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正中に放て 弓道編 22

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正中に放て
-弓道編-
22


試合は、5人立の射手が4射ずつを5回放ち、合計20射の的中数を競う。

練習試合と言えども、東高と西園寺学園は日本のトップを競う強豪同士。2、3年生からは怖いほどの気迫が溢れていた。

その日の大河は意気込みを静かなオーラに変えて纏い、冴え渡る弓を引いた。

だが、他のメンバーは気迫が空回りしていた。日下部とチャンミンは2中。大前の先輩の調子が悪く、残念(1本も中らないこと)を出したこともあり、西園寺学園に大きく遅れを取った。

2回目の立(たち)まで、皆中を続けていたのは大河だけ。

ユンホにとって団体戦の試合を見学するのは初めてのことで、落ちを担う大河の強さを痛烈に感じていた。

最後を担う、落ちはかっこいい。

前の選手が外した時の、矢が安土に刺さる「ドスっ」という音や、手前で落ちてしまった時の「カシャン」と鳴る音は、少なからず気持ちを沈ませるはずだが、大河の射は常に変わらない。

的中で上回る西園寺学園の射と比較しても、大河の弓は美しかった。


看的小屋でユンホは、一緒に入った九条に大河のかっこよさを夢中で語った。

「まぁ、確かにかっこいいけどさ。俺様感がないか?俺は日下部先輩の弓のほうが好きだな。」

「そっか。龍君は日下部先輩派なんだねー。」

「お。おう。」

九条は照れていたが、ユンホは男子の恋には疎く、九条の変化を気に留めず会話を続けた。

「ねえ。龍くん。西園寺学園の人達は、離れが早いよね。」

九条も同じ感想を持っていた。

「そうだな。的に中てにいってる感じがする。」

「僕が弓道でかっこいいと思うのは、会と離れなのに。なんかやだなぁ……。」

◯とXの書かれた看的板を回して結果を表示しつつ、ユンホは口を尖らせた。

矢は力強く放たれているし、型もみんな綺麗ではあるが、大河の離れに感じる、満を持した清々しさがない。

「チャンミン君も言ってた。会が1番好きだって。」

九条はふんっと鼻息を吐き、隙間からチャンミンを覗く。九条はユンホとは嫌そうな顔をしつつもよく話すようになっていたが、チャンミンとは、いまだに距離を保っていた。



試合は後半に入り、残り8射。チャンミンは調子が上がっていた。

この立はまだ外していない。
これが中れば皆中。

チャンミンの真っ直ぐ均等に開かれた肩甲骨と肘。チャンミンの容姿そのままに、美しい型。


「パン!」

高い音を発して矢が的を射抜いた瞬間、ユンホはぶるっと震えた。

「よし!」

大河が声を上げ、皆が拍手する。
チャンミンは微かに笑った。

その横顔の可愛さにユンホは釘付けになった。胸がドキドキする。

なんだろこれ。
すごく、変な感じ。
顔が熱い。

ユンホができないことを粛々とやってのけるチャンミンへの尊敬のようで、しかし同時に時折見せる無防備な笑顔への憧れのような。

チャンミンに見入る鬼頭と同じく、ユンホも知らぬうちに頬が染まっていた。

「龍君、僕熱あるかな?」

九条の手を勝手に掴んでおでこに当てるユンホをぺしっと叩き、彼は日下部を真剣な眼差しで見つめ続けていた。

「熱なんかねえよ。それより……日下部先輩、体調悪いのかな……。」

「ほんとだ……。辛そう。目が潤んでるね。先輩こそ熱あるんじゃないかな。」

チャンミンが皆中した4回目の立で、日下部は1中のみだった。

的前から下がり、弓を置く日下部に九条が話しかけた。

「先輩……大丈夫ですか?」

「うん。」と微笑んだ日下部の横に大河が立った。

「香月。交代しろ。」

「大丈夫だって。残り1回だけだし、できるよ。」

「いや。2年に交代させる。」

「大河やらせてよ!ここで交代なんて、次の子にもプレッシャーじゃない。」

大河は日下部に耳を貸さず、交代を言い渡した。

日下部は納得いかず顔を歪め、それでも後輩を見守ろうと壁際に正座したが、大河はそれも許さなかった。

「そんな顔で座ってられても気が散る。今日はもういいから寮に戻れ。」

「ちょっと大河先輩!あんまりですよ!」

九条が食って掛かった。

「いいよ。分かった。」

俯いて道場を出る日下部を九条が追いかけ、寮まで付き添って行くのを、ユンホはハラハラして見守った。

「大河先輩……いいんですか?」

ほんとは大河先輩は、日下部先輩を自分で介抱したいんじゃないのかな。
ユンホは、日下部の後ろ姿を見送る大河を心配した。ユンホには、不思議と大河の心が分かる。

大河はユンホの肩をぽんと叩き、少し寂しそうに微笑んだ。

「大丈夫だユンホ。香月の分まで、俺が的中させる。」

体調の悪い日下部に、きっと大河は誰より早くから気づいていたはず。
だから、1射も外してない。
大河のオーラは、西園寺学園への対抗心よりも、みんなの分まで自分が支えようとした気迫だ。

「やっぱり先輩はかっこいいです。」

呟いたユンホの頭を、大河はぐしゃぐしゃ撫でた。

「全然駄目だよ。最初から引かせるべきじゃなかったのに、香月に頼ってしまった俺の判断ミスだ。でも、ありがとな。分かってくれて。」

「大河先輩、20射全中してくださいね。西園寺と、5本も差があるけど……。」

「ああ。任せろ。しっかり見て勉強しとけ。」

大河は部員を集めて円陣を組んだ。

「次で最後だ。西園寺学園は15射は中ててくるだろう。5射の差は大きい。全員が皆中しても同点。それでも、諦めずにいつもの弓を忘れるな。東高の美しい弓道を見せよう。」

「はい!」

東高弓道部の一丸となった声が、道場にこだました。

西園寺学園の最後の立は、今まで通りのペース。4射目を前にして、11中。

ところが、最後になって乱れが生じた。
大前と中前が外したのだ。
鬼頭はそれまで毎回3中を維持していたが、悪い流れに支配され、最後の矢を外してしまった。

それでも落ち前と落ちが決め、13中で西園寺学園最後の立は終わった。


東高の立は、大河の気迫が全員に乗り移ったかのようだった。最初の3射は全員が的中。

だが3射目で、チャンミンの前の2年生が外した。もう後がない。1射でも外せば西園寺と同中。

チャンミンにかかるプレッシャーは大きい。

矢を番えた後、チャンミンは目を閉じた。
後方で見守るユンホも目を閉じた。

ゆっくりと「礼記射義」を心の中で唱えたユンホが目を開けると、チャンミンはもう引き分けに入っていた。

この射は中る。
放つ前から、ユンホには確信があった。

「綺麗……。」

喉の奥で、小さく呟いた。

「ケイン!」

弦音が響き、放たれた矢は緩やかな放物線を描いて的に吸い込まれた。
ユンホの気持ちも、一緒に吸い込まれたみたいだった。

皆中への拍手を忘れ、的前から下がって腰を落とし跪坐(きざ)をするチャンミンの背中から目が逸らせない。

チャンミンの細く薄い背中。
白い静寂の空気を纏った後ろ姿に、ユンホは見とれた。


「ああ……。」

隣に座っていた2年生の小さなため息で我に返ると、日下部の代わりに入った2年生が外してしまったところだった。

もう勝ちはない。
大河が中てても同点。

大河の会はいつもより長かった。
息を呑んでみなが見守る道場に、大きくしなった弓からギリギリとしなる弦の音だけがする。

鉄石相剋して火の出ずること急なり。
そんな離れだった。

「パン!」

20射全中。

大河は微笑み、東高のメンバーから大きな歓声があがった。

西園寺学園の生徒も、感動して拍手を送っていた。




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。・゜・(ノД`)・゜・。

あんにょん。
緊迫した中で、日下部さんのため部員のためそして自分のために全力を尽くし結果を出した大河さん。かっけー‼️感動して涙が出ました。チャミも大健闘でしたね。そして、チャミへの恋心をうっすら気づき始めたユノさん。今後が楽しみ❣️ぐふふ^_^

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Re: 。・゜・(ノД`)・゜・。

ありがとうございます!
しばしお休みしていた正中。少しずつ、続き書き始めてます。
大河&日下部先輩コンビが、ホミンより大切になっちゃって、困ってます(。´Д⊂)長い長い話になりますけど、これからも宜しくお願いしまーす。

Re: No title

◯◯っこさん、

今更過ぎて、何の返信か分からないですわよね。すみません(T_T)

実写化……。
リアルの2人だとでかすぎるから、夢の世界で実写化して楽しんでます。あんなイケメンが高校に居たら楽しかっただろうなぁ。

Re: No title

◯◯えさん、

超今更ですけど、お仕事落ち着かれましたかー?

最近青い春の執筆を再開したら、封印していたアホが爆裂して、ストーリーどころじゃなくなったので困ってます。

実は真面目な話なのに……。
また再開したら是非お楽しみください。
プロフィール

コールドブリュー

Author:コールドブリュー
東方神起 ユノとチャンミンが大好き。
脳内妄想をこっそり綴っています。
ホミンのみ。

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