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王子とシムの常夏ハネムーン 16

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16


チャンミンがアワアワしながらヴィラに駆け込んだのは、ユノユノと魔法使い2名が水族館で大仕事を終えて戻った直後だった。

「王子がっ!!じゅ、じゅ、充電してた!!」

ユノユノはチャンミンの動転ぶりもさることながら懐かしのシムドール衣装に目を奪われたが、ぶんぶん肩を揺すられ正視できない。

「おぅ、おっ、落ち着いてチャンミン!!」

「おテムがっ!充電してた!!」

「充電?お休みしてたってこと?」

「ちち違う!!電源コードで充電してた!!あの子、機械だよ!ロボット!!」

「待ってよチャンミン……。テミン王子までまさか。あんなマシュマロみたいにポワポワしてるのに……。それに会話だって普通にしてるじゃないか。」

「本当なんだって!!」

懸命に訴えるチャンミンが冗談を言っているようには見えない。

「泳げないのは防水機能がないからだよ!最近体調が悪いのは、水に濡れたからだ!!それに、ドリルをぶっ刺してたってのも説明がつく!!」

「なるほど。SMカントリーなら有り得ますね。」

ウニョクが頷いた。
ユノユノも同意せざるを得ない。
彼らは水族館で、多数のロボットを目撃したところだったのだ。



来場者に紛れて水族館のスタッフエリアに侵入したユノユノ達は、のっけからスタッフの1名と出くわした。

「ひっ!」

ドンヘは思わず叫び声を上げたが、スタッフは無言で3人を蹴散らし廊下の真ん中を歩く。ぶつかった勢いで持っていたバケツからアジが1匹飛び出したのを拾いもしない。

思いきってユノユノは話しかけた。

「魚落ちましたよ。」

「…………。」

「ま、迷っちゃったなぁ。出口はどちらです?」

「…………プログラムエラー。対応していません。」

生気のない瞳を覗き込むと、カメラのシャッターみたいに焦点が移動するのが見えた。

「この人……ロボットだ……。」

「あ、本当だ。手の関節のとこ隙間がある。」

ドンヘはロボットがしていたビニール手袋を外し、指先をウニョクに見せた。

「凄いと言うか……。何と言うか……。」

「裏で働いてるのはみんなロボットなのかな?」

ドンヘの疑問を確認すべく、ユノユノは記憶を手繰った。

いや……裏だけじゃない。
ショーをしていたトレーナーの顔をユノユノは見たことがない。
顔まで覆う異様なウェットスーツを着ていて、ユノユノがトレーニングしていても教えてくれないし、話しかけても無視された。

城で食事している時も、給仕してくれた使用人は恐ろしく無言だった。それで、何だか初日からホームシックになってしまったのだ。

「全員……ロボットなんじゃ……。」

「で、でも、撮影スタッフは?カメラマン普通に喋ってたし。」

ドンヘの疑問にウニョクが推理を披露した。

「カメラマンは外部の人なんじゃないかな。メイクとスタイリストはロボットかも。チャンミン様がギャランドゥ剃られそうになってプチ切れしてるのに無視してたもの。」

3人はうすら寒くなった。

「ベルーガさんに聞いてみましょう。」

ユノユノはポンプ室の真横にあるベルーガの水槽の上に出て、アジを投げ入れた。程なくして、白く丸い頭がぽかりと浮かび、「きゅうっ!」と挨拶した。

『大切な人とは仲直りできたかな?』

『はい。ちょっと色々想像以上でしたが……でも、受け入れます。今日はそれとは別に聞きたいことがあって。』

『なんだい。』

『この水族館のスタッフさんについてです。』

『ああ、ロボット達のことか。』

『……やはり……。』

ベルーガ曰く、SMカントリーの人手不足を補うため、この水族館は全自動化を図っており、試験的に国王の開発したロボットを働かせていると言う。

ユノユノには合点がいかなかった。

『何故私達にそれを明かしてくれないのでしょう……。誇れる技術なのに。』

『試験だからじゃないか。何しろロボット達は水族館だと言うのに防水仕様じゃない。次々と壊れてるよ。人間らしい美しい容姿と関節の細かい動きを優先すると、完全防水は難しいようだ。まだまだ未完成の技術なんだ。』

チャンミンからテミンの話を聞いた後でようやく信じられるが、その時はまだユノユノは半信半疑だった。

TBワールドと違い過ぎる。
TBワールドは魔法使いが昔からたくさん居たファンタジックな国だ。

何だかまたホームシックになりそうだった。
難しい顔をしているユノユノにドンヘが微笑む。

「王子には計画があるんですよね?あの見取り図から何を考えてたんです?」

そう。今集中すべきはチャンミンを守ることと、仲間を助けること。
ユノユノは男の顔に戻った。

「落とし穴から伸びるトンネルを途中から分岐させて、王宮の地下室まで穴を掘りたいんです。一晩で。魔法使いのお2人なら、できますよね?」

「へへへ。相手がロボットなら、俺達は魔法で対抗ってね。楽しくなってきた!」

それからドンヘはウニョクと連れ立って外に出て、暫くしてから帰って来た。ウニョクの手の中には、もぐらが一匹。

「畑でゲットしました。この子に魔法をかけて巨大化させ、穴を掘って貰います。」

「もぐらで間に合うかな。」

「元のサイズだと1時間に1mも進めませんが、巨大化すれば朝には王宮まで到達するでしょう。」

現にもぐらは素晴らしい活躍をみせた。ビーチに隣接しているせいで、地盤もゆるい。

問題は掘った土の処理で、3人はひたすらもぐらの後ろをバケツリレーして落とし穴から海に運んだが、とても間に合わない。
穴が完成する以前に3人が土に埋もれそうだ。

ドンヘは苦肉の策としてミミズを何匹も巨大化させ、土を食べて運んで貰った。一時的に巨大ミミズが国王プライベートビーチにウジャウジャいる恐怖の光景が広がったが、国王はその頃チャンミンに夢中だったので気づかなかった。

「さてと。ペースが落ち着いてきたから、後はもぐらとミミズ1匹ずつで明日まで作業を続けて貰えばいいでしょう。」

土まみれの服をはたきながらドンヘは満足げに笑った。

「ありがとうございます。お礼にもぐらさんとミミズさんに何か返さなきゃ。」

もぐらに欲しいものを聞くと、「ミミズ」と返事されてユノユノは困ったが、焼酎1年分で手は打たれた。ミミズはTBワールドの畑に行ってみたいと言うから、一緒に連れて帰ることを約束し、3人は一旦ヴィラに戻った。

そこへ、チャンミンが駆け込んできたわけだ。



ユノユノはリビングで見取り図を広げた。

「やらなきゃいけないことが多い。まずはシンドンとTBちゃんを助ける。明日、トンネルが完成したら、イ・スマン国王とミノさんがビーチに来ている間に連れ出さなきゃならない。」

「でも、王子と僕はビーチに居なきゃおかしいよ。」

「そうなんだ。だから、ドンヘさんとウニョクさんにお願いするしかない。いいですか?」

「もちろん!」

ドンヘもウニョクもノリノリだ。
キュヒョンにこき使われて人形を売っているより楽しい。

「それから、チャンミンの型採りを阻止。トンネルの下にはミノさんが移動して来るだろうから、彼がビーチから消えたら、TBちゃんを通じて連絡する。」

「ミノさんがトンネルに来たら、私達はどうすれば?捕まえておきます?」

「んー。国王とミノさんにはお仕置きしないといけないからなぁ。ミノさんには人魚にでもなって貰おうかな。」

それはお仕置きになるのだろうか。
自分より似合ったら癪だ。

チャンミンはユノユノより極悪なお仕置きを提案した。

「僕がわざと落ちて国王を道連れにできないかな。穴に落として、シンドンさんのメイド服でも着せて……ミノさんと一緒にミミズに巻かれてもらったら?で、映像に残す!映像で今後もゆすろう!!」

チャンミン……。
怖いよ……。

ユノユノは妻の新たな一面を見た。





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夢の途中 5

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ミノはユノにじっと見つめられて少し動揺した。ユノの目は真実を見抜くかのように澄んで、それでいて深い黒色をしている。

自分のアイデアはチャンミンと観客のためにあると言いたげな迷いのなさだ。

「見やすい席はファンクラブのコアなお客さんで埋まるでしょう?」

「ええ。」

「俺は、遠いスタンド席のお客さんにも、アリーナで埋もれるお客さんにも、至近距離でチャンミンを見ている感覚になって欲しいんです。その為には全身を映す必要がある。新規ファンの獲得に繋がれば、長い目で見てプラスです。」

「理想は理想で結構ですけどね、これ以上は予算出せません!フロアもLEDパネルにしたんだから十分でしょ!!」

「……そこは諦めても構いません。他で予算抑えますから。」

「こんなスクリーンじゃ、抑えようったって金額の桁が違うでしょうが!いくらかかるんです!!」

「追加で……数千万……くらいかな?」

「ああん!?」

ミノの目が、いつもの倍くらい大きくなり、それから、閉じた。
ユノの口ぶりからして、数千万じゃ足りないのだろう。もっとだ。
完全に利益が吹っ飛ぶ。

「話は聞きました。却下。以上。」

「ミノ待って!!」

部屋を出ようとしたミノの手を、椅子を転がせて立ち上がったチャンミンが掴んだ。

チャンミンは必死だった。
ユノが四六時中自分のことを思い、寝る間を惜しんで考えたアイデアを捨てたくない。
ユノの後押しになれるなら、何でもいいからしたい。

「ぶ、物販!物販の売上を増やすよ!予測の倍にする!!や、倍は言い過ぎた……。1.5倍にする!!そしたらスクリーン代カバーできるよね!」

ミノは根拠のない数字に呆れ顔だ。

「1.5倍?簡単に言ってくれたな。どうやってだよ。」

「ぼ、僕が監修する……。」

「へぇ。それでそんなに売れるとでも?」

「えっと……宣伝も頑張る。ファッション雑誌の関係者につてもあるし……女性に人気のアイテム考えるから!シャツとか、僕がモデルするから!!」

今まで物販にさっぱり興味を示さず、ライブのMCで宣伝することすら消極的だったチャンミンがミノの手をぎゅうぎゅう引っ張り、次から次へとアイデアを出してくる。

「あと、あと……。単価が高いものを限定で売ったらどうかな!僕が考える香水とか、ブレスレットとか……ネックレスは?ほら、普段から使えて、女性に受けるもの!!金額によってオマケつけるとかもやろうよ!?」

なかなかいいじゃないか。
自分のファン層をターゲットにした商品ばかり提案し、売り方や金額まで考慮してくるとは、大したマーケティングだ。

「チャンミン……色々アイデア持ってたんだな。」

「今まではステージに集中しようと思ってたから口を出さないようにしてたんだ!音楽で魅せるのが全てだと思ってたから!でもっ、そうだよね!利益がなきゃ会社としてコンサートやる意味がないよね!」

「ふん。やっと分かってくれたか。」

「ずっと分かってはいたよ。僕は音楽をやって、他のことはプロに任せた方がいいと思ってるだけ。でも今回は規模が違う。みんなに頼ってるだけじゃ駄目だ。僕も関わる!!」

必死で頭を回転させているのか、目線を上方にくるくる動かしながら、チャンミンは思いつくアイデアを出しては指を折る。

「タオル生地のヘアバンドは?スポーツタオルもいいけど、もっと実用的だし、ライブのお洒落にもなるよ!」

口を動かすにつれて頭も働く。
アイデアが次々に溢れ、自分でも興奮していると分かる。
ユノと観客のことを思うと、止まれなくなる。

「Tシャツとパーカーのデザイン、ブランドとコラボできないかなぁ!この前雑誌のイベントで会ったデザイナーさん、僕のファンだって言ってたよ!頼んでみたらどうかな!」

スクリーンプランを採用するかは別問題として、ミノはちょっと面白くなってきた。
チャンミンのアイデアをもっと聞きたい気分だ。

「香水はつけない人も多いから、ルームフレグランスの方がいいかな!」

「チャンミン……企画部がもう色々考えてるからさ。相談してみれば?」

「じゃあ企画部行ってくる!」

早速会議室を飛び出して行ってしまったチャンミンに、ミノとユノはぽかんとした。

その後企画部を覗くと、チャンミンは大盛り上がりで会議を始めていた。
その様子を眺め、ミノは「仕方ない」と言いたげな顔でユノに手を差し出して、くいくいっと人差し指を曲げた。

「一応。正式な見積だけ出してください。」

「……はい?」

「スクリーンの。OKじゃないですからね!参考までに、です!」

「はい!早急に作ります!!」

弾かれるように飛び出して行ったユノの後ろ姿と、きゃっきゃと打ち合わせするチャンミンの横顔。

全然似ていないのに、似ている。
チャンミンはユノがそばに居るだけで輝き、こんな笑顔をみせる。

「悔しいな……。ふふ。」

ミノはちょっとワクワクしている自分に気づいてわざと大きなため息を吐き、経理部長と話だけはしてみるかと、エレベーターに乗った。

チャンミンとユノに触発されてしまった。無茶な夢を語って上司を困らせてみたくなった。




それからしばらく、ユノの帰りは毎晩遅かった。

チャンミンは敢えて連絡を取ることはせず、デスクに向かって鉛筆を走らせる。
物販の企画会議で自分が提案したネックレスのデザイン案を出すと豪語してしまったからだ。

ユノはきっと今も自分のステージのために動いている。見守るだけではいられない。

女性雑誌の仕事を受ける機会が多いため、チャンミンはファッションのトレンドには詳しい。経験と知識を活かし、本棚から雑誌を取り出してはページをめくり、深夜までデザインを考える。参考になるものを探し、突然道沿いの宝石店を覗いては店員を放心状態にし、ミノに怒られた。

日が変わってから帰って来たユノは、唇を尖らせて紙とにらめっこしているチャンミンの姿に思わずにやけた。

「やってるな。」

「うん。通販サイトの事前予約制で売ることにしたから、早めにデザイン決めないといけないんだけど……。」

「事前に届けるの?みんなにコンサートに着けて来て欲しいな。」

「うん!ネックレスが見えるように、今回は襟ぐりの広いTシャツも出そうと思ってる。鎖骨も見えた方が女性らしいし。」

チャンミンは自分のファンをよく理解している。お洒落な女性が多いから、女らしい形を追及するつもりの様だ。

ユノはチャンミンが描いたデザインの数々を眺めて微笑んだ。どれも雪の結晶をイメージしていて、繊細なチャンミンらしい。

「しっくり来ないんだよねぇ。」

「そうか?可愛くていいのに。」

「つまらなくない?どこにでもありそう。」

「まぁ、雪の結晶のアクセサリーって多いもんな。」

「……特別なコンサートだから……。思い出になるデザインじゃなきゃ、意味ない……。」

演出家のイタニによるコンサートのコンセプトは四季。チャンミンのこれまでを、季節を巡るように振り返り、新しい春に向かう。

チャンミンと共に歩んできたイタニらしく美しいコンセプトはユノもチャンミンも気に入っている。

チャンミンは物販もコンセプトに合わせ、季節に沿ったものを準備しようとしていた。夏まで普段着としても使うことができるシックなデザインのTシャツに、秋色のヘアバンド。
合わせて使っても可愛く、トータルでスタイルをコーディネートしたいのだ。

「明日ね、ルームフレグランスの試作品が届くんだよ。」

「どんな香り?」

「春の花の香りが再現できたらいいなぁと思って依頼してる。ユノも選考に加わってよね。会場にも振り舞いちゃおうかな……なんて。」

「……それって……。」

「ユノがお客さんに春の匂いまで感じさせたいって言ってたから思い付いたんだ。ユノのイメージに近づけるように、僕も色々考えるから!」

「チャンミン……。」

ユノは心臓を掴まれた気がして、手にしていた紙袋をぎゅっと握った。





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王子とシムの常夏ハネムーン 15

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15


王宮のサロンで、購入したばかりのオリジナルシムフィギュアを手に、イ・スマン国王は物思いに耽っていた。

こんな麗人で我が国を埋め尽くしたい。
それは国王の夢。

しかし、SMカントリーには大いなる問題があった。男女共にSM気質が激しく、普通の恋が生まれない。結果、結婚及び出生率が著しく低く、このままでは、麗人どころか過疎化の危機。

この人口減少の危機を乗り越えるため、科学者である国王は日夜研究を重ねた。そして、いくつかの対策を打ち出した。

まずは食生活の改善。
国民のホルモンバランスを整えることで、SM気質を、SuperM気質、つまり"どM"に転換すると言うのだ。

「おいミノ。今日の国王放送で紹介した3分クッキングのメニューは何だった?」

「小魚と豆腐の和え物と、さばの味噌焼きでした。」

「うむ。いいだろう。最近出生率に変化は?」

「……ございません。さすがに急に食習慣を激変させるのは難しいかと。」

「ふぅ……。やはりこれだけでは無理があるな。」

「はい……。」

国民に美への探求を強いるのも、対策の1つだ。いくつになっても恋したくなるような美があれば、恋愛促進になると国王は目論んでいた。

しかし、これは諸刃の剣だった。
男性は美を求めるあまり周囲の女性に目もくれず自分磨きに邁進し、整形とジムと赤身肉の連鎖。女性はそんな男どもを振り向かせようと内面が激烈SM化。
かえって恋愛に支障を来している。

「なんとも歯がゆい。」

「あの……国民に美を追及させることを一旦中止なさるわけには?健康的な食生活の獲得のみに集中する方が……。」

「できるか!!美人だらけの国でなければSMカントリーなど存在しなくてよい!」

「…………はぁ。」

ミノのため息は深い。

国王は天才科学者でらっしゃるのに、美に狂っているのが難点。
見た目の美を追及することが優先され、いつまでたっても人口減少は食い止められまい。

国王はミノが憧れる科学者だ。
その才能を心から尊敬しているからこそ、忠誠心はある。
だが、国王が思う美だけが、本当の美ではない。TBちゃんの可愛らしさも、ミノには美なのだ。

ミノの憂いを他所に、国王はシムフィギュアにうっふんポーズをさせて「よし」と意気込んでいる。

「あの……国王……そろそろ哀れなシンドン女史を何とかせねば……。」

「ああ。処理の準備をしようとは思っているのだが、明日のことを思うと心ここにあらず。いよいよチャンミン様の型が手に入るのだぞ!!興奮するではないか!!」

「……素晴らしく美形でらっしゃることは否定のしようもございません。」

「あの様な生まれ持った美……。あれこそ究極の美人だ……。」

でもあれは男ですから少子化は軽減されませんよ!とミノが言いかけた時、究極の美人が形容しがたい憂いを帯びた面差しでやってきた。

即座にうっふんポーズを直し、イ・スマン国王はチャンミンに駆け寄った。

「どうされましたかお1人で!」

「夫がシャチに夢中で相手してくれないんです。嫌になっちゃう。」

「おっ……お可哀想に!!」

シムフィギュアと同じ服装のチャンミンを前にして国王は震えた。

このくたっとしたフリル!
瞳にかかる前髪!
脚線美露なピタピタパンツ!

チャンミンには彼の興奮が手に取るように分かる。

「寂しいんです。ぐすん。お相手していただけます?」

「もちろんです!!ミノ!!ハイビスカスティーのご用意!」

「お茶よりアルコールが飲みたい気分ですわ。」

「待てミノ!!ワインとチーズのご用意!!!」

チャンミンの白魚のような手を取り、イ・スマン国王はイスに座らせると舐めるように全身を眺めた。

あー。
気持ち悪い。
でも楽しい。もっと俺に見とれてろ。

国王の手を振り払いたいのを我慢し、チャンミンはぐっと身を寄せた。こうなれば、サロンはチャンミンの独壇場。気分は大物女優だ。

「今日はテミン王子は?一緒に遊んで差し上げようかと思ったのですが。」

「おぉ。おテムはまた調子が悪いのです。防水……いやあの……水に濡れて夏風邪をこじらせておりまして。」

「まぁ。お見舞いに伺っても……。」

「いえいえ!!お風邪が移るといけませんから!!」

やたらと必死で止める国王にチャンミンは違和感を覚えた。
防水って?
腹にドリルをぶっ刺していた件と繋がりがありそうだ。

「そう言えば、まだ女王様にご挨拶しておりませんで。お目にかかってお礼したいのですが。」

ワインを運んでいたミノの手が微かに震え、カチャンとグラスが音を立てる。

「テミン王子の母上は……あの……女王は他界されました。」

ミノの声は上擦っていた。

「なんてこと。存じ上げませんで。それじゃ、お寂しいですね。」

チャンミンに手を握られ、上目遣いで見つめられた国王は首を仰け反らせた。

「おテムを産んですぐのことですので。も、もう傷は癒えました。」

「強がりを……。国王だからって毅然となさる必要ありません。お互い王室のお仲間じゃないですか。辛いときは支え合いましょう。ね?」

「ぶっ!!」

小首を傾げたチャンミンは最強だ。
国王はワインを一気にあおり、チャンミンが注いだお代わりもぐいっと飲み干した。

次々と酒を注ぐチャンミンの妖艶な微笑みに酔わされるように、国王はワインを2本あけ、テミン王子がいかに可愛いかを力説した。

「あれは私の天使です。」と語る国王は優しいパパの顔。変態とは言え、子への愛情は人一倍あるらしい。母親が居ないとなれば、殊更可愛がるのも無理はない。

遂に眠ってしまった国王を背負い、寝室に運ぶミノにチャンミンは付き添った。

「ミノさんも大変ですね。国王のお世話もして、テミン王子のお母様の代わりもされているのですか?」

「え、ええ。まぁ。」

チャンミンはいかにも同情する風に目を閉じて首を振り、胸元に手を置いた。
ボタンが1つ外されたシャツのフリルの奥に、ミノは釘付けになった。
赤く丸い顔がちらっと覗いている。

ちっちゃいTBちゃん!!
間違いなくTBちゃん!!
キーホルダーサイズのTBちゃん!!

ミノがベッドサイドに飾っているアンブレラフィギュアに付属のTBちゃんは樹脂製で硬い。でも、このTBちゃんにはしっかり毛があり、まさに実物のミニチュア。

入手したばかりのオリジナルシムフィギュアに抱っこさせたい。

「ちゃちゃちゃ、チャンミン王妃。そのキーホルダーはTBワールドで流通しているのですか?」

「あ?これですか?いえ。これは一点物なんです。」

「ゆ、譲っていただくわけには!?」

「うーん。」

ミノのご機嫌をとっておきたい。
だが、今は手放す訳にはいかない通信手段。

「ハネムーンが終わったら……。最終日にお別れの印として差し上げます。」

「おおっ!!チャンミン王妃!!女神!!」

ミノの喜びはチャンミンの想像を遥かに上回った。

こいつ。
国王とは趣味は違うが変態だ。
イケメンなのに残念。

国王をパジャマに着替えさせ始めたミノに、ヴィラに戻ると告げ、チャンミンは部屋を出た。

ここはシンドンとTBちゃんが秘密を目撃した階。
キョロキョロ辺りを窺い、廊下の端の金属の扉に手をかけたが、鍵がかかっていて開かない。

「ちっ。ダメか。」

諦めて帰ろうと廊下を歩いていると、国王の部屋の向かい側の扉に掛けられた天使の飾りが目に留まった。

テミン王子の部屋だ。
国王の部屋からはミノの鼻唄が微かに聞こえている。
今なら行ける。
チャンミンは深呼吸し、そっと扉を開けた。

真っ白なレースで飾られたベッドでテミンはすやすやと眠っていた。閉じていても瞳の大きさが分かる。少し跳ねた金髪が白い肌にかかって、彼自身が輝いているかのよう。

西日が顔に当たって眩しくないだろうか。
窓側の天蓋のレースを下ろしてあげようと思ったチャンミンは何かに引っ掛かって躓いた。

「ん?」

ベッドからケーブルが出ている。
壁のコンセントから伸びるそれをたどり、そっとシーツを捲って、チャンミンは絶句した。





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王子とシムの常夏ハネムーン 14

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14


「今頃ユノユノはチャンミンとイチャイチャしているだろうか……。」

「まっ。嫌ですわあなた。こんな晴れた昼間から息子の息子を妄想ですか!?」

「ち、違うぞイトゥク!私はリトルユノユノではなく、ビッグユノユノのことを思っているだけだ。」

「ビッグだなんて……!心配しなくてもラブラブイチャイチャしてますわよ!」

「ち、違う違う!ビッグとはユノユノ自身のことだ!」

「なんか、やっぱりいやらしいですわ!」

シウォン様とイトゥク様は、くだらない会話と午後のバナナティー&ドライバナナを楽しんでいた。

庭で戯れるウクたんとイェソンを眺めながらの平和な時間。
チャンミンにとっては地獄のバナナ生活だが、彼らにとってはさして問題ではないらしい。

「おいたん!大きな鳥が来る!」

空を見上げてウクたんが指差した。
生後半年で既に走り回ることができるウクたんは、ユノユノを超える視力10.0の持ち主。

「本当に大きいですね。コウノトリかな?」

「ペリカンさんだよ!」

城目指して一直線に向かってきたペリカンは、頭上でぐるりと一回転し、イェソンの目の前に着地すると、パカッと口を開けた。

「おいたん!お手紙入ってる!」

「うわっ!魚にまみれてベッタベタ!!」

魚臭い唾液でしっとりとした手紙を取り出して嫌々ながら広げ、イェソンは顔面蒼白になった。

「シウォン様!大変です!!隣国で拉致監禁事件が勃発しました!!」

「何!!?チャンミンが変態おやじに監禁されたのか!?だから反対したのに!!!」

「いえ!チャンミンではなくシンドンとTBちゃんが!」

「…………イ・スマン国王にはそちらの趣味が……?」

シウォン様の頭に、腹を撫で回されて「あはーん」と悶えるシンドンとTBちゃんの図が浮かんだが、それは一瞬で霧散させられた。

「違います!SMカントリーの秘密を知ってしまったことで監禁されたと書いてあります。えーっと、ユノユノ王子とチャンミン王妃は、イチャイチャしていてそれどころでない……とも。」

なんのこっちゃ。
意味不明だ。

ベタベタの手紙を奪い取り、シウォン様はプルプル震えた。

「シンドンの脂が適度に落ちたらカルビにされるだと?なんてことだ!!松阪牛並の霜降りでないシンドンなど、我々のシンドンではない!!」

「シウォン様……。私に助けに来て欲しいとあります。こうなっては致し方ありません。ウクたんと離れるのは嫌ですが、行って参ります。」

「やだ!!ウクたんも行く!!」

「ダメだよウクたん。お留守番してて。」

「おいたんと離れたくない!!」

「う。ウクたん!!!」

「おいたんーーー!!」

珍しく駄々をこねるウクたんにイェソンは激萌えし、ひっしと抱き締める。

泣きじゃくるウクたんにもらい泣きしそうになったイトゥク様は、シウォン様の袖をツンツンした。

「ねぇあなた。この際ですわ。みんなで参りましょう。シンドンとTBちゃんの危機に、城でバナナを食べているわけにはいきません。」

イトゥク様にシウォン様は頷いた。

「仕方ない。さすがにバナナにも飽きたしな。この際みんなで行こう。」

こうして、TBワールド御一行はSMカントリーを目指すこととなった。



その頃SMカントリーでは、ようやく目を覚ましたユノユノが、チャンミンの過去よりも衝撃的な事実をウニョクから知らされたところだった。

「シンドンとTBちゃんが!!」

「そうです王子。寝込んでいる場合ではありません。」

「た、助けなきゃ!!イ・スマン国王と話そう!!」

「……国王が素直に認めるでしょうか。しらを切られるのでは?王宮の秘密も気になります。」

ユノユノは昨夜水族館で知ることとなった変態型採り計画を思い出した。
イ・スマン国王をぎゃふんと言わせたい。

「シンドンと話したい。キーホルダーTBちゃんは?」

ベッドの端でモジモジしていたチャンミンがポケットからミニTBちゃんを取り出し、不安そうに差し出す。

その手をぐいっと掴み、ユノユノはチャンミンを抱き締めた。

「チャンミン。動揺してごめん。ちゃんと受け入れるから、そんな不安そうな顔しないで。」

「王子……。ほんとに?」

「うん。拒絶しようとする僕と、受け入れようとする僕が葛藤して熱が出てしまったけど、必ず勝つから。」

王子の手はまだ熱っぽい。
その熱がチャンミンには王子の優しさと愛の証に思え、涙ぐんだ。

「王子……。」

「あぁ!チャンミン泣かないで。」

頬にチュウとキスされてチャンミンは堪らず抱きついた。
チュウチュウキス合戦が繰り広げられ、ドンヘとウニョクはいい加減むかついた。

「あのー。シンドンさんと話すのでは?」

「あ、そうだった。ちょっと熱で頭が働かなくて。」

照れ笑いしつつ、ユノユノがミニTBちゃんを起動すると、大音量でガツガツ何かを食べる音が響いた。

「空腹だと嫌いなパンも美味しいわ!」

「し、シンドン?」

「ごふっ……お、王子!!」

シンドンはドンヘが差し入れた食パン1斤を堪能しているところだった。

「話は聞いたよシンドン。そっちの状況は変わらない?」

「はい王子。さっきミノさんが来て体重測定されたんですけど、全く減ってないって驚いて帰りました。」

「きゅきゅきゅう!ぎゅ!きゅうきゅ!」

「なるほど。カルビにするにはまだ時間がかかりそうか。」

ユノユノは暫し考え、シンドンとTBちゃんに、もう少し監禁されたままでいるように頼んだ。

「かしこまりました。食べ物を届けていただけるなら耐えられます!」

「きゅきゅう!」

「ありがとうシンドン、TBちゃん。この際だ。イ・スマン国王にお灸を据えないとね。必ず助けるから!」

「それでこそユノユノ王子。逞しいですわ。」

通話を終えるとユノユノはベッドから跳ね起き、リビングのテーブルに紙を広げて独創的な絵を描き始めた。

「王子、これは?」

紙をくるくる回し、ドンヘが首を傾げる。

「見取り図です。ここが王宮。そして水族館。水族館の地下から続くトンネルがこれ。トンネルはビーチの真ん中にあるこの旗の位置まで繋がっています。」

「トンネル!?」

「ええ。チャンミンを落とすトンネル。」

「はあ??」と、チャンミンはあんぐり口を開けた。

「僕を落とす?」

「うん。ビーチの撮影時にね。ここに落として、毛穴から乳首から皺まで全部型を採るつもりらしい。」

「へ、変態!!!」

「チャンミンの実寸大フィギュアでも作るつもりかも。」

狂気だ。
ガクブルだ。

震えるチャンミンをユノユノはぎゅっと抱き締めた。

「僕が守るから。ビーチの撮影は明日だね?」

「はい……。」

「時間がないな。僕は水族館に行ってくる。地下を確認しておきたいんだ。ドンヘさんとウニョクさんにも来て欲しい。」

「でも王子。まだ熱が。」

「大丈夫だよ。これくらい熱い方が心地いい。チャンミンは王宮に行って、国王とミノさんが水族館に近寄らないようにして。」

「……え。」

「チャンミンの特技を生かしてよ。手玉に取るの、得意でしょ。頼りにしてる。」

ユノユノは立ち上がり、にやっと笑った。
少年ではない、悪い男の笑み。
嫉妬と怒りが、ユノユノを大人の男へと成長させていた。

見上げたチャンミンは、その男らしさに心臓を撃ち抜かれる。

「王子……カッコいい……。」

目がハートになっているチャンミンにだめ押しのキスをし、ユノユノは颯爽とヴィラを出ていった。

「きゅう……。」

チャンミンは暫し甘いキスの痺れに酔った後、懐かしいシムドール衣装を身に纏い、髪をくるんとカールさせ、王宮へと向かった。





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ジャンル : 小説・文学

夢の途中 4

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チャンミンが眠ってから、ユノはこっそりベッドを抜け出し、リビングのテーブルで一晩中PCに向かった。

チャンミンを抱いている時ですら、ユノの意識はステージにある。頭の中に鮮明に浮かび、しかし現実的ではないと諦めかけていた巨大ディスプレイのアイデアを、どうしても図面にしたくなった。

明け方になるまで、ユノは一心不乱に夢を描き続けた。

湾岸のタワーマンションからは、東京湾に朝日が差し海面を白く煌めかせる光景が一望できる。

「もう朝か」と呟いて窓辺に立ったユノの前に、緩くカーブして見える東京の街と海がキラキラと輝いていた。

「どうするかなぁ。やっぱり……夢で終わらせたくないよな……。」

そう呟いた時、バタンと廊下からのドアを開けてチャンミンが駆け込んできた。

無理な体勢でセックスしたせいか、左脚を引きずり、それでもユノに向かって一直線に走り、飛び付いた。

「ユノっ!」

「どうした……。」

「……いなくならないで!!」

突然のことで、最初ユノはチャンミンが悪い夢でも見たのかと思った。
だが、チャンミンの叫びは、ユノが置き手紙をして去ったあの日の叫びだった。

「起きたらユノいないから!またどっか行っちゃったかと!!」

「チャンミン……。」

しがみつくチャンミンの震える身体は、もう置いていかないでと叫んでいた。

愛しいチャンミン。
俺のせいでずっと、あの日のことを引きずってるのか。
平気な顔をして、ひたすら前を向いて走っているように見えても、内心では俺を求めて泣いていたのか。

涙に濡れたチャンミンの瞳に口づけ、ユノは頬を優しく包んだ。朝日に涙が反射して、天女みたいに綺麗だ。

いとおしくて堪らない。
離れていた間、チャンミンがどんなに頑張ったか、ユノは事細かに知っている。

身体は離れていても、心はチャンミンに取り憑かれたみたいに情報を追った。CDは曲順もタイトルも歌詞も全て暗記するまで聴き込み、動画も写真も飽きることなく漁った。

ユノだってチャンミンが恋しかった。

ライブを観に行こうとし、会場の入口まで行って、やはりまだダメだと引き返したことは1度ならずとある。

一目でも生身のチャンミンを見たら最後、抱き締めて離せなくなりそうだった。
不安で、夢なんて放り出しそうだった。

スターのチャンミンには華々しい出会いがいくらでもあり、新しい恋を見つけ、ユノなんて忘れて幸せになっていたら、何のために自分が生きているのか見失うだろうと恐ろしかった。

賭けみたいな行動に出たことを、悔やむ気持ちだってあったのだ。

恋の噂をネットニュースで見た夜は、女々しくもチャンミンが住んでいたアパートまでふらふら歩き、チャイムを押しそうになった。
ドアの前には子供用の傘が置かれていて、もうチャンミンが住んでいないのは明らかなのに。

そんなユノが、ようやく手にしたチャンミンを離すはずがない。


胸にぎゅっと顔を埋めるチャンミンのボサボサの髪を撫でて、ユノは言い聞かせた。

「大丈夫……。大丈夫だよチャンミン。俺はここに居る。」

「そうだけど……分かってても……怖いんだ。」

「怖くない。俺はチャンミンを離さない。離してなんてやらない。」

「ほんとに?」

「ほんとに。」

ふぅと息を吐き、やっと微笑んでチャンミンはユノの胸に甘えた。朝日が昇りきるまで、ユノはチャンミンをぎゅうぎゅう抱き締め、跳ねた髪が落ち着くくらい撫でて過ごした。

「俺さ、四六時中チャンミンのこと考えてる。チャンミンと夢に向かってるって思ったら楽しくて、寝るのが惜しい。」

「……昨日も寝てないの?」

「はは。ちょっとね。形にしたくなって。」

「何を?」

「本当に提案すべきかさっきまで迷ってたけど、心決まった。折角チャンミンと隣り合って夢を追えるのに、諦めちゃ駄目だな。」

「だから何を?」

「午後、事務所で話すよ。で、チャンミン今日の仕事何時から?」

ちらっと時計に目をやり、チャンミンが「うっ」と呻いたと同時にインターホンが鳴った。



ユノに肩を支えられて出てきたチャンミンの姿にミノはぶち切れた。

「ユノさんまた!盛るなって言ってるでしょ!!こんなことが続くなら、別居させますよ!!」

「やだ!!絶対やだ!!」

ユノの腕にしがみついてチャンミンが睨むが、ミノには全く効果がない。

「嫌なら自重しろよ!!」

「今日は取材メインでしょ。別に動きのある撮影じゃないから大丈夫だって。現場入ったらちゃんとするから!」

「ミノさん……新しいステージプランの詳細について話がしたいんで、撮影終わったら時間貰えます?事務所で待ってます。」

話の矛先をユノは変更したが、ユノが徹夜で描いたプランは更にミノをぶち切れさせることになった。



午後、事務所で落ち合って図面を広げるなり、
ミノは「冗談ですよね?」と眉をひそめた。

「至って本気。」

「……これ、布か何か? 」

「や……全部ディスプレイ……。」

ユノがステージを全面スクリーンにして地平線を描くと言い出した時、ミノは横長の四角を想像していた。
それなら他のアーティストのライブでも見たことがある。

だが、ユノのプランは上縁が直線でなく、アーチを描いていた。

「ドームの天井は、どこも丸くてカーブしてるじゃないですか。それに対してスクリーンが直線だと広がりがないなぁとかねてから思ってたんです。それで……天井の凸のカーブに対して、スクリーンは凹のカーブを作る。上下にコンパスで円を描くみたいに。」

「……そんなディスプレイレンタルしてる会社ないでしょ!」

「ええ。でも……技術的には可能です。異形ディスプレイを作ってる会社に相談したら、作ることはできるって。」

「まさか、そのためだけに作るって言ってます??」

「まぁ。一部はそうなりますね。でも、今後も使えるなら、うちの会社でレンタル用に買い取ることもできる……かも……。」

「かもって!そんな仮定の話でお金は動きませんよ!もうさ、全面壁にして投影でもしたらどうです!!」

「いやいや。プロジェクションマッピングみたいに出来上がった映像を映すだけじゃないですし、俺が重視してるのは生カメです。」

「一部にモニター埋め込めば!?」

「それだとスクリーンに映ったチャンミンが四角に切り取られてしまって窮屈です。繋ぎも綺麗じゃない。」

「ユノさんさぁ!」

ユノは人差し指をくいっと立ててミノを制した。

「最後まで言わせてください。」

ミノは時間の無駄だと思いつつも、鼻から「ふん」と息を吐き、続けろとジェスチャーした。チャンミンが食い入るようにユノを見つめているから仕方なく……だ。

ユノはごほんと咳払いして説明を再開した。

「このスクリーンの良さは、形状の美しさと、両端に行くほど縦長になってる点です。全面使えばパノラマに広がる四季の光景を映し出し、分割して使えばチャンミンを余すことなく映し出す。」

「僕を余すことなく?」

ユノの横にちょこんと座るチャンミンがようやく口を開いた。

「両端は全身、中央は表情を抜いて映す。両端の高さがあれば、チャンミンの全身を映しても小さくならない。お客さんはチャンミンの全身が見たいはずなんだよ!だってこんなにスタイルいいんだから!!足の先から手の指まで芸術的だ!!」

チャンミンは、ぼっと赤くなった。
足の指に口づけて綺麗だと褒めるユノに、立ったまま貫かれた昨夜のセックスを思い出した。

「人間の骨格に対して、ディスプレイが横に長いのはおかしい。縦長のディスプレイも必要です。それを融合させたいんです。」

ミノは机をバンッと叩いた。

「これ、高さ何メートルのつもりです!?」

「最大箇所だと25メートルです。ステージの高さがありますから、実際はもっと高く見えますけど。」

「はあーーー!?」

開いた口が塞がらない。
だが、ユノは真剣そのものだった。





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王子とシムの常夏ハネムーン 13

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13


ふと見ると、ドアの横に大型のプラスチックガンが大量に積まれている。バズーカみたいに見えるが、マズル部分は1口ではなく、10口程も並んでいる。
バズーカと言うよりは、虹が作れそうな巨大水鉄砲。

手に取ろうとしたところで、声がこちらに近づいて来るのを察し、ユノユノは大型ポンプの陰に身を潜めた。

汗だくでトンネル入口に現れたミノが、台車にプラガンを次々と積み上げる。

「イ・スマン様。これはどのように扱うんですか?」

同じく汗だくのイ・スマン様は自慢げにプラガンを抱え、ミノの腕を掴むと引き金を引いた。

「ぎゃーー!!!」

ベージュ色の液体がミノの腕ににゅるにゅるーっと連なって前腕を覆った。

「叫ぶな。これは2液混合シリコーンだ。毛穴や指紋まで詳細に型が採れるぞ。」

「こ、これをチャンミン様の身体中に?」

「そうだ。ビーチ撮影ではピッチピチのブーメラン海パンを装着していただくからな。まさに、全ての形状がありのまま……。」

ミノはごくりと唾を呑んだ。

「チャンミン様のありのままの型……。」

「そうだ。そして、硬化したら一気に剥がす!私が開発した超高速硬化シリコーンなのだよミノ!1分もあれば硬化するんだ!素晴らしいだろ!!」

「す……素晴らしいですが……。落とし穴に落ちたチャンミン王妃にこれをぶっかけるには時間が……。」

「私が上から砂を崩して時間を稼ごう。そして、感動の救出を演出する。」

「国王……私……不器用なんです。上手くいく気がしません。チャンミン様が予定通り穴に落ちて来たとして、抵抗されたら私は……。」

「ふふふ。心配無用。麻酔注射で少々気を失っていただけば良い。ああっ!あの美しい造形が毛穴まで詳細にこの国に残るのだ!シリコーン外す時にうぶ毛も少々採取できるし!!興奮するな!!」

イ・スマン様……そのやる気……他のことにお使いになられては……。

ミノは目眩を覚えつつも、国王の命に逆らうわけにもいかず、せっせと台車を押した。



ポンプの陰でユノユノはブルブルと怒りに震えていた。

ゆ……許せない……。
チャンミンの毛穴と皺は僕だけのものだ!!

ベルーガの助言のおかげでもうチャンミンへの苛立ちはない。
守らなければとの強い使命感がユノユノの心に宿っていた。

作業を終えた国王とミノがトンネルを後にするまで身を潜め、ユノユノは落とし穴の位置を確認した。

今はまだ板で塞がれた天井には砂がかかってカモフラージュされているが、ビーチのど真ん中。王宮のビーチであることを示す旗がはためいている。

「ふぅん。これを目印にしてるんだな。」

ビーチでの撮影時、指示通りにチャンミンを歩かせ、落とし穴に落とすつもりか。
発想が変態すぎる……。


目を血走らせて戻ってきたユノユノにベルーガは驚いた。

『おや……さっきとは別人の顔だな。』

『ベルーガさんありがとうございます!私は我に返りました。愛しいチャンミンを守ります!!』

『ふむ。まぁ良かった。早く仲直りしておいで。』

『はい!あ、ベルーガさんのこと、オーロラランドに帰れる方法がないかも考えてみます!』

『君が?』

『申し遅れました。私はTBワールドの王子ユノユノ。ベルーガさんの優しいアドバイスに救われたご恩は忘れません!では、夜分に失礼しました!!』

肩をいからせて去るユノユノを、ベルーガは「きゅうきゅう」鳴きながら見送った。

面白い出会いがあるものだと、ベルーガは久しぶりに胸の高鳴りを覚えた。

賢明な読者の皆様はお気づきだろう。
この心優しいベルーガこそオーロラランドの王にして、TBちゃんの父。

彼は数ヶ月前、TBの母に会うためにレッドオーシャンを目指していた途中で水族館のオープンに向けて海に繰り出していたSMカントリーの捕獲団に、迷いベルーガとして捕らえられた。

不死身のオーロラ王にとって水族館での数ヶ月は一瞬なのだが、妻を思えば、ここで呑気に泡を吐く日々はそろそろ終わりにしたい。

『ハニーが心配してたらいけないからなぁ。ふふふ。あの王子に期待してみよう。』

ぽわんぽわんと身体を回して裏返り、水槽の底に横になってオーロラ王は眠りについた。


ユノユノには眠れない夜が待っていた。

「チャンミン!!チャンミーーーン!!」

愛しい王妃の名を呼びながら砂浜をかける王子は、ヴィラのバルコニーから物憂げに海を眺めているチャンミンの姿を発見し、速度を上げた。

「チャンミン!!!!」

「ぎゃーーーっ!!!」

電光石火の走行スピードそのままに抱きついたユノユノの勢いは惑星の衝突に等しく、チャンミンはバルコニーを10回転した後、ユノユノの膝に抱えられた。

「ごめん!!ごめんチャンミン!!!僕嫉妬してたんだ!!酷いことを言って本当にごめん!!!」

「王子……。」

「大好き過ぎて、僕以外の人と戯れてるのが耐えられなかったんだ。情けないよ!!こんなに好きで、自分を制御できなくて!!」

「きゅんっ……!」

「駄目な王子だけど、独占欲いっぱいだけど、でも許して!!だって愛してるんだ!!!」

チャンミンはブルッと身悶えした。
一国の王子にこんなに求められ、嫉妬されるなんて最高の喜び。

「私こそごめんなさい。言葉遣い、気をつけます。俺とか言いません。がめつくお金せびるのも辞めます。」

「ううん!いいんだ!俺って言うチャンミンも可愛いよ。チャンミンのことは何でも受け止める様に努力する!」

幸せだ。
ユノユノ王子に愛される幸せ。

知らず知らずに身から漏れ出てしまう己の黒歴史を隠したままではいられない。
こんなことは、いずれバレる。
王子を信じて打ち明けよう。

チャンミンは意を決した。

「……王子…………。私……。僕……ど貧乏だったんです。両親も頼れる人も居なくて。」

「うん。」

ユノユノはお膝に抱っこしたチャンミンの潤んだ瞳をじっと見つめる。

「それで……生きていくために金持ちのおじ様にすり寄ってお金貰ってたんです……。だから、イ・スマン様に尾びれビタンビタンするのなんて、朝飯前……。」

「う……。」

白目をむきかけたユノユノは、「だめだめ。何でも受け入れなきゃ」と自分を鼓舞してチャンミンを見つめ続けた。

「女の子のお家に泊まってご飯食べさせてもらったり、美容液分けてもらったりとかも。」

「うっ……。そ、それは……。泊まるだけ?」

「…………。」

「…チャンミン……?」

「…………だけ……かな。」

「う、嘘つかないで!!全部話してよ!」

「……そ、そりゃ……求められれば……。」

「え、ええええ、エッチも?」

王子の美しい瞳は白目と黒目を繰り返してサイコ状態だ。
これはまずい。
チャンミンは焦った。

「あ……あぁぁ……。」

「お、王子!昔の話なんです!今はもう王子だけしか!」

「あぁぁ…………ああ……!!」

「王子!王子!!?」

「ガクっ。」

「おっ、王子ーーーーー!!!」

ユノユノは「きゅう」も無く天に召された。


シンドンに食料を届けに行っていたドンヘとウニョクがヴィラに戻ると、ユノユノは高熱でウンウン唸りながらベッドに臥し、その手を握ってチャンミンがメソメソ泣いていた。

「な、何があったんです!」

「打ち明けたら倒れちゃったんです!うぅ。打ち明けるんじゃなかった!やっぱり純情ボーイには俺のことなんて理解できないんだぁ!」

ドンヘはがっくりと肩を落とした。

「ウニョク……こりゃダメだ。仕方ない……嫌だけど……悪魔に助けを求めよう。」

「そ、そうだね……。」

ウニョクはビーチに出て、明け方を前に飛び立とうとしているペリカンを捕獲した。

「ドンヘ!魔方陣!」

「はいはい。」

魔法をかけられたペリカンは、しばしキョロキョロし、大きな翼をバサッと広げると、TBワールドに向けて飛び立った。




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王子とシムの常夏ハネムーン 12

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12


「待って!!王子!!!」

すぐさま追いかけようにも、チャンミンは全裸。砂浜を走る王子の後ろ姿はみるみる小さくなる。

速い。
速すぎる。
水を得たペンギン並みのスピードだ。

チャンミンが急いで服を着て外に出た時には、ユノユノの姿はどこにもなかった。

「王子ー!!ユノユノ王子ーー!!!」

どこへ行ったのか皆目分からない。
それでも砂浜を走り、チャンミンは呼び掛け続けるが、返事は無かった。

「王子……違う……違うのに……。」

ユノユノとただ、笑って幸せに暮らしたいだけ。そのために自分ができることを精一杯やっているつもり。

そうやってチャンミンは幼い頃から何とか生きてきたのだ。城のため、愛するユノユノとの幸せな生活のため、良かれと思ってしたことを、咎められるなんて自分が哀れだ。

少しは楽しんでいた部分があるのは否めないが、それはユノユノがそばに居てくれて、愛してくれていると分かっているから。

「王子……。どこ行っちゃったの……。」

チャンミンの頬にポロリと涙が伝った。

ウニョクとドンへがヴィラに到着したのは、まさにその時だった。

「えーっ!どうしたんですか!!」

泣きながら砂浜をトボトボ裸足で歩くパジャマ姿のチャンミンにウニョクが駆け寄る。

「王子にっ……王子に捨てられるー!!!」

ワンワン泣き出したチャンミンの背を撫でながらヴィラに入り、話を聞けば何てことない。
ラブラブカップルの痴話喧嘩だ。

「あのぅ。シムドールさぁ。」

「ドンヘ!チャンミン王妃って呼んで!」

「いいえ。もうシムドールで結構です。王子に捨てられたら人形にして売ってください。俺なんて、俺なんてっ……気持ち悪い金持ちのおっさんにこねくり回されてればいいんだぁ!!」

残念なことに、王妃はネガティブチャンミンになっていた。

「俺は元々そんな奴なんだ。王妃だからって、黒歴史は消えない……。」

「黒歴史って?」

興味津々のドンヘの問いに、チャンミンは女子をたぶらかし、おっさんの財布に寄生し、ヒモ状態で村の皆から呆れられていた不埒な過去を赤裸々に語った。

「へえ。シムドールって苦労人だったんだね。俺達のおかげで人生変わったんじゃん。」

「そのことは……今となっては感謝してます。でも……俺の過去がバレたら軽蔑されて捨てられる。」

「そうかなぁ。過去がどうあれ、大切なのは今だろ。」

「王子はピュアなんです!女の子の夢見ただけで不潔呼ばわりされたことあるんですよ!」

「はは。王子って言ったって、俺とウニョクからしたら赤子にも満たない。気持ちがコントロールできずに怒ることだってあるさ。だからって、シムドールを嫌いで怒ってるわけじゃないだろ?」

ドンヘは珍しく真面目な顔で、チャンミンを見つめた。

「なぁシムドール。魔法って尋常ではあり得ないことを起こす奇跡なんだ。そんな魔法を解くには、同等の奇跡を起こさなきゃいけない。シムドールと王子は、奇跡を起こしたよ。」

潤んだ瞳をパチパチさせるチャンミンに、ウニョクが優しく微笑んだ。

「人形に本気の恋をするなんて、あり得ない奇跡です。そんな恋は、簡単に破れたりしません。ユノユノ王子はきっとチャンミン様のことなら何でも受け入れますよ。人形を受け入れた方なんですから。」

王子……。
ユノユノ王子。

チャンミンは王子が恋しくて震えた。

魔法使いの言うとおりかもしれない。
今すぐ何もかも懺悔したい。
自分を王子に分かって貰いたい。全て分かって、それでも愛されたい。

ハラハラ泣きながら「王子」と呟き続けるチャンミンをドンヘとウニョクは微笑んで見守っていたが、次第に首を傾け、顔を見合わせた。

「ドンヘ。何か忘れている気がしない?」

「うん。俺達、王子に会いに……。」

そう。彼らはユノユノ王子に会いに来たのだ。
痴話喧嘩の仲裁に来たのではない。

「あーーーーー!!!」

ドンヘは叫んだ。

「やっば!!忘れてた!!おたくのばあやと熊がピンチなんだった!!」

今度はチャンミンが首を傾げた。

「……ん?牧場で何かあったんです?」

「牧場じゃなくて、王宮の地下室に拉致監禁されてる。」

「え……えええええーーーー!!??」

ようやく、シンドンとTBちゃんが置かれた状況はチャンミンの知るところとなった。
城の仲間がカルビ焼肉の危機。泣いている場合ではない。

「国王がそんな恐ろしい人だったなんて!王子に……すぐに王子に伝えなきゃ!」

3人はビーチや水族館の周辺をくまなく探したが、ユノユノを見つけることはできなかった。



当のユノユノは水族館に居た。
何故か通用口の鍵が開いており、中に入ることができたのだ。
淡い光で照らされた水槽は幻想的で、暫し呆然と時を過ごす。

「私は一体……どうしたんだろう……。」

プールでチャンミンとイ・スマン国王とのSMプレイまがいの尾びれビタンビタンを見てから、気持ちがウニみたいに刺々しくなってしまった。

「はぁ。チャンミンに酷いこと言ってしまった。情けない……。」

チャンミンが城の資金にと交渉してくれているのは、聡明なユノユノにはしっかり分かっている。それでも、制御できない苛立ちがあるのだ。可愛いチャンミンの顔にムカついた。

チャンミンが大好きなのに、腹が立つなんて……。イ・スマン国王と戯れているだけで……。

『悩み事かい?』

「………はい?」

くぐもった声が聞こえ、ユノユノは辺りを見回した。

大水槽で、ベルーガがおでこをガラスにつけて遊んでいる。
ガラスに駆け寄ると、ベルーガはつぶらな黒い瞳でユノユノを微笑むかのように見つめる。

『悲しい顔してどうしたんだい。』

オーロラ語で話しかけているのは、紛れもなくベルーガだった。

『あなたもオーロラランドから?』

『旅の途中でうっかり捕まってしまってね。君はどうした。こんな夜に。』

『大好きな人に酷いことを言って、逃げ出して来てしまったんです。他の人と仲良くしているのを見るのが辛くて。胸が痛くて……。むしゃくしゃして。』

空気の丸い輪を吐き出して、ベルーガはキュルキュルと笑った。

『それは嫉妬だね。』

『嫉妬……。』

『独占欲とも言えるかな。』

『広い心で居たいのに、どうしてこんな気持ちになってしまうんでしょう……。』

『大切な人は恋人かい?』

『いえ。結婚しています。』

ベルーガはちょっと驚いたが、ユノユノの困り果てた表情を微笑ましく思った。

『好き過ぎて全部欲しくなってしまうのは、恋の不思議さ。でも心配いらない。もっと長い時間を過ごせば、落ち着いた気持ちで大切な人を見守ることが出来るようになるよ。』

『その前に呆れられてしまったらどうしたらいいか……。』

『ふふふ。君はとても若いね。嫉妬するほど好きだと伝えてごらん。』

『そうですね……。そうしま……ん?』

ユノユノははたと言葉を切った。
遠くで人の声がする。
コウモリ並みの聴力を声の方向に集中させると、かすかに会話の内容が流れ込んできた。

「もう限界ですイ・スマン様!!」

「弱音を吐くなミノ!こんなチャンスは2度とないんだぞ!」

「こんなことせずにチャンミン王妃に素直にお願いすればよろしいじゃないですか!」

「がめついのだ!がめついのだよ彼らは!!等身大型を採らせて欲しいなんてお願いしたら、またいくら支払わされるか分からないだろ!」

チャンミン??
の……等身大型……!!?

衝撃的会話だ。

ユノユノはベルーガに『ちょっと向こうを見てきます』とことわり、スタッフエリアを抜けて声の出所を目指した。

海水を取り込んでいる丸く大きな水槽をぐるっと廻って進むと、開け放されたドアがあった。その奥は、土肌あらわなトンネルになっている。

「何個運ぶんですかー!」

「まだまだぁ!この倍は必要だぞ!!」

声の出所はこのトンネルの奥だ。




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王子とシムの常夏ハネムーン 11

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11


監禁生活2日も過ぎれば、シンドンの胸はぺたんこになった。
特大カップラーメンはとうに胃の中。ポケットのクッキーも残り少ない。

猫の通り穴くらいしかない小窓から水のボトルは放り込まれたが、それ以外は外部との接触がない。

さすがにシンドンも事態は深刻であると察して心を入れ替え脱出の術を考えたが、腹が減っては脳に閃きがもたらされない。

何か食べるもの……。
この際咀嚼できればなんでもいいわ。

室内を360度見回すシンドンの視線は、何度もTBちゃんで一旦停止する。
ちらちらと向けられる視線に、TBちゃんは嫌な予感がした。

「サメって美味しいのかしら……。確か種類によっては食べられるはずよね。」

「きゅっ?」

「練り物にしたりするから、きっと白身だわ。」

「ぎゅ!?」

「元がサメなら、TBちゃんの中身が肉ってことは……あり得る……。」

「ぎゅぎゅっ!!」

違うよ綿!中身は綿だけだって!!と訴えるTBちゃんをシンドンはひょいと持ち上げ、噛みやすい場所を探す。

「物は試し……。味見してみましょう。」

哀れ。
大きく開いたシンドンのジンベエザメみたいな口に、TBちゃんの真ん丸いお尻は吸い込まれた。

「ぎゅーーー!!!」

断末魔のごとき悲鳴が上がったまさにその時、猫の小窓がパタンと開いた。
水の配給かと駆け寄ったシンドンを、2つの瞳が不思議そうに見つめ、隣に居るらしい誰かとヒソヒソ話している。

「今の、なんの声?」

「……大変だウニョク。例の赤い珍獣が居る。あ……あれ?この人……城でピザ焼いてたおばちゃんか!?」

「え!?TBワールドの人間が中に居るの?」

「うわー、懐かしいなぁ。俺、あの時のステージのダンスが忘れられなくてさぁ。おばちゃんのお尻の振り方最高だったなぁ。」

ピザにステージと言えば、ブルーマウンテンが噴火して城の庭で炊き出しをしていた日の話だ。

小窓の向こうでニコニコ笑いながらこちらを見ているやたらと整った顔立ちの青年に、シンドンも見覚えがあった。

「あなた……人形店の魔法使い!ドンヘさん!!」

「と、ウニョクでーす。」

ドンへを押し退け、ウニョクも手を振る。

シンドン同様に深夜の王宮探検中だったドンヘとウニョクは、怪しい生物の微かな鳴き声を頼りにここにたどり着いた。
同じ行動をする辺り、彼らにはどこか類似点があるのだろう。

2人を見るや、TBちゃんはノンストップで鳴き始めた。

「きゅきゅきゅ、きゅうきゅきゅ、ぎゅっ!ぎゅぎゅぎゅう、きゅ!きゅう!!」

「えっ!秘密の部屋を見てしまって監禁されてる!?カルビにされて焼かれるって??」

TBちゃんは必死だ。
このチャンスを逃すわけにはいかない。
TBワールド最高の魔導師イェソンの弟子だけあってドンヘとウニョクはTBちゃんの言葉を理解できるのだ。

「カルビってどういうことですの!」

状況を飲み込めないシンドンのため、ウニョクが仲介役になった。

「あなたを捌いてカルビ肉としてジュージュー焼き、始末するつもりみたいですね。」

「さ、捌いてカルビ!」

「命を奪われるなんて、一体どんな秘密を見てしまったんです?」

「あれは……。」

シンドンは、麻酔を射たれる前の記憶を手繰る。

「扉を開いたら、化学実験室みたいな大きな部屋で……色々な食べ物の匂いがする液体があって……その奥にイ・スマン国王が……。手にしていたのは……そう……ドリル。」

「きゅきゅきゅう!きゅきゅ!」

「え?そこにテミン王子が寝転がってた?」

ウニョクの通訳を聞いた瞬間、シンドンの脳内に鮮明な映像が甦った。

「そうだわ!テミン王子のお腹に国王がドリルをぶっ刺してた!!」

「きゅっきゅきゅうきゅぎゅーぎゅっ!」

「マッドサイエンティスト?国王が?」

意味不明だ。
ウニョクは、首を捻った。

「昨日は風邪気味って言ってたけど、今日の撮影の時、テミン王子元気だったよね?」

「ああ。走ってた。」

シンドンが首を捻る番だ。
てっきりテミン王子はぶっ刺されて体液でも抽出されたのかと思ったが、お元気となると、何をされていたのか皆目分からない。

そもそも、溺愛しているテミンを国王が傷つけるとは思えない。

「分からないものは分からないけど、今はまずここから出ないといけませんね。」

ドアの鍵を観察したウニョクは、こんな状況を目の当たりにしてもワクワク顔のドンヘの肩をばしんと叩いた。

「この鍵どう思う?」

「どうって?」

「開けられるかってこと!何だか見たこともない鍵なんだ。センサー式みたいな。」

「そうだなぁ。仕組みが分からないでは魔法の使いようがないな……。」

「シンドンさんを小さい人形にできないかな。ここから出られるように。」

「人形にしたら動けないぞ。」

「うーん……。手に紐結んでおいたら引っ張れるんじゃない?」

「ウニョク……残念だけど、ここからじゃ魔方陣が描けないよ。」

魔法は万能ではない。
手順を踏まなければ、奇跡は起きないのだ。

「ゆ、ユノユノ王子に我々の危機を伝えてください!王子なら何とかしてくださるはず!」

シンドンの訴えに頷いたドンヘとウニョクは、ビーチのヴィラを目指した。



時間を少し戻そう。

シムマーメイドの撮影後、チャンミンを抱き上げて帰ったユノユノは不機嫌だった。
いつものほわんとした雰囲気はどこへやら、眉間にシワを寄せてマーメイド衣装を着替えさせる。

夕食の間も険しい表情を崩さず、居心地の悪い時間が続いた。ヴィラでは国王放送の最新メイクアップ情報を無表情で眺め、微動だにしない。

「王子……。お風呂入らない?」

夜更けになっても動こうとしないユノユノに痺れを切らしたチャンミンは、上着のボタンを外して上目遣いで小首を傾げた。

「1人で入りなよ。」

「……どうして。一緒に入りたい。」

こんな王子は見たことがない。
チャンミンはパンツ1枚になり、ユノユノの手を引いて椅子から立たせようとしたが、裸になったのはどうやら逆効果だった。

ユノユノは冷たい目で一瞥し、チャンミンをお風呂に入れ、自分はバスタブの横に仁王立ちした。

「チャンミン。私は気分が悪い。」

ユノユノから王子の威厳を感じてチャンミンは身震いした。

温厚な王子を怒らせるようなことしただろうか。今日1日を振り返っても、思い当たらない。褒められるべき頑張りだったはずだ。

「チャンミンはTBワールドの王妃なんだよ。このところずっと気にはなっていたのだけど、人前で粗野な物言いはやめてくれないか。」

「あ……。」

「それと、人に色目をつかってたぶらかすのはどういうつもり?」

「色目って!イ・スマン様とのやりとりは……城の財政を思ってのことで!」

「だとしても、やり方があるよね。あんな……尾びれで……見るに耐えなかった!!」

そんな。
俺だってやりたくてやってる訳じゃねぇのに!
イ・スマン国王からの依頼なんだぞ!

チャンミンは納得がいかない。

「王子だって、ハネムーンなのに俺のことほったらかしてシャチのトレーニングばっかりじゃねぇか!イ・スマン国王に媚びてんの?」

「こっ、媚びてなんてない!!それを言うならチャンミンだろ!?それにっ、俺とか、じゃねぇかとか、チャンミンの口からそんな言葉聞きたく無い!!」

「俺だって男なんだし、王子と違って貧乏な庶民なんだよ!無理しておしとやかにするにも限界があんだろ!」

売り言葉に買い言葉だった。
みるみるユノユノの眉は下がり、瞳は悲しみに潤んだ。

「チャンミンは……無理して……お妃らしくしてるの。」

「そ、そういうことじゃ。」

「私に見せていたのは、無理したチャンミンだったの!?」

「ちがっ……王子!」

ユノユノはプルプルと震え、目にも止まらぬスピードでヴィラを飛び出した。




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夢の途中 3

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王子とシムの常夏ハネムーン 10

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10


シムマーメイドの写真撮影当日はギラギラ太陽が照りつける晴天となった。
ギラギラしているのは太陽だけではない。
監督イ・スマン国王の瞳もギラッギラだ。

「チャンミン王妃。今日はまた一段と……ツルツルピカピカに輝いていらっしゃいますな……ん?しかし目元が少しお疲れのご様子。」

「き、緊張して昨晩眠れなくて。」

「おお……。繊細なお心。お可哀想に。しかし大丈夫ですよ。我が国のメイクアップ技術でそんなシワは隠せます。ではお着替えを。」

「……はぁ。」

「メイク!スタイリスト!カモン!!」

ひたすら無言でちゃっちゃと仕事をこなすメイクさんとスタイリストさんに囲まれ、シムはマーメイドに仕立てられた。

途中、お臍の下の毛を剃られそうになったが、ユノユノお気に入りと判明したそれは絶対維持。
ギャランドゥの無事は守られたが、がっつり付け睫毛やリップなど施され、丸裸にされた。

「ひーっ!パンツ脱がさないで!!」

スタイリストは表情を変えずチャンミンジュニアに前貼り的なものを装着し、2人がかりでピッチピチの尾びれを引き上げた。

なんだか屈辱的だが、長いブロンドを垂らすと超美形マーメイドは誕生した。
さすがにシンドンのスタイリングとは違い、纏まりが良い。

足が動かないため、ゴロゴロと台車に乗せられたシムマーメイドがプールに現れると、国王はふらつき、ミノは手で目を覆い、テミンは「可愛いー!」と大喜び。

皆の手前、駆け寄ったテミンの頭を撫でたチャンミンが美の女神に見えたイ・スマン国王は、床に膝を落とした。

「マーメイド様。お、おっおっ、尾びれで私を叩いて!!」

さすがSMカントリー。
SMプレイを求められ、チャンミンは笑わないセールスマンになった。

「そういったサービスには追加料金がかかります。」

「いくらでも!いくらでも出す!!」

「ふむ。では1万SMドル。どーーーん!」

ちなみに1万SMドルは日本円に換算すると100万である。

「国王!いけません!いくらなんでも高額過ぎます!マーメイドの魔性に靡いてはなりません!」

両目を覆ったままでミノは叫んだが、セールスマンは容赦ない。

「高くなんてありません。10ビタン致しますから、1回あたりたったの1000SMドルです。」

「……安い!安いぞミノ!」

「こ、国王……。お気を確かに……。」

「ビタンビタンお願いします!!10ビタン!!」

プールのステージに顔をこすりつけた国王の頬を、チャンミンはピタンとはたいた。

「……今のは弱すぎるのでカウントゼロにしていただきたい!もっと強くお願いします!!ピタンでは物足りない!ビタンと!!」

ビタンッ。

「連続で!!」

ビタンビタンッ!

「はいっ!もっとー!!」

ビタンビタンビタン!!

「ああーっ!シム様ー!!」

ミノはテミンの目を覆って隠した。

見学に来ていたドンヘとウニョクも、見てはいけないものを目撃した後ろめたさと衝撃により、思わず抱き合うレベル。
台車に腰かけて国王の頬をビタンビタンする王妃。これはフィギュアの題材として不適切だ。

「ウニョク……この国……ヤバイな。」

「うん。TBワールドが真っ当に思える。」

「ヤバイけど……面白い。」

日々キュヒョンにこき使われているドンヘとウニョクは、思わぬエンターテイメントに浮かれた。



ユノユノはと言うと、チャンミンの知られざる姿にかなり衝撃を受けていた。
年上男性を手玉に金をせびり、尾びれビタンビタン……。見るに耐えない。

「無理だ。心が痛い……。シャチさんとお話でもしよう……。」

一緒にトレーニングしているシャチよりも大きなシャチはオーロラ語で会話ができることが分かり、ユノユノはTBの父の情報を聞いてみることにした。シャチからは、早速興味深い返事が返ってきた。

『それは俺たちの王様のことだ。レッドオーシャンの王が奥方ならば間違いない。』

『やっぱり!寒いところの出身みたいだったからオーロラランドじゃないかと思ったんです。』

『俺が捕まった時、オーロラ王は視察の旅に出ていて不在だった。突然消えてしまった俺を心配しておられるのではないかと思うと胸が痛い。本当にお優しい方で……。』

『シャチさんは……帰りたいですよね……。』

ユノユノはシャチを思って涙ぐんだ。
心の美しい青年だなと、シャチは嬉しくなる。

『ここの暮らしも至れり尽くせりで悪くはないさ。ただ、流氷の下の世界は懐かしいな。』

『王はあなたを探して旅に出ているのでは?』

『そうだとしたら光栄なことだが、王には私の居場所は分かるまい。』

『……と、言いますと?』

『王は不死身でらっしゃるが、サメの王と違って並外れた力があるわけではないのだ。おおらかで優しい性格ゆえ、皆の信頼を集めている。何故あのような方がサメと結婚されているのかはオーロラ七不思議だ。』

『……私もてっきりサメさん同士の結婚かと思っていましたが……。で、でも、TBちゃんのお母さんは、見た目は大きくてびっくりしますけど、とっても優しい方ですよ。TBワールドも救ってくださったのです。』

『そうか……。見た目で判断しない我が王らしい……。』

『となると、オーロラ王の行方は分かりませんね。』

『私は1年前からここに居るから、最近の海のことはさっぱりだ。奥方に嫌気がさして会いに行ってないだけでは?異種の恋ともなれば障害はつきものだろう。』

『…………。』

浮気を疑って嘆いていたTBの母のはち切れそうな腹が脳裏に浮かび、ユノユノは頭をぶんぶん振って疑いを振り落とした。
TBちゃんのお父さんがそんなはずない。

頭を振りすぎてクラクラしているところ、シムマーメイドがステージで横になり「カモン」と手招きしている撮影シーンを目撃してしまい、ユノユノは後頭部からプールに落ちた。

「きゅう……。」

『わー!どうしたのだ王子!って!失神してる!!』

大きなシャチが背中に乗せてくれ、ユノユノは水没の危機を脱した。

「おお、さすがユノユノ王子。シャチの背中に仰向けで寝転ぶとは。」

イ・スマン国王は感心した。
怪我の功名と言うべきか、王子はその後、寝転んだところから跳ね起きて立ち上がる新技を編み出した。


「見学するって言ったくせに、シャチと戯れてばっかり……。」

チャンミンは王子への苛立ちをぶつくさ呟きつつ、マーメイド撮影をこなしていた。

撮影はやたらと長い。
何だかんだカメラを向けられたら無意識に出てしまうチャンミンの流し目とセクシーポーズの数々にスタッフがフラフラになり、焦点が定まらなかったから時間がかかるのだ。

ギラギラ太陽と反射板に照らされ、全身から汗が吹き出す。何度もメイクのお直しが入り、結局撮影は夕方まで続いた。

「暑い……もう駄目……マーメイド干からびます……。」

「それはいけない!放水!!」

イルカがピューピュー口から水を飛ばしてチャンミンにかけ、虹がかかった。

「おおっ!カメラ!今の光景押さえたか!?」

「はい国王!」

常軌を逸したキテレツ撮影は、イルカに放水されるマーメイドの画をもって1日目を終了した。

疲弊し、尾びれビタンビタンもできなくなったチャンミンをユノユノは抱き上げ、衣装のままヴィラに連れ帰った。

「今のいいな。ビーチで王子に拾われた人魚って感じ。」

「うん。今のイメージでヒチョルさんに試作品作ってもらおう。」

「大ヒット間違いなしだ。」

ドンヘとウニョクはしばらく王宮に泊まり、ビーチでの撮影も見学することになった。実のところ、シムマーメイドフィギュア作製には十分な素材は揃っていたが、こんなアホな光景を見られる機会を逃すのは勿体ないと思ったのだ。

そしてこの延泊は、2人を更なるドキドキエンターテイメントへと誘うのだった。





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Author:コールドブリュー
東方神起 ユノとチャンミンが大好き。
脳内妄想をこっそり綴っています。
ホミンのみ。

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