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土と焔の森 23

土と焔の森
23



「昨日、あの土地のローン契約をしたわ。私たちの関係はもう終わったの。価格は格安にしておいたわよ。惚れた弱み……。ううん。罪滅ぼしかしら。」

「アヤコさん……あなたはそれでいいんですか?」

「もう終わりにしなきゃいけなかったのよ。もっと早く終わらせるべきだった。私の我が儘に付き合って、彼に空虚な日々を送らせたから。彼は、何も悪くなかったのに。」

アヤコさんは俺の手を握り、聖母のように微笑んだ。

「チャンミンはあなたに言いたくても言えなかったんだと思うわ。こんな醜聞。亡くなった主人にも、私にも、気を遣った……そういう人よ。」

「俺は……彼の何を見ていたんでしょう。何も分かってなかった。」

俺がもっと信じていたら、シムさんをもっと慈しんでいたら、こんなことにはならなかった。

俺の情けない怒りが、彼に、2度と会いたくないと言わせてしまった。

「ねえ。彼を、ほんとの自分にしてあげて。」

「俺には本当の姿を見せてくれなくて……。」

「しっかりしてよ。あなたたちが幸せになってくれないと、私も惨めよ。」

「アヤコさん、ありがとうございます。話してくださって。あなたは惨めなんかじゃない。俺と違って立派です。あなたほどの人なら、素敵な人がすぐ見つかるんじゃないですか?」

「そうね……。新しい恋でも探すわ……。」

彼女は俯いて笑った。



アヤコさんと別れてビルを出ると、道路の雪はもうほとんど溶けていた。

「俺のライフワークは、シムさんの心を取り戻すことなのかな……。」

雪解け水でキラキラと輝くアスファルト。
俺は、前を向いた。

アヤコさんが呼んでくれたタクシーに乗って、俺は森を目指した。

シムさんは俺を拒絶するだろうな。
だとしても、俺の気持ちを伝えなければいけない。

かっこつけて自信のあるフリをして、その実、シムさんを手に入れようと躍起になっていた張りぼての自分。
そんな情けない姿をさらけ出せずに、爆発したのは自分。
つまらない嫉妬で怒りに我を忘れた自制心のない人間。

それが全て、シムさんに狂おしいほど心を奪われているからだと、伝えなければ。

林道の途中、道幅が広い場所で、俺はタクシーを降りた。

雪の残る道を歩きながら、気持ちを整理してシムさんを目指した。

シムさんの家まであとカーブ1つになった時、滝壺に落ちる水の音に混じって、キジのような鳴き声が聞こえた。

耳をすませて近づくにつれ、それが人の声だと分かった。発せられていたのは、言葉と言うより、悪態だった。

「あーっ!」

「もーっ!」

「あのアホ!!」

「分らずや!!!」

最後のカーブを曲がった俺が視界に捕らえたのは、思わず瞬きする光景だった。

いくら日が照っているからと言って、残雪からの冷気に覆われた森。
半ズボン姿のシムさんが、滝壺に膝上まで浸かって水底をさらっていた。

首に巻かれたマフラーと、きめ細かい肌をあらわにした太もものアンバランス。

その季節感を疑う光景もさることながら、彼が吐き出す暴言の数々に呆気にとられ、俺は林道に突っ立った。

「帰るか普通?」

「かっこつけやがって!」

「くっそ!」

「追いかけて来ねえし!」

「連絡もくれねーし!」

「いっつもいっつも、俺がバカみたいだろ!」

「むかつく!マジむかつく!!」

「強姦で訴えてやる!」


「あぁー!見つからねぇ!」


「冷たい!死ぬ!」


「バカ野郎……。」


「ふざけんな……。」



「ユンホさんなんて……。」



「好きだって、言ってるのにっ……。」



悪態と悪態の間隔が広くなって、嗚咽が混じり、水面を見つめて項垂れる。

シムさんは、素の彼は、全然可憐じゃなかった。
か弱くもなさそうだ。
口が悪くて、素直じゃない青年。

でも、なんて、いとおしい。


俺は走った。

滝壺にバシャバシャ入り、シムさんを思い切り抱き締めた。

シムさんは暴れた。
それを羽交い締めにして水際まで引っ張る。

「なんで居るんだよ!バカバカバカ!」

羽をばたつかせて暴れる孔雀は、地面にもんどり打った俺に覆い被さって、ギャーギャー鳴いて騒いだ。

俺は、彼の悪態に負けないくらい叫んだ。

「好きだよ!好きだ!!」

「何を言われても離さない!」

「夢中なんだ!バカみたいに夢中なんだよ!」

「チャンミンに……夢中なんだ。」

彼は俺を殴った。
震える拳で、腕が疲れて力が入らなくなるまで、顔や首や胸を殴った。

息切れするまで殴り続け、遂に手を下ろした彼の頬を、俺は撫でた。

「もっと殴っていいよ……。」

「殴りたいけど、手が痛い。」

俺の胸に顔を埋めた彼を、抱き締めた。

「俺、チャンミンが欲しくて嫉妬に狂ってた。昨日はごめん……。」

「許さない!言われた通りさっさと帰るなんて!」

「2度と現れるなって言うから……。」

「アホなの!?微妙な恋心、分かれよ!」

「む、難しいな……。」

「そんなんだから、彼女と長続きしないんだよ!」

「よく分からないけど、要するに、チャンミンは俺が大好きなんだな?」

チャンミンは寒さと恥ずかしさからか、顔も脚も真っ赤にしてジタバタしながら立ち上がった。

「寒い!ユンホさんお風呂入れて!」

素直じゃないが、甘えん坊。
可憐じゃないが、可愛い。

シムさんって柄じゃない。
彼はチャンミンだ。

「まずいな……。」

「え……何が?」

少し怯えた顔で振り返った彼にキスした。

「ますます惚れた。」

チャンミンは走って家に入った。
俺は彼を追いかけて毛布でくるみ、湯が満ちるまで抱き締めて温めた。

熱めの湯に入ると、チャンミンは縮こまっていた身体を弛め、俺に甘えだした。

「どうして帰ってきたの?」

上目使いが猛烈な威力を放つ。
俺は孔雀に見つかったミミズの気持ちで、観念して全て打ち明けた。

「アヤコさんに会いに行ってきた。チャンミンが仕事をやる気になってたことも、亡くなった旦那さんとのことも、聞いたよ。」

チャンミンはがっくり項垂れて俺に凭れた。

「昨日襲ったこと、許して欲しい。俺は、旦那さんと同じことを……。」

「ユンホさんになら、酷くされてもいいんだ。ただ、最後って言われたことが辛くて、朦朧とした。」

「俺に、ほんとのチャンミンを教えて。俺の前で、猫被ってた?」

彼は素直に頷いた。

「ユンホさんに好かれたくて、かわいこぶってた。」

「俺も、できる男を必死で見せてた。」

ふっと笑って目尻を下げたチャンミンは、湯の表面の波紋を眺めた。

「僕の気持ちは安定しない、この波みたい。不安定な自分を隠したかったけど、ユンホさんには乱されてばっかり。」

俺も同じだ。
浮かんだり沈んだり、チャンミンの波に揺らされている。

「アヤコさんが知っていることは、全てじゃない。僕は、罪深い。」

彼は俺に頭を預け、顔を向こうにして話し出した。

「楽しんでた。社長が僕を可愛がってくれるから、調子にのって。地元で有名な社長が、僕を甘やかして、何でも言うことを聞いてくれて、この窯まで用意してくれて。」

チャンミンの肩が落ちて、激しい傾斜を作った。

「名のある男性が、僕に夢中になっていくことを楽しんでたんだ。わざと甘えて、可愛いふりをした。ずっと恋なんて我慢してたから、恋愛の疑似体験みたいな感じで。」

チャンミンは黙った。

大丈夫だと安心させたくて、震えそうな撫で肩に顎を置くと、彼はふっと息を吐いて話を続けた。

「でも、本気で好きだって、離婚するから付き合って欲しいって言われて、一気に冷めた。」

「好きなわけじゃなかったの?」

「憧れはあったと思う。でも、恋愛感情じゃなかった。だから、いきなりキスされて、ぶん殴った。」

「それは、彼が亡くなる前の……。」

「そしたら社長は急に人が変わったんだ。激昂して、僕を……。」

その話の詳細を聞くほど、俺は大人じゃない。

「チャンミン、嫌なこと思い出さなくていい。」

「いいんだ。明け方までめちゃくちゃにされて、何もかもどうでも良くなった。」

チャンミンは振り返った。

「彼が死んだと聞いて、ざまあみろって思った僕は、悪魔だよ。」

そう言った彼の顔は、悪魔的に美しかった。





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No title

思ったより早く2人がくっついて安心しました(^o^)
チャンミンは小悪魔だったんですね。その子がユンホさんには本気で惚れたんですね。
しかし、天の邪鬼さんの言動。私もユンホさん同様に難しいです。

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No title

チャンミン、悪態つきながら寒空の下、ユノからのプレゼント探すなんて…最高( TДT)大好き!
ユノ許してもらえなかったらどうしようかとハラハラしたのに逆にめちゃめちゃ可愛い素のチャンミン見つけちゃって!!
素直になった2人の今後が楽しみです♡

No title

良かったぁ( ;∀;)これ以上辛くなったらどうしようかと!!もうどんなチャンミンでも受け入れられる、懐の深いユノだもん大丈夫だよね( ;∀;)

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No title

いつも楽しく読ませていただいております^ ^
わー!今日のチャンミン1番好き!かわいい!
ユノさんも素直に戻ってよかったし謎の美女アヤコさんにも色々あったけど感謝します。
これから甘々な展開になるのを期待します(*´-`)

No title

あぁ、良かった(ToT)孔雀の表現が生きてますね、素敵!雪が降る程寒いのに滝壺に入って探す程ユノが好きなチャンミン。恋心分かれよってwかわいい^_^けどあの状況で拒絶されたら本気かと思うよ、これは難問レベル高いwとりつくろったシムさんから本当のチャンミンの姿になれてよかった(ToT)
ユノもそんなチャンミンを愛しく思ってくれてるし。猫なんかかぶらなくても小悪魔的に可愛いし、悪魔的に美しいからね。

好きです!

こんにちは!探偵神起シリーズを最初から読み、土と焔の森も読んで、ここまで来ました!
探偵神起シリーズは、爆笑したり、キュンとしたり、ドキドキしたり、次が楽しみで、最後まで、目が離せなかったです!いやーエッチなしでここまでこれる人、いないですよね〜ww
お話として読み応えがありました。
土と焔の森も、ちょっとミステリアスだった、チャンミンの謎が解けて、2人の距離が、もっと近くなったようで良かったです!
これからも作品を楽しみにしています!

Re: あれ?

◯◯りんさん、

お話のことは置いといて(←おい)、ボヘミアン泣きますよね……。お勧めしてくれてありがとうチャンミン……。

フレディに恋してしまって、絶賛片思い中です私。
叶わぬ恋心。
彼の家の猫になりたかった。
病んでます。

Re: No title

ポカさん、

天の邪鬼さんに翻弄されるユノさんの憂鬱を少々挟み、今週完結します。
はあ。本当はドーム公演の前には終わってるはずだったのですが……。
あと少し宜しくお願いいたします(*´ω`*)

Re: No title

◯◯ミンさん、

大好きだぞ……萌え。
こちらのお話、まだちょっと大丈夫じゃないかもしれない……。ごめんなさい。

お赤飯炊くだけでも愛ですよー!
この時期鍋もあったまるし。もやし美味しいし。
私なんて、記念日系は頻繁に忘れますから。
アマゾンでプレゼント至急入手。前日に慌てること多々。
脳内おっさんなんです。

Re: No title

がまりあんさん、

私も悪態チャンミンをいたく気に入っております(´ 3`)なんかよく分かってないけど宥めるユノさんも好き。

もうすぐ終わるのでちょい寂しいんですが、苦しんだ作品なので解放感の方が大きく……。
ラストまで宜しくお願いしまーす!

Re: No title

ユピさん、

遠距離恋愛ならではのストーリーを挟みつつ、やっと書きたかったラストに原稿が到達しました。
残すはあと1ハラハラ。

Re: こんばんは。

◯◯み。さん、

いつも感動コメントありがとうございます(。´Д⊂)
もちろんコブって呼んでください♪
私の方が、素敵読者さまに出会えて感謝です!!!

もうすぐラスト♪
あと少し泣かせちゃうかもですが、お付き合いくださーい。

Re: No title

happy925さま、

読んでくださってありがとうございます!!!
私もこの回のチャンミンが1番好きです♪
ハラハラと甘々があと少し(´ 3`)
ラストまで宜しくお願いいたします。

Re: No title

chika♪さん、

チャンミンの悪魔的美しさは何なんでしょうね。
腹立たしい男だわー。大好き……。

神様が作った最高傑作はシム・チャンミンと疑いません。

Re: 好きです!

はるりんさん、

探偵の読破ありがとうございます!
長いのに……感謝です。

無休で書き続けていたので少々息切れ気味ですが、次の話も浮かんでいるし、やっぱり書いちゃうと思います(*´∇`*)

これからも宜しくお願いいたします♪

ほんとに

何回読んでも泣いちゃう。
好きすぎる。

Re: ほんとに

barbaさま、

わーっ。ありがとうございます。
こちらが泣いちゃう。
プロフィール

コールドブリュー

Author:コールドブリュー
東方神起 ユノとチャンミンが大好き。
脳内妄想をこっそり綴っています。
ホミンのみ。

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