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正中に放て 弓道編 20

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正中に放て
-弓道編-
20



練習試合を前に、チャンミンの的中率は上がった。

「チャンミン。いい調子だな。」

大河に褒められるのは気分がいい。
高齢のため、たまにだけ指導に来る師範の先生にも、「いい1年生が入ったね。」との言葉をもらい、チャンミンは顔を綻ばせた。

スケジュール通りの生活って幸せ。
弓道の調子もいいし。心なしか、道場まで輝いて見える。

だが、日下部だけはこのところずっと厳しい顔をしている。大河と一言も口を聞かず、弓道部内では2人が喧嘩していると噂になっていた。

道場からの帰り、チャンミンは日下部に捕まった。

隣を歩いていたユンホを先に帰らせ、日下部はチャンミンを「礼記射義」が書かれた額の前に座らせた。

「チャンミン。ユンホがずっと正座させられてるの、気にならないの?」

「気にはなりますけど、今は弓を引くのに集中しないと……。試合もありますし。」

「ユンホのお陰で平和に学校生活が送れてるのに、いい気なもんだね。」

「それは……。」

「覗き見する学生が減って、勉強と弓に集中できるんでしょ。危ないところも助けて貰ったのに。」

「大河先輩には説明しましたよ!どうしたら許して貰えるかも考えましたけど!」

「考えたけど?大河が許さないから諦めた?」

「そうじゃなく……。」

ユンホのことを考えると自分を見失ってしまうから。ドキドキして、身体がうまく動かないから。
でも、そんなこと恥ずかしくて言えない。

何も言えなくなったチャンミンに、日下部はため息を漏らして軽蔑の眼差しを向けた。

「いくら的中率が良くても、僕はチャンミンの射を見ながら後ろで弓を引くのは嫌だね。気分が悪い。」

「先輩……。」

いつも優しい日下部から向けられる冷たい言葉は、チャンミンの心を抉った。
日下部が立ち去っても、動くことが出来なかった。

「だったら……どうしたらいいんだよ……。弓に集中して、何がいけないって?」

誰も居なくなった道場の床に、チャンミンは涙を落とした。

鏡のように美しい床に転がった涙は玉になり、フルフルと震えて天上の明かりを反射する。

涙の粒が美しくて、チャンミンはポロポロ泣いた。

「うっ……えっ……ぐ……。」

冷たい床に突っ伏して泣くチャンミンを、温かな腕が包んだ。

「ユンホ……君。」

ユンホはチャンミンに覆い被さるように床に這いつくばって、震える背中を包んでいた。

「なかなか帰って来ないから、心配で見にきちゃった。」

チャンミンの背中をさすりながら、ユンホは優しく微笑んだ。
制御できない慟哭に襲われて、チャンミンはユンホの胸で泣いた。

ユンホは黙ってずっと、子供をあやすみたいにぽんぽんと手を動かして抱き締めてくれた。

「う……ごめん……。みっともない……ね。」

やっと顔を上げると、ユンホは自分も泣きそうな顔で眉を下げていた。

「どうしたの?調子いいのに。」

「俺……どうしたら分からなくて……。」

「日下部先輩に何か言われたの?」

「俺の弓は、駄目みたいです。」

「なんで。チャンミン君の射は綺麗だよ。僕、後ろからずっとみんなの射を見てて、すごく勉強になる。大河先輩は大胆で、迷いがない。日下部先輩は優しい。慈しんで弓を引いてる。」

「慈しんで……。」

「うん。愛が溢れてる感じ。離れる瞬間、矢に思いが乗るんだよ。見てる僕まで幸せな気持ちになるんだ。」

ユンホは弓立てをちらっと見た。

「日下部先輩って、他の先輩より弱い弓を引いてるでしょ?だから、矢はふわっと飛んで行くのに、まっすぐ的に向かう。大河先輩は力を乗せて飛ぶから、それはそれで気持ちがいい。どちらも、すごく好きなんだ。」

「俺は?俺の射は?」

「綺麗だよ。すごく綺麗。お手本みたい。チャンミン君の射が、1番勉強になるかな。」

「お手本……。」

俺の射には、仁がない。
そう言われた気がした。

日下部先輩は、きっとそれが言いたかったんだ。

まだ高校1年生の少年に、そんなの求められても難しいのは当たり前。
でも、ここは東高弓道部。

大河とは違う立ち位置で、日下部もまた部員に高みを求めていた。

「ふっ……ふぇっ……。」

チャンミンがまた泣き始めてしまい、ユンホはおろおろした。

しまった。
道着袴に着替えた時にハンカチとティッシュを置いてきてしまった。

ユンホは走って倉庫に行き、タオルを持って帰って来た。

「これ、今朝開けたばっかりのタオルだから!まだ雑巾にしてないから!」

「ずびっ……えっく……。」

鼻水ダラダラのチャンミンの顔にタオルを押し付ける。

「や……やめて!」

「いいから。ちーん、して。」

「ぐえっ。」

「1回洗ったんだけど、水の吸いが悪いなぁ。」

チャンミンはユンホからタオルを奪い取って涙を拭い、ユンホを見つめた。

「今朝って……朝から道場に居たの?」

「あ……うん。」

涙が落ちた床を見渡し、チャンミンは顔を歪めた。

「ユンホ君……朝早く起きて……掃除、してたの?」

「えへへ。バレちゃった?」

「どうして……みんなで掃除はしてるのに。」

ユンホは「礼記射義」の書を見上げて、読み上げた。

「射は仁の道なり。射は正しきを己に求む……。この意味をね、何度も考えたんだ。」

「周りを慈しみ、感謝を忘れず、争う心を無くして、素直に自分と向き合うこと……。」

「うん。チャンミン君がそう教えてくれて、僕に出来ることって何かなって考えて、弓道部のみんなが少しでも気持ちよく弓が引けるように、塵も曇りもない道場にしようって思って。」

「あ……。なんか最近、前より清々しい気がしてた……。」

「ほんと!?良かったー!」

ユンホはくすくす笑い出した。

「額を磨くのにいい台が無くってさ。矢が入れてある箱、あれ、何て言うんだっけ。」

「矢立(やたて)。」

「そうそう!矢立に上ろうとしたら、日下部先輩にキレられた。あんなに可愛いのに、怒ると怖いんだよねー。」

「日下部先輩は知って……。」

「うん。早朝練習してるんだよ。」

日下部はユンホの努力と、弓道への思いを知っていた。

だから、それを伝えても気にもしない素振りで正座を続けさせる大河を許せず、同室のくせに気づいてもいないチャンミンが歯がゆかった。

日下部の怒りが理解できて、チャンミンは肩を落とした。

ユンホは床よりもキラキラした顔で笑っている。

「掃除してると、自分の曇りも無くなる気がして気持ちいいね。チャンミン君が部屋を綺麗にしてるのも、そんな感じ?」

「俺は……ただ潔癖だから……。」

チャンミンは自分が情けなくてほとほと嫌になった。素直じゃない自分では、いい弓など引けない。

ユンホはかっこよくて、優しい。
その事実を受け入れないでいられる程、自分は器用ではないらしい。

諦めよう。
もう、ユンホに翻弄されたっていいじゃないか。ユンホがそばに居ることが自分は嬉しいんだ。頼りにしている。

傷ついたって仕方ない。

チャンミンは前を向き、ユンホに微笑んだ。

「ユンホ君。明日から俺も一緒に掃除していい?」

「えー。いいの!?」

「うん。一緒にやりたい。」

「チャンミン君!!」

ユンホは嬉しくてチャンミンに抱きついた。

「きゃーーーっ!」





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Re: No title

◯◯◯◯naさん、

なんとこんなふざけた作品で(○_○)!!
ありがとうございます!
私の弓への気持ちが少しでも伝わると幸せ♪
これからも宜しくお願いいたします(*´∇`*)

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Author:コールドブリュー
東方神起 ユノとチャンミンが大好き。
脳内妄想をこっそり綴っています。
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