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正中に放て 弓道編 16

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正中に放て
-弓道編-
16



後ろから様子を窺っていた虎之介もまた、ユンホに感心していた。

チャンミンを目の敵にしている九条が共感できるように、敢えて打倒チャンミンを掲げるなんて。しかも、本人の目の前で。

陰でこんなことを言われたらチャンミンは嫌な気分になるだろう。でも、大っぴらに目指すものとして扱われて、チャンミンは恥じらいながらもにやけている。

ユンホはきっと大物になる。
人を巻き込んで何かを成し遂げるカリスマ性がある。

歌子の心を掴んでいるライバルなのに、虎之介はユンホと東高で出会えたことを幸運だと思った。

こんなところに、チャンミンは惚れたんだろうか。

歌子は目をぱちぱちさせて驚いていた。

「チャンミン……いつも仏頂面してるくせに。なんか、めちゃくちゃ可愛くなってる……。」

歌子ははじめ虎之介の話が信じられなかったが、目の前の光景に納得せざるを得ない。

「私ちょっとチャンミンに探り入れてくるわ。」

「それなら俺も……。」

「邪魔しないで!ユンホ君に惚れた者同士、分かり合えるかもしれないわ!」

鼻息荒く突撃する歌子を、虎之介は呆然と見守った。

「歌子ちゃん……そんなにユンホがええんか……。でも、そんなところも堪らんな。燃えるわ。」

虎之介は根っからのいい男だが、女の子の趣味は残念ながらいまいち。浪速のチェリーボーイの恋の行方は前途多難だった。


歌子はチャンミンの腕を掴み、有無を言わせず外に引っ張って行った。

嫌がるチャンミンを公園のベンチに座らせ、お得意の女子トークに引き込んでユンホのかっこよさについてチャンミンと語り合うことにしたのだ。

チャンミンは歌子の作戦にまんまとはまった。と言うより、食い込みにトークの主導権を奪った。

「ユンホ君の目って、実はセクシーよね!」

「そうなんだよ歌子!普段はほんわかしてるくせに、俺の追っかけを睨む時は男って感じ!俺を守るなんて言っちゃってさ。」

「……そ、そうなんだ。かと思えば、行動が紳士的なとこもいいわぁ。」

「そうなんだよ歌子!俺がへこんでる時、ハンカチで涙拭いてくれてさ。ハンカチ持ち歩いてる男子なんて居るか?いないよな!」

「……へ、へえ。あ、体格も格好いいよね!腕とか筋肉質!」

「そう!触ったことないのによく分かるね歌子!二の腕凄いんだ。身体の軸もしっかりしてるから、俺が教えることぐんぐん吸収するんだ!何でもしっかり聞いてくれるから教え甲斐あるよ。」

「いいなぁ。歌子もユンホ君の腕、触ってみたい。」

「あはは。嬉しいとすぐ抱きしめてくるんだよね。あの腕で、ぎゅーって。困っちゃうよ。」

「………。」

自慢だわ。
これは……チャンミンの自慢話だわ!

歌子は気が滅入ったが、イケメン顔を崩して微笑むチャンミンが可愛いので「俺とユンホ君」話を存分に聞いてやった。

歌子調べクールなイケメン枠ランキングトップを長年守っていたチャンミンを、キュート枠に移行させる必要がありそうだ。

チャンミンとライバルになる日が来るなんて歌子にも想定外ではあったが、隣で顔面を崩してヘラヘラ笑っているチャンミンに負けるわけにはいかない。

チャンミンには残念なお知らせだが、ユンホが男を好きになるタイプとは思えない。いくらチャンミンがキュートだからと言って、恋心がやすやすと成就するわけがない。

その点、歌子には女子としてのアドバンテージがある。

自慢話が落ち着くと、チャンミンはふと冷静な顔になった。

「歌子はユンホ君のこと、本気なの?」

「そうね。今のところ、No.1だわ。」

「彼女居るのに?」

「海を跨いだ遠距離でしょ。近くの存在の方が強いのよ!」

「近くの存在……そうだね。」

「…………で……チャンミンもユンホ君が好きなのね?」

「は!?」

チャンミンは高速過ぎて止まって見えるほど激しく顔と両手を振った。

「歌子とは違うぞ!?とっ!友達としてね?」

「……そうそう!いい友達ができて良かったわねー。」

「えへへ。」

チャンミン……。

頭はいいくせに、人間関係はからっきしの馬鹿だわ。
まだ自分の気持ちを恋だと認識していないのね。

でもいいのよ。そのままで。
私が先にいただいちゃうんだから。

歌子は聞き込みを終了し、純朴そうなユンホをどうやって落とそうか考えながら、道場に戻ったのだった。


昼の休憩近くになっても帰って来ない2人に、ユンホはキョロキョロし始めた。

「ねえ、とらちゃん。チャンミン君と歌子ちゃんは?折角チャンミン君に試合のこと色々教えて欲しいのにさ。」

「どこ行ったんやろな……。」

虎之介が歌子にLINEしようとスマホを取り出した時、ルンルンと歩いてくるチャンミンと歌子の姿が遠くに見えた。

「なにあれ。凄く楽しそう。」

ユンホの唇がむにゅっと尖った。

「チャンミン君も歌子ちゃんも何してたんだよ!1時から午後の試合なんだから、時間ないよ!」

ユンホはチャンミンの手を引っ張り、芝生のベンチに強引に座らせ、やっと尖らせていた唇を引っ込めた。

ユンホの隣にはチャンミン。
こうでないと、どうも落ち着かない。

ご機嫌が回復したユンホは鼻歌に合わせて学食で用意して貰ったおにぎりを1列に並べた。

「おにぎり~♪三角~♪おにぎりコロコロ~♪」

「うふふ。今回は猫足じゃないんですね。おにぎりコロコロ~♪」

チャンミンまで歌い出した。

大阪城公園の青空の下、芝生でランチを食べる家族連れを背景に、聴いたこともないコロコロソングのデュエット。

なんやこれは。
ある意味ホラーや!

頬をひきつらせた虎之介に歌子は同情し、そっと頷いてみせた。
頷き合う2人に、ユンホがおにぎりをずいっと差し出す。

「歌子ちゃん、何味がいい?」

「え、残ったのでいいよ。ユンホ君選んで~。」

歌子はお得意のぶりっ子高音ボイスで上目遣いした。

「ダメダメ。レディファーストだよ♪」

「うーん、歌子迷っちゃう。ユンホ君は何味が好きなの?」

「僕はシーチキン!」

「じゃあ私シーチキンにしちゃおっと。」

「ええー。残念。歌子ちゃんも好きなの?」

「うふ。嘘よ。私のシーチキン、ユンホ君にあ、げ、る!」

「いいの?やったぁ!」

空々しいやり取りを、チャンミンが鋭く一刀両断した。

「急いでるなら、さっさと食べれば?」

ユンホの目の前からシーチキンおにぎりを奪い、間髪入れずにジンベエザメ並の大口を開けてかぶり付く。

さっきまでコロコロ~なんて歌っていた割に目がすわっている。

「ああっ……僕のシーチキンが……。」

がっくり項垂れてたらこ握りを手にしたユンホだったが、その表情はすぐにキラキラと輝いた。

食べかけたシーチキンおにぎりを半分に割り、チャンミンがユンホの膝にそっと差し出したのだ。しかも、具がたっぷり入っている方を。

「チャンミン君……!」

「あ……あげる……。」

「チャンミン君!大好き!」

「きゃーっ!」

目前で抱き合った男どもと、それを白い目で見つめる歌子を、虎之介は順に眺めた。

三角関係や。
しかも、ユンホを巡る三角関係。
俺の知ってる青春少年漫画とどえらい違うな。
ここは、歌子を取り合うべきところやろ。

金持ちの世界はこれやから苦手や……。
よう分からんわ。

自分も歌子をゲットするためにはこの乱れた男女関係の中に突撃しなければいけない。

虎之介は内心、ため息を吐いた。





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ジャンル : 小説・文学

SPY in the attic 5

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SPY in the attic 5



交わりの後、シャワーを浴びたマックスを捕まえてベッドに引き戻し、キスして過ごした。

このまま、甘い時間が続けばいい。
朝までこうして抱き合っていたい。

だが、夜の帳が迫り、マックスは時計を気にし始めた。

「もう行かないと……。」

恐れていた言葉に、ユノは息を吐いて天井を仰いだ。

「……次はいつ会える?」

「さあ……。」

「なぁ、もう会わないなんて言わないよな?」

「泊まりの客の相手とか色々続くから、暫くは無理かな。」

ユノの心にどす黒い嫌悪感が渦巻いた。
俺以外の男と過ごすなんて話、聞きたくない。

「マックスは今の仕事、ずっと続けるつもりなのか。」

「僕にとってはれっきとした仕事だからね。」

「でも……。好きでやってるわけじゃないんだろ?」

「好きじゃなくても、仕事は仕事。」

ユノがこの時感じていた、俺だけのものにしたいなんて気持ちは、一過性の願望だと嘲笑されると分かっていた。

マックスの身体を味わいたくて求めたユノだって、本質は他の客達と何ら変わらない。

「服貸してくれる?女装で帰るのしんどい。」

「そこのクローゼットから、好きなの着ていいよ。」

いつか分からなくても、服を返して貰うために会う口実ができることがユノには光だった。

いかにもビジネスマンぽいシャツとパンツにニットを羽織り、マックスはユノの部屋を出ようとする。

「おい、待てよ……。」

去り際に奪った唇。
ユノが舌を入れようとしても、マックスは唇でそれをあしらい、中に迎えてはくれなかった。

「ほんとにもう時間切れ。」

「送るよ。」

「やめてよ。女装してないんだから。」

マックスは、ユノの腕をほどいて素っ気なく出て行った。

男同士で近所の噂になったら洒落にならないのは分かっていても、ユノは虚しかった。

部屋に1人残され、屋根裏で聞いたマックスの甲高い喘ぎ声がユノの脳内に甦った。
今夜もあの家には嬌声が響く。
あの美しい身体を好きにできる客に、ユノは激しく嫉妬した。

顔も知らない客達も、それに応えるマックスも、憎らしかった。



それから何日も、マックスに会えることはなく、ユノは新しいミッションに追われていた。

長官直々の指示のもと、集められたMI6でも指折りの有能なエージェント5人。各地に飛んでいた者も何人か呼び戻された。

冷静な判断力と東側諸国の知識に長けた先輩エージェントのマシューと、ユノと仲の良いベンがチームになった。

「ユノは行動力と運動神経はNo.1だが、まだ若い。たまに羽目を外すから、マシューの言うことを守れよ。」

「すみませんね。無鉄砲で。」

「はは。長官のお気に入りだって噂はかねがね。よろしくユノ。」

握手を求めるマシューに、ユノも固い握手を返した。

27歳でまだまだ血気盛んなユノとは違い、40代のマシューは第一線での仕事から身を引き、裏方としてのサポートに定評があった。

イアンの捜索と、写真に写っていた貴族の息子セバスチャンを調査するのがユノ達の仕事だった。

他の2人は外務省の役人を担当することになった。

「イアンとKGBとに繋がりがあるとして、行方不明の状況ではソ連の2重スパイとは断定できない。役人とセバスチャンの線から、事実関係を洗ってくれ。」

MI6内に2重スパイが居るなんて話は今までも何度もあったが、局内の恥であることには変わらず、ましてや今回は外務省や内務省まで関係するかもしれないとあって、長官の目は厳しい。

「この状況では政府も信用できない。お前達がMI6の意地をみせろ!」

長官は声を荒げた。



セバスチャンは郊外の大邸宅へはほとんど帰らず、ロンドン市内のタウンハウスで日々を過ごしていた。

彼の毎日は、お世辞にも立派とは言えなかった。息子と言っても、40歳間近。仕事らしい仕事はしておらず、毎晩パーティーに出掛けては酒と女遊び。朝方に帰宅。

留守中に潜入して家捜しもしたが、女の写真ばかりでソ連との接点は見当たらなかった。

「とてもスパイや国の中枢と繋がりがある人物と思えないな。」

MI6に戻り、コーヒーと煙草を口にしたマシューは呆れ顔だ。

内務大臣との繋がりも集中的に調査したが、大学時代の学友ではあるが、今はパーティーで顔を合わせる程度だった。

MI6内でイアンの遺品を整理していたベンがにやりと笑って近づいてきた。

「週末ウィリアムズ家でパーティーがあって、内務大臣が出席するらしい。」

「潜入したいな。」

マシューは少し渋い顔をした。

「俺達の顔がバレてる可能性が高いのに、接触するのか?」

「セバスチャンの反応を見ましょうよ。敵に何らか動きがあれば、解決の糸口を見付けられるかもしれません。」

ベン曰く、イアンの家やデスクから、行方を示すものは見つかっていない。

「今のままじゃ、前に進みません。イアンを見つけるのが1番の手がかりですけど、それが無理なら状況をこちらから動かさないと。」

「確かにな……。長官に手を回して貰うか。でもユノ、出席して様子を見るだけだぞ。無茶するな。」

「分かってます。」

週末、ユノはマシューと共にウィリアムズ家の邸宅に向かった。

ロンドンから離れた広大な敷地に立つ荘厳な古城前には、何台もの車が列をなして停められている。

玄関を入ってすぐ右手の大広間は、左右に羽を広げた形状をした城の端まで伸び、目をこらさないと終点が見えない。

きらびやかにドレスアップした人々が談笑し、給仕が隙間を縫って立ち回る。

「ユノって正装すると目立つなぁ。」

入口でシャンパンを口に含んだユノを、マシューは見上げた。

革靴のヒールも手伝い、190cm近い身長のユノが王道の黒いショールカラーのタキシードを纏うと、黒髪と黒曜石の輝きをたたえた瞳が神秘性を増し、王族のようなオーラがあった。

品のある奥様方が、ユノに視線を奪われている。

「俺、容姿がこの仕事向きじゃないんですよね。なんで採用されたのかいまだに分かりません。アジア案件要員かと思ってたら、ヨーロッパや中東が多いし……。」

「意外性ってことかな。女落とすのも得意だろ。羨ましい。」

「悪いことの方が多いですよ。差別もされます。イギリス人なのに、国に帰れって言われることも。」

ユノにはマシューの外見の方が羨ましい。年配のイギリス人らしいグレーヘアに、ブルーの瞳。肉体には多少の衰えを感じても、いかにも知的な風貌で大人の落ち着きがある。

「おっと。お出ましだぞ。」

口髭をテカらせたセバスチャンが入ってきた。生家のパーティーとあって、客に挨拶して回る。

細長い首にハイカラーのシャツ。着なれた燕尾服は様になっているが、既に酔っぱらっているのか、少し頬が赤い。壁際に立つユノとマシューには目もくれず、若い令嬢と談笑を始めた。

ユノはセバスチャンに正面から近づき、会釈して給仕からグラスを受け取った。

「どなた?」

令嬢が小声で尋ね、セバスチャンは肩をすぼめた。

壁際に戻ったユノは首を捻った。

「俺の顔を知らないようです。」

「どうも変だな。KGBと会っていた割には警戒心もないし。」

会合現場に居たが、裏で何かしているにしては、楽しく放蕩生活を満喫するセバスチャンの様子に、ユノとマシューは違和感を抱いていた。

内務大臣はかなり遅れて到着した。
周囲に嬉々として人が集まり、笑顔で対応している。

39歳の若さで大臣に登り詰めた彼は、整った顔立ちと精悍な体つき、臆せぬ物言いで国民から人気が高い。

周辺が落ち着くと大臣はセバスチャンに近寄ったが、飲み過ぎるな、と窘めただけのようだ。

「今夜は空振りか。」

ため息混じりに会場を見渡したユノの目に、思わぬ人の姿が映った。

壁際でグラスを傾けている青年。

華やかな大広間の中で、一輪のダリアのような美しさ。

マックスだった。





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正中に放て 弓道編 15

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正中に放て
-弓道編-
15


大好きって……。

やだ。
何これ。
告白?

どう答えればいいんだ?
ユンホ君のことは嫌いじゃない。
嫌いどころか、気になって仕方なくて、品のある仕草につい見惚れてしまって、そばに居てくれると優越感があって……。

だめだ。
顔から火が出そうだ。
しかも何故俺はにやけてるんだ。

もしかして俺、今、喜んでるのか?

ドキドキする胸に問いかけているチャンミンにユンホは微笑んで続けた。

「とらちゃんだって大好きだと思うよ!大河先輩もチャンミン君のこと認めてるんだし、心配ないよ!」

なるほど、なるほど。
チャンミンは目を閉じた。

成績トップの俺としたことが、踊らされた。
こいつ、人たらしだ。
危うくとんでもない勘違いを起こすところだった。

「教室に戻ります。」

可愛かったチャンミンが突然無表情で立ち上がり、ユンホは面食らった。

「へ?あ……そう?じゃあ、僕も……。」

「はい。勉強しましょう。では後ほど。」

チャンミンはスタスタと去っていった。


ところでその日以降、校内にはとある噂が広がった。

『ユンホとチャンミンはできているらしい。』

ユンホが放った「チャンミンは僕の赤ずきんちゃん」発言。

その意味が学生達にはさっぱり分からなかったが、韓国では恋人を赤ずきんちゃんと呼ぶのではないかと言う憶測が憶測を呼び、2人は恋人同士と疑われるようになったのだった。




5月の終わり、弓道の試合を観戦する、つまりは虎之介が楽しみにしていた歌子とのデートの日がやってきた。

虎之介は何故かベンツの後部座席の真ん中で、チャンミンとユンホに挟まれ、縮こまっていた。

「なんで俺がここやねん!うちの車やで。」

「そこからなら、助手席に座った歌子を存分に眺められますよ。特等席です。」

「おぉ。そうか。確かに。」

虎之介は単純で良いやつだ。

チャンミンはユンホに至近距離に寄られると、赤面してしまう症状に苦しんでいた。

東高から下界への山道を隣り合って後部座席に乗ったりしたら、カーブの度にユンホに接近してしまう。

『わーっ!』

『おっとっと。チャンミン君大丈夫?』

『ごめん。カーブがきついから滑っちゃった。革のシートって安定しないね。』

『もう、仕方ないなぁ。このまま抱きしめててあげようか。滑らないように、きつく。』

『ユンホ君やめてぇ!シートベルトはあるから!』

『いいから恥ずかしがらないで、赤ずきんちゃん。』

『きゃーっ!』

車に乗り込む前、自慢の頭脳が見せた低俗な妄想に、チャンミンはうずくまった。

「ど、どないしたんやチャンミン。お腹痛いんか?生理か?」

「あぁん?気持ち悪いこと言ってないで、とっとと乗ってください。」

こうしてチャンミンは、虎之介を仕切り代わりに真ん中に押し込んだのだった。

今日は日曜だが、先輩の試合とあってユンホもチャンミンも制服を着ている。

猫ちゃんトレーナーでも着ていてくれたら冷徹な態度を取ることができるのだが、制服を着て髪を上げたユンホには隙がない。

虎之介と話すフリをして、チャンミンは奥のユンホを盗み見た。

困った。
危機的に判断力が鈍っている。
かっこよく見えて仕方ない。

九条とチャンミンの確執を知ってからも、ユンホはAクラスに入り浸った。周りの学生に話しかけ、日本の若者の言葉を習ったりして楽しく過ごす。

自ずとその輪にチャンミンは加わることになり、「わかりみ」とか「エモい」とか多用して変な日本語になるユンホを笑う。

そうやってユンホは笑い者になって、チャンミンとクラスメイトの間にあった垣根を取っ払ってくれていた。

チャンミンが笑うと、ユンホは凄く優しい顔でチャンミンを見つめる。
その度に、チャンミンは頬を染める。

虎之介は、自分を通り越してユンホを見つめるチャンミンに気づいていた。

こいつら……。
一体全体どんな関係なんや……。

ユンホに探りを入れても、純真無垢な顔で「チャンミン君は大好きな友達」と言うだけ。
虎之介が知りたいのは、「大好き」の具体的かつ詳細だ。

実は部屋で2人きりになるとイチャついているのではなかろうか。でもユンホがそんな器用に演じ分けできるとも思えない。

今日は歌子をゲットすべく自己アピールに専念したいところだか、虎之介はユンホとチャンミンの仲を暴いてこいと陸上部の先輩に指令を受けていた。

「ああー。やることが多すぎる!」

虎之介の嘆きの声はチャンミンの耳には入っていないようだ。ユンホはユンホで、山道沿いに姿を見せたサルの群れに夢中になっている。

「チャンミン君!おサルさん!!見た?見えた!?」

「……かっこいい……。」

「わわ!子ザルも居るよ!」

「イケメン……。」

かっこいい、及びイケメンは猿に使うべき形容詞、及び名詞とは思えない。ユンホは置いておくとして、明らかに最近のチャンミンはおかしい。

虎之介は妙案を思い付いた。
歌子を虎之介サイドに引き込み、チャンミンとユンホの関係性を探るのはどうか。そうすれば、自分と歌子の距離も近づくだろう。

「我ながら冴えてるわ。」

虎之介は不敵な笑みを漏らした。


桜桃女学院前で歌子を拾い、一同の乗ったベンツは試合が行われる大阪城の弓道場へとひた走る。

制服姿のユンホに、歌子はとろけた。

「やっぱりユンホ君イケメン……。カリスマを感じるスタイル……。彼女が居たって諦められない!」

ユンホとチャンミンが先輩達に挨拶に行っている間に、虎之介は歌子を協力者とすべく、ことの次第を話した。

「はぁ?チャンミンとユンホ君が?ユンホ君彼女居るんでしょ?二股?」

「でも、彼女って言っても何ヵ月も会ってないし、連絡も頻繁に取ってるようにみえへん。でも、ユンホよりチャンミンや。ユンホを見る目がたまに乙女になってんねん!」

「あのチャンミンが……。そんな、まさか……。」

歌子は大阪城公園の芝生に視線を落としていたが、急に目を見開いて顔をあげた。

「だから!?だから歌子がアタックしても駄目だったの?」

人間は、自分に都合良い解釈が得意なものだ。

「そうかもな。歌子ちゃんほどの可愛い子になびかへんなんて、おかしいわ。」

「そ、そうよね……。」

「ほな、今日は協力して2人の仲を検証するで!」

「はい!歌子頑張ります!」

歌子と虎之介は手を取り合った。


ユンホとチャンミンは弓道場の脇の観客席に座り、真剣に試合を見ていた。

今日は大阪府から老若男女が参加する個人戦。東高では、伝統的に3年生だけがエントリーしていた。

1、2年生の何人かが応援に来ており、その中には九条の姿もあった。
ユンホは嫌がるチャンミンを引っ張って、わざわざ九条の隣に座った。

「龍君も来てたんだね。」

「大河先輩と日下部先輩の、試合での射を見られる機会だからな。」

「熱心だね。」

「ふん。見てろ。勉強も弓道も、いつかチャンミンを負かしてやる。」

「僕もチャンミン君に追い付きたい。龍君、一緒に頑張ろうねぇ!」

「お、俺は1人でできる!ユンホと一緒に頑張る必要なんてない!」

「そんなこと言わないでさ。スローガンは打倒チャンミン君!」

九条はユンホを邪険にあしらいながらも、どこか楽しそうだ。

ユンホの守り方は、誰も傷つけない。
チャンミンは感動した。

こんな人の隣に居られることが、誇らしく思えた。





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正中に放て 弓道編 14

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正中に放て
-弓道編-
14



「できた……。」

矢を放つことができた。
初めての離れは、清々しく心踊るものだった。

日下部がパンパンと拍手して微笑んでいる。

「お見事。初心者と思えない、いい離れだったよ。」

「チャンミン君がいつも教えてくれるおかげです。」

「そっか、じゃあ、感謝しないとね。」

「先輩!チャンミン君に報告してきていいですか?」

日下部は目を輝かせてコクコク頷き、ユンホの背中を押した。

「善は急げ。すぐ行ってらっしゃい。」


様子を見ようと道場を出たところで、チャンミンは両手を広げて走ってきたユンホに抱きつかれた。

「きゃーーー!!!」

「チャンミン君ありがとう!」

「なっ、なに!?」

「チャンミン君の選んでくれた矢、ちゃんと飛んだ!真っ直ぐ巻藁に刺さった!」

「あ……おめでとうございます……。」

ユンホは尻尾を振って飛び付く大型犬みたいだ。羽交い締めにされながら、チャンミンはユンホ犬にペロペロ舐められる自分を想像して一瞬気を失った。

でも、ユンホの腕の中は温かくて落ち着く。
ドキドキするけど、守られている安心感もある。

犬じゃないし、狼じゃないし……。
狩人と言うよりは、農家のおばちゃん?
いや……違うな。
親友とは違うし、お兄ちゃんでもないし……。

チャンミンは該当するものを考えようとしたが、柱の陰から日下部が目をらんらんと輝かせて自分達を見ていることに気づき、焦ってユンホ犬を引き剥がした。



GWが明けてから、ユンホは毎日チャンミンの横に居すわった。

寮の部屋を出る時はチャンミンの前を歩き、学舎まで目を光らせる。
休み時間の度に授業で分からなかったところをAクラスまで聞きに来て、そのまま居座る。昼食の時間も迎えに来る。

寮に帰る時も一緒。
弓道場に行く時も一緒。

ボディーガードさながらに前後をウロウロするユンホに、チャンミンは呆れながらも、どこか優越感を味わっていた。

私服は奇抜と言うかセンスレスだが、東高の制服を着たユンホは男前。厳しい視線で周囲を睨み付け、覗き見する先輩を一蹴してくれる。

「ユンホ君……ここまでしなくていいですよ。休み時間は休んだら……。」

「気にしないで!僕がやりたくてやってるんだから!」

虎之介も面白がって加わり、休み時間をAクラスでワイワイ過ごすようになった3人に、九条は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

そんな日が続いたある休み時間、九条がユンホ達の前に立った。

「Cクラスのやつが入り浸ってうるさいな。頭が悪いのが伝染しそうだ。」

「なんやて!?」

「バカがうるさいって言ってるんだよ。」

「なにっ!?」

九条に掴みかかりそうな虎之介をユンホは懸命に止めた。

「気になったならごめん龍君!龍君も一緒にお喋りしない?」

「お前らと一緒に居たら俺のレベルが落ちる。」

「調子にのんなや!チャンミンより成績悪いくせに!」

「なんだと!」

虎之介の言葉は、九条の龍の尻尾を踏んだ。

九条は中等部時代から、いつも成績2位。トップのチャンミンを追い越せないことは、彼にとって最も突かれたくない汚点。

九条は顔を真っ赤にして怒鳴った。

「出てけよ!三流は三流の教室に帰れ!」

「お前!言わせておけば!」

睨み合う九条と虎之介に、教室は静まりかえった。ユンホは九条を静かに見つめた。

「何が気に食わないの?僕達、うるさい程騒いでなんてないよね?」

「目障りなんだよ!お前らも、チャンミンも!」

突然、チャンミンはガタンと立ち上がり、走って教室を出ていってしまった。

「チャンミン!どこ行くんや!待てって!!」

チャンミンを追いかけた虎之介を見送り、ユンホは九条の手首をぐっと掴んだ。

「悪く言うなら僕のことだけにして。僕が始めたことだ。」

ユンホの手がギリギリと腕を締め上げ、九条の顔が歪んでいく。

「暴力反対!先生に言うぞ!」

「言葉の暴力はいいわけ?」

ユンホは手の力を緩め、仁王立ちした。

「チャンミンは!赤ずきんちゃんは僕が守る!傷付けるやつは許さないから!」

九条は小首を傾げた。

「は?赤ずきん……?」

「チャンミンは僕の大切な赤ずきんちゃんだ!」

ぽかんとしている九条を放置し、ユンホはチャンミンと虎之介を追った。

廊下を走っていると、項垂れた虎之介が階段を降りてきた。

「とらちゃん!チャンミン君は?」

「屋上。1人にしてくれって怒鳴られたわ。」

「僕行ってくる!」

「ユンホ!もう次の授業始まるで!」

「お腹痛くてトイレに籠ってるって言っといて!」

ユンホは階段を駆け上がった。


チャンミンは屋上の隅っこのベンチで膝を抱えて小さくなっていた。

「チャンミン君。」

隣に座ったユンホは、チャンミンの背中をそっと撫でた。

「ごめん。僕がやり過ぎちゃったかな。」

顔を膝に埋めたまま、チャンミンは首を横に振った。

「龍君と仲悪いの?」

チャンミンは首を振るばかり。
チャイムが鳴っても、ユンホは背中をさすり続けた。

「授業始まっちゃったね。」

「行けば……。」

チャンミンの声は少し震えていた。

ずびっと鼻を啜ったチャンミンの頭を無理やり起こし、ユンホはポケットから取り出したハンカチでチャンミンの瞳に溜まった涙を拭った。

「チャンミン君が泣き止まないと離れられない。心配だから。」

「放っておいてください。」

「やだ。」

ユンホは今度は、チャンミンの垂れそうな鼻水をぐいぐい拭いた。

「ちょっ!やめて!」

「うふふ。チャンミン君顔真っ赤だよ。やっぱり赤ずきんちゃんだ。」

「ふざけるな!」

いつものチャンミンの調子が戻ってきた。

「龍君とうまく行ってないの?中等部から一緒なんだよね?」

「別に……つまんないことです……。」

つまらないことで、泣いたりするもんか。
チャンミン君はひどく傷ついている。

ユンホはチャンミンの手を握って、肩を寄せた。

「何があったか話してよ。」

ユンホの手が温かく、覗きこむ瞳があまりに優しくて、チャンミンは気持ちが解れた。

「最近はなかったんですけど……。中等部の時は、色々。テストでカンニングしたって言われたり、外人だからって、悪口言われたり。」

「何それ!」

「クラスのみんなを嫌ってるって噂を流されて……。」

ユンホには思いあたることがあった。
休み時間に教室に行くと、チャンミンはいつも1人で座っている。寮でも、シウォンとしか仲良くしているのを見たことがない。

上級生とは普通に接しているが、同級生とは一緒に居ない。

自分から接触するのを極力避けているように思えたのは、そんな過去があったから。

「でも、チャンミン君は人気あるじゃない。」

「上級生にだけです。」

「ううん。そんなことないよ。僕分かるんだ。クラスのみんなだって、僕達のこと羨ましそうに見てるもん。」

「そんなこと……。」

「そうだって。嫌ってる人を見る目じゃない。チャンミン君はクラスでは俯いてることが多いから気づかないだけだよ。目を見て話したらすぐ分かる。」

チャンミンは潤んだ瞳をパチパチさせた。

可愛い……。
こんなに可愛い目で見つめられたら、嫌いになる人なんて居ない。
ユンホはなんだか堪らなくなって、チャンミンを抱き締めた。

「ぎゃふっ。」

尻尾を踏まれた猫ちゃんみたいな声に、ユンホは身悶えした。

「みんな好きになっちゃうよ!」

「好きって……。」

「だって僕、チャンミン君大好きだもん!」

「なっ。」

チャンミンの頭はぐわんぐわん回った。





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SPY in the attic 4

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正中に放て 弓道編 13

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正中に放て
-弓道編-
13



部屋に戻ったチャンミンは、電気もつけぬまま暗い部屋のソファに座ってため息を吐いた。

「なんか、疲れたな。」

最近気が休まらない。
この部屋に居る時はユンホが気になるが、それ以外にも、チャンミンは落ち着かない周辺環境に晒されていた。

休み時間の度に、何人もの先輩が教室を覗きに来るのだ。部活中もしかり。裏山の林から、常に視線を感じる。
中には望遠カメラを構えているやつまで居る。

中等部3年になってから、一旦落ち着きをみせていたチャンミンのアイドル化が、高等部に入ってから再燃してしまった。

「高等部では日下部先輩が絶大な人気だって聞いてたから安心してたのに。」

高等部から入学した日下部の噂は中等部にまで知れ渡り、隠し撮りの写真が飛ぶように売れていた。

だが、日下部が大河のものになってしまった今、学生達は新たなアイドルを欲していた。
そこへ、飛んで火に入るシム・チャンミン。

「悪夢の再来だ……。」

カーテンを閉めようとガラス戸の前に立ったところでチャンミンは違和感を覚えた。

視界の端で何か動いた気がする。
恐る恐るその方向へ首を回したチャンミンの目に写ったのは、黒いビー玉のように光る、視線。

壁際に縦並びになり、いくつもの黒い瞳が、チャンミンを見つめていた。

「きゃーーー!!!」

部屋に戻る途中だったユンホは、奥の部屋から響いた叫び声に何事かと走った。

「チャンミン君!!?」

チャンミンは両手で顔を覆い、床にへたり込んでいた。

「チャンミン君っ、なにごと!?」

「そ、外に……。」

ユンホが目を凝らすと、庭を散り散りに走って逃げていく人影が見える。

あれは、赤ずきんちゃんを狙う狼の群れ!?

ユンホは急いでカーテンを閉め、チャンミンの両肩に手を置いた。

「チャンミン君。正直に話して。あれは何?最近困ってるんでしょ!?」

「そ、それは……。」

ユンホは掴んだ手に力を入れ、チャンミンをむぎゅっと抱き締めた。

「きゃーーー!!」

「話してよ!今逃げていった人達はストーカー!?話してくれるまで離さないからね!」

ユンホの腕の力は強く、逃れられそうにない。首の後ろにユンホの息が当たって、全身の毛が逆立つみたいにゾワゾワする。

ゾワゾワを早急に解消するには、打ち明けてユンホに離れてもらわなければ。
チャンミンは観念して話し始めた。

「ま、毎日見られてるんです!休み時間とか、部活の間も奥の林から。」

「え。部活中も?僕気づかなかった。」

「こっそり覗かれてるので。」

「集団ストーカー?」

「何をされるわけでもないんですけど……。毎朝学校に行くと机にラブレターがたくさん入っていて……。」

「らっ、ラブ……ラブレター!!」

「大したことじゃありません。デートしてくださいとか、綺麗に写真が撮れたのであげますとか、まあ、その程度の。中等部の頃にもよくあったんです。」

ユンホはくらくらした。

これが所謂ボーイズラブなのか?
ユンホの人生になかった世界が今目の前に展開され、渦中のチャンミンは項垂れている。

「でも、そんな環境じゃ大変でしょ。勉強にも弓道にも集中できないじゃない。」

「……さっきはびっくりしてしまいましたけど、慣れてますから。」

「そんな……。」

暗がりの中で抱き締めるチャンミンの身体は、とても頼りなく細い。ユンホの胸に、何とかしたい気持ちが湧き上がって溢れた。

チャンミンは、ユンホが困っている時助けてくれる。

分からない日本語はすぐ教えてくれる。
チャンミンが応援してくれたから、入部試験も頑張れた。
弓道のことも、丁寧に教えてくれる。

最近冷たいのは、僕が助けてもらってばかりで情けないからかも。僕だってチャンミン君を助けられるってとこ、見せないと!

ユンホは、チャンミンのために自分ができることを考えた。

赤ずきんちゃんを助けるのは、確かあれだ。

「僕、狩人になる!」

チャンミンは僅かに首を捻った。

「……あずさ2号?」

「……あず?」

チャンミンは自らの古典的ギャグを恥じた。
抱き締められて恥ずかしいのに、この失態。
もう耐えられない。早くこの状態を脱しないと、顔が真っ赤なのがバレそうだ。

「なんでもありません!知らなくていい日本語です。とにかく大丈夫だからほっといてください!」

「そうはいかないよ!僕は赤ずきんちゃんを助ける狩人になる!任せて!!」

ユンホはやっとチャンミンを解放し、部屋の電気をつけた。

チャンミンは耳から首まで真っ赤だった。

あ、赤ずきんちゃんだ……。

ユンホは何故かドキドキして胸を押さえた。

「ぼ、ぼくがチャンミン君を守るから!」

姿勢よく、紳士のように胸に手を添えて宣言され、チャンミンの顔からぼっと湯気が出た。

「ユンホ君……。」

「僕が守るから!!」

どうやって守るつもりなのかさっぱり分からないが、疑問を追及する気力は今のチャンミンには無かった。

情けなくバスルームに逃げ込み、身体中真っ赤になるまで熱い湯に浸かった。


次の日からはゴールデンウィークで、多くの学生が帰省して寮は閑散とした。学生が少ないおかげでチャンミンを悩ませる覗き見はおらず、2人は落ち着いた時間を過ごし、勉強と弓道に打ち込んだ。

早朝から道場に行き、ユンホの素引きをチャンミンが指導する。チャンミンが弓を引いている時は、ユンホは見学して頭にイメージを叩き込む。

ユンホはめきめき上達した。

昼前になると大河と日下部が練習に訪れ、2人にアドバイスをくれる。

「ユンホ、巻藁で矢を引いてみるか?」

大河の言葉にユンホは顔を輝かせた。

「いいんですか!?」

「ああ。随分頑張ってるからな。香月、ユンホに教えてやって!」

巻藁とは、俵のような形に丸く藁を束ねたもので、そこを的に見立てて実際に弓を引く練習。

道場の裏手に並べられた巻藁の前で、ユンホは矢の黒い羽根をそっと撫でた。

「綺麗な矢だね。」

「チャンミン君が選んでくれたんです。初めて使うから、緊張します。」

「ふふ。大切に使おう。じゃ、筈を番えてみて。」

「はず?」

「羽根の上のここ。先端の凹んでる部分に、弦を入れるんだよ。」

矢を弦に番えると、キュッと可愛い音がしてユンホはえへへと笑った。

「可愛いよね。」

香月が気持ちを分かってくれて、ユンホは少し照れ臭かった。

香月が正面に立ち、両手で弓を支えながら指示する通り、ユンホは引き分けに入った。

ところが途中で、矢は「カラン」と金属音を響かせて地面に落ちてしまった。

「ああ……。」

「矢があるだけで、やることは変わらない。左右対象に引くんだよ。今のは右肘が後ろに行き過ぎ。」

あ、そうか。
チャンミン君がいつも教えてくれた通りにやればいい。

ユンホは目を閉じて、チャンミンが身体に手を当てて、示してくれた方向に肘を持っていくイメージを描いた。

それから、もう一度矢を番えた。
今度は矢は落ちない。
会の時に矢が頬に触れる感触が嬉しい。

『ほら。この方向。自然に、手が離れるように離せばいい。』

チャンミンが耳元で囁いてくれていた言葉を思い出し、ユンホは矢を放った。

「ドシュッ」

目の前の巻藁に刺さった矢の羽根が揺れるのを、ユンホはしばらく呆然と眺めていた。





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正中に放て 弓道編 12

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正中に放て
-弓道編-
12


「ユンホ!!」

大河が駆け寄り、呻くユンホの手を除けて顔を確認する。

「バカヤロー!弦は離すなって言ってるだろ!」

ユンホの右耳と頬が真っ赤になっている。
幸い切れてはいないようだが、痛みは酷かった。

「先輩……耳がとれた……。」

心配して集まった部員に囲まれ、ユンホは潤んだ瞳で訴えた。

「………取れてはない!はぁ……心配させるなよ。」

大河はユンホを起こし、夢中になりすぎだと叱って見学を命じた。

チャンミンは、道場の隅で項垂れて正座しているユンホが気になって弓に集中できなくなった。

ユンホは普通に会話できているが、日本語が完璧ではない。練習に打ち込みながらも、常時集中して聞くのは大変なはず。

ましてや弓道の用語は日本人ですらちんぷんかんぷん。
サポートしてあげる人がついていないといけないのではないのか。

自分が適任だが、弓を引くよう大河に言われていてそばに居られない。

また何かあってユンホが怪我でもしたら……。

考え事をしながらの射が、まともなはずはなかった。会の途中でチャンミンの押手から矢が外れ、床に落ちた。

カランカランと間抜けな高音を鳴らして矢が転がり、大河が眉をしかめた。

「なんだ。ユンホの次はチャンミンまで。妻手に無駄な力が入ってるぞ。」

「すみません……。」

俯いて道場の隅に座ったチャンミンに、ユンホがにじり寄った。

「チャンミン君。元気出して。次は大丈夫だよ!」

励まされてチャンミンはむっとした。
心配しているのはこちらなのに、何故に俺が励まされなければいけないんだ。

ユンホの心配をしていたせいで矢がこぼれてしまったのだから、そもそもこの失敗はユンホのせいではないか。

「根拠のない励ましはやめてください!」

声が大きくなってしまったチャンミンにユンホはびくっと揺れ、眉を下げた。

そんな2人の様子を、九条がにやにやして見ていた。



それからというもの、チャンミンはユンホと距離を置いた。ユンホのことを考えて平常でいられない自分に疲れたのだ。

ユンホは変わらず話しかけてくるが、極力短く返答して自室で過ごした。


5月に入った日の夕食の時間、ユンホから離れて席を取ったチャンミンにシウォンが近づいてきた。

「どうしたチャンミン。渋い顔して。同室のユンホとは仲良くやってるのか?」

「仲良く……は……ない。」

「ん?何かあったのか?」

チャンミンはステーキを細切れにし、次々と口に入れて頬を膨らませた。

「むぐ……彼が来てからどうもおかしくて。」

「何だ?人生経験豊富なお兄さんに詳しく話してみなさい。親身に聞いてあげるから。」

チャンミンは、このところユンホに振り回されて落ち着かない自分のことを話した。

途中から、シウォンの手は震え始めた。握っているスプーンがハンドパワーで曲がりそうだ。

「チャンミン……まさか……気になってるのか?」

「はぁ……。まあ、気になると言うか、ユンホ君が居ると冷静でいられない。」

「そ、そんなにも。なんてことだ……。」

シウォンは中等部時代から、自分はチャンミンの特別な存在だと思っていた。

入学した頃のチャンミンは可愛さ全開だった。くるくるしたバンビのような瞳で、校内の男子をドキドキさせた。

チャンミンに言い寄る同級生やら先輩は何人も居たが、1度もそれを受け入れることはなかった。

同じ韓国人であることが功を奏したのかチャンミンがシウォンに懐いてくれ、男子に告白される度に困った顔で報告してくるのを、優越感に浸りながら聞いていた。

いつかは、「僕が告白されたいのはシウォンなのに!」と抱きついてくれるだろうと期待して待っていたが、遂にその時が来ることなくシウォンは中等部を卒業した。

シウォンはこの1年、待った。

高校生になって、またチャンミンが自分のそばに戻ってきてくれたら、満を持して告白しようと思って待った。

1年離れていた間にチャンミンは随分大人っぽくなり、冷たいまでの美しさを備えていた。
既に2年生の間でチャンミンは話題になっている。狙っている輩もいる。

悠長に告白のタイミングをはかっている場合ではなかった。

シウォンは食堂の端のドリンクコーナーで、虎之介とキャッキャと笑いながらペットボトルを抱えるユンホを睨んだ。

「あんな僕ちゃんに……取られてたまるか……。」

開口一番ダサいとか言っていたから、ユンホは安牌と思っていたのに!

たった1ヶ月同じ部屋で過ごしただけで、愛しいチャンミンの心がユンホに占領されてしまうとは。

テーブルにがつんと頭を打ち付けたシウォンを、チャンミンは怪訝な顔で見つめた。暫く唸っていたシウォンは、突然顔を上げてチャンミンの手を掴んだ。

「ぎゃっ。」

「イライラは精神衛生に良くない。疲れてしまうだろ?今夜は俺の部屋で過ごさないか?」

「や……別に……そこまで悩んでるわけでは。」

「いや!断然良くない!チャンミンの美しい眉間にシワが入ってしまう。頭皮マッサージしてあげるから、俺のベッドで……。」

これは。まさか……。

中等部時代にチャンミンは何度も告白され、断る度に号泣されたり抱きつかれたりした。ストーカーのように至るところについてくるやつも居た。

苦い経験の数々を経て、チャンミンは人に冷たく接するようになった。面倒を避けるためにはそれが1番だった。

シウォンのお誘いは、経験を蓄えた第6感が危険だと告げる。

「大丈夫。自分の部屋で勉強するから。じゃ!おやすみ!」

「チャンミン!」

急に席を立ったチャンミンをシウォンは追いかけようとしたが、タイミング悪くテニス部の先輩に捕まり、小鹿を逃してしまった。

可哀想なシウォンはこの後何度も告白のタイミングを逸することになるが、彼はけなげにもチャンミンを落とすのは自分だと信じて疑わないのだった。


足早に食堂を去るチャンミンの後ろ姿に視線を送ったユンホを、虎之介は心配そうに覗きこんだ。

「なぁ。チャンミンと喧嘩したんか?歌子ちゃんと会った時も雰囲気最悪やったし。最近あんまり一緒におるとこ見んけど……。」

「うん……。」

ユンホは炭酸が入った固いペットボトルをぐっと握りしめた。

「僕……避けられてるみたい……。」

「なんでユンホみたいなええやつが?うーん、やっぱりチャンミンて歌子ちゃんが好きなんかなぁ。」

「え?歌子ちゃん?」

「歌子ちゃんがユンホに見とれてたから、ジェラっちゃったとか。」

「それはないと思うけど。今度の大河先輩の試合見学のこと話した時、歌子ちゃんがとらちゃんと付き合えばいいって言ってたよ。」

「そうか……。」

「でも、何を話しかけてもずっと上の空なんだよね。悩みでもあるのかな。」

虎之介は急にユンホを引っ張り、ドリンクケースの裏で耳打ちした。

「これは陸上部の先輩から聞いたんやけどな。チャンミン、日下部先輩の再来っちゅうて、狙われとるらしいで。」

「狙われるって何に?」

「男どもにや。」

「んん?」

「ユンホ!ここは恋に飢えた狼が集まる男子校なんや。チャンミンみたいな美形の男子は、狼が涎垂らして狙う赤ずきんちゃんになんの!」

「チャンミン君が……赤ずきんちゃんが……狼にぱくり……。そ、それは大変だ!!」

ユンホのまだ見ぬ危険な世界が、東高には広がっているらしかった。




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SPY in the attic 3

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SPY in the attic 3



MI6に戻るとすぐ、ユノは治療を受け、上司に事態を報告した。

「やはりイアンが?信じたくないが。」

「残念ですが、後ろめたいことがあるのは確実です。彼は今どこに?」

「昨日から行方不明だ。」

「昨夜の会合の様子を収めたネガを隠しています。ロシア人とイギリス人らしい人物が数人居ました。」

「ネガはどこだ。早く回収しよう。」

「隠し場所は一般市民の住宅なんです。危害が及ばないようにしたい。私に行かせてください。」

上司は苦い顔をした。

「怪我もあるし、ユノは顔が割れているんだから余計危険だろ。他のエージェントに行かせろ。」

「イアンが敵の一味であるなら、MI6内部のことはバレてます。誰が行っても同じでしょう。」

「お前は……まったく……。必ず回収しろよ!」

上司はタバコの煙と共にため息を吐き出した。


1日様子をみた次の日の夜、ユノは仲間に車の回収を頼んだ。
囮となる仲間が車に向かう間に、ユノは反対側の建物から屋根に上り、煙突の死角で時を待った。

マックスの家の1、2階には明かりが灯り、屋根裏部屋は暗闇。

ユノは黒猫のようにしなやかな動きで屋根を滑り、窓に手をかけた。鍵穴に工具を押し込むだけで、容易に鍵は開いた。

再び訪れた部屋。

ベッドの隙間から手を伸ばし、ネガを手にした。

その時、下の階から微かに聞こえた喘ぎ声。
ユノを押し倒した時と同じ。
マックスの声。

「もっと…………あっ!ああ!!」

演技だ。
そうだろ?
分かっていても、ユノは全身に痺れを感じた。

「あっん!うぁ……ん……いいっ!」

こんな声で鳴かれて、男はご満悦だろう。
でも俺だったら、喘ぎ声も出せないくらい感じさせてやるのに。

もっと優しく、とろけさせて……。
でも激しく、息もできないくらいに……。

「バカなことを……。」

妄想した自分を自嘲してわざとらしい笑みを漏らし、ユノは胸ポケットからラベンダーのドライフラワーを詰めたサシェを取り出して窓際に置いた。

そして、するりと抜け出した。

無数に並ぶロンドンの町の屋根。
この下に、人々の生活がある。
家族やカップルで眠る人も居れば、仕事をしている人。
男に抱かれる人も。

マックスが何故こんな仕事をしているのか、ユノには到底想像がつかない。

別れ際の最後のキスは、演技でも罠でもなかった。求めあったキスだった。

ユノは頭を振った。
そう思いたいだけなのかもしれない。

「今は男娼のことなんて考えてる場合じゃない。」

そのまま本部に戻って現像と調査を依頼し、オフィスで夜を明かした。


現像された画像の調査結果は、ユノと上司を驚かせた。

「外務省の人間がソ連のスパイと繋がってるってことか。」

写真に映っていたのは、イアンの他に3人。

1人はMI6を管轄する組織である外務省の職員。主にソ連や東側の国との交渉を担当している男だった。

その隣に居るのは、イギリスに潜入が疑われていたKGBのスパイ。

「それだけじゃありません。この左に写っている人物、ウィリアムズ家の次男です。」

「伯爵貴族のご子息か。まったく。イギリスはどうなってるんだ。中から崩されている。金に踊らされたか……。」

上司はすぐに長官に報告を入れた。
ユノはざわつく胸を押さえた。

「金だけで、国の中枢で働く人が危険を冒して東側の協力者になるものでしょうか。最近の各国の軍備拡大の傾向には、内心危機感を持っている人も多い。イギリスの核兵器開発には、国民からも異論や不満が噴出していますし。」

「国に反発しての行いだと言いたいのか。」

「2重スパイの気持ちは私には分かりませんが……。」

上司は煙草に火をつけ、大きく煙を吐き出した。

「長官と相談してチームを組織する。ユノ、お前今日は一旦帰れ。何日も休んでないだろ。明日からまた忙しくなる。」


ユノは本部を出た。昼間のロンドンの町は明るく、冷戦やスパイが暗躍する影など、微塵も感じない。人々は普通に働き、生活を営む。

普段は車で移動していたが、放置していた間に敵に何かされていないか気になり、整備に出してしまった。

タクシーを捕まえようと通りを見渡すと、タイトスカートがセクシーな女性が煙草を手にしているのが目に留まった。
女性は煙草を捨てハイヒールで踏み潰すと、ユノの前を歩く。

めちゃくちゃスタイルいいな。
腰の振り方が最高だ。ブロンドのボブヘアが揺れてラベンダーの香水がくゆる。

女性もタクシーを捕まえようとしている。
道に身を乗り出すが、段差に足をとられてよろめいた。

「おっと。大丈夫?」

とっさに腕を掴んだユノの肩に、女性は頬を寄せて囁いた。

「ほんとにMI6に勤めてるんだね。」

ユノの腹がずくんとうずいた。

赤い口紅にくっついたブロンドヘアを払い、顔を上げて微笑んだのは、もう会えないだろうと思っていた彼。

「マックス……。」

淡いアイシャドーで彩られた大きな瞳に吸い込まれそうになり、ユノは一瞬息が止まった。

「ふ。ふはは……。騙された。いい女が歩いてると思ってお尻見てた。」

マックスはしたり顔で片頬を上げる。

「昨夜は何しに来たの?勝手に押し入るのやめてくれない?」

「ラベンダーの香り、気に入ってくれた?」

「あんなことされたら気になるでしょ。」

「それで、会いたくなって張ってたの?」

「本当にMI6に勤めてるか確認してみたくなってね。」

ユノはマックスの腰に手を回し、ビルの影に連れ込んだ。

「MI6が本当にあるかも、あそこがMI6であることも、一般市民には公表してないんだけどな。」

マックスはクツクツと笑い出した。

「僕の客が話す内容を全部暴露したら、高く売れるだろうね。ユノよりイギリスの裏情報には詳しいかもよ。」

「は。いいね。スパイにでもなるか?」

「命を危険に晒すような仕事は御免です。」

マックスが尖らせた赤い唇に、ユノはちゅっとキスした。そのまま鼻先で触れあい、2人は見つめ合った。

「また会えた。」

「会いたかった?」

「ああ。あのキスが忘れられない。」

ふふっと笑って俯いたマックスの頬は少しピンクに染まっていた。チークの影響じゃない。恥じらう仕草が堪らない。

このまま連れ去ってしまいたい。
彼をもっと知りたい願望が、ユノの中で弾けた。

「日中は暇なの?俺に時間くれない?助けて貰ったお礼がしたい。」

「そんなのいいよ。」

「頼むよ。ランチはもう済ませた?何かおごらせて。」

マックスは黒目を斜め上に向けて少し考えた。

「じゃあ、ユノの家でフィッシュ&チップスが食べたい。」

「そんなの……。安上がりだな。」

「いいんだ。スパイの部屋が見てみたいし、こんな格好でうろつきたくない。ヒールが痛くって。」

ユノは肘を曲げてマックスの前に差し出した。

「掴まって、お嬢さん。エスコートします。」

「ふふ。お願いします。」

ユノのアパートがあるグロスター・ロード駅周辺までタクシーに乗り、たわいのないことをひそひそ話した。

男の声がドライバーにばれないよう、マックスはユノの耳に顔を寄せて話す。今年25歳だと言うが、10代の少年のように張りのある頬が近づく度、ユノは鼻の下が伸びた。

近所の店でフィッシュ&チップスと赤ワインを仕入れてアパートに向かいながら、腕にしがみつくマックスの細い指をちらちら見て、ユノは高揚した。

家に行きたいなんて、そういうつもりと思ってしまうじゃないか。
仕事じゃなく、俺に抱かれたいとか?

法を犯す行為など許されるはずがない。
それでも、ユノは謎めいたマックスの素性を暴いて、素肌に触れたかった。

ミッションを達成する直前に感じる興奮に似た、ときめきと胸騒ぎが理性に勝る。

ドアの鍵を開ける手がピリピリと痺れた。




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更新日変更のお知らせ

読者の皆様。

おはようございます!

花粉厳しい毎日、いかがお過ごでしょう。
ホミンが居ない日本の空は霞んでおりますね。

私はと言うと、ダークカラーの愛車が花粉だらけで、ドアを開けると黄色い手形がついてイラッとしています。山に住んでおりますゆえ、飛散量がはんぱないのです。

鼻水は垂れ流しですし、喉も痛い。
早朝に薬が切れ、鼻水で起きてしまいます。

スギ植えまくった過去の人々……許さん。
花粉云々より、一時の需要で単一的な自然を作る考えが許せん。

あ、私、毒吐きまくる人間ですけど本気じゃありません。木材が不足して仕方なかったのだと分かっております。6割くらいの本気度でお読みください。

ペンギンを守れと訴えつつ、燃費の大して良くないポルシェを愛用するチャンミンの気持ちだって痛いほど分かっております。

だって私もシロクマが大好きで温暖化に心を痛めて色々気を遣ってはいるけど、ポルシェも大好きですもん(残念なことにポルシェは持ってませんが。)


ん?何の話でしたっけ?

あ、そうそう。
何故わざわざ不要な毒舌をこんなところで晒したかと言いますと、ホミンがいない毎日に心が荒んでいるとお伝えしたかったのです。

ビギイベまでの荒んだ毎日を妄想で補おうとした結果、自分でも恐ろしいほど筆が進みまして、原稿がずんずん積み上がり……。

ハッピーエンドに程遠い展開の2作品を製作中であることが功を奏しました。

好きなものほど苛めたくなる癖が発揮され、書き上げるスピードが上がったのです(←先程チャンミンを弄ったのは、この癖によるものです。チャンミンの身に危険が迫った場合、この身を差し出して守りたいほどチャンミンのことは好きです。ご安心ください。そして、ユノを弄らなかったのは、好き過ぎて、弄りがディスりと勘違いされそうなので自重したからです……)。


更新スピードを落とそうと思っていたのに、志が全く続かない私。
折角原稿がたんまりあるのにアップしないのはもどかしく、ちょいと更新予定を変更いたします。


『正中に放て』

毎日更新。基本20時アップ。
但し、SPY in the atticの更新がある日は朝8時に繰り上げ。


『SPY in the attic』

火、木、土の週3回更新。20時アップ。


イレギュラーで分かりにくいかしら。
私も間違えそうです。

まあ、アップされてたら更新日なんだな、と言うことで……。

明日からこの方式に切り替わります。
本日はSPYのみの更新です。


2作とも憧れの設定を描いた思い入れの強い作品。
どちらも可愛がっていただけたら嬉しいです♪





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正中に放て 弓道編 11

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正中に放て
-弓道編-
11


大前は3年生の先輩、中前は2年生。
チャンミンの前の2人ともが1射目を的中させた。

「あたーりーー!!!」

九条の声が道場に冴え渡る。

チャンミンが弓を引く姿をユンホは板の隙間から目を凝らして見つめた。
ちょっと緊張している様子。
先輩に挟まれて急に引けだなんて、無理もない。

チャンミンの矢はカツンと的の木枠を掠めたが、それでも的に刺さった。
九条は迷って先輩を振り返った。

「先輩、これは?」

「これも中り。的の中に矢先が入っていたら、基本的中。」

「あたーーりーーー!!!」

咄嗟にユンホが声をあげた。

落ち前の日下部と、落ちの大河も的中。
全員の的中に、射場から拍手が沸いた。

「総詰めだ。痺れるね。」

「すごい……。」

ユンホはドキドキしていた。
指先が震え、拳を握った。

九条も興奮しているようで、大河の的中を知らせる時、声がうわずっていた。

2射目も全員が的中。
拍手が大きくなった。

「今年のメンバーはヤバいな。」

先輩は唸った。
しかし、3射目になると大前が外し、そのままチャンミンまで外した。

「崩れる時はこうなる。精神的なものが大きいんだ。」

流れを変えたのは日下部。
枠ギリギリを捉え、パンっと紙を破る音を響かせた。

続いた大河が的の真ん中に命中させ、完全に悪い流れから空気を引き戻した。

4射目、大前も中前も的中。
ユンホはチャンミンが中りますようにと祈った。

今までより、チャンミンは丁寧に弓を引いた。矢が離れるまでの時間が長い。
道場全体が、ピンと張った静けさに包まれていた。

「ケイン!」

美しい音とともに、矢は的の中心の僅か上を破った。

ユンホは初めてチャンミンが弓を引く姿を見た日から、この音が大好きだった。

日下部と大河は、さらにキジの鳴き声のような澄んだ高音を響かせた。

「先輩。これは弓の鳴き声ですか?」

「鳴き声ね……。弦音だよ。」

「つるね?鶴の鳴き声ですか?」

「ああ。ちょっと似てるかな。弦音は、弓に張られている弦の振動音とか、弓に当たる音とか言われてるけど。」

「僕もこんな音、出せるかな……。」

ユンホは弓道に夢中になっていく自分に興奮した。
もっと練習しよう。
あんな風に弓が引きたい。

チャンミンに追い付いて、追い越して、大河みたいな堂々とした弓を引きたい。
理想だけはどんどんと大きくなった。

的場での礼儀を学んだ後は、またゴム弓。
直前に見事な射を見て盛り上がっていた新入生達は、肩を落とした。

「またこれですか。」

九条がみなの気持ちを代弁したが、すぐさま大河に窘められた。

「今1番重要なのは、体に形を叩き込むこと。ゴム弓は寮でもできる。俺だって今でも使ってるんだ。大切に扱えよ!」

日下部は内心呆れた。

新入生達は、まさか名門弓道部の厳しい主将が、昨晩ゴミ弓で日下部を叩いて「お尻ペンペン!」と喜んでいたことなど知るよしもない。

ユンホだけは周囲のため息を気にせず、ゴム弓と格闘していた。

チャンミンは射場で矢を放っている。自分も早く同じ場所に立ちたい。
その一心。

ユンホにはみんなよりアドバンテージがあった。部屋に戻っても、チャンミンと言う先生が居る。

「ユンホ君。身体反ってます。足は肩幅に、身体は前傾。丹田に重心を置いて。」

「たんでんは……おへそ、だね……。」

「そう。胴造りは基本ですから。この姿勢を保ってください。」

「はい。」

バスタイムの前に、チャンミンはユンホに弓道の型を徹底的に教えてくれた。

チャンミンはそうすることが、ユンホを傷つけたまま結局謝れなかった自分にできる罪滅ぼしだと思っていた。

「打ち起こしは、弓を両手で均等に持ち上げる。」

「均等に。均等に。」

「ほら、右の肘が上がり過ぎ。バレリーナが腕を上げる感じ、分かります?」

「なんとなく。」

「顔!俺の方は見なくていいです。窓の方向に的があると思って、自分を見て。はい、引き分けして。」

この引き分けが、ユンホはどうも上手くいかない。弓を持った押手と、本来であれば弦を引く妻手を同時に下ろながら弓を引くのだが、右の妻手に力が入り過ぎる。

「両肩が直線になるように。下がってますよ。」

「だってチャンミン君。僕にはゴム弓軽くてどんどん引けちゃうんだよ。」

「ユンホ君。力の問題じゃないんです。引くんじゃなくて分けるイメージです。」

チャンミンはユンホの右腕の肘に手を添え、方向を示す。

「肘はこの位置。」

チャンミンが両肩に触れ、左右均等な位置を教えてくれる。

「そのまま、会。」

弓を引き分けた後の会(かい)は、チャンミンが1番好きな動作。

「正しい姿勢で引き続けて、自然と矢が離れるまでの大切な時間です。」

ユンホは会でぐらぐら揺れる。

「ふふ。まだまだ胴造りがなってませんね。」

「はっ……離していい?」

「この姿勢で離したら、ゴムが顔に当たりますよ。」

チャンミンが言ったそばから、ユンホは芸人のように派手にゴムぱっちんの餌食となり、顎を押さえてうずくまった。

「もー。言ったのに。」

「痛い……。なんで?」

「肘の位置がぶれたからでしょう。さ、今日はこの辺にして、お風呂入りましょう。勉強もしたいし。」

ユンホは涙目でチャンミンを見上げた。

「チャンミン君、先に入って……。」

か、可愛い。
チャンミンはうるうるした瞳で床にお姉さん座りするユンホに大型犬を重ねてしまった。

ダメダメ。
俺はどうも脳の調子が悪い。
チャンミンは頭をバシバシ殴りながらバスルームに向かった。

バスタブに浸かり、今夜はこれから何の勉強をしようか考えながら、チャンミンは湯を両手ですくって遊んだ。

「ねっこー♪ねっこあし~♪猫足ジャブ…………。」

己の口から猫足バスタブの歌が流れていることに気づいたチャンミンの衝撃は大きかった。

「……最悪だ。」

変な即興ソングに空気感染してしまった
頭の中でメロディーが鳴り止まない。

「猫はお水がきらーいー…………って、ああ!!無限ループ!」


チャンミンが精神的に疲れきってバスルームを出ると、ユンホはいまだにゴム弓と格闘していた。

「ユンホ君。勉強もしないと……。」

「うん。あと少しだけ。」

チャンミンのバスタイムの間に、ユンホは綺麗にゴムを離すことができるようになっていた。

ゴムがバァンと大きな音を頻繁にさせるため、チャンミンは勉強に集中できなかったが、ユンホの気迫を削ぐのも可哀想で、吠えぐせのある大型犬が居ると仮想して耐えた。



次の日、大河は新入生に弓を持たせた。

「今日は素引きを行う。矢を使わずに、弓を引くんだ。全員弓懸を装着しろ。」

弓具店で購入した弓懸はまだ鹿革が硬く、右手の自由を奪う。

「かけの親指の付け根に、段差があるでしょ?ここに弦を引っ掛けて引くんだ。見てて。」

日下部が素引きを実演した。見た目だけなら、かなり簡単そうに見える。

「会までで終わり。絶対に弦は離さないで。怪我するから。」

弓道部所有の弓を握り、新入生達は目を輝かせた。
だが、2m以上もある長い和弓にバランスを崩される。前後左右に揺れる弓にみな悪戦苦闘。

ユンホは右手のカケに気をとられていて、日下部の注意を聞き損なっていた。

バシン!!

大きな音がして、ユンホは顔を押さえ床にうずくまった。





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テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:コールドブリュー
東方神起 ユノとチャンミンが大好き。
脳内妄想をこっそり綴っています。
ホミンのみ。

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