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メゾン・シムの住人 28

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メゾン・シムの住人
28


「おはようございます」と上擦った声で答えたチャンミンの、テロテロに潤った唇にユノは一瞬くらっとしたが、何とか平静を保ってモエとカエデに声を掛けた。

「気にしなくていいからね。」

「ユノさん……ごめんなさい。私だってこんな時間にカエデを連れてきたくはないんだけど。」

「モエさんが謝ることじゃないです。自分のことに精一杯で、他人の生活なんて思い至らない人もいます。母親の大変さなんて、想像もつかないんでしょう。」

「でも……。」

モエの瞳は涙でいっぱいで、今にもこぼれそうだった。

「カエデちゃん。おはよ!」

チャンミンは堪らず声をかけた。

「チャンちゃん!」

ぐずっていたカエデがチャンミンに飛び付き、満面の笑顔になった。

「モエさん。そんな時は、僕に声かけてくださいよ。今日はたまたま仕事なんですけど……普段なら一時的に預かることできますから。僕が保育園に連れて行けば大丈夫!」

「チャンミンさん……。」

モエは遂に泣き出してしまったけれど、それは喜びの涙で、「ありがとう」と絞り出した声には安堵の色が滲んでいた。



駅でモエと別れた後、チャンミンはユノと市役所近くのカフェまで歩いた。

「チャンミンさん……あの……。」

「はい……。」

「いえ……えっと……。」

ユノは電車でのカッコいい姿とは別人で、決まり悪そうに頬を染めている。
チャンミンは代わりに切り出した。

「あの……キスの……ことですか。」

「うっ……。ほんとにすみません。」

「気にしないでください。キスくらい。」

なんて、大人ぶってはみたが、チャンミンの頬もぼっと赤くなる。

結局お互い顔も合わせることができず、カフェの前に到着してしまった。

「じゃあ……俺は学校に。」

「はい。お仕事頑張ってください。」

「……行ってきます。」

「行って……らっしゃい。」

テロテロ唇をむっと噛んで、ユノの後ろ姿が校門に入って見えなくなるまで見送り、カフェに入るやチャンミンは椅子に倒れ込んだ。

心臓がバクバクしている。

運ばれてきた水をイッキ飲みし、メニューをめくるが頭に入ってこない。

「ユノさん。」

声に出さずに呟いてみて、ぷるっと首を震わせたチャンミンは、メニューを選ぶことを諦めてトップにあったモーニングを頼んだ。

グラスを持つ手についた水滴でテーブルに「好き」と書き、拳で消してはまた書いて、運ばれたアイスコーヒーのグラスの水滴で上書きする。

ユノさん
好き

胸の痛みも、指先も、ストローを咥えようとする唇も、全身がユノユノユノユノ大合唱している。

「うぅ……。」

唸るチャンミンを店員が不審者と認識しかけているが、そんなことは今は気にしていられない。

トーストとハムエッグとサラダが運ばれてきた頃、窓ガラスの向こうに当のユノが立った。
通学する子供達を出迎える上下スウェットの彼がヒーローに見える。

たまにチャンミンに視線を投げ、目が合うとはにかむ様子にチャンミンもはにかむ。

「むふ。」

チャンミンは大口を小さく開けてお上品にトーストを咥えた。
いつもなら5分で完食しそうなモーニングを食べ終わるのに、実に1時間かかる有り様だった。


9時過ぎに現れた市役所の担当者は興奮気味だった。

「チャンミンさんの記事、SNSで『#イケメン彼氏は誰』って話題になってますよー!」

「え。そうなんですか?」

「そうなんですって!!南岡のイケメン特集に企画変更したいくらいです!!」

担当者はSNSの画面をチャンミンにひけらかした。
レストラン紹介の記事に使ったユノの振り返る直前の後ろ姿が何枚も投稿されている。

「顔見たいとか、南岡市民なのかとか、市役所にも問い合わせが何件も来てます!」

ふん。
そのイケメンは僕に夢中だ。
キスもしてるんだからな。
顔も見えてないのに話題になるって、世の人々のイケメンセンサーは感度がよろしいな。

唇を尖らせてチューっとアイスコーヒーを吸ったチャンミンに、担当者は身を乗り出した。

「次の記事も、彼登場させてください!」

「えっ……でも、顔出しNGですよ?」

「そこがいいんですよ!ミステリアスで!」

「まぁ……頼んではみますが。」

「ところで、この男性は南岡市民ですか?是非1度お会いしたい。」

「南岡在住ではないですが……何故です?」

「日向町特集の次はイケメン特集を企画しようかと!!」

さっきまでそこに立っていたユノが学校に戻った後で良かった。

「無理です。お堅い仕事されてるんで。」

「そこをなんとか!」

「顔出せないのにイケメンも何もないじゃないですか。」

「そこは説得ってことで、チャンミンさんからも頼んでいただきたいんです。」

「む、無理です!」

チャンミンは躍起になって断った。
ユノに迷惑をかけたくないし、自分の知らないところでちやほやされるのも受け入れがたい。

「僕の記事にはなるべく登場してもらいますから……。それで勘弁してください。」

担当者は肩を落としたが、運ばれてきたアイスティーをゴクゴク飲み、ふーっと息を吐いて頷いた。

「では、次もデートスポットのイメージでお願いしますよ。あ、先日提出してもらった植物の記事にも、彼の写真入れられます?浜辺の彼的な!」

「……写真はありますが……。」

「じゃあメールで送ってください!!」

「……分かりました。」

チャンミンは困った。
浜辺の写真はあるからいいとして、次の原稿は史料館の紹介をしようと思っていたのに。
デートとは程遠い。

南岡市と違って日向町は小さいのだ。
大した名所なんてない。
だからこそ今回の知られざる日向町特集には意味があるのだろうが、5回シリーズの中盤に来て、早くもネタ切れ。

「あ……。」

チャンミンはふとレストランでユノが話していた言葉を思い出した。
朝の港でオーナーが魚を仕入れると言っていたあれ。地魚にフォーカスして、お勧めレシピも紹介なんてどうだろう。
レシピなら自分の特技が生かせるし、魚と言えばキドがいる。

チャンミンはちらちらユノの勤める小学校を通りから覗いた後、日向町に帰った。

日中の商店街は、高齢者天国だ。
キドは、包丁を握ったまま商店街を見渡している。

「キドさん。こんにちは。」

「チャンミンさん。こんな早い時間に珍しいですね。」

「ちょっと相談がありまして……。」

南岡市ではあまり目にすることのない魚はないかと質問したチャンミンにギラリと微笑み、キドは奥から1mもある巨大な魚を取り出した。

「で、でかい!長い!!」

「今朝仕入れた太刀魚です。」

「たち……うお……。」

「丸々1匹で見たことなんてないでしょう。鮮度が勝負の魚ですから。」

カマスに負けず劣らず、キドによく似た危険な顔面を持つ巨大魚は、全身銀色に輝く。

「テラテラしてる……。」

「鱗がない魚でしてね。独特な光り方をします。今日は刺身にしてこれから売り出します。チャンミンさんも今夜食べてみてください。油がのってて美味いですよ。」

「待って!捌くとこ撮影させてください!」

じゅるりと唾を吸ったチャンミンは、メゾン・シムへ走って帰り、カメラを持って商店街に戻った。

太刀魚を捌くカマスの画はなかなかに奇っ怪なものだったが、面白い。

聞けば太刀魚の旬は秋まで続くと言うから、運が良ければ丸々1匹太刀魚が見られる店として紹介したいと提案してみると、幸いなことに、南岡に住む息子に働く姿を見せる機会になればと、キドは了承してくれた。

今夜はユノさんと一緒に太刀魚の刺身を食べよう。
料理の写真も撮って……。
食べるユノさんの口元だけでも撮らせてもらおうかな……。

ユノの唇の感触を思い出す。

「夕方また来ます!」

チャンミンはリップクリームを塗り直し、唇をムニムニさせながら坂を上った。





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コールドブリュー

Author:コールドブリュー
東方神起 ユノとチャンミンが大好き。
脳内妄想をこっそり綴っています。
ホミンのみ。

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