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正中に放て 弓道編 106

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メゾン・シムの住人 14

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メゾン・シムの住人
14


「え?ええーーーーっ!!!」

ユノの朝は衝撃と共に。

「て、テミン先生!!何故ここに!!?」

ユノの腰に腕を回して添い寝していたテミンはゆっくりと顔を上げた。

「やだ。忘れちゃったんですか?昨夜はキスして、そのまま……。」

「キスぅ!!?」

「ユノ先生の唇、ぷるぷるしてて気持ち良かったです。」

両手で口を覆ったユノは、己の息の酒臭さに目眩がした。

「ユノ先生フラフラだったから、僕、送ってきたんですよ?」

「そんな迷惑を………。」

「いいんです。」

「で……そそ、その、キスってのは、どんな……。」

「階段で盛り上がって、僕にキスしてきたんだす。息が止まるくらい濃厚なやつ。」

テミンは頬を染め、ユノは顔面蒼白で正座した。

「ご、ごめん!」

「ううん。僕、嬉しかったです。」

「う、うれ…………はぁ!?」

「僕……キスされても嫌じゃなくて……。」

「んんっ!?」

「だって僕……ユノ先生が……好き……だから。」

「てみ……。」

ユノはガンガン鳴る頭に手を置いて髪をぐしゃぐしゃにし、正座から土下座になった。

「ご、ごめん!ほんとごめん!俺、そんなつもりじゃ!!」

「そんな……。」

「俺には好きな人が……。」

「そんなのやだ!キスまでして、抱き締めて寝ておいて酷い!!」

テミンに泣きながら抱きつかれ、ユノは床に転がった。頭が真っ白で、でも泣きたい気分だった。

「ほんとに、ごめん……。ごめん……。俺なんか、好きにならないでくれ……。」

テミンはポロポロ涙を溢す。

「ピンポーン」

最悪なタイミングで、部屋のチャイムが鳴った。

「ユノくーーーん!間に合いましたよー!」

9号室のテツさんの声だ。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

テミンを抱き起こし、ユノはそっと手を握った。

「ごめん。無責任なことして。俺、何も覚えてないんだけど、多分、チャンミンさんとキスする妄想してたから、それで……。」

「代わりに僕に!?」

「最低だな。」

「そんなのひどい!責任取ってください!僕の気持ちはどうなるんです!」

「ごめん……。」

テミンは自分からキスしたことを告げないでいる心苦しさと、あまりに悲しい顔で「ごめん」と言うユノに苛立って部屋を飛び出した。

「わあっ!」

驚いたのはテツさんだ。
ユノが大喜びするだろうと車のキーを手に玄関でにやけていたら、突如涙に濡れた美青年が現れたのだから。

「ううぅっ……。」

悲しみの涙で眉を八の字に下げたテミンは、階段を駆け降りたその先で、ホウキを手にしたエプロン姿のチャンミンにぶつかった。

憎き恋敵は、ぽかんとした顔でホウキの柄を握りしめる。

「わ、渡さない!お前なんかにユノ先生は渡さないから!!」

「…………は?」

「ううっ……ユノ先生のピカッ!!ピッカーーー!!!」

「ピカ……?」

今日は晴天。
猛ダッシュで坂を下っていくテミちゃんの金髪が雷光の様にキラッキラ輝いている。

「テミン先生!!カバン!!!」

ボサボサ頭で泣きそうな顔をしたユノが、疾風の如き風を巻き起こして追いかけて行った。

「なにこれ……ピカチュウ劇場?」

車のキーを指でクルクルさせながら、テツさんは階段を降りると、チャンミンの肩にポンと手を置いた。

「チャンミン君。やっかいな事態に巻き込まれたわね。」

「僕がですか?」

「あの子多分、フラれちゃったのね。可哀想に。ユノ君て罪な男だわぁ。」

説明しよう。
テツさんは仕事中はダンディーで事務の女性らがため息を吐いてしまうイケメンマネージャーなのだが、プライベートではお姉さん口調になるのだ。

「ぼ、ぼ、僕は関係ないですよ!?」

「やだなぁ。デートするんでしょ?ユノ君と。」

「デートって!詩吟とランチだけで!」

「海辺ドライブは?彼、そのために車買ったのよ?ほらこれ。」

路駐されたダークブルーのSUV。
傷ひとつない美しくも男らしいフォルムが気になって、さっきチャンミンが覗き込んでいたばかりのそれ。

テツさんはロックを解除してドアを開き、ウィンクした。

「新車だと入荷待ちになるからって、新古車にしたの。280万のお買い上げ。一括即入金よ。まだ若いのに貯金もしっかりしてるなんて、惚れ惚れしちゃった。」

「280万……」

「助手席に君を乗せるためになんて、痺れることしてくれるよね。チャンミン君。」

「はぁーーー!?」

チャンミンの脳天に雷光が走り、竹ボウキを伝って地面をビリビリと振動させた。
青天の霹靂とはまさにこれだろうか。

チャンミンはふらつく足取りで部屋に入り、鍵を閉めた。
久々に引きこもりたい気分。

大変だ。280万も車代にはたくなら僕にくれ。
いやそうじゃなく、ユノさんはなんと、美形に見境のない男好き。彼の優しさは下心によるものだったのか。

僕は彼にロックオンされていると?

熱烈キスをしていた恋人を次の日には捨てて、明日は僕をどうするつもりだ!

チャンミンはピカチュウの雷に打たれてビリビリ痺れる身体を抱え、終日引きこもった。
日記を書く気も、ガトーショコラを作る気も失せ、何度か鳴ったチャイムも無視した。



突然の嵐が来て詩吟の発表会が中止になることを願ったが、チャンミンの祈り届かず、次の日も朝から晴天だった。

昨日は料理を作ることもせず、板チョコを5枚食べたため、お肌は絶不調。心にはどんより雲が張っている。

あの車に乗ったら最後、拉致されて迫られるかもしれない。
なんとしてもランチが終わったら逃げ帰ろう。

「ピンポーン」

まさかチャンミンが毛を逆立てて警戒しているとは知らぬユノは、9時半きっかりに鍋を抱き締めてチャイムを押した。

昨日は散々だった。
テミンとはあれから会話にならなかったし、飛び出したテミンをチャンミンに見られたことは分かっている。

恋人だと勘違いされていないだろうか。

テミンは同僚で、酔っぱらって泊まっただけだと説明したかったが、チャンミンは何度訪ねても留守だった。

「チャンミンさん……風邪……ですか?」

「えぇ、ちょっと。」

顎と頬にできたニキビを隠すためにマスクをしたチャンミンは、鍋を受け取って玄関にガツンと置くと、会話もそこそこに町の市民ホールへと歩き出す。

「体調悪いなら車で。」

「大丈夫!!すぐそこですし!!」

風邪気味の割に大声で答えたチャンミンにびくつき、ユノは後を追いかけた。

坂を下った海岸通りを、駅とは反対方向に数分歩いたところにある日向会館の小ホールは、老人会の面々と家族で7割方埋まっていた。

意外にもと言っては失礼だが、詩吟の発表は大いに盛り上がった。
詩吟の会の一員として、キュウタロウも出演したのだ。

「べんせい~~~~しゅくしゅく~~~~♪」

キュウタロウの歌声にどっと笑いと歓声が起きる。
チャンミンも思わず笑った。

「うふふ!」

ユノはほっとした。

良かった。
チャンミンさんが笑ってくれた。

今日はずっと仏頂面で、目も合わせてくれない。
ユノがチャンミンと出会った雪の日から今まで、こんなこと1度だってなかった。

マスクの下がどんな表情かは分からないが、チャンミンの目が笑っていることに力を貰ったユノは、発表会の後、チャンミンを車へと案内しようとした。

ところが、チャンミンはアパートに帰ると言い出した。

「ランチは……。」

「それは……また今度に……。」

「そんなに体調が?」

「そうですね……。ゴホゴホ。」

嘘だ。
子供達は、よく嘘をつく。学校が嫌になったときに体調不良を訴える子供の、その瞳の動きをよく観察しているユノにはすぐ分かった。

チャンミンさんは……嘘をついている。
俺と、ランチに行きたくないんだ。

ユノは、言葉もなく坂を上った。




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メゾン・シムの住人 13

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メゾン・シムの住人
13


「て、テミン先生!どうしたんですか!?顔ぱんぱんですよ。」

翌朝のテミンは浮腫みで目が半分しか開いていなかった。

可憐で色白で可愛い2次元男子をリアルにしたみたいな僕が、ぱんぱんのバルーンになったのはユノ先生のせいだ。

あの、フェアリーとは程遠いデカ男に心奪われるなんて。ユノ先生の……バカ……。

テミンは直線になってもなお、くっきり二重のラインだけは美しい目でユノを睨んだ。

「例の……デートはいつするんですか?」

「ちょっ!その話はここでは!!」

ユノは逃げるように授業に行ってしまった。

海辺をドライブしたいとか電話で話していたのは聞こえた。となると、平日ってことはないだろう。
デートは僕が先にしてやる。

ユノの想い人が男であることには衝撃を受けたが、これはテミンにとって思わぬチャンスでもあった。
男の自分にも、可能性がゼロではないと分かったのだから。

テミンは劇場版ワンピースのチケットをネットで2枚購入した。


授業から戻ったユノは、デスクにハート型のメモが貼られているのを発見した。

『金曜夜の映画チケットあります。良席。テミン』

なんだかチケットサイトの掲示みたいな文言だが、既にチケットがあるのでは断るのは可哀想。優しいユノはテミンに付き合うことにした。

映画は観たいと思っていたし、チャンミンとのデートに向けて、ワンピースに勇気を貰おう。

果たして週末の夜、波乱が待ち受けているとも知らず、ユノはテミンと映画館に向かった。
そして、授業について相談したいと言われ、まんまと居酒屋に誘い込まれた。

「だからさ!教室の中だけじゃ、社会は伝わらないんだ!外に出ないと。」

「ですよねー。でも、外で課外授業するのって大変でしょ?先生1人じゃ管理できないし。」

「それこそうちは私立なんだから、臨時教員をお願いしてでも特色を出すべきじゃないか!?少子化の時代だからこそ、私立小学校の存在意義は教育の質にある!!」

ユノは教育の話になると熱量が高まり、止まらなくなる。
テミンの思惑通り、お酒が進んで目は虚ろ。

このまま部屋に連れ込んで、既成事実を作ってしまおうとテミンは酒を勧め続けたが、ユノは頑として日向町に帰ろうとする。

「そんなフラフラで電車乗るの無理ですよ!」

「いや!俺は帰る!!メゾン・シムに帰る!」

「わー!危ない!」

電柱にぶつかりそうになりながら駅へと歩くユノを支えつつ、テミンは計画を変更した。
アパートまで送り、終電を逃して泊まってしまえばいい。

「はい。帰りましょうねー。」

「うん!帰る!!チャンミンさんが待ってる!!」



チャンミンはユノを待ってはいなかったが、ユノのためにチョコレートを刻んではいた。

「はー。痛い。」

板チョコを包丁で刻むのは、案外疲れる。
チャンミンの薄い手の平は、包丁の柄が食い込んで赤くなった。

部屋中に充満した甘い香りに鼻が喜ぶ。

「あ、ユノさんに貰った赤ワインちょっと飲んじゃおっと。」

刻む前の板チョコをぱくりと口に入れ、舌の上で溶かしたところで赤ワインを注いだら喉が喜ぶ。

「んーっ。幸せ!」

チャンミンはガトーショコラを2個作ることにしていた。
1つは発表会の慰労としてヤスエばあちゃんに、1つはユノに。

お礼として渡すからには、見栄えも良くなくてはならない。2つ焼いて、綺麗な方をユノにあげようとしたのだ。

刻んだチョコレートを湯煎しようとして、チャンミンは大鍋がないことに気づいた。激辛唐辛子スープごと、ユノが持っていってしまった。

「あー。」

時計は0時。
もう遅いし、明日返して貰ってから作業しようか、それともレンジで溶かしてしまおうか。

「そう言えば、今日はユノさんいつもの時間に帰ってこなかったな。」

その時、廊下から人の声がした。

「あー。落ちますって!!」

「あはっはーっ!」

「笑ってないで!階段上って!!」

なんだ騒々しい。

「チャンミンさーーーん!ただいまーーー!!!」

「ん?ユノさん?」

ドアを僅かに開けて外を覗いたチャンミンは、衝撃の光景を目撃した。

階段で抱き合うユノと……金髪美青年。

「お帰りのキスーー!」

ユノはミチコママのスナックで出会った青年の頬にちゅっとキスをした。

「ユノ先生!」

金髪美青年はちらっとチャンミンに視線を向けたように見えたが、すぐにユノの首に腕を回し、ぶちゅーっとキスした。

唇がぺちゃんこになるような、熱烈なキスだった。

「ふぐっ。」

喉に赤ワインが逆流して変な音が鳴り、急いでドアを閉めたチャンミンは、そのまま20回は瞬きした。

ガトーショコラ作りは一旦中止だ。
赤ワイン数口しか飲んでないのに、クラクラする。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

5月10日(金) 23:55
晴れのち曇り


ユノさんの心の闇は、同性愛者であることを悩んでいることから来るものかもしれない。

なんと、先日スナックで出会ったテミちゃんとか言う金髪美青年は、ユノさんの彼氏……彼女?いや、とにかく、恋人だった!!!

ユノさんに彼女がいない理由はこれで明確になった。彼女がいないだけで恋人はいたのだ。

本来の姿を隠して小学校で先生をしているのなら、悩みもするだろう。あの笑顔の裏には、人に言えない苦しみがあったのかもしれない。

住人の生活はかなり把握しているつもりだったが、僕が気づかないところで密会していたのだろうか。この前スナックで出会ったのは、密会後?それとも前か?

秘密の恋人ともなると会うのも大変なんだろう。

待て僕。
今はユノさんの心理を慮っている場合ではない。
僕は釈然としないのだ。
なんだかモヤモヤする。

そうだ。恋人がいるのに、明後日僕とデートするとは一体どのような精神状態だ!!

男の恋人がいるのに、のこのこ僕の部屋にやって来てご飯を食べ、2人きりで過ごすのは浮気にならないのか。
僕が泣いていたからって、抱き締めたり、「綺麗」とか「可愛い」とか言ったのはもしや下心!?
美形に目がないとか!?

いやいや、何を言っているんだ僕は。

幼い頃から近所のおばちゃん達に美少年とか天使とか言われては来たが、僕は自分が美形だなんて思ってない!その証拠に、男女問わずモテない。

で、一体何の話だったか。
僕としたことが、混乱している。

そうだ。
デートだ。

いやいやいや、デートとか言うから混乱するんだ。
詩吟鑑賞会と居酒屋ランチだ。

そもそもデートってのはヤスエばあちゃんに合わせただけだった。
僕が悩む必要などないのだ。

卒なく接して近所付き合いすればいいだけの話じゃないか。

だって、当のユノさんは今頃恋人と熱い夜を……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


チャンミンはシャーペンを放り投げた。

「あ、あぶない。幻覚が……。」

日記のノートをバタンと閉じ、刻んだチョコレートにラップをして冷蔵庫にしまう。

部屋に充満する甘い香りを入れ換えようと窓を開け、庭から入る夜の空気に深呼吸した。

ユノの部屋が気になる。
身を乗り出して見上げると、部屋にはぼんやり明かりが灯っている。至って静かだ。

相当酔っぱらっていた様子だったし、今夜は熱い夜ではなく単なる添い寝か?

チャンミンは頭をブンブン振って日記の置かれたテーブルの前に戻ったが、もうノートを開く気分にはなれなかった。

「たまには早めに寝よう。」

ベッドに入ったものの、眠れない。
ネットでエッチなビデオを観てかえって悶々とする。
金髪美女と筋肉質な男性の絡みが、ユノと美青年に変換されてしまう。

「だあ!!」

ベッドから跳ね起きたチャンミンは、板チョコを3枚貪った。

結果、チャンミンのお肌には大きな吹き出物ができた。



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☆同行者大募集←切実☆

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皆様、こんばんは。

お話の更新でなくてごめんなさい。
溶けそうに暑い日々でぐったりげんなりしながら働いてますコブです。

でも、週末はsmtownライブ、お盆明けはa-nation参戦と思えば頑張れる!

と……ここで思わぬ問題が。

実はa-nationに一緒に行く予定だったお友達が家庭の都合で行けなくなってしまい……。

田舎暮らしのコブには大阪にはあんまり知り合いが居ない上に、身近な友達は子育て世代で遠出は厳しい。

売っちゃおうかな……と数日迷った結果、清水の舞台から飛び降りる気持ちで皆様にご相談です。


私と、a-nationご一緒いただける方いらっしゃらないでしょうかー!!

はぁ。
言えた。

開催まで1ヶ月切ってますし、行く予定の方は当然チケットお持ちでしょうし、私変態だし、難しいとは思いますが、「行けます」と言う勇者がいらっしゃいましたらコメントくださいませ。

お礼に、ご希望の物語執筆、気になる物語の今後の展開をちらり、コブの知られざる日常を暴露などなど、何でもさせていただきます。かしずきます。

何ならご自宅まで愛車で送迎します(←こえーよ)。
嘘です。でも場所によっては可能!!


というわけで、突然の怪しい誘いに乗ってもいいよ!という奇特な方、ご連絡お待ちしております。
ドキドキ。



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7/30 追記

思いもよらず、たくさんのご希望をいただいて、わたくし猛烈に感動しております。

もう、お気持ちが嬉しくて選べないので、あみだくじ(昭和か)か何かで選びまして、明日中にご希望いただいた皆様に連絡させてきただきます。

本当にありがとうございます!!



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メゾン・シムの住人 12

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メゾン・シムの住人
12


ゴールデンウィーク明けの火曜日、ユノはてんやわんやの忙しさだった。

休み明けの小学生は落ち着きがなく、低学年の授業は崩壊状態。高学年では、体調不良になる子が何人も。
遊び回った子より、家でダラダラしていた子に限って頭痛を訴えるのは、教員あるあるだ。

保健室で寝ている生徒の家族に連絡を取りつつ、ユノは自動車ディーラーのテツさんとも連絡を取っていた。

「ユノ君、手続きの関係で今週中の納車は厳しいかもしれません。」

「そこをなんとか!」

ユノは貯金をはたいて、テツさんが勤めるメーカーの認定中古車を購入した。
中古車と言っても、試乗に使われていただけの綺麗なSUV。走行距離は少ないし、安全性能も最新。

メゾン・シムには駐車スペースがないから、近くの駐車場を急ぎで契約した。テツさんも使っているところだ。

「ユノ君の恋は応援したいですけど、やり過ぎじゃないです?デートのためだけに車を買うなんて。」

「いいんです。一念発起したんですから!!」

「まぁ、私だってお仲間が増えたら嬉しいですけど……。あ、保険の項目の確認ですけど、通勤には使われます?」

「いえ。電車の方が早いから買い物とデートにしか使わないかと。」

「……分かりました。」

「何とか11日までにお願いします。チャンミンさんを助手席に乗せて海辺ドライブしたいんです!!」

廊下の隅でこっそり電話していたユノの背後でテミンが低い声を上げた。

「チャンミンさんて誰?」

「わっ!テミン先生!」

「デートするんですか?」

「やっ……えーっと……うん。」

「ど、どんな美女!!?日向町に住んでるの!!?」

「えへへ。うちのアパートの新しい管理人さんなんだ。妖精みたいに可愛い人。」

「妖精!?」

ユノはさすがに男とは言えなかった。

「ユノ先生!お電話です!」

職員室から声がかかり、急いで戻るユノの背中に口を尖らせたテミンの心中は穏やかではない。

「フェアリーチャンミン……。」

ユノには女の影がなく、年老いた大家さんの話ばかりしていたから安心していたのに、新しく若い大家さんに変わっていたとは。

「どんな女………。」



金髪の美男教師が自分に対抗意識を燃やしているとは知らぬチャンミンは、広報誌の原稿をメール提出し終え、ビールを楽しんでいた。

「ふぅー。うまい!!昼間から飲むビール最っ高!!」

缶ビールを堪能した後、チャンミンはアスレチックの修理の可能性を確認するため6号室を訪ねたが、生憎ムカイは留守だった。

「あら。チャンミン君。」

隣室からスナックに出勤するミチコママが出てきた。
ばっちりメイクで今日は別人。
濃厚な香水の匂いが外廊下にむわっと広がった。

「今日こそお店いらっしゃいよ!キドさんが来る日だから、チャンミン君が居てくれたらお店の雰囲気良くなるわ!!」

「いやー。でもー。」

「初回得点でビール奢るわよ。」

さっきのビールで気分が良くなっていたチャンミンは、ミチコママの誘いに乗ることにした。

「じゃあ……掃除早めに終わらせて行きますね。」

「待ってるわよー!」

スナックコミチは日向町商店街から1本裏道にある。切れかけてチカチカと点滅するネオンサインの下のドアを開けると、カウンターと3つのボックスシートのみの暗い店内がチャンミンを迎えた。

カウンターの奥で、すでにキドがチビチビ酒を飲んでいる。

キドから1つ離れた椅子にチャンミンは腰かけた。

「チャンミンさん。めずらしいですね。」

顔を見もせず、キドが話しかける。

「ミチコママに誘われまして。夕食代わりに……。」

「ここのツマミはくそマズイですよ。ミックスナッツにしておくといいでしょう。」

奥から出てきたミチコママにナッツとビールを注文し、チャンミンは店内を見回した。

聴いたこともない歌謡曲が流れ、色褪せた造花が飾られたカラオケ機器が鎮座している。
小さなステージまであるところをみると、カラオケに興じる客が多いのだろう。

まだキドとチャンミンしか居ない静かな店内が、おっさん達のカラオケ合戦になる絵を想像し、チャンミンは早めの退散を画策した。

さすがに1杯ってわけにはいかないけど、ビールを3杯も飲んだら失礼しよう。

早いピッチで2杯目に突入したところで、スーパーのご主人がやってきた。

「チャンミン君!!!こりゃ珍しい!!」

ご主人は盛り上がり、チャンミンをボックス席に引っ張り込んでキープしていたボトルを振る舞った。
とても帰れる雰囲気ではない。

スーパーのご主人がカラオケでがなり声を上げ、舌打ちしているキドにマイクを持って迫る光景はチャンミンをハラハラさせた。

もう、飲まなきゃやってられない。
1時間もすると、空腹のチャンミンはかなり酔っ払った。昼間からビールを飲んでいたせいで、フワフワいい気分。

「僕も歌うからキドさんも歌いましょうよー!」

チャンミンはかなり歌が上手かった。
ご主人とキドの年齢層に合わせてX JAPANやら小田和正やら歌って高音を響かせ、ミチコママを歓喜させる。

「チャンミン君最高!!かっこいいー!!」

「俺だって!」

躍起になったスーパーのご主人も熱唱し、その狂った音程にイライラしたキドも、遂にマイクを奪って河島英五を歌い出す。

全員がミックスナッツばかり食べるので、ミチコママは買い出しに走った。

戻ってきたミチコママは、日向町には絶対的に似つかわしくない、金髪美青年を連れていた。

「ちょっとー!!駅前でこんな綺麗な子ゲットしちゃったー!!!」

「なんだなんだ!今夜は美青男祭りか!?チャンミン君だけでもびっくりなのに!なぁチャンミン君!」

マイク片手にグラスを掲げて「美せいねーん!」と答えた長身の男。
テミンはふらついた。

「チャン……ミン……?」

「はーい!チャンミンでーす!!元ニートで古びたアパートの管理人してまーす!」

管理人のチャンミン……。
Damn!
こいつが……?
いや、珍しい名前だし、アパートの管理人だなんて、間違いない。

フェアリーチャンミンは……男……。


学校終わり、テミンはユノの後を追って日向町にやってきた。
フェアリーチャンミンを見てやろうとアパートまで追跡したのだが、生憎管理人は留守。
収穫のないまま、とぼとぼ駅に向かっていたところ、ミチコママに捕まったのだ。

スナックなら町人に詳しいおっさんでも居るかもしれないと立ち寄ってみたが、まさかこんな衝撃が待っていたとは。

テミンはフラフラとカウンターに突っ伏した。

ユノ先生のデート相手が男だなんて。
耐えられない。

テミンは酒をぐいと煽って、チャンミンを凝視した。

確かに綺麗な顔をしている。
でも、僕の方が可愛い。
スタイルはいいけど、僕の方がお洒落だ。
背は高すぎて、ユノ先生より大きいんじゃないか。
並んだら僕の方がバランスがいい。ユノ先生を見上げて微笑むことができる。

「あんた、見ない顔だな。」

リーゼント頭のキドに探るような目線を向けられ、テミンはごくりと唾を飲んだ。

「み、南岡市に住んでるので。日本に来てまだ2年ちょっとのアメリカ人です。」

「へー!外人さんなのに、日本語うまいなー。」

完全に酔っ払ったスーパーのご主人がテミンの肩を抱く。英語で歌えと迫られ、テミンは仕方なく1曲披露した。

「チャンミン君も上手いけどお兄ちゃんもうまいなぁ。点数対決してみなよ!」

「うふふー。カラオケ対決ー!」

チャンミンは上機嫌で、ご主人がリクエストした『壊れかけのRadio』を歌い始めた。

壊れたいのは僕だ。
こんなぐてんぐてんの妖精が居てたまるか。

壊れかけのテミンはマイクを握り、打倒チャンミンを胸に歌い続けた。

こうして、テミンの悲劇の夜は、最終電車直前まで続いた。




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正中に放て 弓道編 105

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正中に放て
-弓道編-
105


チャンミンてなんて素敵な恋人なんだ。
僕が思うよりずっと、僕のこと考えてくれてる。

僕もチャンミンとの将来のこと、具体的に考えなきゃ。大学に受かることも大切だけど、もっと先のこと。
じいちゃんとばあちゃんのことも、チャンミンは凄く考えてくれたんだから。


ユンホは愛しさにキュンキュンしながらチャンミンを抱き締めて眠った。

朝目覚めても、キュンキュンは鎮まるどころか増すばかり。
チャンミンが目を開く瞬間をじっくり眺め、「一生もの」だと心に誓う。

朝は機嫌が悪くて目がすわっているチャンミンが、道場に入ると凛とした眼差しになる瞬間にキュンとする。
後輩を指導する時の、的確な言葉選びにキュンとする。
「ユンホ君」と呼び掛けられるとキュンとする。

チャンミンもまた、部員に囲まれて朝の光を浴びるユンホの澄んだ瞳にキュンとする。
後輩だけでなく、九条や先輩とも積極的にコミュニケーションをとるユンホの笑顔にキュンとする。
優しい笑顔が、的前に立って静かな表情に切り替わる瞬間にキュンとする。

日下部が与えた禁欲期間は、ユンホとチャンミンに落ち着いた夜とときめく朝を生み出し、それは愛情を確かめ合う大切な時間になった。

夏休みに入っても、日下部はのらりくらりとローションの完成を遅らせ、合宿まで渡すことはなかった。




「あーっ!もうジェーペ!!手荷物は少なくって言ったでしょ!なんでそんなでっかい熊の人形持ってんの!!」

「だってちゃーたん先輩……フカフカの人形がないと僕眠れないんですもん。」

「ああ!!玉ちゃん!!機内食出るからゆで玉子持ち歩くのやめて!!」

「だって先輩……機内食にゆで玉子は出ないじゃないですか……。」

お盆休みに配慮し、8月頭に出発する10日間のアメリカ合宿。

添乗員さん付きの旅にはしたものの、チャンミンは奔放な部員達の世話を焼き、関空に来ただけで疲れていた。

「慶太君……は、何それ!工具箱!?」

「船以外の乗り物は信用できないので、緊急に備えて工具一式。」

「工具とか先の尖ったものは持ち込めないから預けて!!島から出てきた時も飛行機くらい乗ったでしょ!?」

「いえ。福岡からフェリーで来ました。」

「なっ!」

ユンホは笑いながら、ひきつったチャンミンをたしなめる。

「チャンミン。添乗員さんに任せなよ。」

「だって!天下の東高がこんなんじゃ恥ずかしい!!」

「いいから。ね、ボストンまで1日かかるんだよ?リラックスリラックス。到着するまではさ、デート気分で行こうよ。」

ユンホにそっと手を握られ、チャンミンはようやく「ふーっ」と深呼吸した。

ユンホと並んで出国するのも、飛行機に乗るのも初めてのこと。
デートと言われたら、つい鼻の下が伸びる。

サンフランシスコで乗り換えて、ボストンまで計20時間の空の旅。旅慣れたチャンミンにとっても長い移動だが、夢の場所への道のりと思えば遠くない。

「高校卒業したら、こうやって2人でアメリカに行こう。今日は、予行練習だね。」

もう。
婚前旅行みたいな言い方しちゃって。

ユンホの言葉に浮かれ、チャンミンは飛行機に乗り込んだ。

機内は狭いが、アメリカまでの長旅は平和だった。

庶民感覚のチャンミンが手配したせいで、エコノミークラスに押し込まれた九条が「追加料金払うからビジネスに変えろ」とごねたのと、離陸の際に慶太が叫んで他の乗客に笑われたこと以外は問題なし。

ちなみに九条は、ジェーペが隣の席に来るや、「狭い方が落ち着く」と態度を急変させた。

実を言うとユンホもエコノミークラスに乗るのは初めてだったが、チャンミンの肩がすぐ隣にあるのは嬉しい。

「ねぇチャンミン。肘掛けあげていい?」

「うん。」

ボストンの町の地図を広げ、ハーバードとMITの距離の近さに胸を踊らせた。

「アメリカの大学って寮生活が基本だけど、チャンミンと離れるの嫌だから、アパート借りる?」

「カップルはそうしてる人も居るみたいだよ。」

「じゃあ、住むならこの辺りかなぁ。」

「あ、ここにスーパーある。」

「チャンミンて料理できるの?」

「全然……。でも、勉強しておこうかな。」

「チャンミンの手料理食べたい!」

な、なんて初々しい会話!!
寝たフリをしながら、日下部は何度か涎が垂れそうになった。

乗り継ぎを経てようやくボストンへの国内線に乗り換えてからは、日下部は身支度に余念がなかった。

空港まで大河が迎えに来るからと、歯磨きして髪をセットし、パックまで始めた。

球技大会の夜に肌を重ねたものの、1週間以上そばに居られるとあれば気持ちは高ぶる。

「織姫が彦星に会う時も、こんな感じで準備するのかな。」

「うふふ。そうかもね。ユンホ君たらロマンチック。」

「会う前は一生懸命でさ、でも、会う時にはすました顔してたりして。」

「あー、そうかも!」

アメリカに旅立つ大河を、弓を引いて見送った日下部のこと。
美しく凛とした姿で大河に再会するであろうと思ったユンホとチャンミンの予想は大きく外れた。

スーツケースをピックアップし、部員達が到着ロビーに出ても、日下部は頬を染めてターンテーブルの手前をうろうろした。

「先輩。行きますよ!?」

「ちょっと待って!!僕の髪、変じゃない?匂いは?」

「フワフワですし、すっごくいい匂いしてますって!」

「どうしようユンホ!緊張して震える!」

「ええーー!!」

なんと乙女チックな。
ユンホは日下部のスーツケースを転がして強引に連れ出した。

だが、そこに大河の姿はない。
到着ロビーを見渡し、日下部は動かなくなってしまった。

「バスに移動しますよー!」

添乗員の声に無反応。

「日下部先輩!先輩!行きますよ!!」

チャンミンとユンホに挟まれて歩く日下部は、迷子の小さな子供みたい。
とぼとぼ歩き、スマホを確認してため息を吐き、やっと空港の外に出た。

俯いて足先と地面だけ見ている日下部は、ユンホとチャンミンが立ち止まって微笑んだことに気づかない。

大河がバスの前に立って、少し伸びた黒髪をあげ、にっこり笑っていると言うのに。

ユンホが声をかけようとした時、大河が叫んだ。

「香月!!遅いぞ!!!」

愛しい人の声にはっと顔を上げた日下部は、もうボロボロ泣いていた。

「大河っ!」

大河がこちらに向かって歩き出したのと同時に、日下部は駆け出した。

スーツケースはほったらかしで、前を歩いている部員も全員追い越して、スピードを緩めることなく胸に飛び込む。

大河は盛大に地面に尻餅をつき、でもしっかり日下部を抱き締めていた。

言葉もなく、足まで大河の腰に巻き付けてしがみついている日下部の姿に、チャンミンは涙ぐんでユンホの手を握った。

「うふふ。球技大会の日も会ってるのに、余程恋しかったんだなぁ……。離れてても、愛って深まるんだね。」

「うん……。」

ユンホの指先はちょっと震えていた。


みんなに囲まれて、大河は日下部を抱き起こし、恥ずかしそうに下を向く。
そんな大河を見るのは初めてで、大河先輩も照れたりするんだな、とユンホは嬉しくなった。

日下部ときたらもうべったりで、体重を完全に預けているから、大河が支えていないと倒れてしまいそう。

バスの後部座席を占拠した後も、イチャイチャぶりは更にエスカレートし、部員全員、後ろが気になって仕方ない。

「せ、先輩!さすがにここでキスするのやめてください!」

「うるさいユンホ。ここはアメリカだぞ。」

ゆでダコみたいに赤くなったユンホを大河はしっしっ、と手の平であしらう。


「東高弓道部って、元々めちゃくちゃ風紀が乱れてたんだな……。」

慶太は今の弓道部が、以前よりまともであることを知った。




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メゾン・シムの住人 11

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メゾン・シムの住人
11


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

4月28日(日) 23:00
晴れ


今日、ハート岩を臨む岩壁に柵ができた。

ユノさんの小学校の用務員さんが、あれよあれよと言う間に地面を掘り、木のポールを立てて固める。さすがの手際だった。

ポールにはジュンさんが予め穴を作ってくれていたから、ロープを通したら立派な柵になった。

ユノさんが手伝ってくれて、柵までの小道も綺麗になった。
これなら、広報誌で紹介して人が訪れても大丈夫。

スーパーのおばちゃんは、人が集まるようなら野菜の無人販売所を設置すると張り切っている。

協力してくれた方々に報いるためにも、良い記事にしなければ。
プレッシャーもあるけど、今は楽しみだ。
たかが広報誌かもしれないが、ワクワクしながら文章を書けることは、僕にとって何よりの幸せ。


特にお世話になったユノさんに、どうお礼すべきか悩む。

夕食じゃありきたりだし、高価なプレゼントを買うお金もない。
ユノさんが好きなものが何かも分からない。

好みくらい、知りたい。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


メゾン・シムの周辺を掃除するのは午前中が常だったが、チャンミンは夕食の支度を終えてから行うようになった。
ユノの帰宅時間に合わせるためだ。

ユノは毎日18時から19時の間に帰ってくる。
買い物袋を持っていたら、好みを探る大チャンス。

「ユノさん今晩は何食べるんですか?」

袋の中を覗き込もうとするチャンミンから、ユノは袋を隠した。
カップラーメンとチョコレートなんて恥ずかしい。

「インスタントばっかり食べてちゃ駄目ですよ?」

「ば、バレましたか……。」

「ユノさんて1人暮らし長いんでしょう?料理は全く?」

「ええ……残念ながら。」

「何年もカップラーメン生活を?」

「ま、まぁ……そうですね。」

「大学生の時も一人暮らしですか。」

「いえ……。」

自分の話になるとユノは歯切れが悪い。
竹ボウキの柄に顎をのせて首を捻るチャンミンを前に、ユノは階段を上ることができずキョロキョロした。

チャンミンさんは何が目的で俺を毎日呼び止めるのか。夕食に誘ってくれるのかと期待しているのに、そうではない。

2号室のドアがカチャリと開き、ヤスエばあちゃんが顔を覗かせた。

「チャンミンちゃん。詩吟の発表会来てくれるんだろうね?」

「あ、うん。行くよ。」

「発表会?」

ユノが話に首を突っ込んだ。

「ユノ君も来てくれるかい?5月12日の日曜日なんだけどね。」

「日曜日なら行けるよ。」

ヤスエばあちゃんは顔のシワを全て収縮させて満面の笑みになった。

「じゃあ、2人でデートがてら、いらっしゃい。」

「デートって……やめてよ。」

眉をしかめたチャンミンの横で、ユノは胸を押さえた。

チャンミンさんとデート。
初デートが詩吟の発表会……。
て、どうなんだ?
いや、いいさ!!
この際デートなら何だっていい!!

「発表会は何時から!?」

ユノは買い物袋を潰れるほど握ってヤスエばあちゃんに迫った。

「わたしらの出番は午前中だよ。午後はフラダンスのチームが踊る。」

「チャンミンさん!!」

突如ユノが叫び、チャンミンはびくっと肩をすぼめて竹ボウキにしがみついた。

「な、なんです?」

「ランチを!詩吟の後にランチをご一緒しませんか!!!」

ユノの声があまりに大きく、5号室のモエとカエデまで顔を覗かせた。

「チャンちゃん?ユノたん?どーしたの?」

「な、なんでもないよカエデちゃん!」

ユノは5号室の方向へと歩を進めようとしたチャンミンの腕を掴んだ。

「ひっ……。」

「チャンミンさん!!お返事は!!?」

「わっ、分かりました!はい!行きましょう!!」

チャンミンも焦って大声で答えた。

「では!デートと言うことで!!!」

ユノは1段飛ばしで階段を駆け上がって行った。

「イヒヒヒ。」

ヤスエばあちゃんは怪しげな微笑みと共にドアを閉めた。廊下に取り残され、チャンミンは開いた口が塞がらなかったが、ハート岩のお礼として付き合うくらいいいかと、自分を納得させた。

詩吟にランチ。
デートなんて言えるもんじゃない。


部屋に駆け込んだユノはと言うと、大変なことになっていた。

「デート!デート!!チャンミンさんとデート!!!」

買い物袋を放り投げ、床に突っ伏してバンバン叩いた後、震える手でポケットからスマホを取り出し、海辺のレストランを予約した。

馴染みのフレンチレストランは、南岡市と日向町の中間にある。

タクシーで行くなんて色気がない。
いつもは電車だけど、それも却下。
デートなんだから、海辺をドライブして、レストランに案内すべし。

「レンタカーも予約しよう!」

ゆっくり食事をして、夕日の海辺を散歩して、それで……。

「き、キス……とか?」

待て待て俺。
告白とか付き合うとかそんなことは…………考えて…………いる!!!

何しろ、仕事中でもチャンミンのことを考えてしまうほどなのだ。

この抑えようのない心臓の鼓動。
抱き締めてキスしたい衝動。

言葉にすると思いは明確になる。

チャンミンの唇の柔らかな輪郭は、詳細なまでに脳に刻まれている。
食事するチャンミンをしかと見つめていたユノには、目を閉じてもチャンミンの顔面が美しく再現できる。

あの唇にキスしたい。

小学生だってキスしているのだ。
3月生まれのユノはこの春で26歳になった。12月が誕生日のチャンミンとの年齢差は4歳に縮まっている。
大人の自分がキスを願うのは当然のことだ。こんな気持ち、もうずっと抱くことはないと思っていた。

「俺だって、恋していいんだよな?」

ここ数日、チャンミンが毎日帰りを待っているかのように掃除していて、ユノは浮き足だっていた。

ユノはモテるけど、女性にときめけない。
その理由を、ユノは本当は嫌ほど分かっている。

ユノには忘れようとしても忘れられない空白の1年があった。それを知っているのは極限られた人だけ。

「俺はもう、嘘はつきたくない。」

ヤスエばあちゃんの魔法にかかって、突き進んでみよう。恋に夢中になってみたい。

あれだけチャンミンさんと仲の良いヤスエばあちゃんが後押しするのは、もしかしてチャンミンさんが俺に気があるからなのではないか。

そうとなれば、ここは男の見せ所だ。
カッコよくエスコートして、チャンミンさんに想いを伝えて、いつか、キスできたら……。

ユノは預金の残高を確認して「よし!!」と意気込むと、部屋を飛び出し、9号室のチャイムを押した。


メゾン・シムの対角線上でユノが自分との恋愛成就を願っているとは露知らず、チャンミンは1人黙々と夕飯のジャージャー麺を啜り、原稿の仕上げをした後、日記をしたためた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

5月2日(木) 23:30
曇り


突然ユノさんとデートすることになった。

デートと言っても、ヤスエばあちゃんの言葉に付き合ってそう言っているだけだ。ユノさんは気を遣う人だから。

そもそも、老人会の詩吟とランチなんてデートとは言えない。

ランチなら駅前の居酒屋で800円てとこだろうから、ハート岩のお礼に僕が払おう。
でもお礼としてはあまりに安過ぎる、焼き菓子でも持参するか。

ユノさんの買い物袋には板チョコが入っていたし、ゴミ袋にもチョコレートアイスのパッケージがたくさんあった。

チョコレート好きなら、ガトーショコラなんてどうだろう。チョコは確かスーパーの特売で、78円になっていた。

ユノさんなら、僕レベルが作る安価なガトーショコラでも感動してくれるだろう。

これで決まりだ。




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メゾン・シムの住人 10

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メゾン・シムの住人
10


用務員さんから、柵の取り付けに協力してもらう約束をもらい、ユノは上機嫌で職員室に入った。

酒を奢る代償くらいは安いもの。
チャンミンの喜ぶ顔を想像してにやけたユノに、英語教員のテミンが話しかけた。

「ユノ先生、今日も楽しそうですね。」

「あはは。毎日笑顔がモットーだから。さっきの授業、どうだった?朝の会でアオイちゃんの元気が無さそうだったのが気になって。」

「ああ、それならさっき話聞きましたよ。カケル君とバトルしたんですって。」

「なんだ。彼氏と喧嘩か……。」

「カケル君に、他の女の子がキスしたそうです。」

「キスぅ!!?」

「ふふ。女の子はマチュアですよねぇ。」

ユノが働くこの小学校では、教科担任制をとっている。クラスの担任が全ての教科を教えるのではなく、専門の教科の先生が授業をするのだ。

自分の教科の準備に時間をかけることができて、質の高い内容の授業ができる。その分、クラスの様子を常時見守ることができないから、教員同士の情報共有は欠かせない。

勤務時間内にどうしても会えなかった時は、電話して報告し合うこともしばしば。

テミンは韓国系アメリカ人で、生の英会話を取り入れるためにELT(外国語指導助手)として勤務している。

アニメオタクが高じて日本にやって来たテミンとユノとは2年の付き合い。当時日本に知り合いがいなかった彼に付き合い、アニメ映画を何度か観に行ったことで、仲良くなった。

金髪にぱっちり二重の愛らしい瞳。
リップのCMでもできそうなぼってりセクシーな唇。
アニメ鑑賞で日本語能力を培った彼はたまに人気キャラそのものの台詞を吐くことがあり、教員達に可愛がられている。

ユノと並んで、生徒の母親が色めき立つ存在でもある。

「ユノ先生、今週末映画行きません?ワンピースの劇場版公開ですよ!」

「あー。今週は無理だなぁ。日向町で用事があるんだ。」

週末は用務員さんが柵を作りに来てくれる。
チャンミンと過ごせるに違いない。

「いっつもじゃないですか!ユノ先生もこっちに住みましょうよー!アパート情報誌見ました?いい物件たくさんあったでしょ?」

「やー。俺、日向町好きなんだよね。テミン先生が来れば?」

「No!遠いし、日向町には映画館がないですもん!」

テミンはユノが大好きだが、当のユノはそんなこととは全く気づいていない。
アパート情報誌はパラパラめくっただけで捨ててしまった。

ユノの思考は一瞬日向町に飛んだ。
チャンミンさんは今頃原稿を書いているんだろうか。それとも、エプロンして掃き掃除?

柵のことをチャンミンさんに話したら、今夜も夕食をご馳走してくれたりして……。
カップラーメンを切らしているけど、スーパーに寄らずに帰ってみよう。
ちょっとした賭けだ。

にやけて授業に向かうユノを、テミンは膨れっ面で見送った。



その頃チャンミンは、海岸通りをママチャリで走っていた。

駅前の商店街から自転車で5分のホームセンターに到着すると、チャンミンはまず木材売場でジュンさんを探した。

車を持たないチャンミンは、ホームセンターで買い物をすると9号室のジュンさんに荷物の宅配を頼む。

ジュンさんは木工室で木屑にまみれていた。

「ジュンさーん!」

ガラス窓の外から手を振るチャンミンに気づき、彼はマスクを外して出てきた。
白髪混じりの髪を更に白くする木屑を払い、笑顔を向ける。

「チャンミン君。今日は何買いに?」

「ハーブの苗と草刈り機の替刃です。大した量じゃないから自転車で持って帰ってもいいんですけど……。」

「いいよいいよ!どうせテツ君が迎えに来るから。ついでに日用品も買ってって!」

「はーい!」

ジュンさんとテツさんは同性カップルだ。
本名は潤一と哲夫。
メゾン・シムでは1番の古株で、30年近く住んでいる。

まだ二十歳そこそこだった2人は、家族から逃げるように日向町にやって来て、アパートを探した。
でも、保証人もなく、男2人であることを訝しむ不動産屋に断られ続け、メゾン・シムに行き着いた。

チャンミンの祖父は、困っている人は誰でも受け入れた。

「保証人なんていらないから、うちに住んで早く仕事見つけな。」

そう笑ってくれた大家さんが神様に見えたと、2人はチャンミンに会う度に話して聞かせる。

ジュンさんはホームセンターのバイトから正社員になり、テツさんは自動車のセールスに。今やセールスマネージャーだ。

十分な収入があるのにメゾン・シムを出て行かないのは、祖父への感謝と、同性カップルであることを詮索しない周辺住民への愛着。

仕事が終わるとテツさんはジュンさんを車で迎えにくる。50歳間近なのに、新婚カップルみたいに仲良しな2人のことを、チャンミンは年の離れた兄のように慕っていた。

チャンミンはお言葉に甘えてカートいっぱいの日用品も仕入れ、ジュンさんに託してママチャリを漕ぐ。

ハーブの苗だけは前カゴに入れて来た。
今夜のキャロットラぺに間に合わせるためだ。

夕方庭でハーブを植えていると、ヤスエばあちゃんの詩吟が聴こえてきた。

「べんせい~~~~しゅくしゅく~~~~!」

近々町のホールで発表会があるため、練習に余念がない。
網戸にされた窓から覗くと、キュウタロウがきょろりとチャンミンを見て「しゅくしゅくーーーー!」と真似た。

「ふふ。」

キュウタロウの方がヤスエばあちゃんより上手い。

発表会を観に行く約束をしているが、どうしたものか。1人で行くのは寂しい。

日向町に住む馴染みの友達はみんな結婚しているから、たまにしか会わない。
「ユノ君と来なさい」とヤスエばあちゃんは言っていたが、ユノが詩吟に興味があるとは思えない。

「詩吟じゃあなぁ……。」

こんな時、彼女が欲しくなる。
田舎町に引きこもっているせいで、完全に出会いのチャンスを失ったまま30歳になったチャンミンは、恋に落ちる方法を忘れてしまった。

「出会いねぇ……。ミチコママの店にでも行ってみようかな。でも、あんなスナックじゃおっさんしか来ないか……。」


悩んでいるうちに夜になり、19時前にユノが朗報を持って訪ねて来た。

「ほんとに!?いいんですか!?」

「ええ。うちの用務員さんが道具持って日曜日に来てくれます。必要な材料のリスト貰ったから、土曜日に買いに行きませんか?」

「是非」と返事しようとしてチャンミンは口ごもった。

お金……。
いくらぐらいするんだ?

脳内に¥マークが飛んだところで、ジュンさんとテツさんが荷物を持って現れた。

「何の話?」

リストを見たジュンさんの提案は、¥マークをハートマークに変えた。

「余ってる木材があるから使ったら?角を落としてニス塗っておいてあげるよ。」

「ジュンさん!!」

「どうせ使い途ないから。チャンミン君のためならそれくらいお安いご用。こんなんじゃ大家さんへの恩返しにもならないけどね。」

ジュンさんに抱きついて喜んだチャンミンにユノは目を白黒させたが、期待通り夕飯に誘われ、色鮮やかなキャロットラぺを見てときめく胸を押さえた。

オレンジの頂点に飾られた緑の葉が可愛い。
甘酸っぱさの中にゴマの香ばしさが利いている。

「幸せな味です。シチューも、昨日とは違ってまた濃厚で。チーズですか?」

「ええ。粉チーズ混ぜて、黒胡椒を少々。」

ああ。
料理上手なチャンミンさん。
エプロンの肩紐がずれているところが可愛すぎる。

俺もチャンミンさんに抱きつかれたい。
ジュンさんみたいにいいとこ見せれば抱きついてくれるのか?
俺が図画工作の先生だったら自分で柵くらい作れたのに!

食後、ユノは岩壁で柵を作り終えた自分にチャンミンが抱きつく妄想を振り払おうとシチュー鍋をごしごし洗い、チャンミンはテーブルを拭きつつほくそ笑んだのだった。





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メゾン・シムの住人 9

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メゾン・シムの住人
9


6号室のムカイさんはチャンミンと1歳しか年が離れておらず、話が合う。

町役場に委託されたタウン誌の編集の仕事で毎月締め切りに追われる彼は、日曜日にも関わらず赤ペンで校正中の原稿に囲まれていたが、メゾン・シムの裏手の山の話を「うんうん」頷きながら聞いてくれた。

「昔、山を抜ける街道があったって聞いたことあるな。古の道を辿るウォーキングコースか。町役場の観光課に話してみようか。」

「ほんと!?フィールドアスレチックが修理されたらいいな、と思ってるんだけど。」

「予算に限りがあるからなぁ。修理するにも時間かかるぞ。記事は、当面他の題材にしたら。」

「うーん……。」

「港近辺から商店街巡るコースは?」

「なんかありきたりでしょ。」

「チャンミンにはそうでも、対象者は南岡市民だろ?知らない人がほとんどだって。」

「ん……そうだね。」

とは言っても、日向町の住人でも知らない隠れた名所は盛り込みたい。

「昨日ユノさんが言ってた海岸のスポットに行ってみるか。」

チャンミンはママチャリに跨がって坂を下った。港の外れの荒れ地を抜けた岩壁に、角度によってハート型に見える岩があると言っていた。

「なにここ……。」

チャンミンはママチャリを置いて絶句した。
その場所に行くには、背丈ほどもある草木に覆われた獣道を進まねばならない。

待てよ。
ユノさんて大丈夫か?
ここを進もうなんて、普通の人は思わないぞ。

「闇を感じる……。」

やはり彼女が居ないのには理由があるのでは。
爽やかイケメンのオーラで隠しているが、実は病んでるとか?

念のためリュックに入れていた虫除けスプレーを振り撒き、意を決してチャンミンは雑草の中に飛び込んだ。

ほんの数十メートルの道のりに難儀する。
顔を叩く草木を払いのけ、遮られていた視界がひらけた途端、足元は海だった。

「わっ!!あっぶな……。」

海面まで2メートルほど。
打ち寄せる波が白く泡を作り、岩肌を削っている。

ますますユノの精神状態を疑いつつ、チャンミンはハート型に見える岩を探した。

「あー。あれかぁ。」

言われて見れば、下は波に抉られて細くなり、上縁の凹みがハートっぽい。

今はそうでもないが、夕暮れ時にはピンクに染まってインスタ映えするかもしれない。夕方また確認に来よう。

海岸通りから距離も近いし、道の草を綺麗にすればアクセスには問題なし。

「柵がないとダメかなぁ。でも柵くらいなら町役場が簡単に作ってくれたりして……。ん、ここってそもそも誰の土地だろ。」

アパートに戻ったチャンミンはヤスエばあちゃんを訪ねた。

「ああ。あの辺はスーパーのご主人の土地だよ。」

「そうなの!?」

「昔は地主だったからね。」

「へえー!」

それなら話が早いと、チャンミンは夕方またママチャリに跨がった。

スーパーの今日の特売品は新ジャガだった。
ジャガイモの袋を積み上げていたおばちゃんに勧められるまま購入し、チャンミンは海辺の土地のことを話した。

「あぁ。チャンミン君が勝手に綺麗にしてくれるなら自由に使っていいわよ。ねぇ、お父さん。」

「あー。いいよいいよ。何年も放置してるからね。」

キャベツの段ボールを運んでいたご主人も簡単に頷く。

「草刈りは得意だけど、柵はなぁ……。」

大きなジャガイモの袋をママチャリのカゴに入れてチャンミンはハート岩に戻った。

夕暮れに染まる雑草の海を掻き分けて進むチャンミンは、突如柔らかな壁にぶつかった。

「ぎゃっ!!!」

「チャンミンさん!!」

変質者かと肝が冷えたが、ぶつかったのはユノの背中だった。

「ユノさん!」

「あはは。びっくりした。チャンミンさんに話したら、久しぶりに来てみたくなって。チャンミンさんも来てくれるなんて……。」

「取材ですから……。」

「あ!今が1番いい時間ですよ!」

ユノが身体を退かした向こうに、オレンジに染まるハートがあった。

「わあ!」

真っ昼間の景色とは別世界。
夕焼けを映した海面に浮かぶ岩肌は黒く、輪郭はオレンジに輝いている。

試しにスマホで撮影して加工し、チャンミンはワクワクした。更に綺麗なハートに見える。これなら若い年齢層にもウケる場所になりそうだ。デートスポットにもなったりして。

「ここ、雑誌で紹介していいですか!?」

「もちろん。」

ユノはハート岩に負けない輝いた笑顔を浮かべた。

「でも柵がないとちょっと危ないかなって心配なんです。」

「柵ですか……学校の用務員さんに相談してみましょうか?作ってくれるかも。」

なんと便利なユノ先生。
闇を抱えているかもとは疑うが、頼りになる。

商店街で旬の魚でも食べて、港を散策した後、夕方ハート岩を巡るコースなんてどうだろう。
チャンミンは記事の構想が出来上がりそうでテンションが上がった。

「ユノさん、今晩シチューでもどうです?ジャガイモ2キロも買っちゃって。玉ねぎもまだたくさんありますし。」

お礼のつもりでつい口走ったら、ユノはふらついて崖から落ちそうになった。

「わあーーーっ!!!」

チャンミンが掴んだ手をぎゅっと握り返してユノは叫んだ。

「大丈夫です!お邪魔します!いただきます!!食べたい!!」

「は……はい。」

仲良く並んでメゾン・シムに帰って来たユノとチャンミンに、庭を眺めてキュウタロウとお茶をしていたヤスエばあちゃんは「イヒヒヒ」と笑った。

「順調だねぇキュウタロウ。見たかいさっきのユノ君の幸せそうな顔。チャンミンちゃんはあんないい男に思われて幸せもんだよねぇ。早いとこ付き合っちゃえばいいのに。」

「カア!」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

4月21日(日) 23:00
晴れ


広報誌第1回の記事の目処がたった。
ユノさんが明日用務員さんに聞いてくれると言うから、それを待って草刈りを始めよう。

今夜もユノさんは僕の料理を絶賛していた。
市販のルーを入れただけなのに、よくあんなに褒められるものだ。

彩りのために付け合わせとして出したプチトマトの酢漬けも、皮を剥いて市販のすし酢をぶっかけただけなのに、悶えて食べていた。


普段は太陽のイメージまであるユノさんが、暗がりの洞や、草木生い茂る荒れ地に踏み込むのは趣味なのか、心の闇なのか気になるところだ。

考えてみると、僕は彼のことをまだ全然知らない。出身地も、家族のことも、趣味も、交遊関係も。

学校の同僚達とは気楽に連絡をとれる仲なのだから、職場の人間関係に悩んでいるわけではなさそうだ。

柵の件で明日も訪ねてくるだろうから、シチューの残りでも食べさせて話をしてみるか。

ついでにシチュー鍋を洗ってくれたら最高だ。
あれを洗うのは億劫だから。
食洗機の活躍に期待しよう。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


日記を書き終えたチャンミンは、鍋が冷めているのを確認してシチューを冷蔵庫に入れると、明日の副菜にしようと、キャロットラぺの下ごしらえをした。

日記に毎日のようにユノが登場することを、チャンミンはまだ疑問に思ってなどいないが、誰かのために前日から下ごしらえなんてしている自分にはちょっと違和感がある。

「人参も買いすぎたから処理しないとね。」

言い訳を呟いて、自分で自分を納得させる。

「よし。一晩寝かせて、仕上げは明日しよっと!」

最後に白ゴマをたっぷり混ぜたら健康的だ。でも、それだけだと彩りが足りないから、イタリアンパセリを添えようか。

「庭にハーブでも植えようかな……。」

明日は足を伸ばしてホームセンターに苗を買いに行こう。
草刈り機の切れが悪くなっているから、ついでに替刃も購入しよう。

メゾン・シムの管理人になってから、毎日明日の予定がある。

チャンミンは、それが楽しいと思えていた。




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正中に放て 弓道編 104

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正中に放て
-弓道編-
104


チャンミンが弓道への思いを再確認した時、玉子石もまた、トキメキを弓道に感じた。

日下部の射は真っ直ぐに矢が刺さる。
真っ白な茹で玉子に箸の先をプリンと突き刺す時のような中り。

日下部は指導に徹していて部活中はほとんど弓を引かなかったから、玉子石はその美しい射をじっくり眺めたことがなかった。

茹で玉子が転がらず、真っ直ぐに刺さる感触に至高の喜びを感じる玉子石にとって、これは新たな喜びとの出会いだった。

「的がゆで卵に見えてきた。」

「へ?」

「綺麗にカットしたゆで卵だ。」

「黄身が黒いよ?」

隣で日下部の射を見ていたジェーペは目を白黒させる。
玉子石が珍しく興奮気味だ。

「ピータンだ!」

「ピータン??なんかのキャラクター??」

ジェーペはピータンを知らなかったが、何だか音が可愛いので、早速使うことにした。



部活後、弓の片付けを終えたジェーペが道場をキョロキョロ見回している。ユンホはすかさず声をかけた。

「どうしたの?困りごと?」

「ユンホ先輩。ちゃーたん先輩どこですか?夏合宿のオプション観光どっちにするか今日が期限ですよね。」

「ちゃ、ちゃーたん!?」

「はい。ちゃーたん先輩。」

「ちゃ、チャンミンのこと!?」

「そうです。チャンミン先輩可愛いから可愛い呼び方にしました。」

「……ちゃ、ちゃーたんなら巻藁場に居るよ……。」

ジェーペがキラッと笑い、フワフワ髪を揺らして道場を出ていってからも、ユンホはしばし固まっていた。

そう言えば、僕らは恋人なのに愛称とかないな。「チャンミン」と呼んでいることも、「ユンホ君」と呼ばれていることも、急に気になり出す。

「チャンミニ」とか「チャン君」とか可愛く呼んだ方がいいんだろうか。
そしたら僕は何て呼ばれるんだろう。
「ユノ」「ユノヒョン」?
いやいや、同い年なのにヒョンはないか。

でも……なんかいい。
ゾクゾクする。

ユンホはその晩、チャンミンが「ヒョン抱き締めて♪」と甘えてくる夢を見て溜まりに溜まっていた青春を放ってしまった。

こっそり抜け出してパンツを洗った後ベッドに戻ろうとしたが、チャンミンの寝顔を見下ろしたら「ヒョンもっと♪」と囁く幻聴が聞こえた。

だめだ。
また暴発の危機……。

ユンホは早朝4時から道場で弓を引いた。
さすがにこんな時間には誰も来ない。

精神統一のため1人黙々と的に向かっていた5時、玄関を開ける音が響いた。
入ってきた丸型の輪郭に、ユンホは目を真ん丸にした。

「玉ちゃん!?どうしたの早いね!!」

「ユンホ先輩こそ!こんな時間から練習されてたんですか!?」

「や……今朝はちょっと……目が覚めちゃって。」

「僕もなんです。弓が引きたくて眠れなくて。」

「え!!?」

玉ちゃんは、つるんと殻が剥けたゆで卵のように生まれ変わっていた。



チャンミンが制服に着替えていると、ユンホが興奮して帰って来た。

「玉ちゃんが無気力じゃなくなった!」

「ん?突然?」

「今までは言われた通りにだけやってたのにさ、今朝は5時に来て打ち起こしから引き分けの流れについて悩んでたんだ!」

「ゆ、ユンホ君5時から練習してたの?」

「ううん。僕は4時から。」

「よっ、4時!!??」

色々と衝撃的だ。
すやすや眠っていた自分が恥ずかしい。
禁欲生活のおかげで健全なる長い睡眠を得ているから、僕も早起きして朝練に参加してみようか。

次の日から、チャンミンも早朝練習に顔を出すようになった。
真剣に射の形を考える玉子石と、的中率を上げようと数を重ねる慶太。

チャンミンは1射1射確認してアドバイスを与えた。

「玉ちゃん。玉子を優しく包む感覚で弓を起こすんだよ。おっきな玉子が腕の中にあると思って。」

「玉子を抱える!分かりました!!」

持ち前の頭の良さで、嗜好に配慮したチャンミンの指導は玉子石の心を捉えた。

「慶太君。妻手の肩が前に入り過ぎ。横に離すんだから、肩関節に前向きの力が入ってたらおかしいでしょ?バランスを考えて。」

「そうか……そうですね。」

「がむしゃらに引き続けるんじゃなくて、4射毎にビデオで確認するようにしてみようか。」

チャンミンの個別指導の影響は大きい。
ユンホは恋人の活躍で慶太と玉子石が上達していくのが嬉しくて堪らなかった。

「チャンミンは先生みたいだね。教えるのが上手いや。」

「あの2人、タイプが違うからこそいいコンビだよ。この調子で夏いっぱい練習したら、結果出るかも。」

「やっぱり僕だけじゃ駄目なんだなぁ。チャンミンがいないと。」

「うふふ。僕もユンホ君見習って早起きするね。」

「ちゃっ、チャンミン!」

「ユンホ君♪」

2人のラブラブオーラはさておき、毎朝早起きする慶太につられてジェーペも練習するようになったことで、他の1年生と九条までジェーペ目当てに朝練するようになり、朝の弓道場は部活と変わらない活気に溢れた。

部全体が上達していく。
みんなに負けじとユンホとチャンミンも練習に励んだ。


そうして7月も後半に入り、期末テストが終わると、ユンホにはようやくチャンミンに任せきりだった夏合宿のことを考る心の余裕が生まれた。

「大河先輩に今の弓道部を見せるのが楽しみになってきた。」

久々にゆっくり猫足バスタブに浸かって、チャンミンを抱き締める夜。
チャンミンの襟足をいじりながら、ユンホはアメリカに思いを馳せる。

「ボストンの街、大河先輩案内してくれるって?」

「うん!ハーバードやMITにも連れてってくれるよ。日下部先輩とずっと一緒に居られるように、お父さんから休みもらったんだって。」

「日下部先輩と大河先輩が居る弓道部かぁ。ワクワクするね。」

「夜大丈夫かなぁ。部屋割りは日下部先輩がしてくれたんだけど、僕とユンホ君の部屋、先輩達の寝室に近いんだよね。」

「なんか……すごそうだもんね……。」

「ふふ。ちょっと興味あるけど。」

「僕らも、盛り上がろうね。」

「もう……。ユンホ君……。」

我慢しているのに、そんなこと言わないで欲しい。肩を丸めたチャンミンにちゅっとキスして、ユンホはぎゅっと抱き締めた。

「ね、チャンミンはずっとユンホ君て呼ぶの?」

「へ?」

「なんか……なんでかなぁって。」

そんなこと気にしてたなんて。
チャンミンは理由を言うのが恥ずかしくて真っ赤になった。

「だってチャンミン、僕が韓国ではユノって呼ばれるの知ってるでしょ?」

「うん……。」

「チャンミンは僕の家族も同然なのにさ、ずっとユンホ君て。」

「だめ?やだ?」

「んーん。嫌じゃないよ。ここ日本だから、その方が普通だよね。でも……恋人だから……。2人きりの時は……特別にユノとか呼んでくれてもいいかなぁって。」

チャンミンは首と耳まで真っ赤になった。

「……でも……その……。」

「ん?」

「………あの……サランちゃんも……ユノって……呼んでた。」

忘れていた名前が上がって、ユンホはパチパチ瞬きし、チャンミンの顔を自分に向けさせた。

「さ、サランちゃんのこと、気にしてたの!?」

「そりゃ。一緒はやだよ。」

「そんなの!気にしなくていいよ!!」

「サランちゃんだけじゃなくて……。みんなとおんなじ呼び方はやだなって……。」

「え?」

「韓国ではユノで、学校では、先生以外みんなユンホか、ユンホ先輩って呼ぶでしょ。アメリカに行ったら、君なんてつけないし……。だから、ユンホ君って呼ぶのって特別感あるの。僕的には。」

「チャンミン……そんな先のことまで考えててくれたの。」

「でも、ユンホ君がユノって呼ばれたいなら……。」

「いい!今のままでいい!!」

ユンホはお湯がばしゃばしゃ跳ねるのも気にせずチャンミンを揺すって喜んだ。





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テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:コールドブリュー
東方神起 ユノとチャンミンが大好き。
脳内妄想をこっそり綴っています。
ホミンのみ。

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