2
チャンミンは最後のだめ押しに取り掛かった。
「2人っきりのビーチなら水着も不要ですね。透明な海を王子と泳ぎたいな……全裸で。」
「全裸っ。」
「はい。生まれたままの姿で。」
「きゅう……。」
「王子!失神はもうやめて!」
「はっ!危なかった。」
「ね、王子。お願いです。全裸のシムをビーチに連れてって?」
「きゅう……。」
だめ押し全裸は効果てき面。
ユノユノはマリンブルーの海でトロピカルカラーの熱帯魚にお尻を啄まれて「やんっ!」と悶えるチャンミンの全裸をお供に暫し白目をむいたが、すぐにつぶらな黒目を取り戻した。
さすがの天然ピュアボーイも、全裸妄想くらいではもう失神しない。バナナスムージーをごくごく飲み干し、シウォン様を見上げて男らしく宣言した。
「………イク……!」
シウォン様はグラスを取り上げ、ブンブン肩を揺する。
「ならんぞユノユノ!!ビーチから戻れ!!」
「……どうかお許しください父上。ハネムーンにも出掛けられぬなど、私は恥ずかしい。チャンミンにはいつも笑顔でいて欲しいのに……最近はため息ばかりで……。」
「ゆ、ユノユノ……。」
「幸せな新婚生活を送らせてあげられない王子など、いつ捨てられるか……。あぁ……。ぐすん。想像するだけで涙が出ちゃう。男の子なのに……。」
王子の涙にシウォン様は滅法弱かった。
「あぁ!泣くでないユノユノ!!」
「イカせてください父上。お土産に紐みたいなビキニ買ってきますから。お胸に小さい貝殻ついたやつ。」
「む……紐ビキニ……。」
紐ビキニでベッドに腰掛け手招きする后イトゥク様を思い浮かべてシウォン様はにやけた。
「……し、仕方ない。しかし、付き人は必要だ。イェソンを同行させよう。最高の魔導師が一緒なら安心だ。」
「は!?」
シウォン様の発言に、イェソンは抵抗した。
「ウクたんの世話係はどうするのです。何週間も置いていけません。こんなに可愛い子を!行くならウクたんも連れて行きます。」
「むむっ。王子を2人も同時に他国へ行かせるわけにはいかん!誰か他に適任は!?」
一同の視線は、TBちゃんの乳母車に掴まってお尻をさすりながら立ち上がるシンドンに注がれた。
「は?わたくしでございますか?」
「……少々頼りないが、見た目は付き人に適しているな。スーツなど着ていればまさにマネージャー。」
「い、嫌ですよスーツなんて。私はメイド服しか着ません!それに、ラブラブカップルのハネムーンに同行するなんて地獄!」
「部屋は離れても構わん。国王がチャンミンのお尻やら股間やら触らないように見張るだけだ。」
「シウォン様!イ・スマン国王はそんな方じゃございませんでしょう!!」
「いいや。彼は落ち着いた物腰の奥に、美に対する肉食獣の本性を隠しているのだ。私には分かる。変態の勘を甘く見るな。」
「変態……。」
「それはそうとシンドン。SMカントリーの主食は肉だ。焼肉食べ放題だぞ。」
「……肉……。」
「カルビ、ロース、ハラミ、ヒレ、サーロイン、骨付きカルビ。」
口内が唾液で溢れる。
ジュルッと涎を啜ったシンドンの手は、既に骨付きカルビを掴む形になっていた。
「行ってくれるな?」
「……もちろんですわ……。」
かくしてチャンミンとユノユノは、念願のハネムーンへと旅立つことになった。
ブルーマウンテンを越える道は溶岩に覆われて通行止めになっているため、一行は川を下ってレッドオーシャンを経由し、SMカントリーに入国することになった。
何故ハネムーンに、こいつらが……。
チャンミンはドクダミ茶を啜りながら目の前でお姉さん座りするシンドンと、その胸に抱かれたTBちゃんにため息を吐いた。
「シンドンさん。宿泊場所は離れてるんでしょうね。」
「ご心配なく。王子とチャンミンのヴィラは、2人っきりの貸し切りです。私だって、チャンミンの喘ぎ声を子守唄に眠るのは勘弁被りたいのです。」
「あえぎ……。」
「海に面した一軒家ですってよ。リビングから海に直接行けるなんて、夢のようですわね。私はTBちゃんと王宮で寝泊まりしますから、御用の際はこれでお呼びください。」
「なにこれ。」
シンドンは豊満な胸元から、小さなTBちゃんキーホルダーを取り出した。
「イェソンさんが作った魔法の通話装置です。これに話しかけると、TBちゃんがしている首輪……もとい、ネックレスで受信します。」
「ああ。今朝から何のメダルだろうと思ってました。この金の首輪。イェソンさんの魔法だったんですか。」
身体に対して大き過ぎるネックレスにチャンミンの美的感覚は拒絶反応を示したが、王子は感心しきりだ。
「イェソン先生の魔術は凄いね。この船も、操縦しなくてもイ・スマン国王のハーバーまで連れてってくれるんだよ。」
「畑の収穫もイェソンさんが早くしてくれたらいいのに……。」
「それは無理だよ。自然災害にはTBワールドの魔法は通用しない。」
「不便!!でも、じゃあ、噴火をおさめたTBちゃんの一族は凄いんだね……。」
「うん!サメさんて凄いよね!」
TBちゃんは目をキラリと光らせて「きゅきゅきゅ!」と喜んだ。
「ん?お母さんが凄いの?」
「きゅっ!きゅきゅう!」
「そうだね。海の王だもんね。カッコいいなぁ。」
「きゅう!!」
TBちゃんの声に反応し、海がザザっと波立った。
「あ……!見て!」
ユノユノが遥か海原を指差すが、チャンミンとシンドンには波しか見えない。
「どうされましたの?ユノユノ王子。」
「サメさんが来る!」
「え。」
まさかまた海の底に連れていかれるのではとチャンミンは危惧したが、次の瞬間凄まじい水飛沫と共に、甲板にTBの母が飛び乗った。
「ぎゃーーーー!!!」
「きゅう!!」
「TB!会いたかったわ!」
TBちゃんを抱き締めた母の重みで船は大きく左右に揺れ、ずんずん沈む。
「てっ、転覆するー!」
「だっ、大丈夫だよチャンミン。イェソン先生が沈まないように魔法かけてるから!!」
王子が言う通り、船は海面スレスレながら浮いたままだった。
「あぁ……ヒラヒラメイド服が……。」
水飛沫でどっしり重く濡れたメイド服を絞るシンドンの隣で、TBの母はお辞儀した。
「お久しぶり……と言うほどでもありませんわね。皆さんお変わりないかしら。」
「それが……。」
口ごもった王子に代わり、TBちゃんがきゅうきゅう母に説明する。
「まぁ……火山灰で農作物がダメに……それはお気の毒です。」
これは大チャンス。
TBの母なら助けてくれるかもと、チャンミンは期待に胸膨らませてびしょ濡れのシャツを握った。
「あの!サメさんの力で農作物の収穫を早めたりなんてできませんか??もしくは、海産物を分けていただくことは……。」
チャンミンの期待虚しく、TBの母は首を横に振った。
「海の生き物は仲間です。海産物だなんて……。それに、陸の収穫の助けになれるような力はないわ。そもそも私、今力を失ってしまっているの。絶不調で。」
「絶不調?」
「力が使えなくなってしまったの。」
「な。どうしてです?」
「これは思うに、恋の病だわ。」
「ええーーー!?」
「きゅきゅゅゅーーー!?」
チャンミンとTBちゃんの叫びは大海原に吸い込まれた。
話を聞くと、5000年に1度会いに来る約束の夫、つまりTBちゃんの父が、約束の日になっても姿を現さないと言うのだ。
「どこか他に女ができたんじゃないかと、私もう心配で心配で。」
「なるほど。旦那さんが恋しくて魔法どころでないと……。」
「ええ。心ここにあらず。TBが生まれてから会えていないのです。」
ユノユノとチャンミンは間抜けな黒目をくりんとさせているTBちゃんを見つめた。
TBちゃん……。
5000歳……。
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