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正中に放て 弓道編 おわりに

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正中に放て
-弓道編-
おわりに


長い!
長過ぎる!!

当初の目論見より、倍以上の長さになった『正中に放て -弓道編-』。
お付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございます。

ずっと書きたいと思っていた弓道青春ストーリー。お楽しみいただけましたでしょうか……。

馴染みの薄い題材故、ハードルの高い物語でした。読者様にとっても、ですよね。

弓道解説に加えてホミンちゃん以外の登場人物が「僕も」「俺も」としゃしゃり出まして、気づけば117話。
大河&日下部コンビはじめ、サブキャラ達がやたらと濃かったせいで、予定になかったストーリーがどんどん湧き、最終話に漕ぎ着けるのにそれはもう難儀しました。

アメリカ留学はどうなったの?
お付き合いへの家族の同意は?
ユンホ君とチャンミンの夢はどうなるの?
大河の策略は?
キュー道探求の成果は?

と不完全燃焼な読者様もいらっしゃるかと思いますが、こちらのお話、やっと弓道編が終わっただけで、続編ございます。

ではここで遂に、待ちに待った(←待ってないわ)、続編のタイトルを大公開!!

こちらです。
どどーーん!


『正中に放て -赤道編-』


う……すみません。
はあ??という声があちらこちらから聞こえそうです。

赤道は、まさに地球の中心を走るあの赤道のことです。
弓道編は舞台が日本でしたが、続編はダイナミックに世界を股にかけます。

何しろこちらの登場人物達、超セレブの天才ばかりなので、舞台が広くないと収まらないのです。
ホミンちゃん達には、地球の正中にて愛を放って欲しいなぁと(笑

この赤道編で待ち受けるドタバタのために、登場人物が多くなりました。サブキャラ含めた少年達が大人になり、ちらほら活躍予定です。


皆様には大変申し訳ないお知らせですが、現状執筆時間がない日々ですので、続編開始がいつになるとは言えません。
心苦しい限りです。

気軽に読み返してくださいと言える長さではないので、再開の際には「あ、こんな登場人物居たかな……。居たような気がする……。」と遠い記憶を手繰ってもらえたら嬉しいです。


これをもちまして、しばしお目にかかることができなくなります。
世界のどこかでホミンちゃんに思いを馳せながら働いてます。

国内でもそうですが、移動中や旅先でふっとお話のシーンが浮かぶので、赤道編に活かせたらなと思っております。

本当なら韓国に飛んでいって、撮影中ぽつんと花火を見上げていた麗しのチャンミンに巨大ドローンか何かで接近して吊り上げ、捕獲成功かと思ったところでユノさんに叩き落とされたい。

↓これね
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もしくは急遽ホテルマンとしてインドネシアか台湾で働き、コンサートでぐったり疲れたチャンミンに冷えたビールなど運ぶとみせかけて、バルコニーからハングライダーで拐おうとするところ、ユノさんに叩き落とされたい。

あ……いけない。
妄想が漏れてしまいました。
チャミ崇拝ユノペン改め、今や単なる変態どMホミンペンです。

こんな妄想ばっかりしてるから、コブ作品にはシウォンさん必須。妄想夢を叶えるには、彼の存在は欠かせません。ありがたや。
SJのニューアルバム発売したら買うから、許して欲しい……。


さて、これ以上綴ると読者様に逃げられそうなので、この辺で。

また来月『メゾン・シム』の方でお会いしましょう♪

それまで皆様お元気でー!!




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テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

正中に放て 弓道編 最終話

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正中に放て
-弓道編-
117 (最終話)


インターハイが終わって東高に戻れば、また勉強に弓道にと忙しい毎日。

以前にも増してユンホとチャンミンは勉学に時間を費やした。アメリカの大学受験対策としてユンホの父が送ってくれた資料を参考に、成績アップを目指す。

「推薦状も重要なんだね。2通必要だから、学長と日下部先輩に書いて貰えたらいいなぁ。先輩顧問だし、凄い文章書きそうだし。」

「ふむ。そうですね。」

真面目モードのシム先生は黒縁だて眼鏡をくいっと上げてPCに向かい、受験までの目標を連ねたスケジュールを打ち込んでいる。

「エッセイの内容も今から考えておいた方がいいですね。今月書いて、受験サポートの先生にアドバイスもらいましょう。」

「あと、クラブ活動への取り組みや、リーダーシップかぁ。僕、ほんとに弓道部で良かったな。人種が違っても仲間になれることも、他文化に親しむことも、色々アピールになるもん。」

「クラブ活動の成績も良くないといけませんね。全国トップ、守り続けましょう!」

そう言うと、シム先生はおもむろに眼鏡を外してチャンミンに戻った。

『戻る瞬間に流し目しながら髪を耳にかける』はチャンミンのキュー道スコア8点の技だ。

「ハーバードは多様性を重視してるから、ユンホ君との愛の絆なんかもプラスにできたらいいな……。」

「あ、愛の絆!?」

「うふん。最近してないよね……。」

「だってチャンミンが勉強ばっかりさせるから!」

「それはユンホ君のためだもん。僕だって、絆深めたいにゃん。」

「赤ずきんにゃん!!」

早朝練習も欠かさず行っている2人には時間が足りない。煽りを食うのは当然にゃんにゃんの時間で、お互いに欲求不満を常時抱えていた。

「狼さん。今夜は食べて?」

「わっ、わおーーーん!!!」

ユンホ狼が赤ずきんチャンミンの首にガブリと噛みつこうとしたところで、ドアが勢い良く開いて虎之介が部屋に突入してきた。

「きゃーーーっ!!」

「とらちゃん!!ノックくらいしてよ!!」

「文句言うなら鍵かけろ!!俺はもう限界なんや!泊めてくれ!!」

インターハイ後、虎之介は頻繁に隣室から避難してくるようになった。目の下には深いクマが刻まれている。

「今夜も?九条とジェーぺって、そんなに……激しいの?」

「ちゃうねんチャンミン。あいつらプラトニックラブを貫いとる。せやけど、ジェーぺがキャッキャキャッキャはしゃいでうるさい。」

インターハイの後、九条は武道館の前でジェーぺに愛の告白をした。
緊張でブルブル震える九条に対し、ジェーぺは拍子抜けするほどあっさり「いいですよ」と答えたのだが、それには条件があった。

愛するパパが泣くといけないから、身体の関係はNGだと言うのだ。

「九条のやつ、毎晩遊んでやって、その後ジェーぺが寝るまで子守唄歌うんや。なんであんな音痴な子守唄で眠れるのか意味が分からんわ。地獄やで。」

きっとパパも音痴なんだろう。
大きなため息を吐いたチャンミンの横で、ユンホは首を傾げた。

「何して遊んでるの?」

「お馬さんごっこや。」

「お馬さん??」

「九条が馬になってヒヒーンとか言うてるわ。」

ジェーぺはフランスで乗馬をしていたらしく、日本に来てから出来なくなったことを嘆いていた。その悲しみを九条が身を呈して補っているのだ。

「パパの代わりだの馬の代わりだの、龍君て健気だなあ。」

「……馬ならシウォンの方が似合いそうなのに。」

「し、シウォン先輩が馬!?」

ユンホはシウォンが鼻息荒くチャンミンを背中に乗せてヒヒーンと嘶く図を思い浮かべ、頭をブンブン振った。

想像でも許せない。
チャンミンを乗せて喜ばせるのは僕だ!
下から突き上げて、鳴かせまくるんだ!

「とらちゃん。申し訳ないけど、また興奮してきた。今夜はやっぱりにゃんにゃんしたい!!」

「は!?ユンホ勘弁してや!俺はどないすんねん!」

「今日ばっかりはごめん……。久々なんだよ。とらちゃんジェーぺの部屋で寝てきたら?」

「………非情…。」

もちろん虎之介への恩を返すため、ユンホとチャンミンはできる限り寝室を貸すようにした。
だが、週に1度は我慢できなくなり、哀れな虎之介は卒業するまで放浪生活を続けるのだった。


秋が来て、文化祭が終わり、冬の全国選抜でも東高弓道部は優勝を掴んだ。

インターハイと全国選抜両方でNo.1になった東高の主将は憧れの的。ユンホには全国規模のファンクラブができ、毎日ファンレターが届く。

デスクに積まれた封筒をぴらぴら振ってチャンミンはぶすっとした。

「このご時世に郵送のファンレターって!」

「チャンミンだって貰ってるじゃない。」

「僕は手渡しのみを受け付けてるの!!送るコストも紙もエネルギーも無駄!」

「チャンミンが連絡先教えるのもSNSも禁止って言うから、これしかやり取りの手段が……。」

「やり取りぃ!?んなもんしなくて結構!しかも何これ。女子からばっかりじゃない!!」

「……チャンミンは男子からばっかりだね。」

「僕だってイケメンの部類なのに……釈然としない……。」

「可愛さが溢れ出てるからじゃない?追求してるんでしょ?」

「まぁね。最近はツンデレも追求してるけど。」

「僕にはデレだけでお願いします…。」

「ふんっ!知らない!!」

「チャンミーン!拗ねないでよぅ!」

「僕は勉強します!ユンホ君も返事書く暇あったら勉強なさい!!」

眼鏡を装着してシム先生に変身したチャンミンのスパルタ教育は夜更けまで続く。

ユンホの成績はぐんぐん上がり、2年生の終わりには、Aクラスでも上位に食い込むようになった。


そして3年の春。
日下部との別れがやってきた。
交換留学生として、大河と同じイーストドーンカレッジへの転入を決めたのだ。

「日下部先輩……。俺っ!俺!!寂しいです!!!」

最後の部活の日、慶太はボロ泣きだった。
ジェーぺは九条の袴を涙でぐちゃぐちゃにし、玉子石にいたっては、日下部に渡そうと取り寄せた1個1000円もする高級卵の茹で卵を3個連続で握り潰してしまった。

「あー、もー、みんなそんなに泣かないの。夏合宿ですぐ会えるから。」

「先輩は俺達の憧れなのに!!教えてもらえないなんてー!!」

「これからは範士の先生が来てくださるから。錬士の僕なんかより余程勉強になるよ。」

日下部は、錬士の審査に合格した。
大学生の、しかも2年になったばかりでの合格など前代未聞だったが、審査員の大半が日下部にメロメロになっていたので、多少の忖度はあったかもしれない。

そして、師範の最高位であり、審査員長を務めていた範士の先生が、日下部の頼みならばと、顧問に就任することになった。

「これからはイチャイチャは控えめにね。練習中にキスなんてしてたら、高齢な先生の心臓が止まっちゃうから。」

「う………何度か止めるかもしれません。」

頭をポリポリしたユンホにしたり顔で頷き、日下部は道場の入り口を指さす。

「そんなこともあろうかと、餞別にAED設置しといた。」

「さすがです……。」

「ユンホ、みんなに心肺蘇生の講習しといてね。」

「はい!人口呼吸の実演はチャンミンと僕でやります!!」

「だから……先生の心臓止まるって!それより、チャンミンはどこ?」

チャンミンは巻藁場で弓を引きながら、涙を堪えていた。唇をぎゅっと噛んでいないと大泣きしてしまいそうだった。
日下部の居ない弓道部を、想像するのが嫌だ。

ふらりと巻藁場に現れた日下部は、泣き出しそうなチャンミンの頭を背伸びして撫でた。

「チャンミンはどんどん大きくなるね。」

「……入部した時より10cm伸びました。」

「夏に会う時にはもっと伸びてるかな。」

「………日下部先輩より20cm以上大きくなっちゃうかも。」

「むかつく……。」

「先輩は小さいけど、弓を引いてる時は大きく見えます。」

日下部は微笑んで、1射チャンミンに引いて見せた。それを見つめるチャンミンの瞳から遂にポロポロ涙がこぼれる。

巻藁から矢を抜き取り、振り返った日下部も泣いていた。様子を見に来たユンホも泣き出し、3人で手を取り合って泣いた。

「チャンミンとユンホも早くボストンにおいで。大河と2人で…待ってるよ。」

「卒業したら、すぐ追いかけます!チャンミンと、2人で!」

声を張り上げたユンホの腕にしがみついて、チャンミンも叫んだ。

「僕……先輩とまた一緒に……弓が引きたい!!」

「うん。僕らの縁はさ、きっと一生ものだよ。先は長い。これからも、よろしくね。」

道場から、甲高い弦音が聞こえる。
裏山からウグイスの音がそれに答えた。

新たな門出を祝う音色は止まることなく、3人をうららかに包む。

「春だねぇ。」

「春……ですね……。」

裏山に顔を向けたチャンミンの前髪が春風に揺れ、ユンホは目を細めた。

風向は東。
太平洋を越えて、遥かアメリカの空気を運んでいるかのように鼻をくすぐる。

東高に足を踏み入れたあの日、初めて目にした弓道。
道場でひとり的に向かっていたチャンミンを美しいと思ったのか、弓そのものを美しいと思ったのか、定かじゃない。
きっと、両方だろう。

卒業まであと1年。
ここで過ごすかけがえのない日々を、楽しんで未来に進もう。

僕とチャンミンは、まだ長い人生の春粧の候。

炎暑の真昼も、長月の夜も、初霜の朝も、チャンミンと手を繋いでいれば、若葉揺らす風を感じることができる。

「いい春ですね……。」

微笑みながら呟いたユンホに答えるように、ウグイスが見事な鳴き声を響かせた。





正中に放て -弓道編- (完)

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正中に放て 弓道編 116

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正中に放て
-弓道編-
116


ユンホはつんのめってチャンミンを抱きしめ、九条を睨んだ。

「龍君ひどい!!」

「ユンホ君に何すんだよ!暴力九条!!」

抱き合ってギャーギャー文句を言う2人に舌打ちし、九条は男らしく仁王立ちした。

「決勝前にイチャイチャしてんじゃねえ!行くぞ!!」

こうして緊張する暇もないまま、一同は決勝の舞台に向かった。



客席から一部始終を眺め、大河は深いため息を吐いていた。

「あいつら……弓を引いてる時以外のおふざけが過ぎる……。俺の指導が悪かったんだろうか……。」

「ユンホさんは素晴らしい後輩じゃないですか。ああやってふざけてらっしゃるのも、みんなが緊張しないように、わざとだと思いますよ。」

ヨンスが声をかけた。

「ふふふ。シウォンの執事なのに、随分ユンホを買ってらっしゃるんですね。」

ユンホの祖父母に聞こえない様、耳元で囁いた大河に、この人も相当な人格者だろうと察知したヨンスは姿勢を正した。

「貴方は森崎ビルの息子さんですよね……。アメリカからわざわざユンホさんを助けにいらっしゃったくらいですから、私とシウォン坊っちゃんがしたことは、ご存知ですね?」

「全部聞いてます。」

「大変ご迷惑おかけしました。」

「いえ。私は恋人に会いたくて飛んで来ただけですから。でも、またシウォンが馬鹿なことを思いついても、貴方が止めてくださいよ。可愛い後輩が苦しむのは困るのでね。」

「もちろんです。ユンホさんは、チャンミンさんに別れを告げられてどんなにお辛かったか……。それなのに、私を責めず、慰めてくださったんです。私……彼と電話でお話した時、泣いてしまいました。」

「はは。ユンホらしいな。」

「真っ直ぐで、思いやりに溢れた方ですね。きっと今も本当は誰より緊張されてることでしょう。主将ですもの。」

「ま、心配はしてませんよ俺は。隣にチャンミンがいますから。」

「あのお2人の絆には驚かされます。」

「ええ。あいつらを見てると、俺も励まされます。」

「私もです……。」

大河は日下部を見つめて微笑んだ。
ユンホとチャンミンのおかげで、日下部と将来を夢見る今がある。

励まされるだけじゃない。
感謝しているから、2人の幸せのためなら何でもしたいと思う。

未来が楽しみだ。
早く卒業してアメリカに来い。
大きな夢を、一緒に作ろう。

大河が温め続けている策略は、10ヶ年計画。
まだ日下部にも話すことができる段階ではない。

「ヨンスさん。シウォンの実家は寄付に熱心だとか?」

「はい。旦那様は慈善事業に熱心に取り組んでらっしゃいます。韓国では大変尊敬されている方です。」

大河は名刺をヨンスに渡してにっこり笑った。

「長いお付き合いになりそうですね。」

「はい……?」

戸惑うヨンスに、大河は「試合が始まりますよ」と告げて前を向いた。

射場に入場したユンホとチャンミンは、先程までのデレた口角をきゅっと結び、凛と輝いた顔をしていた。

決勝戦ともなると、今までとは違う期待と興奮が館内に漂う。その期待通り、試合は、高校生とは思えない的中が続くハイレベルな展開となった。

1射目は両校が横皆中。
◯が並んだ表示板に観客のボルテージは上がり、みんな固唾を呑んで見守る。

2射目も相手は横皆中したのに対し、東高は慶太が外して1中遅れをとる形になった。

3射目は相手校の大前から中が連続で外し、慶太が外しただけの東高は1中リードする。

慶太は焦ったが、半矢で構わないと言ってくれたユンホの言葉を思い出し、まだ最後の1本があると気を取り直した。
次を的中させればいい。

4射目、大前の堺は柔らかい射で的中を得てリードを守る。
中前の九条も必死だった。今はジェーぺのことを考える余裕もなく、無心で弓を引いた。

矢が的を抜く音に続いてジェーぺが「やった!」と叫んで初めて、自分が皆中したことに気づくほど集中していた。

中の慶太は最後こそはと的中させ、続くチャンミンは『礼記射義』を心の中で呟きながら弓を起こした。

『内志正しく外体直くして、然る後に弓矢を持ること審固なり。弓矢を持ること審固にして、然る後に以って中るというべし。』

相手校も的中が続いている。
外すわけにはいかない。
チャンミンにできることは、心を正しく、自分を信じることのみ。

正射必中。

ユンホ君はいつも言ってくれる。
僕の射はお手本みたいに綺麗だって。
最初はそれが嫌だったけど、今は正しい射なのだと自信が持てる。

正しく美しくあれば、矢は必ず中るんだ。

シャフトがぴたりと頬にあたり、矢の方向に沿って身体を開いたチャンミンは、ユンホの熱い眼差しを、身体の正中に感じた。

背中でユンホを見つめ返すかの様に、チャンミンの会は長かった。

美しい弦音と共に矢が放たれた時、真っ直ぐ的に向かった矢は、3射目に放った矢の筈に突き刺さってビヨンと揺れた。
矢と矢が繋がって1本のとても長い矢のように見える。

「継ぎ矢だ……!」

「すごい!しかもまっすぐ直線に!」

会場はどよめき、その後皆中に対する拍手が沸き起こる。

「インターハイ決勝で継ぎ矢するとは……。チャンミン持ってるねぇ……。」

日下部は感嘆と呆れの混ざった笑いを漏らした。

「継ぎ矢ってそんなに凄いんですか?」

並んで控えていた玉子石が小声で尋ねる。

「珍しいからそのまま神棚に飾る人もいるくらいだよ。滅多に見られないから、今日はついてるね。」

「へぇ!」

継ぎ矢は先の射と寸分違わぬ射によって達成されるが、3射目と4射目では異なる矢を使うため、厳密に同じ行射であっても、全く同じ場所に的中させるのは至難の業。

弓道では甲矢(はや)と乙矢(おとや)と呼ばれる2種類の矢を1対として使用する。インターハイのように1人4射する場合、2対の甲矢と乙矢を順に射る。甲矢と乙矢では、羽根の形状が微妙に異なるため、矢の飛び方は同じにならない。

つまり、同じ射だからと言って、針の穴を通すように狙いが定まっていないとできることではないのだ。

「さすがチャンミン……。縁起がいいや。」

ユンホはチャンミンに続けとばかり、弓を構えた。

その時会場に拍手が起こった。
対戦相手が、横皆中で4射目を終えたのだ。
ユンホが外せば同中。
中れば優勝。

こんな場面でも、不思議と緊張はない。
チャンミンの継ぎ矢がユンホを祝っているように思え、嬉しかった。

たった数秒の会の間に、チャンミンが弓道を教えてくれる時のはにかんだ顔が走馬灯のように甦る。

去年は巻藁場から眺めるだけだった。
でも、一緒に『礼記射義』を唱えたね。

『射は仁の道なり。射は正しきを己に求む。
己正しくして而して後発す。発して中らざる時は、則ち己に勝つ者を怨みず。反ってこれを己に求むるのみ。』

全ては己の責任。
自分が歩いて来た道。

ユンホの心は静寂の中にあった。


「ケイン!」

甲高い弦音と共に放たれた矢は、迷いなく的を目指した。

「パン!」

的のど真ん中を射抜いた矢。

「よし!!!」

武道館に大河の声が響き、それに日下部が続いた。

両手を広げた残身の姿勢のまま、しばらくユンホは動けなかった。

「ユンホ君っ!やった!!」

チャンミンの涙声が聞こえて、ユンホはようやく弓を下ろし、的に一礼して振り返った。

みんな泣いていた。
堺と九条が抱き合い、慶太は膝を抱えて震え、チャンミンはユンホをじっと見つめて涙を落としていた。

「うぅっ……ユンホ……くんっ……僕達……てっぺん……取ったね!」

「……うん。チャンミン……。みんな……!やったね!!」

チャンミンを抱きしめたユンホにみんなが抱きついて、ぐちゃぐちゃになった。

その混乱に乗じてユンホはチャンミンにキスしたけれど、それに気づいたのはボーイズラブに目覚めて双眼鏡で観察していた一部の女子生徒だけだった。




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正中に放て 弓道編 115

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正中に放て
-弓道編-
115


ホテルのロビーで、チャンミンは小さくなって座っていた。

目覚めたらユンホがおらず、コインランドリーを覗いたがシーツは乾燥の途中。
お腹が減ってロビーまで降りてきたものの、買い物に行くならユンホと行きたいと思い直した。

「もう……どこ行っちゃったの……。」

チャンミンはロビーのガラスに映る光景を眺めた。

通話中で繋がらないスマホ画面をコツコツと叩き、静かなロビーにぽつんと座っている少年は自分。
大きなスーツケースを何個も携え、チェックインする家族はアメリカからの観光客だろう。通りすぎた時、ダラスフォートワース空港からのタグが付いていた。
上品な夫婦は食事帰り。エレベーターに直行する時にちらっと横目でチャンミンを見た。

僕、変に思われてるかも。
髪の毛ボサボサで来てしまった。ハーフパンツにサンダルの子供なんて、東京のホテルには場違いだ。

違う世界にぽんと放り出された錯覚が襲い、チャンミンは急に寂しくなった。
お腹が空いてひもじいし、ロビーの空調は寒すぎて膝下と肩が寒い。

「ユンホ君……。」

チャンミンが膝を抱えた時、会いたいと願った人がロビーに駆け込んで来た。

「あれー!!?チャンミン起きてたの?」

コンビニの袋を脇に抱え、ユンホは両手でチャンミンの手を握る。

温かい。
効きすぎたエアコンで冷えた身体が息を吹き返す。

「お腹空いた?」

「……うん。ぺこぺこ!」

「あはは。だと思った。部屋に帰ろ!あっ!シーツ乾燥機に入れたままだ!!」

「もう終わる頃だよ。洗ってくれてありがと。」

「うん。また弁償になったらチャンミン怒るでしょ。」

「うん怒る。」

「あはは。」

ユンホが居るだけで、元気になれる。
エレベーターに乗り、チャンミンはユンホの手を握った。

「あれ……寂しかった?」

「うん……。」

「もーっ!可愛いなあ!!」

ユンホは、チャンミンと手を繋ぐ奇跡を噛み締める。

大切な試合を前にしてコンビニ弁当なんてどうなんだと思っていたけれど、甘えん坊なチャンミンと交換しながら食べるお弁当は、どんな高級なコース料理より美味しい。

2人でもう1度お風呂に入って、散々キスしてから眠りについた。



最終決戦の朝、ロビーに集合した九条はあからさまにデレッとしていた。

「あれ。龍君。もしかして……フライング告白した?」

「ユンホ……俺はもうここで死んでもいい……。」

「え!駄目だよ試合後にして!」

ユンホの発言はまあまあ非情だったが、九条の耳には賛辞にしか聞こえなかった。

「まあそう言うなユンホ。天使から告白された男は簡単には死なない。」

「えっ!九条!ジェーぺとうまくいったの!?」

日下部がずいっと顔を出した。

「聞いてください先輩。なんとジェーぺが昨夜、これからも俺と寝たいと言ってくれたんです。」

「なんだ。告白じゃないのか。」

「いえ。俺はもう幸せの絶頂です。」

まさに他人事の顔で話を聞いていたチャンミンは、九条の道着袴をクンクンと匂った。

「チャンミン。猫みたいに匂い嗅ぐのやめろよ。もう少し友人の幸せを共有しろ。」

「イジメてたくせによく言うよ。しかし、渋い匂いだね。白檀なんて。」

「金狸様のお守りを身に付けてるからな。虎之介がインターハイ優勝祈願でくれたんだ。」

「ははーん。」

虎之介君の機転か。
お守りと言う名の匂い袋のおかげで、ジェーぺは九条と居ると安らぐんだろう。

「俺は天使に求められる男だ。エネルギーが溢れ過ぎて怖い!ちょっと走りたいから先に行くぞ!!」

九条はホテルから武道館に弾丸の如く走って行った。チャンミンは呆れながら、まだ眠そうな垂れ目でふわっと笑う。

「ふふ。なんかもう、楽しもうね。」

「……そうだね。」

ユンホとチャンミンは、祖父母と連れだってゆっくりと歩いた。
ツクツクボウシの鳴き声がする木々とお堀を過ぎ、すっかり見慣れた武道館に入る。

2人と別れて客席についた祖母は、ユンホと並んで巻藁練習するチャンミンの姿を眺めて目を細めた。

「チャンミン君はいつもユノと一緒に居るべ。」

祖父も感心して頷く。

「魂の友達みたいなもんだべかなぁ。」

「んだ。青春だなぁ。」

「大学も一緒にアメリカまで行くなんて言ってたべ。」

「んだ……。嫁みたいだ……。」

「んだ……。めんこい嫁……。」

思うところはあったが、祖父母はその会話を終わりにして、今は微笑ましく2人を眺めた。



最終日は準々決勝から。
朝9時からの試合で、慶太は気持ちが落ち着かなかった。玉子石の茹で卵一気食いを見せて貰ったが、その日に限って玉子石は喉を詰まらせた。それが悪い予感に思え、指先が震える。

堺も、最後のインターハイとあって表情はかたい。

辛くも勝ち進んだが、堺と慶太は2中だった。

堺は自分で立て直せるだろうが、慶太に緊張するなと言うのは無理な話だ。女子の準決勝と、5~8位決定戦が終わればすぐ準決勝が待っている。

ユンホは円陣を組み、全員に柔らかく微笑んで見せた。

「慶太。慶太はまだ1年生なんだ。チームのためとか、考えなくていい。半矢で上出来!」

日下部が頷いて慶太の頭をツンツンする。

「ユンホの言うとおりだよ。過去の戦績から考えると、次の鹿児島高校の的中は15中ってとこ。いつも通りでいい。」

「九条と堺先輩は3中はいけますよね!ユンホ君と僕が皆中したら、勝てます。」

襟を正したチャンミンの胸元にキスマークをめざとく発見し、日下部はにやけながら怒り顔を作った。

「チャンミンそんなこと言ってるけどさっき外したじゃない!もう目は覚めた?」

「はい。外した音で目が覚めました。」

「遅いよ!」

「すみません……昨夜ちょっと……。」

「寝不足?何時までしてたの!?」

「11時には寝ようとしたんですけど、ユンホ君がキスをやめてくれなくて……。」

「ユンホのせいか。」

罪を押し付けられたユンホは、反論もせずにチャンミンの肩をぐいっと抱き寄せた。

「仕方ないですよ。大好きなんだから。」

「もっ、もう!!」

頬を赤くしたチャンミンより、慶太の方が真っ赤になった。

熱い……。
アツアツ過ぎる。
見ているこちらが熱中症になりそうだ。

「堺先輩……もうまともなのは先輩だけですね……。」

「うん。この環境で緊張するのが馬鹿らしくなるよ。」

ユンホはにっと笑った。

「よし!今日もいつもの東高弓道部だね。」

微笑みながら、東高は準決勝に挑んだ。
日下部の読み通り、相手は15中。東高は18中の堂々の勝利だった。

決勝の相手は、冬の全国大会で負けた愛知の高校に決まった。

あの時は、チャンミンが怪我をしてて一緒に試合出られなかった。
血を流して作ってくれたギリ粉入れを手にすると、ユンホの全身の血管がドクンと脈打つ。

チャンミン……僕の大切な人。
一緒に試合に出られるだけで、こんなに幸せ。

ギリ粉の着いた弓懸けの親指をギュっと鳴らし、ユンホはハートマークを作った。

「ユンホ君。緊張してる?」

俯いているユンホに声をかけたチャンミンは、その手の形にはっとした。

まさか、こんな時にも僕への愛を確認してたの??
やだ、萌える。

顔を上げたユンホは満面の笑みだった。
未来のことなど誰にも分からないけれど、ユンホの真っ直ぐな愛の矢はチャンミンの心臓にどすんと刺さって、抜けそうにない。

「チャンミン。ずーっと、好きだよ。」

「きゃふ……。」

「優勝したら、キスしちゃうかも。」

「それはやめて……。」

「なんでー。いいじゃん。」

「よくない!」

「させてよぅ!」

「公衆の面前です!」

「大河先輩と日下部先輩だって人前でキスしてるじゃん!」

「ここは日本!」

ユンホとチャンミンのイチャイチャトークは終わる気配がなかったが、九条がユンホの背中に蹴りを入れたおかげで漸く収束した。





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メゾン・シムの住人 39

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メゾン・シムの住人
39


その晩帰って来たユノは、チャンミンが階段下でホウキを握り締め、頬を染めて唇をムニムニさせているのを不思議に思った。

「チャンミンさん。どうかしました?何かいいことでも?」

「ユノさん……。」

竹ボウキを胸の中心に持ち、姿勢を正したチャンミンは、首だけちょこんと傾ける。

「僕と同棲しません?」

「ど、どどっ!」

ユノは一歩後ずさりし、白目を剥いて仰け反った。

同棲。
チャンミンさんと同棲。
目眩く禁断の私生活風景が脳内を駆け巡る。

朝目覚めるとチャンミンさんが「おはよう」と味噌汁を作ってくれる生活。
一緒にお風呂入っちゃったりして、髪なんか洗いあったりして!
もうすぐ温泉旅行もあるし、もちろん夜は……OKってこと……だな!?

テロテロ光る唇を見つめてごくりと唾を飲んだユノに、チャンミンは九官鳥みたいに小首を更に深く傾げた。

「嫌ですか?」

「嫌なわけありません!で、でも!狭くないですか?俺、学校関係の荷物多くて……。」

「それなら問題ありません。ユノさん、仕事する時は4号室を使ってください。」

「は?」

「空室の4号室です。あそこ、書斎にしていいです。」

チャンミンさん……。
部屋を1つ潰してまで俺と同棲したいとは。感激だ。

「で、早速ですが、今日からうちに泊まってください。」

「はいぃ!?」

「ユノさんの部屋、天井張り替える必要があるんです。なので、僕の部屋に泊まってください。」

ユノはソファを殴るため一旦部屋に帰ったが、ソファは寝室の1番奥に移動されており、本棚に邪魔されてたどり着けなかった。

殺虫剤を1缶近く振り撒かれた室内の空気を存分に吸い込んでユノは咳き込んだ。

「コホ……ゴホゴホ!!」

風邪だろうか。喉が痛む。
荷物がまだ少し残っているが、変わり果てた殺風景な居間で冷静になれと言い聞かせる。

「いきなり同棲……。コホコホッ!」

月末の温泉旅行に向けて心の準備をしているところなのに、今から同棲だなんて、キャパオーバーだ。

「だあ!!たまらん!!抱きたい!!!ああっ!ダメだ!!大切にするんだぞユノ!!」

床に転がってバンバンした結果、ユノは沈殿していた殺虫剤成分を思う存分吸い込んだ。


取り敢えずの着替えを紙袋に詰め、1号室に向かったユノの指はチャイムを押す時ちょっと震えた。

「はいはーーい!」

ドアを開けたチャンミンは、グレーのヒラヒラレース付きエプロンをしていた。

「えっと……お帰りなさい。」

「た、ただいま……。宜しくお願いします。」

「やだなぁ。いつも来てるじゃないですか。どうぞ入って。夕飯できてますよ。」

なんだこの幸せ過ぎるやりとり。
鼻血が出そうだ。
ソファに腰掛け、ユノはチャンミンにマスクがあるか尋ねた。

「え、風邪ですか?」

「少し喉が痛くて……。」

「あらら。」

マスクを出したチャンミンは、心配そうにユノの顔を覗き込んだ。

「旅行前に体調崩さないでくださいね?」

「俺、喉から風邪引くこと多いんです……。」

「お腹出して寝てません?今夜は僕が抱き締めて寝てあげましょうか。」

「ダメですよ!チャンミンさんに移したら大変です!今夜はソファで寝ます。」

「なっ……!それこそダメです!!」

ユノとチャンミンのベッドで寝る寝ない論争は日が変わる直前まで続いた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

8月20日(火) 23:50
台風一過の晴天


ユノさんは一筋縄ではいかない。

付き合う前からキスなんてするから激しいタイプかと思っていたが、いざとなると慎重だ。
風邪なんて移ったって構わないのに。

ユノさんの喉の調子は大して悪そうじゃない。
夕食の冷しゃぶをペロリと平らげ、咳もしていない。

まさか、僕とのイチャイチャを回避するためにマスクを着用したのではと疑ってしまう。
だとしたらショックだ。

おやすみのチューすらさせてくれなかった。
何とかベッドで眠らせることに成功したが、最後までソファで寝ると言い張って、危うく喧嘩になりかけた。

イチャイチャをあんなに拒むのは、幼少期にスキンシップが足りなかったからだろうか。お母さんは相当厳しい人だったようだし、仕事も忙しかったとなると家族の時間なんてあまりなかったはずだ。

もしくは、ヤスエばあちゃんに気を遣っているか。

はたまた、優し過ぎるからか?
僕への過度な気遣いが原因となると、ユノさんは僕を抱く側?

あー!
もう!
ウジウジ悩んだ時は相談だと教えてくれたのはユノさんだ。

勇気を出して聞いてみよう!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


チャンミンはある意味ユノより潔かった。
何しろ、当の本人に朝から赤裸々質問を投げ掛けたのだから。

「ユノさんは、僕のこと抱きたいですか?」

「ゲホーーーー!!!」

ユノは味噌汁の大根を喉に詰まらせてリバースした。

「ちゃ、ちゃ、ちゃ、ちゃ!」

「はい。お茶。」

麦茶をゴクゴク飲んだユノはグラスをドンと置いてチャンミンを見つめた。

「だ、だ、だ、だ……。」

「ユノさん。ここに大根ついてます。」

唇の端に向けて伸ばされるチャンミンの細く可愛い指を、ユノはぐいっと掴んだ。
質問に答えねばならない。

「だ、抱きたい!!です!!!」

テーブルを挟んで腕相撲みたいな形で手を握り合った2人は、沈黙した。

「それは……困りましたね。」

ユノがキュウタロウみたいに首を傾げる番だった。

「チャンミンさん……は……。」

「僕は抱かれるのはちょっと。」

なんだって?
ちょっと?

ユノは腕相撲に勝利し、手を掴んだまま隣に移動した。

「そういうの、嫌ですか?」

「嫌ではなくて、むしろイチャイチャしたいです。」

「じゃ、じゃあ……!」

「でも抱かれるのは無理です。抱く方ならイケるかもしれません。ユノさんてカッコいいのに可愛いくて、ギャップ萌えします。」

「…………う……。」

可憐な妖精に激しく抱かれる己を妄想し、ユノは頭を振った。
考えたことがなかった。
自分がそちら側となると、難しい。

呆然とするユノに対して、チャンミンは可愛い顔のままあっけらかんとしていた。

「困りましたね。お互い抱きたい方となると。では……当面挿入なしのイチャイチャでいかがでしょう。」

「ちゃ!」

「ジュンさんとテツさんに聞きましたが、そういうカップルも多いみたいですよ。」

「ちゃ……。」

「はい。お茶。」

「……ありがとう。」

お茶を飲むユノの喉仏に見とれ、首にキスしたいなぁ……と思ったチャンミンは、意を決した。

ユノさんが戸惑っているなら、僕が促すまでのこと。

「ユノさん喉の調子は?」

「あ……もう大丈夫みたいです。」

「良かった。じゃあ、今夜……イチャイチャしてみます?」

「チャ!!!」

ユノは絶句したまま学校に行き、絶句したままプール当番をし、クラクラして職員室に戻り、あろうことか健全な学舎で男のセックスについて調べに調べ、絶句したまま日向町に戻った。

イチャイチャって……。
どこまでだ……?
胸にキスはOKか?
まさか、あの細い指で……チャンミンさんが俺のあそこを……。
もしかして口で……とか……。

「ああっ!行き過ぎ!」

目眩くユノの妄想世界から飛び出した妖精は、魚屋の前でキュウタロウにスイカを食べさせていた。

「ユノさん見て見て!キュウタロウって、スイカ大好物なんですよ!」

「あぁ……可愛い……。」

「ね!可愛いですよねー!」

「いえ。チャンミンさんが。」

「ふぁ!」

キドは包丁をまな板に叩きつけてネギトロを作り、乱暴にビニール袋に入れると犬歯を光らせてニヤリと笑った。

「これどうぞ。アボカドや山芋なんかと一緒に丼にしたら、精がつきますよ。」

「なるほど。」

チャンミンは早速スーパーでアボカドと山芋を購入したのだった。




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正中に放て 弓道編 114

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メゾン・シムの住人 38

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メゾン・シムの住人
38


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8月19日(月) 23:00



超大型台風の襲来により、メゾン・シムが揺れている。

ユノさんは、9月にある保護者参観日に向けた教材を作るとかで、夕食後早々に部屋に帰った。
こんな嵐の夜こそ抱き合って寝るのがいいのではないかと思うが、月末の温泉旅行を前に片付けておきたいと言う理由だから許そう。


今日ヤスエばあちゃんは無事退院した。
キュウタロウに望み通りの嫁ぎ先が見つかるまでは断じてメゾン・シムを出ないと息子さんに宣言したと胸を張っていた。

キュウタロウはオスだと思うが、嫁ぎ先とか言うあたり、ヤスエばあちゃんの性別判断力はどこか狂っている。僕を女子扱いするのも未だに変わらない。

あの歳だ。認知症の恐れあり。
正直、このままずっと死ぬまでここに居て欲しいのだが、やはり、介護付きアパートに入るのは正解だろう。

キュウタロウの嫁ぎ先募集広告がタウン誌に掲載されるのは9月。望みは薄いが結果を待つしかない。

キュウタロウの去就が分からない今、南岡の広報誌の原稿を手直ししなくてはならない。キュウタロウのことは書かないでおこう。

キュウタロウに話しかけているユノさんのバックショットは最高の1枚で、イケメンセンサーに優れた南岡市民にお見せできないのは残念だが、僕だけのものとしてお蔵入りさせよう。


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原稿の手直しを始めたチャンミンの手はさっぱり動かなかった。

キュウタロウの居ない時間に客足が半減するのと同様に、記事の魅力も半減。

「当たって砕けろ……でやってみるか……。」

南岡市で配布される広報誌にキュウタロウの里親募集情報を掲載したところで条件を飲める人など居るはずもないが、ユノの突撃姿勢が移ったのだろう。チャンミンは原稿を少しだけ改訂し、嫁ぎ先募集条件を織り混ぜた。



「ピンポーン」

「う……。」

「ピンポーン」

「うぅー。」

「ピンポーン」

「うう……うるさい……。」

「チャンミンさーーん!」

ユノの声がしてチャンミンはベッドから転がり落ちた。
時刻は朝の6時55分。

「なんだ……なんなんだ……。」

眠りから覚める前の状態のまま、チャンミンは玄関の扉を開けた。

「チャンミンさん!朝早くからすみません!」

「どうしました……。」

チャンミンの爆発した頭と青髭に一瞬だけ絶句したユノは、それどころではないと思い直し、チャンミンを引っ張って階段を上る。

ユノの部屋の窓際には、風呂桶とバスタオルが並んでいた。

「ひ……雨漏り!」

「ええ。」

ユノが指差す天井には、窓に沿って滴が連なる。

「昨日の台風で屋根が壊れたんですかね。」

「修理しなきゃ……。」

「俺、今日は研修会があって学校休めないんで、チャンミンさん後お願いできますか。この辺のもの、勝手に動かして構いませんから。」

「はい!ご迷惑おかけしました!行ってらっしゃい!」

これぞ大家の仕事。
チャンミンは急ぎ修理を依頼したが、事態は思ったより深刻だった。

「こりゃ、台風の前から少しずつ漏れてましたね。天井裏の痛みが激しい。この辺まで断熱材が濡れてます。」

「そんなに!」

角部屋10号室の天井裏は、実にリビングの半分近くまで浸食が進んでいた。

「天井の壁紙も張り替えないと、剥がれてきますよ。」

「ちなみに、予算は……。」

「屋根の上を見てから正式に出しますけど、まあ40万……んー、50万はしないと思います。」

「あぁ……。」

アパートの管理費は祖父の代から引き継いだものがあるが、思わぬ出費。ごくりと唾を飲んだチャンミンを他所に、修理屋は部屋を見渡した。

「天井の作業がありますから、この部屋の荷物は移動してください。」

大変だ。
居間の荷物を全部寝室に移動させるとして、ユノの生活スペースが無くなってしまう。何しろ荷物が多すぎる。

チャンミンはエプロンと軍手を装着して、早速大移動を開始した。

「ひーっ!埃だらけ!!」

「ひーっ!これいつのペットボトル!」

「ひーっ!虫の死骸!」

悲鳴を上げながら本棚を移動していた時、薄いアルバムに目がとまった。
若い頃のユノの写真かと期待して表紙を開いたチャンミンは微笑んだ。

「わ……ユノさん、スーツかっこいい。」

緊張の面持ちの子供達と、今より若々しいユノのクラス写真。

「世田谷東小学校?」

チャンミンは首を捻った。
現在の南岡の私立小学校が初任だと思っていたが、東京の公立小学校で先生をしていたとは。

1年計算が合わなかったのは、ここに勤めていたからか。
でも、すぐ辞めてしまったのだろうか?
私立の方が条件がいいとか?
東京の公立だったら、そんなに条件が悪いとも思えないし、世田谷なんて、日向町育ちのチャンミンには憧れの高級住宅街のイメージしかない。

「今度聞いてみよっと。」

その時チャンミンが、ユノの空白の1年を深く考えることはなかった。何しろ、本棚の下からゲジゲジが走り出したのだ。

「いやーーーー!!!」

ドタバタ玄関まで逃げたところでチャイムが鳴った。即座に扉を開けたチャンミンにジュンが目を見開く。

「え、チャンミン君!」

「ジュンさん助けて!!」

小鹿のようにプルプル震えるチャンミンに背中を押されて居間に入ったが、ジュンが探してももうゲジゲジは見あたらなかった。

「この有り様じゃどこに行ったか分からないね。で、これは何事?」

「……ごめんなさい、うるさくして。ジュンさん今日は仕事は?」

「夏休み。先週お盆の間も働いてたから。」

荷物が散乱した部屋をぐるりと見渡し、天井に目をやったジュンはため息を吐いた。

「雨漏りか……。」

「そうなんです。ジュンさん達の部屋の方までは行ってないみたいなんですけど、ここの上は壊滅的だそうで……。」

ジュンは「ふむ」と思案し、ゲジゲジに怯えるチャンミンを9号室に招くと、思わぬ提案をした。

「実はユノ君とチャンミン君が付き合い出してからずっと考えてたんだけど、10号室を僕らで借りることできないかな。」

「は?2部屋借りるってことです?」

「そう。テツ君の荷物が多くてここじゃ手狭でね。かと言って引っ越すのは嫌だし、ここの壁取っ払ってリフォームできないかと。」

「しかし隣はユノさんが……。」

「だって、そのうち君らは同棲するでしょ?」

「どっ!!そんな予定ないですよ!?」

「セックスしちゃえば入り浸るようになるって。雨漏りの修理で、どのみち今日から同棲生活するんだろうし。」

「そうと決まったわけでは……。」

「そうなの?残念だなあ。大がかりな修理するくらいなら、この機会にリフォームしてしまえばいいかと思ったんだけどね。費用は僕らで出すから。」

「ふぁ!」

なんと美味しい話。

チャンミンは10号室に喉が痛くなるほど殺虫剤を振り撒き、一旦1号室に戻った。

他の依頼が立て込んでいるとかで、雨漏りの修理が始まるのは後日。雨が入っている原因箇所の応急処置だけは今日して貰ったから、考える時間はある。

同棲。
ユノさんと同棲。

「ぐふ。」

あり得ないと思っていたが、甘美な匂いがしてきた。
カッコいいのに可愛くて泣き虫なユノさんを僕が優しく包み込んで、甘い生活を送るのも悪くない。毎晩寂しい思いをしなくてすむ。

しかし現実問題、あれだけの荷物を我が家に受け入れるのは不可能だ。
唇を尖らせたチャンミンは、「あ!」と閃いた。

「要らない荷物は4号室に入れとけば何とかなるか……。」

祖父は4号室を空室のままにしていた。
それは、幼いカエデを抱えるモエが隣室への騒音を気にせず生活できるようにとの祖父の配慮だった。
実は入居募集もしていない。

「いいかも……。同棲……。」

チャンミンはにやけながらリップクリームをベタベタ塗った。





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メゾン・シムの住人 37

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メゾン・シムの住人
37


聖母は壁際に寄り、「どうぞ」と腕を伸ばした。

「え……。」

まさかの腕枕。
想像と真逆の構図にぱちぱち瞬きしたユノは、「早く」と促されてチャンミンの胸に抱かれる形になった。

戸惑ったが、髪をよしよしと撫でるチャンミンの手は滑らかで心地好い。あやされる子供の気持ちはこんなだろうか。

「運転疲れましたよね。ゆっくり寝てください。あ、煙草はもう2度と吸わないでください。禁煙しないとキスしません!」

「チャンミンさん……母さんみたいだな……。」

「ふふ。これでも歳上なんで。甘えていいですよ。」

ユノには甘えた記憶がほとんどない。
いつも厳しい母の前で、いい子にしていた。
迷惑をかけないように、優等生を貫いた。

「ユノ君は本当にそれがしたいの?」
「我が儘言っていいんだよ?」

頼まれる前に察して手伝いをするユノに、小学校の担任の先生はよく聞いたものだ。
いつも周囲の目を、評価を気にしていた。

バカみたいに突っ走ったのは、新任教師になった時。でも、その結果は散々。
世田谷東小学校を辞めた時、母が亡くなった後で良かったと思った。人生初の挫折を、知られなくて済んだと。

でも本当は、甘えたかった。
膝小僧を擦りむいたら泣きたかった。
友達と喧嘩したら、抱きしめて欲しかった。
頭を撫でて、慰めて欲しかった。

チャンミンに一目惚れしてからの素直な自分が、ユノは好きだった。本来の自分を見つけた感覚。
今の自分なら、甘えられる。

「じゃあ……甘えます。」

ユノがそう言うとチャンミンは破顔し、唇をムニっと噛んでにやけた。それから顔を引き寄せて抱き、「嬉しいです」と満足そうに呟いた。

甘えられて、喜んでくれるなんて。
母さんにももっと、甘えれば良かったのかな。

ぎゅっと顔を埋めるユノの頭を、チャンミンは眠るまで撫で続けた。



次の日、ユノとチャンミンはヤスエばあちゃんの見舞いに出掛けた。
4人部屋の窓側のベッドで寝ていたヤスエばあちゃんは、白髪を逆立てる勢いで怒っていた。

「うちの息子の薄情もんが!キュウタロウ買ってきたのは自分のくせに、今更取り上げようってんだよ!!」

「うん……。アパートの話、聞いたよ。」

「なんだいあの子、チャンミンちゃんにも話したのかい。わたしゃまだまだ大丈夫だよ!キュウタロウが天寿を全うするまで死ねるもんですか!!」

「でも……また入院とか、こんなことがあったら……。今回はたまたまお盆だったから息子さん達来れたけど……。」

「キュウタロウは息子みたいなもんなんだよ!滅多に会いにも来ないあの子より……キュウタロウの方がよっぽど……。」

涙ぐんで言葉が出なくなり、窓の方にぷいと顔を向けてしまったヤスエばあちゃんの肩を撫で、チャンミンは後ろめたい思いにとらわれた。

僕が飼うと言えば解決する話。
自分がユノさんと自由に出掛けられなくなるのが嫌なだけ。

病室を出ると、チャンミンは廊下をとぼとぼ歩いた。

「僕が飼ってあげたいです。」

「人生……じゃないか………キュウタロウのこれからの生活にも、チャンミンさんの生活にも関わる決断を簡単にしちゃ駄目です。」

肩を落としたチャンミンを助手席に乗せ、ユノは日向町とは逆方向に車を走らせた。

「理科のヨコタ先生に会いに行きましょう。植物だけじゃなく、生き物全般詳しいから。」

「夏休み中なのに……申し訳ないです。」

「チャンミンさん。自分のことみたいに苦しまないでください。俺も、そういうとこあるから分かります。でも、もう1人で悩むのは辞めたんです。闇雲でいいからどんどん相談して、色んな人に助けてもらいましょう。ね?」

「ユノさん……。」

ユノの微笑みにほっと胸が休まり、チャンミンはペットボトルのお茶を飲んで、「ユノさんも飲みます?」と差し出した。

「か、間接キッス。」

「ちょ……散々キスしてるくせに!」

「興奮します。」

「もー!」

ケラケラ笑ったチャンミンの頬にユノは手を添えた。

「可愛い。笑った顔、好きです。」

「ふぐっ!」

喉から変な音が出たチャンミンにユノは大笑いした。

「ほんと可愛い!!」

チャンミンは両手で顔を覆って恥じらったフリをしたが、その下で涙が出そうなのを堪えた。元気がない自分を笑わせてくれるユノに、感動した。


休日にも関わらず喜んでユノとチャンミンを迎え入れたヨコタ先生は、2人の話を聞いて「そうか……」と頷きながらコーヒーを勧めた。

「インコやオウムには、50年、100年生きるものもいるからね。高齢な飼い主さんが飼えなくなったり亡くなったりって、そんな話最近よく聞くな……。」

「ええ……。悲しいことですね。」

ため息を吐いたユノがコーヒーをごくりと飲み、チャンミンもつられて飲んだところで、暗い空気を一蹴するようにヨコタ先生は膝にポンと手を置いた。

「でも、九官鳥だったのは不幸中の幸いかもね。」

「幸い……?」

チャンミンは首を傾げた。

「うん。最近、九官鳥ってあんまり見ないでしょ。」

「あ、そう言われてみれば、昔はよく飼われてましたけど……。」

「ワシントン条約で保護されるようになったことや、環境破壊とか色んな理由があってね、九官鳥は今や超希少種なんだよ。」

「えっ。キュウタロウってそんな価値のある鳥だったんだ……。」

驚いて目をぱちくりさせているチャンミンにヨコタ先生は微笑んだ。

「まさに。欲しくても手に入らないお宝生物。ヤスエおばあちゃんに定期的に会わせてくれる条件を付けて、近隣で飼い主希望の人を探してみたら?保護団体の人に、九官鳥は新しい家族がすぐ見つかるって聞いたことあるよ。」

「キュウタロウの……新しい家族……。」

チャンミンの頭の中で、キュウタロウが「カァ!」と鳴いた。

「チャンミンさん。ヤスエばあちゃんに話してみましょう。これからも会えるなら、ばあちゃんだって寂しくない。」

かくしてユノとチャンミンは、キュウタロウの家族探しを始めることになった。

とは言え、ツテがなくては難しい。ヤスエばあちゃんが渋々出した条件もかなり厳しかった。

「毎日会いたいって……さすがに無理じゃ……。」

「……まぁ、まずはやってみましょう。当たって砕けろですよ!」

「はぁ……。」

まずはメゾン・シムの住人からあたることにしたが、反応はチャンミンと同じだった。
出掛けられなくなるし、毎日ヤスエばあちゃんに会わせるとあっては生活に無理が生じる。みんな働いているのだから当然のことだ。

1番真剣に悩んだのはキドだった。

「キュウタロウが居なくなったらうちの店はまた閑古鳥……。」

九官鳥の次は閑古鳥……。
シリアスな状況ではあるが、ユノは思わず吹き出した。

「ユノさん……笑ってる場合じゃありません。」

「じゃあキドさんが飼ったらいいじゃありませんか。」

「私は生き物は飼ったことがないんです。毎日ヤスエばあちゃんを訪問する暇もないし。」

キドは包丁を置いて、まな板の上の太刀魚と見つめあった。

「うちにもバイトに来させてくれる人を探してもらえませんか。」

「な!」

条件は更に厳しくなった。
ムカイが日向町のタウン誌に広告を出したらと提案してくれたが、条件を書き連ねてみて、チャンミンはペンを放り投げた。

「こんなのあり得ない!みんな好き勝手言いやがって!!ヤスエばあちゃんを毎日訪問して、魚屋にバイトに行かせるのが条件なんて!アホか!!」

ユノは条件もさることながら、妖精チャンミンの暴言にびくついた。

「……し、詩吟ができるとか、カラスの警戒音が真似できるとか……キュウタロウの凄いところをアピールして……。」

「詩吟とカラスって!喜ぶ人がいますか!」

「う……。まぁ……とにかく掲載だけはしてみましょう……。」

2人は全く期待できない里親募集広告を、次号のタウン誌に掲載してもらうことにした。




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正中に放て 弓道編 113

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正中に放て
-弓道編-
113


団体戦の予選は、予定通り問題なく通過した。
決勝トーナメントの1回戦も圧勝。

だが、2回戦では優勝候補の一角である京都西園寺学園が対戦相手となった。
西園寺は、2年の鬼頭以外は全員が3年生。経験では東高の上を行く。

対戦を前に円陣を組み、ユンホは玉子石に問うた。

「東高弓道部の強みは何だと思う?」

「え……そうですね……みんな射が綺麗です。」

「射が綺麗な人は他の学校にもたくさん居る。他には?」

「みんな弓道が好きです。でも……それだけじゃないかな……なんだろ……東高弓道部が好き……。うん。そうです。東高弓道部は、愛が溢れてるから好きです!」

玉子石は巾着に入れていた茹で卵を取り出し、ふんわりと肉厚な手の平にのせた。

「誰も、僕が玉子を愛してることをバカにしません。むしろ、玉子愛を認めて指導してくれます……。」

話が玉子に行ってしまって一同は面喰らったが、幸い、話の焦点は玉子ではなかった。

「慶太君の熱くて突っ走るところも、ユンホ先輩は認めてる。堺先輩は3年生なのに、全然偉そうじゃなくていつも平等に接してくれる。九条先輩がジェーペ君ばっかり追いかけてても、みんな笑って応援してる。ユンホ先輩はチャンミン先輩にぞっこんだけど、お互いにラブラブぶりを隠しもしない。」

真っ白な玉子をいとおしそうに撫でた玉子石は、観客席から猛烈な目力で日下部を見つめている大河を指差した。

「前主将からもラブビーム出てます。東高弓道部は暑苦しい愛でいっぱいです!」

「そ、そうだね。」

もう少し真面目な方向性を期待していたユンホだが、みんなが嬉しそうに笑っているので、これはこれで良しとすることにした。

ユンホが考える強みは、若いメンバーが主体であることの熱量と勢いだったから、愛を語って笑顔で居られることもまた、若さの強みに違いない。

「じゃあ、東高の愛を、武道館にお裾分けしてあげよう!」

「はい!!」

みんな、ワクワクしていた。
慶太だけは緊張で瞬きを忘れていたが、後ろに下がった玉子石が器用に殻を剥き、こっそり茹で卵を口に入れたのを目撃して、ようやく瞬きすることができた。

一口で食べたけど、喉詰まらないのか?
どんな時も玉子愛を忘れない点は、尊敬に値する。

「ふー。俺も集中集中!」

真面目に精神統一した慶太の横では、九条がやる気満々で金狸様への合図とばかり、腰をパンと叩いた。

「よーし。ジェーペにカッコいい姿見せるぞ!!」

それを呆れつつ笑う堺とチャンミン。
客席の大河ばかり見ている日下部。
みんな自由奔放好き勝手。
でも、最高のチームだ。

「若いっていいな。」

的前に立って、腰に弓をあてたユンホが呟いた独り言はチャンミンの耳に届いた。

そうだねユンホ君。若さで突き進もう。
こうしてユンホ君と並んで、全ての力を放つんだ。

武道館は正八角形。
その全ての方角に届けるよう、全方位に力を流せば自ずと矢は真っ直ぐ飛ぶ。

外す気がしない。
後ろに立つユンホが、背中にそっと手を添えている気がする。

ずっと僕を見てて。
そうしてくれたら、僕は最高に美しく居られる。

会に入ったチャンミンはぴくりとも動かなかった。上下に定まった重心と、左右に引き分けられた腕が十字に垂直に交わる。

ユンホは矢を番えたまま、食い入るようにチャンミンを見つめた。

繊細な柱でもぶれない日本建築みたいだ。
興福寺の五重塔がチャンミンだとしたら、僕は何になろう。
東大寺の大仏殿もいいけど、僕はこっちの方が好きかも。この武道館。

静止していたチャンミンが放った矢がシュンと音を立てて真っ直ぐに的に向かうのを確認し、ユンホは高く弓を打ち起こした。

武道館のせり上がった屋根のように天に向かう弓は、ユンホのオーラまで広げるように左右に分けられていく。

「あいつのカリスマ性を感じさせるいい射だ。」

呟いて、大河は微笑んだ。
祖父母も見とれている。

「前に見た時とも、昨日とも違うべ。ユノは天井知らずじゃ。」

「んだ。神童じゃからな。」

東高は横皆中を繰り返した。
その度にわき上がる拍手に飲まれたのは、西園寺学園。

3年生中心の彼らには後がない。
負けたらインターハイは終わる。
そのプレッシャーに、東高の勢いがのし掛かって、本来の中りが出なかった。

4射目で慶太は外してしまったが、その時点でもう東高の勝ちは決まっていた。それでも、ユンホは最後まで気を抜いたりはしない。

「チャンミン。最後、僕らで締めるよ。」

チャンミンは前を向いたまま、後ろから声をかけたユンホに頷いた。

言われなくても分かっている。ユンホは勝ち負けより東高の弓道をしたいのだと。
その末に結果として優勝があるだけ。

チャンミンの射は何ら変わらず美しく、観客はため息を漏らし、最後にユンホが中ると、会場は東高への拍手で溢れた。

終わってみれば、慶太が3中、残る4人は皆中での勝利だった。



試合後、武道館の前で部員達に挨拶するユンホの後ろには、全国津々浦々から集まった他高校の女子部員が列をなした。

「凄い人気。ユンホにもファンクラブが出来そうだねぇ。」

「むむむ。」

煽る日下部の含み笑いを受け、チャンミンは唸った。ユンホ君のかっこよさが、全国に知れ渡ってしまった。

「みんな今日は応援ありがとう。残るは明日の最終日。必ず頂点まで登り詰めよう!」

挨拶を終えるとユンホは女子に囲まれた。
一緒に写真を撮って欲しいと懇願する女子の群れに、ご丁寧に対応するユンホ。

睨み付けるチャンミンに日下部は囁いた。

「わー。嫉妬のオーラがメラメラと立ち昇ってるよ。」

「だって日下部先輩!大切な最終日を前に何を女子といちゃついてんだか!」

「怖い顔も綺麗だけどさ……そんな時こそ可愛くユンホを誘えばいいでしょ。」

「さ、誘う??」

「早く2人きりになりたいって思わせるんだよ。誰だって怖い顔より、甘い顔に弱いからね。」

「なるほど。キュー道ですね。」

「ん?」

キュー道を弓道と捉えた日下部はさすがにきょとんとしたが、チャンミンは「ふん」と鼻息を吐き、巾着袋を握って見せつけるかのように振った。

「ユンホくーん!忙しそうだから、僕が弓懸けの手入れしておいてあげる。貸して。」

「え……どしたの急に。自分でやるよ。」

「いいのいいの。ユンホ君はみなさんの要望にお応えしてて。」

ユンホから、弓懸けが入った巾着を奪い、チャンミンはにっこり微笑む。
チャンミンが両手に持った色違いの巾着がお揃いであると、世の女子が気づかないはずがない。

察しの良い子は、「きゃ……」と声を上げて口を覆っている。

「じゃあ僕、先にホテルに帰ってるね。」

「ちょ、待ってチャンミン……!」

「あー、ゆっくりでいいよ。お風呂入るついでに下かけ(弓懸の下に装着する綿の手袋)も洗っておくから。」

「だっ、ダメだよ先に入っちゃ!一緒に入ろうよ!!」

一緒にお風呂なんて言っちゃって。
女子のザワザワ感がチャンミンには快感だ。

「今日は湿気が凄いんだもん。身体がベタベタして気持ち悪いから早く入りたい。じゃ、お先!」

「だーっ!!僕も帰る!!」

ふふふ。
思い通り。
僕のキュー道に迷いなし。

スタスタ歩く赤ずきんチャンミンと追いかける忠犬ユンホを眺める女子の群れからは、最初とは違うため息が漏れていた。

「ユンホのやつ。完全にチャンミンに転がされてるな。」

大河は呆れ、日下部はにやりと笑った。

「ふふ。またボーイズラブファンを増やしてしまった。」

「なんだ。香月の布教活動にチャンミンも転がされてるのか。」

「ま、日本もそろそろ変わらないとね。」

「お前は全く……末恐ろしいよ。堪らないね。」

日下部の腰を抱いた大河の姿に、女子の群れからピンク色の歓声が上がったのは言うまでもない。



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テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:コールドブリュー
東方神起 ユノとチャンミンが大好き。
脳内妄想をこっそり綴っています。
ホミンのみ。

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