居酒屋の前で途方に暮れて海を見つめていた俺に、親父さんが声をかけた。

「なんだユノじゃないか。こんな時間にどうした。まだ準備中だぞ?」

「親父さん!チャンミン見かけなかった?!行方が分からなくて!」

親父さんは顔をしかめて首を捻った。

「見てないなあ。昨日うちの横に車を停めてる輩が居てね、今日も来たかと思って出てきたらお前だった。」

「昨日、車が?」

「昼前に店の準備に来たら白いバンが停まってたんだ。人の土地に勝手に停めるなって怒ってやろうかと。」

俺は銀縁メガネの男の画像を取り出した。

「こんな奴が乗ってなかった?」

「いや、運転手は見てない。店の準備してるうちに居なくなってた。」

何も情報がない。
うなだれて車に戻った俺は、タイヤの脇に落ちていたタバコの吸殻に目を奪われた。

拾った吸殻の文字に、俺は絶望した。

「ああ……。」

嫌な予感が当たってしまう。
呼吸がつらい。

「Fortuna」

あの男が吸っていたタバコだった。






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テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

土と焔の森 15

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東方神起 ユノとチャンミンが大好き。
脳内妄想をこっそり綴っています。
ホミンのみ。

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