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続・祓い屋リノベーション 12

続・祓い屋リノベーション
12



赤坂見附から丸の内線に乗って新宿に来てみたものの、あまりの人の多さにチャンミンはお疲れモードだ。
キュヒョンも諦めを口にする。

「さすがにこの人混みでは匂いは分かりません。」

「レイカさんの事務所にだけ寄ってみよう。マネージャーさんが気づいてないだけで居るかもしれない。」

ビルの隙間に都庁が見え隠れする繁華街を歩いていると、キュヒョンが立ち止まった。
都庁の手前の超高層ホテルを見ている。

「どうした?」

「なんだか、気になります。」

チャンミンも疲れた顔を上げ、ホテルを見上げた。

「ほんとだ。何となく気になるね。」

さっぱり分からん。
2人は俺の困惑をよそにホテルに向かって歩き出した。

裏口から入りロビーに向かいながら、キュヒョンは鼻をひくひくさせた。

「あの匂いがする……。」

都庁に面したガラス張りの吹き抜けのロビーには大きなシャンデリアが輝き、宿泊客の顔を心なしか晴れやかにしている。

明るい雰囲気の中に、1人佇むドレスの女性。
レイカさんは、シャンデリアを見上げてぽつんと立っていた。

赤いドレスは、明らかに周囲から浮いている。
血のような深紅。

レイカさんに近付こうとしたチャンミンの肩を、俺は掴んだ。

「なんで……。」

シャンデリアから視線を下げたレイカさんは、そのままふっと消えてしまった。

「消えちゃったじゃん!」

非難の視線を向けるチャンミン。

「ごめん……。でも……レイカさん、泣いてたから。」

キュヒョンが頷いた。

「なんか……切ない雰囲気でしたね。」

レイカさんは何かを抱えている。
自殺した理由は、女優のプライドだけとは思えない。
このホテルに、どんな思い出があるんだ。
彼女の瞳には、悲しみが満ちていた。

「マネージャーさんと話がしたいな。」

レイカさんがただ無邪気なだけの幽霊でないと分かった今、気になることは増えている。

事務所に立ち寄ると、運良くマネージャーさんが出てきた。

「リハーサル用のスタジオに下見に行くところなんです。いつも使っているスタジオはいっぱいで……。時間がなくてもうバタバタです。」

マスクから漏れた息で白くなった眼鏡をコートの袖できゅっと拭いたマネージャーさんは、乱れた髪を直しながらもちょっと楽しそうだ。

「お忙しいところ申し訳ありません。レイカさんのことで色々問題が起こりまして。」

「問題?レイカさん、何かやらかしたんですか?」

今朝の幽霊騒動と、さっき見たレイカさんの姿について話すと、マネージャーさんは俯いた。

「そんなことが……。」

「レイカさんは何かを抱えて亡くなった。違いますか?生前のことをもっと教えていただけませんか。彼女が何をしようとしているか、ヒントが欲しいんです。」

「私にだってレイカさんが何をしたいのかなんて分かりません。」

マネージャーさんは誰よりレイカさんを知っていたはず。彼女に頼るしか、レイカさんの悲しみを知る術は俺達にはない。

もっと情報を引き出さなければ。
俺は必死だった。

「本当に女優のプライドで亡くなったと?あなたはそれを納得しているんですか?ずっと側に居た人の死を、そんな簡単に整理できませんよね?」

マネージャーさんは眉を寄せた。

「亡くなった理由を、知らなければなりません。幽霊になったって、レイカさんはあなたの大切な人ですよね!?間違いを起こして欲しくない。俺達は、単なる祓い屋ではありません。レイカさんを救いたいんです!」

マスクを外して俺をじっと見た彼女は、俺の本気を悟ってくれたようだった。
俯いて、自分を納得させるかのように、何度か頷いた。

「死ぬまで誰にも言わないつもりでしたが、レイカさんの別れた方のことをお話します。今日は時間がないので、明日どこかでお会いできますか?待ち合わせ場所は後で連絡します。」

わざわざ場所を指定するということは、事務所では話しにくいことなのか。

タクシーを捕まえて去っていったマネージャーさん。

寒さで震えるチャンミンの手を引いて、俺達はクイーンホテルに戻った。


支配人に報告できることもないが、一応訪ねると、彼はデスクでスマホを手に頭を抱えていた。

「SNSは恐ろしいですね……。」

「何かあったんですか?」

「クイーンホテルの4階は呪われていると、噂が拡散されて……。」

宿泊客が呟いたのか。
人のすることは制御なんてできない。
どの時代も、人間の危うさは同じだ。

「4階は暫く使用を控えることにします。クリスマス前にとんだことになりました。」

「部屋のやり繰りは大丈夫なんですか?」

「何とかするしかありません。今、系列ホテルに変更していただけないか連絡を取っています。それが駄目なら、アップグレードして、良い部屋に移って貰うなり……。」

憔悴した支配人がなんとも哀れだ。

「レイカさんは、一体全体何が目的なんでしょうね。」

「申し訳ありません。まだお話できるような情報は掴めていません。」

「最早、あなた方しか頼れない。ホテルに害がないように、どうか早く解決してください!」

悲痛な声だった。

楽な仕事だと高を括っていたが、初仕事は予想外の難解案件になってしまった。

帰りの車で、チャンミンは俺の太ももに手を置いてぽんぽんとリズムをとっていた。
励ましてくれているんだろう。

「ありがと、チャンミン。」

「うん。」

太ももを揺らす優しいテンポに癒される。

「ねぇユノ。あんまり、支配人やレイカさんの気持ちを考え過ぎないで。ユノは何も悪くないんだから。」

「必ずやり遂げるって言ってしまったんだ。でも、自信が無くなってきた。」

チャンミンはふっと微笑んだ。

「いつかは解決するよ。」

今日は朝から動き回って疲れたのか、チャンミンは口をぽかんと開けて話す。
転がるような呂律に心が解れる。

後部座席でキュヒョンはにやにやしていた。

「2人がいい関係で嬉しいです。」

「そうか?」

「チャンミンに励まされるユンホ様も、素直で可愛くていいですね。」

チャンミンははにかんで嬉しそうだ。

「ふふふ。」

「ラブラブ過ぎて呆れてはいますけど。」


会社の駐車場でキュヒョンとは別れ、スーパーで惣菜を買って帰った。
簡単に夕食を済ませて片付けをしていると、チャンミンは後ろから抱きついてきた。

「ユノあったかい。」

チャンミンの指を撫で、振り返ってキスした。

「今夜はゆっくりしような。」

「うん。身体冷えたから長風呂したい。お風呂入れてくるね。」

今夜はチャンミンを抱き締めて湯にゆっくり浸かりたい。
俺の心も、疲弊していた。

風呂の準備を終えたチャンミンは、テーブルに置きっぱなしにしていた俺のスマホを指差した。

「ユノ電話、光ってる。」

珍しい。
母さんからの着信だった。

「ユノ!メール何回もしてるのに返事くらいしなさいよ!」

母さんは電話を取るなり喚いた。

「ごめんごめん!最近メール全然見てなくて。電話してくれればいいのに。」

「転職してから連絡ないから忙しいかと思って気を遣ってたの!」

「ごめんて。仕事に夢中でさ。」

仕事ではなくチャンミンに夢中で実家のことなど完全に忘れていた。

「あんた、22日は帰って来るんでしょうね?飛行機取ったの!?」

「今月?22日?」

12月22日。
何だか気になる数字だな。
いちに、にいにい。
わんにゃんにゃんにゃん……。

「あーーーー!!!」

脱衣場からチャンミンが顔を覗かせた。

「ユノどしたの?」

母さんは「あら」と声を弾ませた。

「なあに、今、声しなかった?もしかして彼女できた?」

「い、いや、彼女って言うか……にゃんにゃん?」

「はぁ?あんた何言ってるの。猫でも飼い始めたの?」

猫みたいに身体がしなやかで、目のくりくりしたかわいこちゃんです。毛並みも艶々で撫で心地抜群です……などと思っている場合じゃない。

「とにかく、帰って来ないと駄目よ。約束ですからね。飛行機の時間決まったら連絡しなさい。空港まで迎えに行ってあげるから。」

母さんの声の後ろから、低い声がした。

「ユノ、忘れてたね。薄情な孫だよ。」

ば、ばあちゃん……。
そうです忘れていました。

ばあちゃんの命日。





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-年末のご挨拶-

真夏に始めた妄想小説。
半年が過ぎ、すっかり寒くなりました。
汗だくでアイスコーヒー片手に書いていたのが嘘のようです。

夢の中にいるような喜びをくださる読者の皆様に支えられた毎日でした。
本年中のご愛顧に心より御礼申し上げます。

祓い屋続編は、新年も変わらぬペースで更新いたします。お忙しい年明けの息抜きになれば嬉しいです。

皆様どうぞ、良い年をお迎えください。

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続・祓い屋リノベーション 11

続・祓い屋リノベーション
11



「キュヒョンは呼んだら来たりしないわけ?」

「幽霊は便利屋じゃないよ。」

「不便だ……。」

車で東方不動産を目指しながらため息をつく俺にチャンミンはふふっと笑った。

「思うようにならないのが幽霊だよ。」

「なんか、俺、見えるだけで分かってる気になってた。」

俺の太ももに手を添えて、チャンミンは嬉しそうだ。

「自信満々で対応してたもんね。」

「そんなつもりはなかったんだけどな。」

そう言えばチャンミン、俺の態度が気に食わないって言ってたな。
そうか、負けたよ。俺は新人だったね。

「先輩。頼りにしてます。」

「ふふ。よろしい。」

ハンドルを握る俺に、先輩はチュッとキスしてくれた。

「痺れるね……。押し倒したくなっちゃうな。」

「バカ。それどころじゃないでしょ。」

「そうだな……。」

支配人の憔悴した顔。
必死で対応していたスタッフの姿。

レイカさんを追うと告げた俺に、支配人はすがるような目で「お願いします。」と言った。

老舗ホテルを守り続けてきた経験豊富な支配人が困り果てていた。
常識でどうこうできる相手じゃない。
支配人が頼れるのは、俺達だけだ。



キュヒョンを連れて、会社前に停めたままの車のもとへチャンミンは小走りで戻ってきた。

「何なんだよいきなり!」

車に押し込まれたキュヒョンは突然の連行に文句たらたらだ。

「すまないキュヒョン。俺達の仕事を手伝ってくれ。レイカさんの行方を知りたい。」

「ユンホ様のお願いとあればやりますけどね。俺だって万能じゃないんです!レイカさんて何なんですか!」

これまでの経緯を説明しながら、俺達はクイーンホテルへ戻った。起点になりそうな場所は、そこしか思いつかなかった。

前庭からホテルを見上げたキュヒョンは、部屋を1つずつ覗いているかと思うほど、長い間動かなかった。

やっと焦点を俺とチャンミンに戻したキュヒョンは、首を横に振る。

「チャンミンの言う通り、ここには居ないようですね。」

「これからどうすれば……。」

思案する俺に、キュヒョンは4階を見たいと言った。

ホテルの4階部分は、客室の最下層だった。
ディナーショーが行われる鳳凰の間は1階に位置するが、4階相当まで天井が高い。

自ずとスペースは限られ、客室は通常の半分しかない。

「微かに甘い香りがします。これがレイカさんの匂いかな。ここからどこに行ったのか、気配を追ってみます。」

警察犬みたいだ。
確かに初めてレイカさんに会ったとき、噎せるような甘い香りがしたのを思い出した。

「こっちです。」

キュヒョンは廊下の奥にあるスタッフ専用扉を開け、隙間から中を覗いた。

中に居たスタッフは俺達に気づかず、幽霊話に夢中だ。

「すみません。ちょっと中を拝見します。」

突然の侵入者にスタッフは驚いたが、「コンサルティング会社のものです。」と挨拶すると、姿勢を正した。

倉庫のような小さな室内には、業務用エレベーターと、棚に並べられたタオルやシーツ。更に奥に扉がある。

「これはどこに繋がっているんですか?」

チャンミンの質問に、清掃スタッフが扉を開けた。

「鳳凰の間のステージ真上に繋がっています。」

こんなところに通路があったとは。
ステージ上の装飾を、ここから触ることができる。

「巨大ホテルって凄いね。迷路みたい。」

チャンミンのテンションは上がっているが、キュヒョンは困惑顔だ。

「ここは広すぎて匂いが消えてしまいました。」

「1階に降りてみよう。」

ステージ上の通路の端に梯子がある。
レイカさんはここを下ったのかもしれない。

「なあキュヒョン。幽霊は、瞬間移動できるのか?」

「無理だと思いますよ。俺でも、瞬間的に移動はできません。壁を通り抜けるくらいは出来ますけど。姿を消しているから分からないだけで、歩いたり電車に乗ったりして移動しています。」

「意外と地道なんだな……。」

「無料なのは助かりますけどね。タクシーに相乗りしたり。」

「でも、移動できるだけでも凄いよ。場所に縛られて動けない幽霊もいるんだから。」

「地縛霊とか?」

チャンミンは頷いた。

「ほら、首を吊って亡くなったカスミちゃん居たでしょ。彼女はずっと動けずに居た。」

なるほど。
幽霊もそれぞれ個性がある。
簡単には定義できないものらしい。

4階分も梯子を下りるのは危なそうなので、エレベーターで移動して鳳凰の間に入ると、扉付近でキュヒョンが鼻をひくひくと動かした。

「ここ、通ってます。」

「ここからフロントを抜けて外に出たのかな。」

チャンミンはロビーの方向を眺めた。

「外か……庭に戻ってみる?」

キュヒョンは顎を撫でて思案し、庭ではなくエレベーターホールに戻った。

「地下鉄かも。」

ああ。そうか。
クイーンホテルは地下鉄の赤坂駅に直結している。
チャンミンが俺を放置して帰った時と同じルートだ。

駅で東京メトロ南北線の路線図を見上げ、キュヒョンは首を傾げた。

「お手上げです。電車に乗られたらもう分かりません。」

片側は目黒方面。もう片側は後楽園や王子。どちらもピンとこない。

「ちょっと待って。すぐ隣に丸の内線があるだろ。事務所のある新宿まで1本だ。」

チャンミンは路線図を指差して辿った。

「そうだね。新宿に行ったのかも。でもさ、ユノ。レイカさん地下鉄なんて詳しくないんじゃない?」

「レイカさんが亡くなって半年経ってる。今までできなかったことを楽しんでいるなら、地下鉄に乗ることも楽しんでるんじゃないか?意外と詳しいかも。」

「なるほど。あり得るね。」

俺はレイカさんの元マネージャーさんに電話した。マネージャーさんは事務所でディナーショーの手配に追われていた。

「レイカさんは見てませんよ。見えていないだけかもしれませんけど。」

なにかにつけて厄介だ。
常に『かもしれない』。
幽霊の行動には誰も確信が持てない。

忙しいところを邪魔しては悪いと電話を切ろうとした俺を、マネージャーさんは引き留めた。

「ユノさん、気になっていることがあります。」

「何でしょう。」

その話は、俺の心をざわつかせた。

ディナーショーをキャンセルした歌手と、レイカさんは生前犬猿の仲だったと言うのだ。

「突然のキャンセルなんて信じられませんでした。どんな状況でも、這ってでもステージに立つ方なんです。」

「レイカさんが悪さしたと?」

「考えたくはありませんが……。」

俺の抱いたレイカさんのイメージとかけ離れた情報ばかりが押し寄せる。

チャンミンは、ほら見たことかとため息を吐いた。

「幽霊を知るのは、そんなに簡単じゃないよ。」

「そうなんだな……。」

「恨みを持っている人も居る。怨念を晴らす手伝いを頼まれて困ったことなんて何度もあるんだ。」

「俺が見てきた幽霊はいい人ばかりだったから。」

チャンミンはふっと優しく笑って、改札を通る人々に視線を逸らせた。

「ユノは太陽みたいなオーラを持ってるから。人も幽霊も、ユノには暗い部分を見せたがらない。」

「それじゃあ、俺はお祓いには向かないのか?」

「そうじゃないよ……。」

忙しく行き交う人の中で、俺達3人は行き先が分からず足を止めたまま。

チャンミンは下を向いた。

「ユノはそのままで……。変わらないでいて。」

ふと、晴れ乞いをするためにチャンミンが離れて行ってしまった時の光景を思い出した。

俺には、死んだ時よりあの時の方が胸が痛かったんだ。
身体が引き裂かれる痛みだった。

人間の嫌な部分を俺から遠ざけるように、1人で行ってしまったチャンミンの背中と、閉まった門の非情な音。

死ぬより、辛かった。

俺はチャンミンの手を取った。

「そのままじゃ居られないよ。俺はチャンミンの手を、もう離さないんだから。」

チャンミンは意味が分からずきょとんとしていた。

いいんだ。
あの時のことを思い出してるなんて、言いたくない。

あの時チャンミンと離れたのは間違いだった。
今の俺は、幽霊の嫌な部分も、ちゃんと見るよ。
チャンミン1人に背負わせたりしない。

門は、一緒にくぐるんだ。





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続・祓い屋リノベーション 10

続・祓い屋リノベーション
10



甘くとろける夜が明けて、キッチンのヒーターをつけた俺は、部屋が暖かくなるまでチャンミンにキスして過ごした。

冬の朝でも、肌を密着させれば寒くない。
寝ぼけて瞼を閉じたままでも、お互いに頬が緩んでいるのが分かる。

チャンミンは甘えん坊だと思っていたけど、最近は俺の方がチャンミンに甘えたい。

そばに居ないと嫌なんだ。

国王だった時は、いつもどこかで自分の立場を意識していた。
今の俺は、ただのユノ。
普通じゃないのは、幽霊が見えることだけ。

守りたいだけじゃない。
守られたっていい。

チャンミンに頼ったり、人の助けで生きていけることが幸せだと心から思えてきた。

「キュヒョンの話、ばあちゃんに相談しないとな……。」

「うん。可能性があるかだけでも知りたいね。」

話したいことがあると言うのに、ばあちゃんはどこか消えてしまったままだ。

元々たまにしか現れない人ではあるが、俺が助けを求めているんだから察して欲しい。

「守護霊のくせにどこ行ったんだ。」

「お出掛けしてるのかな。放置できるんだから、ユノに今何の心配もない証拠だよ。」

そうか。
毎日幸せいっぱいだもんな。

割烹着をつけて朝食を作るチャンミンの後ろ姿を眺めながら飲むお茶は、最高の目覚めを導く。

カールした明るい髪に台所のすり硝子を通った朝日を受けたチャンミンがあまりに綺麗で、振り返ったところをスマホに収めた。

「ちょっと!急に撮らないでよ。」

「ごめん。綺麗すぎて。」

なんて幸せな朝だろう。
食卓に並んだ食材の優しい色にも幸せを感じる。

「チャンミン、食べさせて。」

「ふふ、甘えん坊さん。はい。あーん。」

今朝の玉子焼きは、チャンミンにしては甘口だった。

「珍しく甘いね。」

「つい砂糖たくさん入れちゃった。何でだろ……。」

「幸せが溢れちゃってるからじゃない。」

「その理論はよく分からない。」

チャンミンはにこにこして、ほうれん草のおひたしや漬物まで食べさせてくれた。


幸せな朝食を済ませたところに、シウォンが訪ねてきた。

朝から会うには濃すぎる顔。
甘い時間が一転して胸焼けしそうだ。

「朝っぱらからどうしたんですか?」

目尻に皺を寄せて微笑んだ濃い顔は、チャンミンの手を握って頬を寄せた。

気持ち悪い……。
俺としたことが、呆れ過ぎて突っ込みを入れそびれた。

「チャンミン、さすがだ。」

「何が?」

「チャンミンが添い寝してくれてから、ぐっすり眠れるようになった。」

いやいや。
事実誤認が甚だしい。

「シウォンさん、残念ですが添い寝はしてないですよ。夢でも見たんじゃないですか。」

シウォンは俺を睨むこともせず、チャンミンの髪を撫でた。
嫌な光景に耐えられなくなって、俺はチャンミンを引っ張って後ろに隠した。

シウォンの後ろについてきたキュヒョンは、俯いて照れ笑いしている。いたずらをやめて、シウォンを見守ることにしたんだな。

シウォンは咳払いした。

「ところで、我が家に泥棒が入ったようだが知らないか?大切なデータを盗まれた。」

早速バレたか。
言い逃れするのもアホらしい。
俺は開き直った。

「盗撮は許されることじゃありませんよ。穏便に回収させていただいただけです。」

「ここは俺の家だから盗撮ではない。」

恥ずかしげもなく……。
チャンミンのエロシーン見たくせに。

「俺は、自分の持ち物であるこの家の防犯のために隠しカメラを設置したまで。たまたま衝撃映像が映っていたが。」

ああ言えばこう言う。
ぎゃふんと言わせるにはやはりチャンミンを出さないと。

「チャンミンは嫌がってますよ。大切な弟さんに嫌われたいんですか?」

「むっ……。」

「そうだよ!シウォンのバカ!あんなこともう絶対しないでよ!」

「チャンミン……そんな……。弟の成長を見逃したくないだけなのに……。」

チャンミンが相手となると減らず口も鳴りを潜め、本音が出てしまうシウォン。
どうも憎めない。

「そんなもこんなもない!ブラコンもほどほどにして!」

チャンミンにきつく言われ、シウォンは哀れな顔になった。
キュヒョンまで隣で哀れな顔をする。

「ユンホ様、チャンミン。狂った人ですけど、もうこれくらいで許してあげてくださいよ。国王だったシウォン様を知っている俺には、見たくない光景で……。」

仕方ない。
キュヒョンに免じて今回は許そう。

「取り憑かれてなかったんですし、悩みが解消したならさっさと出社されてはいかがですか。」

「つくづく腹立たしいやつだな。お前を雇ったことは俺の人生最大の失敗だった。」

チャンミンの眉がみるみるつり上がり、鬼の形相になった。

「ユノのこと悪く言わないで!もう!一生添い寝なし!」

「チャンミンそんな!!!」

「いやいや。最初から添い寝はダメだ。」

「あー。もー。アホらしい。」

4者4様の反応が示されたところで、テーブルの上のスマホが震えた。

支配人からだった。

「ユノさん!今すぐホテルに来てください!」

冷静な支配人らしくない第一声。

「幽霊を見たというお客様が、早朝から何人も!」

「え?何故急に……。」

「分かりません!とにかく来てください!」




俺とチャンミンはクイーンホテルまで社用車を走らせた。
フロントには何人もの宿泊客が詰めかけていた。

「もうこんなホテル泊まるか!」

「妻が倒れてしまったじゃないか!どうしてくれるんだ!」

「子供が泣き止まない!」

怒って帰る人。
泣いて座り込む人。
ロビーは混沌としていた。

「4階に宿泊されていたお客様は、皆様一旦鳳凰の間にお集まりください!」

支配人の指示を合図に、スタッフが客を誘導する。

「支配人!何があったんですか?」

「ユノさん……4階に宿泊されていたお客様が、幽霊を見たと……。」

「全員ですか!?」

「全員ではありませんが、何十人も一気に。」

「そんな。レイカさんが?」

「皆様一様に、赤いドレスの恐ろしい顔の女だと仰います。」

何故だ。
遊んでいるだけだと言っていたじゃないか。
ホテルの窮地だって助けてくれたんじゃないのか。

集められた宿泊客は、お互いに恐ろしい経験を話し、「4階は呪われている。」と異口同音に唱える。

「早朝に目が覚めたら、口から血を垂らした女が立っていた。」

「鏡を見たら、後ろに女が!」

「シャワーを浴びて下を見ていたら、血が垂れてきて、女の笑い声がした。」

どれも強い恐怖を覚える体験だ。

支配人とホテルスタッフは1人1人丁寧に対応し、宿泊費の返金や希望する人への提携病院での受診を手配した。

「どんな意図があってこんなこと。」

チャンミンは、些細なヒントも逃すまいとするように鋭い目で周囲を見回していた。

「俺にもさっぱり分からない。この前会ったときだって、楽しんでるだけだって言っていたのに。」

「今、ここにはレイカさんの気配がない。」

今までになく研ぎ澄まされた顔つきでチャンミンは呟いた。

「分かるのか?」

「うん。ホテル中が見える気がする。」

すごい。
チャンミンの力は以前より強くなっている。
巫女だった時よりも、更に澄んだ瞳。

「本当にレイカさんがやったのか?」

俺にはどうも信じられない。

「ユノ。力を手に入れた人間が急に強権的になることがあるでしょ。幽霊も同じだよ。生前不可能だったことができるようになって、僕らの感覚では分からないことをすることだってある。」

「そんな……レイカさんはそんな人には見えなかった。だったらどうしてクリスマスディナーショーの件は助けたんだよ。」

「僕にだって分からないよ!でも、幽霊をユノの物差しで計らないで。」

キリッとしたチャンミンは先輩の威厳を示してびしっと人差し指を立て俺に指導する。

「……先輩。これからどうする?レイカさんを探す?」

「どうしような……。どこに居るか見当もつかない。」

俺は閃いた。

「キュヒョンは!?キュヒョンなら幽霊の居場所が分かったりしないか?」

チャンミンは、はっとして俺を見た。

「ユノ……それ、いいアイデアかも。」





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続・祓い屋リノベーション 9

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続・祓い屋リノベーション 8

続・祓い屋リノベーション
8



「チャンミン!?」

寝室に飛び込んだ俺が目にしたのは、ベッドでシウォンに抱え込まれ頬擦りされているチャンミン。

「シーウォーンー!!!」

「んー、社長を呼び捨てにするな……。」

寝ぼけ眼のシウォンはチャンミンの頬にキスしようと唇を寄せる。

俺は身体中の血液が沸騰し、シウォンをベッドから担ぎ上げて、2メートルほど放り投げた。

「ごふっ!」

「わー!!!」

ゴツンと岩が砕けるような鈍い衝撃音と、キュヒョンの叫び声と共に、シウォンは全身を床に打ち付けて伸びた。

「あ~~、死んだかも。」

「馬がこの程度の衝撃で死ぬか!」

キュヒョンがシウォンを介抱し、ベッドに寝かせた。

「後頭部腫れてますよ。」

「知るか!寝せとけば治る!」

「そんなに怒らなくても……。」

ベッドの上で正座して呆れているチャンミンを引っ張ってソファに座らせ、恨みを晴らすべく、まずはスマホのデータ消去を試みた。

「キュヒョン!ロック解除は?」

「指紋か、パターンロックならコの字みたいな。」

「こうか?」

簡単にロック解除に成功し、動画データを検索するも、怪しい動画は見当たらない。

チャンミンの写真がやたらとあるのは気になるが、今は動画が優先だ。

「サーバーとかに保管されてるってことは?」

チャンミンの指摘に従ってアクセスしてみたが、管理物件の画像ばかりだった。

「こんなとこに大切な弟のエロ動画を保存すると思えない。やっぱりSDカードだ!」

書斎にどかどか入り、キュヒョンが棚の中から取り出した鍵で引き出しを開けた。

「な……なんだこれ。」

横から引き出しを覗いたチャンミンは顔を赤らめた。

『チャンミン成長記録』

ご丁寧にタイトルが刻印されたプレートで飾られた引き出しには、年齢別に並べられたSDカード。
チャンミンがシウォンの家にやってきた小学生時代から、年譜のように綺麗に列になっている。

「シウォンたら……。」

チャンミンは唇を噛んで俯いた。

俺はちょっと切なくなってしまった。
異常性はあるものの、その愛の深さに不覚にも感動すら覚える。

21歳と記載されたSDカードを取り出し、テレビに差し込んで確認する。

「キュヒョン……ちょっと外してもらえる?」

「そうします。恥ずかし過ぎる。シウォン様を見てきます。」

リビングの扉がきっちり閉まったのを確認し、ドキドキしながら再生した。

観葉植物の葉に邪魔されて、チャンミンの頭しか見えない動画は、俺が案じたほどエロいものではなかったが、かすかに聞こえる音声は衝撃的だった。

『うっあ……チャンミン!』

『……ユノ……すごいっ……』

チャンミンは「ひえっ」と悲鳴をあげて白目になった。

『ああっ!ユノ!気持ちいい!?』

『チャンミン!良すぎる!』

なんてこった。
チャンミンの髪が揺れているのが葉の影に見え隠れ。
これじゃ俺が抱かれてるみたいじゃないか。
いや、現にそんな感じだったけど……。

それにしても、弟のエロシーンだぞ!
どんな気持ちで見ているのか、心理がさっぱりわからん。

「やっぱりあいつ変態だな……。」

このSDカードは問答無用で没収だ。
捨てるには惜しいから俺が管理しよう。

若干ムラムラして来たが、チャンミンはクッションを抱えて毛布に潜ってしまった。

SDカードを鞄の中に隠し、書斎から他のカードを年代順に持ち出した。

「無事終わりました?」

「ああ……無事ではなかったが任務は遂行された。」

寝室から出て来たキュヒョンとリビングに戻ると、チャンミンはすやすや眠っていた。
何しに来たんだか。

「これ、見ます?」

キュヒョンは可愛らしい瞳を輝かせ、テーブルに並べたSDカードを指差した。

「ああ。キュヒョンは眠くないか?」

キュヒョンはふっと笑った。

「眠気はないんです。消えてる時が休んでる状態になるみたいで。それに、ユンホ様の前で寝たりしません。」

「チャンミンはぐっすりだぞ。」

「昔から礼儀のないやつですね。」

「ふふっ。」

1枚目のカードは、チャンミンが初めてシウォンの家に来た年のクリスマスの映像だった。

大きなクリスマスケーキに目をまん丸くするチャンミン。あどけなくても、今と同じぱっちり二重と可憐な涙袋。瞬きに震える睫毛。

真っ直ぐ揃った前髪をシウォンが撫でて、「ろうそくを吹いてごらん」と言うと、チャンミンはシウォンを見上げてにっこり笑う。

「お兄ちゃんと一緒にやる。」

シウォンは頬をピンクに染めてチャンミンの肩を抱き、一緒にろうそくを吹き消した。

撮影しているのはシウォンの母親だろうか。
楽しそうな笑い声。
手を叩く父親は、会社で見た会長写真とは別人のような柔和な顔。

次はピアノの練習をしているチャンミン。
ぴくんと肩を震わせて振り向き、「もー、お兄ちゃん!撮るのやめてよ!」と怒る。

運動会や、夏休みのプール。家族旅行。

最初の数年の映像はたくさんあるのに、次第に数が減り、中学生の映像はピアノの発表会だけになった。

「あぁ、そこはそうじゃない。」

「あー、もー。恥ずかしい。」

母親は、チャンミンの演奏にため息混じりに呟く。

「なんでだよ、上手いのに。指がジャズっぽく転がるところがいい。なあ?」

キュヒョンに同意を求めると、キュヒョンはポロポロ泣いていた。

「キュヒョン……。」

「すみません……何だか、俺も昔を思い出してしまって。」

「そうだな。キュヒョンも、チャンミンのお兄ちゃんだったな。」

キュヒョンの肩を抱いて、泣き止むまでさすった。キュヒョンは、嗚咽を我慢しなかった。

毛布の端から目だけ出したチャンミンが、驚いて見つめている。
俺は優しい視線を送り、寝たふりをしろとチャンミンに合図した。

小さくなって泣いていたキュヒョンは、しばらくして顔をあげた。

「ユンホ様に触られると、癒されて消えたくなります。」

「駄目だよ。消えないでくれ。これは俺の我が儘だけど、俺達と一緒に居て欲しい。」

「俺……。」

唇を噛んで言い淀み、キュヒョンは俺の顔を見つめた。

「ん?」

「シウォン様の守護霊になれないでしょうか。」

ごくりと唾を飲み込んだ俺と毛布にくるまるチャンミンを、キュヒョンは順に見た。

「チャンミンにはユンホ様が居る。ユンホ様にはトヨさんが。」

「だから、シウォンを?」

「それだけじゃありません。俺が幼いチャンミンを預かって兄として共に過ごして来たように、今のシウォン様はチャンミンを慈しんできた。」

「同じだと……。」

「はい。そんなシウォン様に、繋がりを感じました。」

「急に守護霊になれるものなのか?」

「難しいよ。」

我慢しきれなくなったチャンミンは、毛布をがばっと剥がして起き上がった。

「普通はキュヒョンが幽霊になった時か、シウォンが生まれた時じゃないと。」

「そうか。」

キュヒョンは残念そうだ。
何とかしてやりたい。

チャンミンと俺が生まれ変わって再会した今、キュヒョンはいつ消えたって不思議じゃない。

でも俺は、もう誰とも別れたくない。

幽霊としての存在価値。それは、人が生きるための夢や目標と同じなんじゃないか。
夢があれば、人は生きる。

キュヒョンに新しい夢を持って欲しい。

「チャンミン。ばあちゃんと相談しよう。トヨは誰よりも知識がある。」

「うん!僕は自己流だったから勉強不足だけど、トヨさんなら何か分かるかも。」

キュヒョンはふと周囲を見回した。

「そう言えば、トヨさんは?ユンホ様が落ちた時以来、見かけたことないですけど。」

「ばあちゃん年だからサボってる。危険を察知しない限り、消えてるか、縁側でひなたぼっこ。」

「ふ、あはははは!猫の生活みたい!」

笑ったキュヒョンが可愛くて、俺はこんな弟が欲しいな、と思った。





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続・祓い屋リノベーション 7

続・祓い屋リノベーション
7



外国人がやたらと多い広尾のスーパーでチーズと香辛料を選びながらキュヒョンの報告を聞いた。

「家に居るとき、たまにスマホを見てニヤニヤしてます。」

「キュヒョンは見てないだろうな?」

「へへ。見ようと頑張ったんですけど、チャンミン1人の写真ばっかりでしたよ。」

「チャンミン見てニヤニヤって……。まぁいい、動画じゃないなら……。」

「24時間監視していたわけではないので、動画がないとは言えません。」

「こ、声はしてないか?」

「イヤホンしてるから分からないんです。それよりユンホ様、怪しいのが書斎のSDカードです!引き出しに鍵をかけて大切そうにしまってました。」

「データの中身は分からない?」

「それが、俺どうも電子部品は苦手なんですよね。静電気がバチバチして、触れないんです。スマホやテレビも苦手です。」

幽霊にも苦手なものがあるんだな。
最新機器は駄目なのか。電磁波が良くないのかもしれない。

「でもユンホ様、任せてください。引き出しの鍵のありかはチェック済みです!」

「でかしたキュヒョン!よし。今夜何としても奪還するぞ。」

「この際、睡眠薬でも飲ませます?」

「そうしたいどころだが、それじゃ犯罪だろ……。」

悪巧みに盛り上がって楽しく帰ると、チャンミンがダイニングテーブルに頬杖をついて不貞腐れていた。

「遅いよ!香辛料がないと仕上げができないでしょ。」

「あ、すいません。」

頬を膨らませて料理を再開したチャンミンは、あっと言う間にテーブルをいっぱいにした。

シャワールームから出てきたシウォンは、涙ぐんで喜んだ。

「チャンミンの手料理なんて久しぶりだ。幸せだなぁ……1人邪魔が居るが……。」

正確には邪魔者は2人居る。
目配せして微笑みあう俺とキュヒョンに、チャンミンは微妙な顔をしていた。

ワインを追加で買ってきておいて良かった。
チャンミンがガブガブ飲むせいで、すぐに1本空いてしまった。

「チャンミン、飲み過ぎるなよ。」

「これくらいで酔いません。」

なんだか不機嫌だな。
グラスが空になる度にシウォンが継ぎ足し、2本目も半分になったところでチャンミンは席を立った。

「先にシャワー浴びてくる。」

チャンミンが居なくなった途端、シウォンは俺に鋭い視線を投げる。駄目だ。まだ全然眠そうじゃない。

「ユノ、チャンミンに不自由させてないだろうな?」

「大丈夫ですよ。大切にしています。」

「必要な物があったら遠慮せずに言え。」

「自分で買える範囲で何とかします。お給料も困らないくらいいただいてますから。」

シウォンは少し寂しそうに笑ってワインを継ぎ足した。

「あの……チャンミンの小さい頃の写真なんてお持ちじゃないですか?あの家には1枚もなくて。」

「……特別だぞ……。」

ワイングラス片手に書斎に消えたシウォンは、1枚のSDカードを持って戻ると、テレビの横に差し込んだ。

画面に映し出されたのは、白いシャツに蝶ネクタイをした、可愛くあどけないチャンミン。

「10歳の時、ピアノの発表会の映像だ。」

ぺこりとお辞儀をした拍子に片方落ちてしまったサスペンダーを直して、緊張の面持ちで椅子に座った小さな天使。

パチパチ瞬きして、両手をぎゅっと握る。
俺まで緊張してきた。

曲名は分からない。
口を尖らせて、最初はたどたどしく、次第に滑らかに、美しい旋律を奏でる。

俺はテレビの目の前に陣取って、1つの動きも逃すまいと見つめた。

「可愛いだろ。」

「はい。」

泣けてきた。
いとおしくて、黒い髪を撫でたかった。
俺の隣に来たシウォンも、涙ぐんでいた。

俺とシウォンは何故か涙目で隣り合って肩寄せ、幼いチャンミンを観賞した。

「わーーー!!!何してるの!!!」

シャワーから出てきたチャンミンにテレビの電源をぶちっと切られてしまい、俺とシウォンは正気に戻った。

寄り添っていた肩をはたき、テーブルに戻る。

「シウォンさん、日々こんなお宝映像を眺めてるわけじゃないでしょうね。」

「ふっ。羨ましいのか。」

「む……そういう訳では。」

「見たければ、たまにチャンミンをうちにお泊まりさせろ。データをコピーしてやる。」

「お泊ま……。」

一瞬悩んでしまった。

「いえ。俺には今のチャンミンが居ますので。」

「強がるな。欲しいくせに。」

ほ、欲しい。
喉から手が出るほどに。

「2人ともバカじゃないの!?ユノ!さっさとシャワー浴びて来なよ!」

「だってチャンミン……あんなに可愛い……」

「うるさい!GO!」

犬のように指示され、トボトボとシャワールームに向かう俺の肩を、キュヒョンがさすって慰めてくれた。


シャワーを出ると、シウォンは眠そうな顔でテーブルに肘をついていた。

「片付けは俺がしておきますから、もう休んでください。」

「悪いな。寝不足にワインが効いてきた。先に失礼するよ。ユノはソファでいいか?」

毛布を出してくれたシウォン。

「ちょっとお待ちを。チャンミンの分は?」

「は?チャンミンは俺とベッドで寝るだろ。」

「それはならん!」

しまった。
つい国王口調が出てしまった。
すかさずチャンミンが救いの手を差しのべた。

「兄さん!僕はまだ飲んでるし、寝てるところを見守りたいから、後で行くよ。」

「そうか。じゃあ、兄さんは先に寝るよ。おやすみチャンミン。夢で待ってるからな。」

ああ……。
なんて寒い台詞だ。

わざとらしく震える俺をちらっと見て鼻で笑い、チャンミンを無駄にハグするとシウォンは寝室に消えた。

「チャンミン。人のあしらい上手くなったね。」

「ふふ。シウォンのあしらいならね。」

軽く酔っ払ったチャンミンは俺に甘えたがった。

「ねー。キスして。」

いやいや。
兄の家でなんてことを。
しちゃおうかな……。

キュヒョンが椅子にどかっと座った。

「俺が居ること忘れるなよ。」

「忘れてないよ。キュヒョンになら見られてもいいかと思って。」

「勘弁してくれよ。ユンホ様も、唇突き出すのやめてください。」

「あ、ごめん。」

シウォンが寝静まるのを待って、俺達は小声でこれからシウォンをどうするか相談した。

「なあキュヒョン。シウォンにも幽霊が見えたら、昔みたいに皆で過ごせて楽しいと思わないか。」

「それは……。難しいですよ。国王だった頃も、シウォン様には見えていたかどうか。」

「でも、あれでも国王だった人間なんだから、並外れた力は持っているはずだろ。可能性はあるんじゃないか。」

「可能性だけで、死にかける程の衝撃を与えるわけにいきませんよ。守護霊も居ないのに。」

俺はふと閃いた。

「ばあちゃん……トヨなら守れるんじゃないか?あれだけの能力者だ。」

チャンミンは唇を撫でてしばらく考えていたが、最後には首を横に振った。

「トヨさんはユノの守護霊だから、確実じゃない。そんな危ない賭けはできないよ。」

「そうか……。」

「僕にもっと能力があったら良かったのに。ごめんねキュヒョン……。」

俯いてしまったチャンミンの頭を、キュヒョンはぐりぐり撫でた。

「ユンホ様とチャンミンが居るだけでも俺は嬉しいよ。ありがとな。」

幽霊と人間。
キュヒョンの心は昔と変わらないのに、この溝を埋めることは想像以上に難しい。

切ない空気を変えるべく、俺はスパイ工作へと話題を変えた。

「キュヒョン。スマホのロック解除方法は分かるか?」

「それならばっちりです。」

「よし。チャンミン。シウォンが完全に寝たか確認して、スマホ取ってきて。」

チャンミンは気乗りしなさそうにワイングラスを揺らしていたが、キュヒョンのキラキラした目を見て、「仕方ないなぁ」と寝室に向かった。

その直後だった。

「ぎゃふっ!」

尻尾を踏まれた猫みたいな悲鳴が聞こえた。





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続・祓い屋リノベーション 6

続・祓い屋リノベーション
6



チャンミンと2人でクイーンホテルに到着すると、早速支配人に呼ばれた。

「まさにクリスマスの奇跡ですよ!」

興奮気味の支配人は、部屋の中を行ったり来たりせわしない。

「昨夜レイカさんの元マネージャーさんから連絡があったんです。ジョイさんのコンサート開催場所を急遽探していると。」

「あの歌姫のジョイさんですか?」

「そうです!20年前に一世を風靡して、今でも人気の衰えない彼女が、突然クリスマスディナーショーを開きたいと。信じられますか!?」

「もう12月だと言うのに?信じがたい話ですね。」

チャンミンはジョイさんのことを知らないらしい。首を傾げてお茶を飲んでいる。

「チケット会社は大喜びですよ。短期間でも即日完売間違いないだろうと。チケットをプレゼントしたホテルのお客様も、皆さん興奮して、是非来たいと言ってくださって!」

「では、クリスマスディナーショーは開催できるんですね。まさに奇跡と言うべきか……。」

支配人はソファに座り、俺をじっと見つめた。

「偶然と思えません。ジョイさんはレイカさんの事務所の後輩です。」

「レイカさんが助けてくれたと?」

「そんな気がしてならないんです。」

にわかには信じがたい。
幽霊がホテルの窮地を救うなんて。

部屋を出た俺達はレイカさんを探したが、ホテル内を回っても姿は見付からなかった。

「チャンミン、どう思う?」

「ちょっと考えにくいけど、レイカさんてスーパースターだったんでしょ?想像もつかない力を持ってるのかも。」

「でも、いくら力があってもディナーショーを開催させるなんて、幽霊ができるのか?意志が通じる人が手助けしているってことは?」

「そうだね……。事務所関連の人かな。マネージャーさんは?」

「マネージャーさんが事務所で無茶できるような力あるかな。」

「芸能界のことなんて分からないね。あ、シウォンに聞いてみる?知り合い居そう。」

シウォンか……。
いまいち気乗りしないが、彼の人脈は計り知れない。

早速シウォンに電話したチャンミンは、にっこり笑って電話を切った。

「知り合いに大手の芸能事務所社長がいるから、レイカさんの事務所の人と繋がってると思うって。連絡来るまで待って。」

「さすが社長だな。」

「でしょ。すごいよね。」

チャンミンは本心ではシウォンを尊敬しているのだろう。
いい気はしないが、彼氏らしく余裕綽々なフリをしておいた。

「お茶して待とうか。ホテルのカフェなんて、チャンミン滅多に来ないだろ。」

「ちょっと奮発してランチしちゃう?」

ランチセットの案内に瞳をキラキラさせて選んだ後、チャンミンは店内に置かれたグランドピアノに目線を移動させた。

「チャンミン、ピアノに興味あるの?」

「昔、習ってたんだ。両親が音楽好きだから。あ、シウォンの方のね。」

チャンミンの小さい頃の話なんて、ほとんど聞いたことがない。両親の話は嫌だろうと、敢えて俺から聞くことは避けてきた。

「チャンミンはピアノ弾くの好きだったのか?」

「先生が厳しくって、レッスン行くの嫌だった。家で好きな曲弾いてるのは楽しかったけど。」

チャンミンの細く長い指が鍵盤の上で動いたら、綺麗だろうな。見てみたい。

「いつまでやってたの?弾いてみせてよ。」

「やだよ。家を出てからほとんど弾いてないから。下手になってる。」

がっかりした俺に気を遣ったのか、チャンミンは思い出したように呟いた。

「納戸に小さい電子ピアノあるから、練習してからね……。」

「ほんとに!?楽しみだな。俺だけのために、ディナーショーして!」

巫女だった頃とは違う、今のチャンミンの知らなかった一面が垣間見えると、無性に嬉しい。
昔のチャンミンはもちろん愛しているけど、俺が好きになったのは今を生きるチャンミンだから。

テンションが上がった俺に、チャンミンは微笑んでランチをパクついた。

「ユノはもうサッカーしないの?フットサルの時、すっごく格好良かったのに。」

リスみたいに可愛く頬を膨らませ、上目遣いで話されると未だにドキドキする。

「ドンヘに誘われてる。チームに入らないかって。」

「やったらいいのに!」

「頭打ってから日が浅いし、まだちょっとやる気になれないんだよ。来年には考えてみるよ。」

「楽しみ!ユノがスポーツするとこ、見てるだけでドキドキする。ユンホ様とはまた違うかっこ良さがあってさ。」

「チャンミン……。」

同じこと、感じてくれてるんだな。

幸せを噛み締め、もぐもぐ動く頬に触れたいと手を伸ばした時、チャンミンはすくっと立ち上がった。

「シウォンから電話!」

「ちっ。」

宙に浮いた手を握り拳に変え、いいタイミングで邪魔してくるシウォンに舌打ちした。

「馬め……。」

隠しカメラの件は許していない。
絶対に痛い目にあわせてやる。

カフェを出て電話していたチャンミンは、困った顔で戻ってきた。

「レイカさんの事務所、明日、少しだけ時間とってくれるって。」

「すごいね。良かった。」

いい話なのに、チャンミンは眉を下げてスプーンの柄を指でくるくる撫でている。

「で、チャンミンはなんで困ってるの。」

「あ……あの……紹介したお礼に、今夜添い寝だって。」

「なに!?」

「怒らないでよ。浮気するわけでもないんだから、いいでしょ。」

「俺も行く。何と言われても行くからな!」

「もう。困った人だなぁ。」

チャンミンは、呆れながらちょっと嬉しそうだった。




「何故ユノが居る。」

ドアを開けたシウォンは、後ろから顔を覗かせた俺に舌打ちした。

「大切な兄上のことが心配でしたので。」

「ふんっ。白々しい。」

シウォンの自宅は、広尾駅に近い、南麻布の落ち着いた低層マンションだった。
大使館が立ち並ぶ、閑静なエリア。

オレンジの間接照明に、シックな家具がぼんやりと照らされる、海外のホテルのような室内。

このムーディーな空間にチャンミンとシウォンが2人きりだったかと思うと、身震いする。

「俺も居るから心配いらないのに。ユンホ様、独占欲増してません?」

ぬっと現れたキュヒョンが耳元で囁いた。

「うるさい。他にも目的があるだろ。」

「何か言ったか?」

シウォンを無視し、俺は書斎らしき部屋に目を光らせた。
チャンミンのエロ動画データはどこだ。

隠しカメラはwifi通信するタイプだった。スマホに落としたであろうデータを削除するとともに、他にコピーしていないかも確認しなければ。

気分はスパイだ。
007のQみたいに最新鋭の武器を用意してくれる仲間は居ないが、俺には必殺兵器とも言えるキュヒョンが居る。

シウォンには酒でも飲んで早いとこ寝て貰おう。

「社長、これ良かったら。チャンミンが選んだワインです。」

手土産の赤ワインのボトルを眺め、「なかなかいいワインじゃないか。」と嬉しそうなシウォン。

以前ディナーに行った時に飲んでいたワインを記憶しておいて良かった。

「今日はチャンミンと俺が見張ってますから睡眠不足を解消してください。」

「やけに優しいな。どんな魂胆だ。」

さすが、抜け目ない。

「俺じゃなく、チャンミンの気持ちです。家や仕事のサポートしてくださること、尊敬していると……。」

警戒を解く兵器はチャンミンだ。
案の定、シウォンはでれでれになった。

「チャンミン!本当に!?」

「ん?まぁ、尊敬はしてるよ……。」

「弟よ!!兄さんは嬉しいぞ。今夜は祝杯だな。」

「チャンミン、つまみでも作って差し上げて。」

チャンミンは俺の余裕の微笑みに、疑問符いっぱいの顔をしつつ、キッチンでいそいそと料理を始めた。

俺は、チャンミンが足りないと言う食材を買いに行くのを口実に、キュヒョンの秘密捜査の報告を聞くことにした。





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続・祓い屋リノベーション 5

続・祓い屋リノベーション
5



夕方ホテルから戻った俺を待っていたのは、人気のない家。木々の奥にひっそりと佇む焦げ茶の壁と黒い瓦の家は、明かりもなく暗い。

玄関の鍵は閉まっていた。
俺が出掛けるとき施錠したまま。
チャンミンはシウォンのところに行ったきりか。

軋んだ木戸をもう一度開け、石畳を戻り、俺は東方不動産へ向かった。


「あらユノくん!」

ハナさんが喜んで駆け寄ってきた。

「頭の怪我はもう大丈夫?最近たまにしか顔出してくれないから寂しいじゃない!」

「ご無沙汰して、すみません。」

最近は療養にかこつけて家でチャンミンとイチャイチャしていたので……。

辺りを見渡したが、オフィスにチャンミンは見当たらない。

「今日はシムくんが珍しく朝から社長室で仕事のお手伝いしてて、明日は大雪でも降るんじゃないかってみんな噂してるわよ。」

「ああ、もうシウォン社長なんて超のつくご機嫌!気持ち悪いくらいニヤニヤしてる。」

ドンヘも負けじとにやけた顔で近付いてきた。

「そんなに好きなら秘書にでもすればいいのになあ?」

「ひ!秘書!」

チャンミンが秘書なんて…………何やら卑猥だ。
シウォンにデスクに押し倒されてキスを迫られるチャンミンを想像してしまった。

いかん。
ばあちゃん!今のは無かったことに!

頭を叩く俺の耳元にドンヘが顔を寄せた。

「シムくん、色気増したよなあ。営業でもヤバイってさっき話してたとこ。彼氏の影響?」

チャンミンの色気は外でもだだ漏れなのか。
危ないな。
やはりそばに居ないと不安だ。

「チャンミンは社長室?」

「シムくんならさっき休憩するって屋上に行ったぞ。」

ハナさんがカフェオレを2つ持ってきた。

「お疲れみたいだったから、これ持って行ってあげて。」

「ハナさん……ありがとうございます。」

社長はあれだが、俺はこの会社が好きだ。
心が和む。



屋上ではチャンミンがぼけっと西の空を眺めていた。

ベンチにカフェオレを置いた音に振り向き、顔をぱっと輝かせて駆け寄ってくる。

「ユノ!」

「チャンミン。寒くないの?」

胸に飛び込んだチャンミンをコートで包んで抱き締めた。

「ん。寒かった。」

「冷えきってるじゃないか。あったかいカフェオレあるよ。ハナさんが入れてくれたんだ。」

「ん……。」

チャンミンはいやいやして胸に顔を埋めた。

可愛い。
めちゃくちゃ可愛い。

「どうした?何かあった?」

「キュヒョンと喧嘩しちゃった……。」

「シウォンへのいたずらのことで?」

チャンミンはため息をついてベンチに座り、カフェオレのカップで指先を温めた。

「ちょっと遊んでるだけなのに、うるさいって。2000年も幽霊してる俺の気持ちなんて分からないだろって怒られて、何も言えなかった。」

「そうか……。」

2000年も待たせたのは、俺のせいだ。
今楽しそうにしているキュヒョンには、どんな年月があったんだろう。

分かりあえる人は1人でも居たのか?
それとも、孤独な日々を、ずっと、ずっと……?

幽霊が抱える気持ちなんて、じっくり考えたことがなかった。
レイカさんの気持ちだって、俺には到底想像がつかない。

「僕はユノとまた出会えてこんなに幸せで……。キュヒョンにも楽しい毎日を過ごして欲しい……。」

「そうだな。」

寒そうに俺の肩にもたれたチャンミンにコートをかけて、彼が生きていることに心が震えた。

「チャンミン。幽霊にならずに俺のそばに居てくれてありがとう。」

「うん。」

暗くなった屋上で、こっそりキスした。
チャンミンの唾液の温もりが嬉しい。
チャンミンの存在が奇跡だと、改めて感じた。

だが甘い時間には邪魔者がつきもの。

「会社でイチャイチャするな!!!」

「ドンヘ……暗いのによく見えるな。」

飛び上がったチャンミンはカフェオレをベンチに溢し、「雑巾取ってくる!」と走り去った。

「リノベーション部、暇なの?シムくんが社長の手伝いするなんて。」

「仕事もしてるよ。今はクイーンホテルで。」

「ホテルのリノベーション?」

シウォンにはチャンミンとのことは内密にしろと言われたが、友達のドンヘにまで内緒にすることが辛くなってきた。

トンバン国でも、1番仲が良くていつも一緒に居たドンヘ。

「リノベーション部は、事故物件の処理をやってるんだ。」

「へ?自殺とかの?」

「そ。お祓いして綺麗にする。」

「お祓い?祈祷でもするのか?あっ!それでシムくんて、妖しい雰囲気があるのか。」

俺とチャンミンが付き合っていると聞いた時も意外とすぐに受け入れてくれたドンヘは、今回も拍子抜けするほどあっさり受け入れた。

「ユノは何してんの?もしかして、ユノって霊感ある人?皆無に見えるけど。」

「チャンミンの補佐のはずだったんだけど、チャンミンの影響かな、最近幽霊が見えるようになって、修行中。」

「ええっ!?ユノ幽霊見えるの!?」

「ユノは凄いんですよ。」

布巾を手に戻ってきたチャンミンが、話に加わった。
ドンヘはチャンミンの言葉ににやけた。

「精力が凄い?」

「ちっ!違います……ん、違わなくもないけど……。」

「2人ともやめんか!」

にやにやしたドンヘと赤面したチャンミンに挟まれてきまりが悪い。

「俺の力はチャンミン程じゃないから、色々教えて貰いながら仕事したいんだけどね。」

「そんなことないよ。ユノは僕と違って話も上手いし……。僕が居なくたって幽霊と仲良くなれちゃうし。」

チャンミンは口を尖らせた。
もしかして、それで拗ねてたのか。
祓い屋として先輩らしく居たかったのに、俺が傷つけた?

「そんなことない。基本的なことも分からないんだ。幽霊の行動範囲とか、何ができるかとか、そばでもっと教えて?」

「ユノ……。」

見つめあった俺達に、ドンヘは呆れた。

「何度も言わせるな。イチャイチャは家でやってくれ。」

「そうするよ。チャンミン、社長の手伝いはもういいの?」

「うん。会合があるからってさっき帰った。」

エレベーターホールに向かいながら、ドンヘはワクワクを隠さず楽しそうに提案した。

「仕事の話もっと聞かせてくれよ。今度3人で飲みに行こう!」

「そうだな。そうしよう。」

キュヒョンも一緒に行けたら楽しいだろうな。
シウォンだって、キュヒョンが見えたら悩まずに楽しめるかもしれない。



家に帰ってキッチンに立つチャンミンを、後ろから抱き締めた。

「包丁危ないよ!」

「なあチャンミン。シウォンのことはキュヒョンの好きなようにさせてやったら?」

「うん……。」

「シウォンが心配?」

「シウォンよりも、キュヒョンが心配。僕の我が儘で幽霊にしちゃったから、ほっとけなくて。」

「殴ったらシウォンにも見えるようになるかな?」

チャンミンは首を横に振った。

「そんな簡単じゃないと思う。ユノだって、頭打った時、一歩間違えば死んでたんだよ?それに、シウォンは元々見える人じゃないし。」

チャンミンは包丁を置いて、俺の手をぎゅっと握った。

「ユノは奇跡みたいな人だよ。」

「チャンミンもだよ。」

「記憶が戻って嬉しいけど、嫌なこともあるね。つい、昔の自分と比較しちゃうんだ。」

「能力のこと?」

「うん。前の僕だったら、もっと色々できた。術だってたくさん知ってた。」

「そんな術、もう必要ないだろ?今のチャンミンにできること、分かることだけで十分すごいよ。なぁ、明日からは一緒に仕事行ってくれる?」

チャンミンはこくんと頷き、俺に抱き締められたまま、料理を再開した。

細かく刻まれていく野菜と包丁の音。
コトコト煮える鍋から上がる湯気。
背後のガスヒーターの温風。

「動きにくいなあ。」

文句を言いながら、唇を噛んでにやけるチャンミンの笑顔。

幸せだ。

こんな幸せをくれたキュヒョンにも、幸せであって欲しいと、心から願った。





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続・祓い屋リノベーション 4

続・祓い屋リノベーション
4



チャンミンは挙動不審だ。

寝ぼけ眼で俺にすり寄ったまでは良かったが、俺が目を開いて見つめた途端、「ひゃっ」と飛び起き、寝室の隅まで投げ飛ばされていた袴を掴んでバタバタと部屋を出ていった。

朝食は大量に作られていた。
いつもは美しい満月を描くはずの目玉焼きの黄身は全部割れている。

「う……ぺっ……卵の殻入ってるぞ。」

「あ、ごめん。」

殻を吐き出そうとシンクの三角コーナーに目をやると、捨てられた殻は原型をとどめず粉々になっていた。
一体どんな馬鹿力で割ったんだ。

「チャンミン。ああ言うの好きだったの?」

「ああ言うの……?」

「コスプレ的な。」

チャンミンは一瞬白目をむいた顔を両手で覆って首をぶんぶん振った。

「昨日のことは忘れて!」

「そんなわけにいかないよ。ずっとビクビク震えて感じまくってたもんな。俺も興奮しちゃった。」

「あああ……。」

「なんだよ。最高だったよ?またしような。」

「袴がめちゃくちゃになったじゃない!もうしないから!」

「そんなこと言うなよ。」

「巫女プレイは禁止します。」

真っ赤な顔で朝食を終えたチャンミンは、キュヒョンと話してくると言い出した。

「は?仕事は?」

「早く彼を何とかしないと、シウォンがおかしくなるでしょう。仕事はユノ1人で何とかして。」

煽って楽しんでたのによくもまあ。

「そんなこと言うなよ。いつも一緒に居たい。」

「ユノ……。」

5秒ほど甘い雰囲気に包まれたが、キスする手前でチャンミンの目はキリッとした青年のそれに変わってしまった。

「とにかく!今日は別行動で!僕は会社に行ってくる。」

なんだなんだ。
あんなに俺にべったりだったのに。

仕方なく、俺は10時過ぎにはクイーンホテルに入った。
昨夜自殺現場となった部屋に宿泊した客は11時のチェックアウトギリギリまで滞在するつもりか、まだ部屋は空いていない。

フロアではチェックアウトした他の部屋の掃除が始まっている。

大型のカートにはぐるぐるになったシーツやタオルが山と積まれていく。
清掃スタッフは黙々と作業に勤しんでいる。

11時10分前になって、奥の部屋から年配と若い女性2人が出てきた。母娘だろう。アーティストの名前が入ったバッグを持っている。

昨夜は一緒にコンサートにでも行ったのか、幸せそうな様子が微笑ましい。

エレベーターホールで待ち構え、ホテルマンのフリをしてボタンを押した。
ダークスーツの俺を、親子はスタッフと思ってくれたようだ。

「おはようございます。ゆっくりおくつろぎいただけましたか?」

俺の顔を見て頬を赤らめた母親は、笑みを浮かべた。

「ええ。とても!さすがクイーンホテルですね。」

娘さんも楽しそうに頷く。

「また来たいです!タオルがフカフカで持って帰りたいくらい!」

やはりレイカさんの言っていたことは本当か。
悪さなどしていない。

親子にやたらと顔を凝視されたが、丁寧に見送り、俺はホテル内を見て歩いた。
チェックアウト時間を過ぎ、どの階も清掃に忙しい。

部屋に戻り、清掃スタッフの女性に話しかけた。

「おはようございます。」

「おはようございます……あ、コンサルタント会社の方ですか。」

「はい。支配人からお話ありましたか?」

「ええ。朝礼で伝達がありました。」

支配人の仕事が早くて助かる。

「この部屋で自殺があったそうですね。」

清掃の女性は眉を下げ、声のトーンも下げた。

「あの日も、この部屋の清掃をする予定でした……。まさかあんな有名な方が亡くなるなんて、信じられません。」

「現場を目撃されたんですか?」

「いえ。支配人が入られて、見るなとおっしゃって……。酷い状況だったそうです。いつも冷静な支配人が、涙ぐんでらっしゃるのを初めて見ました。」

「この部屋の清掃するのは、嫌ではないんです?」

「気にはなりますけれど、何かあるわけではありませんから。部屋も綺麗なものですし、幽霊とか信じてませんし!」

清掃スタッフにも異常はなさそうだ。
部屋を眺めていると、背後から声がした。

「だから言ってるでしょ。何も悪いことなんてしてないって。」

「レイカさん!」

シーツを剥がしていた清掃の女性が振り返ったのを手で制し、俺は部屋を出た。

「驚かさないでくださいよ。」

「あら、失礼しました。今日は可愛い僕ちゃんは?」

「他の仕事で……。今日は俺1人です。」

「寂しいじゃない。1人ぼっちなのね。」

レイカさんは話し相手になれと、俺を庭園に連れ出した。

時間帯のせいか、冬支度した庭には誰も居ない。色を失った芝生に丸く刈り込まれた真緑のイヌツゲが際立ち、白い玉石が雪を思わせる。

真っ赤なロングドレスで小路を進むレイカさんは、まさに貴婦人。

「寒くないですか?」

コートを脱いで肩にかけようとする俺にレイカさんはくすくす笑った。

「意味ないわよ。それに、寒くない。」

「寒さとか暑さは感じないんですね。」

「そうなの。幽霊に会ったことないから、他の人はどうかわからないけど。」

「実は俺も幽霊を見えるようになったのは最近で。この状況はすごく新鮮です。」

「そうなの?ベテランの雰囲気出てるのに。」

まあ、2000年前は見えてたから……とは言わないでおこう。
幽霊になんて興味が無かったから、新人並に詳しくないのは本当のこと。

「人と会話できないって、不便じゃないですか?」

「そうね。ちょっとつまらない。勘づく人がいたら驚かしたくなってしまうわ。」

いたずらっ子のように笑うレイカさんに、昔から幽霊が悪いものとして扱われてしまうのは、こんないたずら心のせいもあるのだろうと思った。

キュヒョンもしかり。
驚かせて面白がる。
そこには、自分に気づいて欲しいという幽霊の寂しさがあるのかもしれない。

「俺とチャンミン以外に、見える人と会ったことはないんですか?」

「私のマネージャーは、気づいてるかも。元々霊感のある子だったから。支配人も、他の人より敏感ね。」

「まさか、支配人で遊んでます?」

「遊んでなんかいないわ!仕事内容が多岐に渡って面白いから見てるだけよ。」

庭を一周してロビー横のエントランスを入ると、支配人に呼び止められた。
レイカさんは消えてしまった。

「ユノさん。スタッフの受け入れは問題ありませんか?」

「はい。ありがとうございます。」

支配人の顔色はよろしくない。
疲れが滲み、シワが寄った額に手を置いた。

「どうかされましたか?お疲れのようですね。」

「幽霊とは関係ないことで……。クリスマスディナーショーを予定していた方が急病でキャンセルになってしまって。もう今月だと言うのに。」

「チケットは……。」

「完売でしたがキャンセルして払い戻ししないと。常連のお客様にプレゼントしていた分も多くありますので、これから対応しなければいけません。」

「大変そうですね。」

「私たちはいいんです。ただ、クリスマスの夜を楽しみにしてくださっていたお客様に申し訳なくて。」

急ぎ足で去っていった支配人の肩はひどく落ちていた。

ディナーショーと言えばホテルの一大イベント。その急なキャンセルともなれば、落ち込むのも無理はない。

レイカさんはもう現れなかった。
その後もスタッフの様子を見て回ったが、気になるところはないし、俺にはレイカさんほどホテルを楽しむ能力はない。

「チャンミンが居ないと、張り合いがないな……。」

たった半日離れていただけで、チャンミンが恋しくなってしまった。





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テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

続・祓い屋リノベーション 3

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東方神起 ユノとチャンミンが大好き。
脳内妄想をこっそり綴っています。
ホミンのみ。

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