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とちのきミュージックホール 最終話

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ハニバニに移籍してからの2ヶ月、アダンはユノと多くの時間を共にした。

ツアーのリハーサルは常に同席し、振り付けやトレーニングも時間が許す限り見学した。

それは、ユノのステージに向ける姿勢を学ばせようとしたイチイの計画だった。

ユニゾンに居た時は、デビューして自分のステージをこなすのに精一杯で、他のアーティストとじっくり交流する時間などアダンには無かった。

移籍を機に、人間としての成長の時間を与えることにしたのは、アーティストの個を尊重するハニバニらしいやり方だ。

アダンはイチイの期待に応え、ユノから多くを吸収した。

全ての人の願いが叶って幸せになることなど、この世界にありはしない。誰かの幸せは、誰かの不幸にもなる。でも、スターはファンを幸せにするのが仕事。

アダンがファンに向けた心からの言葉と笑顔は、スターとして、彼が一歩階段を上った証だった。

ユノアダファンの夢を叶えることができなくても、悲しい気持ちにならぬよう、アダンは幸せを振りまいたのだ。

そして、拍手に包まれたステージに現れたユノは、ファンをもっと晴れやかな笑顔にした。

ユノは、まずアダンを抱き締め、「アダンの弾き語りは最高だね。」と褒めた。それから、スタッフのチャンミンからギターを受け取り、「夏だけど……アダンとウィンターファンタジーをやります!みんなと一緒に踊りたいから!みんな、覚えてるよね!?」と声をかけた。

チャンミンは、逃げ帰りたい心境だ。
この後の展開はユノにゴリ押しされて頷いてしまったが、心底恥ずかしい。

「新しいスタッフのチャンミンにも参加してもらおうかな。」

にやにやを隠しきれない笑顔でユノが茶色いモコモコした物体を受け取り、「はい。小リスちゃん。」と渡す。

「は……い……。」

これは、ハニバニの倉庫に眠っていた、大きな尻尾つきのリスの着ぐるみ。顔が隠れないよう、首から下までの衣装に修繕されていて、耳はカチューシャで装着する。

無表情でモコモコ衣装を着込み、大きな尻尾をブルンと振ったチャンミンに、ヒイラギ先生は卒倒しかけ、アンズは「小悪魔……!!」と絶叫した。

「よしっ!みんなで踊ろう!!」

掛け声と共に、ユノとアダンのギターが軽快に会場に響く。

チャンミンは恥ずかしくて身震いした。
だが、着ぐるみに振動した身震いは、チャンミンを一層可愛い小リスに仕立て上げ、悲鳴に近い歓声が上がった。

もう、なるようになれ、だ。

会場のみんなが踊ってくれていることがチャンミンを後押しする。

「だ、誰より可愛く踊ってやるもんね……。」

顔を真っ赤にしながらも、チャンミンは全身で踊った。

ユノは、鼻血必至のダンスを横目にチラチラ見て思った。やっぱりチャンミンは小リスだ。可愛いったらありゃしない。

センターステージの中心でピョンピョン踊る小リスに、アンズを含む一部の女子は「可愛すぎてムカつく」と思ったが、大半のピュアなファンの反応は「ぎゃーーーっ!!可愛いーーー!!」だった。

ヒイラギ先生とサツキは後者だ。

「尊いーーーっ!!!ユノっ!!抱き締めちゃえーーーっ!!」

「そのまま押し倒せーーーっ!!!」

2人は鼻血流出の危機を恐れて鼻をつまみながら祈念した。

ユノは期待を裏切らない男だ。

最後のサビ前で両頬に手を添え、チャンミンが上半身を前に突き出す。唇が尖るその一瞬を逃さず、ユノは機敏な黒豹さながらに飛んだ。

「チュッ!!」

ユノが小リスの唇をゲットした瞬間は、カメラにばっちり収められ、会場のスクリーンと全世界に中継された。

その晩、会場周辺は揺れ、付近の人々は小さな地震が来たなと思ったが、地震の情報は発表されなかった。震源はユノだ。

まだコンサート本編が始まっていないと言うのに、バッタバッタとファンが倒れる。
イチイは頭を抱えた。

「ユノ……やってくれたな……。」

予定では、ユノは踊るチャンミンに見惚れるだけだった。2人を同じステージに立たせることで、ミッションは完了していた。

しかし、ユノはもう止まらない。
チューにとどまらず、彼はチャンミンの茶色くフワフワの手を取り、跪いた。

アダンが、ギターでサビのメロディを優しく奏でている。

「チャンミン……可愛い……。惚れました。」

「キュっ!?」

予定外のユノの行動にチャンミンは焦る。

これは、あれか?
やめて……。
無理っ!!
こんなとこで無理ーーーっ!!

ユノは王子様姿勢でキラキラ瞳を輝かせて、こともあろうに大音量で告げた。

「チャンミン!!!結婚して!!!」

「無理ーーーーっ!!!」

チャンミンの食い気味の返事に、会場から「ああぁ………。」と大きなため息が漏れた。残念と安堵が混ざったため息だった。

もう耐えられぬ。

チャンミンは尻尾をブルンブルン左右に揺らして花道を走り、メインステージの上手へと走って消える。

ユノはがっくり項垂れ、その肩にアダンが手を添え、「ユノさん……。ドンマイ……。」と励ます。

「お、降ろせ!!2人を降ろせ!!暗転ーーー!!!」

イチイの指示で、ユノとアダンはセンステの下へと収納されていった。

観客が「今の……何?」と戸惑う中、前座のステージは終了した。

その後ステージに登場したユノは完璧なスターに戻っていて、クールかつセクシーなコンサートを披露したため、キスとプロポーズの件は「コント」として認識されることになる。

その後も、コンサートの度にコントは繰り返されている。

残念ながら、ユノはイエスを貰えていない。
だが、良いことはあった。
プロポーズコントを、ファンが応援し始めたのだ。

チャンミンが「無理。」とか「意味がわからん。」とか答える度、「ああ……。」と観客が落胆する謎の恒例行事。

この行事はなんと212回まで続くのだが、コンサート回数のペースでしか実行されていないため、先は果てしなく長い。

その頃には正真正銘の結婚ができるようになっているかもしれないから、丁度いい。

ユノは気長にプロポーズし続けるのだった。


ところで、本当のところ、ユノはもうチャンミンにOKを貰っている。

それは、付き合って3回目の春のことだった。

その日、ユノとチャンミンはとちのきミュージックホールで小さな音楽会を開いた。

雑木林の山桜と、庭の山桃が美しく咲き誇る清々しい春の昼下りに集まったのはアンズ一家とヒイラギ先生、イチイ一家、それにお互いの両親。

いつも応援してくれる彼らへの感謝を込めた音楽会は、チャンミンとユノのギターにヒイラギ先生のピアノも加わって笑顔溢れた。

ピアノは、ユノがチャンミンにプレゼントしたものだ。
チャンミンがピアノも弾けると知り、最近はギターだけでなくピアノも習っている。

チャンミンはたくさんの手料理を用意したし、庭先に掲げている『とちのきミュージックホール』の看板を柿渋で塗り直した。

長年の風雨を活かしつつ、栃材の杢目も嫌味なく主張する茶色の一枚板と久しぶりに対面したお祖父ちゃんは、手の平をそっと添えて微笑む。

肩を揺らしてカントリーソングを歌う大人達と、「こんな曲知らなーい」と言いながらもギターで伴奏するアンズとお尻を振って踊るイブキ。

お祖父ちゃんは涙ぐんだ。

「この空気……昔に戻ったみたいだ。」

「ふふ。お祖父ちゃんがいつも開いてた音楽祭、憧れてたんだ。僕も、開けるようになったよ。」

「チャンミンのミュージックホールは俺より何倍もいい。若い女の子がたくさんいるんだからな。それに、スターも。」

ユノを優しい目で見つめる祖父の横顔にチャンミンはじんわり桜が花開く心持ちだった。

ユノがそんなチャンミンに歩み寄って、跪いたことに気づいたのは、手を握られてから。

「チャンミン。泣いてるのか?」

「……ううん。幸せだなあって思ってただけ。」

「だけって……。それ、最高な気持ちだろ。」

「んふふ。うん……。そうだね。」

「これからも、死ぬまで、こんな音楽祭を開いていこう。みんなと……俺とチャンミンで。」

「……うん。いいね。」

「……っ……。いいの?死ぬまで……一緒だぞ。」

「いいよ。」

「やったーーーーっ!!!」

ユノが飛び上がって抱きついて頬ずりする。

「あっ。」と気づいたけどもう遅かった。
ユノはいつもの「結婚して!」ではなく、フェイントプロポーズを仕掛けてきたのだ。

「みんな、聞いたよな!?チャンミン、いいって言ったよな!!?」

「言いましたね。」

イチイが大きく頷き、みんなも頷く。

「もう……。ユノ……。分かってるくせに。僕は……最初からイエスだよ。心はもう……ユノと……結婚してるよ。」

「チャンミン!!可愛いっ!!!」

みんな笑って、抱き合う2人を見守っていた。


2人の周りには、いつもキュンとする音楽が流れている。

ユノとチャンミンにギターが一本加われば、音楽に乗って木々が揺れ、小リスだってピョンピョン跳ねる。

夢は世界に羽ばたいても、2人の帰る場所には優しいギターの音色がキラキラと輝く。


そこは、とちのきミュージックホール。

雑木林が隠す森の家で、ユノとチャンミンは音楽会を定期開催している。

たまにカケスがジャージャー鳴いて、拍手の代わりをするその家は、東京の北の外れの山裾にある。

世界中にファンを持つ2人がそこに暮らしていることは、ほんの一握りの仲間しか知らない。

ユノは何でもファンのみんなに明け透けにしたいスターだけれど、とちのきミュージックホールは別だ。

可愛いチャンミンのリンリンと甲高い鳴き声を聴くことは、ユノだけの特権。

その代わり、ユノはチャンミンへのひたむきな愛をみんなに見せびらかす。その度に真っ赤になって、どんぐりをポトンと落とす小リスの可愛さに、ユノが飽きることはないだろう。

小リスは、大リスになっても、老リスになっても、可愛いものだから。

死ぬまでチャンミンを愛し守る。
それが、ユノの新ルール。

チャンミンも自分にルールを作った。
死ぬまでユノの世界一のファンであること。

2人はお互いにこっそり思っている。

自分のルールこそ、世界一の胸キュン仕様だと。






〜完〜


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楽しかったです!

とちのきミュージックホール……まずタイトルが好き!
お話もほのぼのして楽しくて好き!
終わってしまうのが本当に残念です。いつかとちのきミュージックホールでの演奏会にお邪魔できたらいいなぁ。
素敵なお話をありがとうございました。

No title

とちのきミュージックホール完結おめでとうございます&お疲れ様でした!始終とても楽しく幸せな気持ちにさせてくれるお話でした。この鬱々としたコロナ禍で私の楽しみだったので完結してしまい寂しい気持ちもあります。゚(゚´ω`゚)゚。ユノもチャンミンも、他の方々もみんな可愛いかったです。特にチャンミンがとーーーーっても可愛くてお話を読む度にデレデレになってました。ユノ状態です。
アダンやイチイさんのお名前にも意味があったんですね。他の方のコメントで気付きました。そういう細やかなコブさんの心配りが素敵です。温かで癒されるハッピーなお話をありがとうございました。お身体に気をつけてお過ごし下さい。

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No title

とうとう最終話、寂しいです😭
情熱ユノとツンデレチャンミンの恋に始終きゅんきゅんしっぱなしでした🥰❤️
チャンミンのエロ可愛さ、小悪魔っぷりに、いつもユノ目線で心臓撃ち抜かれてました😭💜

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No title

スターユノとステージ上で着ぐるみを着て踊るチャンミンの姿が目に浮かびます❣️プロポーズして断られてファンが同情しだす、なんて本当にありそうな気がしますよね❣️
スターのユノを想像しやすく、生き生きした描写力もあって、すごくリアルにあれこれイメージできて、毎晩読むたびに楽しく幸せな気持ちになりました。
ユノの隣には愛らしいツンデレ小リスチャンミンこそふさわしい❤︎ユミン最高です❤︎
コブさん、お忙しい中、毎晩の更新をありがとうございました。ワクワクキュンキュンな2人がたくさん、最高に幸せですヽ(*´∀`)❤︎

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東方神起 ユノとチャンミンが大好き。
脳内妄想をこっそり綴っています。
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